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 新学期が始まって一週間。

 ダンジョンに行き、その帰りにスーパーで買い物をする。

 これまではコンビニだったが、百々目と暮らしていた影響で、24時間営業のスーパーに寄るようになっていた。


 買い物袋を手に持ち、いつものように帰宅していると、路地裏から殺気が放たれた。

 鉈を手に、即座に反応する天音。

 しかし、向いた方向は路地裏ではなく、その反対側。


「くっ⁉︎」


 鉈で受け止めた凶器の力は凄まじく、路地裏に飛ばされてしまった。

 着地すると、直ぐさま反撃に移る。


 路地裏で火花が散る。

 大振りの鉈が、短刀と激しくぶつかり、衝撃が周囲の建物を揺らす。


「少しは場所を、考えてほしいんですけどね!」


 天音は、目の前にいる霧隠を睨み付けて言う。


「いつでも狙うと忠告しただろう。それに今の反応、街中で襲われると想定していたな」


「ええ、貴方だったら、仕掛けて来ると思ってました、よっ‼︎」


 鍔迫り合いの状態から、一気に力を込めて力強く押し返す。

 ここがダンジョンなら、容赦なく魔法を使うのだが、街中では魔法は使えない。


 なので、霧隠を警戒しながら、買い物袋を電柱の側に置いて戦闘を再開する。


「……余裕だな」


「食べ物を粗末にしたくないだけです」


 言い終わった瞬間に、再び火花が散る。

 激しい戦闘音が鳴り響き、衝撃が塀を崩壊させる。

 これだけの騒ぎを起こせば、多くの人に異常を知らせそうなものだが、そういった様子はない。


 それは、この戦闘が始まった直後に広がった霧のせいだろう。

 ならば、吹き飛ばせばいいのかというと、そういう訳ではない。霧が広がれば、それだけの範囲を巻き込んでしまうのだ。

 今は二人の空間でも、無関係の人が入って来る恐れだってある。


 だから、この決められた範囲でやるしかない。


 短刀が横薙ぎに走る。

 鉈で、それを受け止める素振りをして、上段からの振り下ろしに対処する。

 ガンッ⁉︎ と衝撃を受け、横から通過する短刀は、天音の体を通過する。


 ダメージは無い。

 何故なら横薙ぎは、霧隠が生み出した幻だったから。


 受け止められた自身の攻撃を見て、「むっ」と唸る霧隠。


 最初は手古摺っていた霧隠の攻撃にも、段々と慣れて来た。

 と思ったら、下から衝撃が走った。


「がっ⁉︎」


 空中を舞いながら、何が起こったのか見てみると、霧隠が蹴りの態勢で止まっていた。


 蹴られた。

 顎を蹴り上げられてしまった。


 何故反応出来なかった⁉︎ そう疑問に思いながらも、正面から迫る蹴りを、苦し紛れに手で防御する。


 ドッダン⁉︎ と、おおよそ人が出してはいけないような音が鳴り響く。


「かはっ⁉︎」


 コンクリートの地面に叩き付けられたにも関わらず、バウンドして、追撃の蹴りがお見舞いされる。


 高速で吹き飛ばされ、濃い霧に突っ込む。

 それでも勢いは衰えず、霧を抜けて激しく地面を転がってしまう。


 早く立たないと……。


 そう焦っても、三半規管がやられて上手く立ち上がれない。回復魔法を使って回復を試みるが、どうにも間に合いそうもない。


 何故ならすでに、天音の前には誰かが立っているから。


「神坂さん?」


 しかし、掛けられた声は霧隠の物ではなかった。


 天音は、ゆっくりと顔を上げる。

 そこにいたのは、犬の散歩をしている古城真希だった。


「古城さん?」


「だっ、大丈夫ですか⁉︎ 怪我してますけど⁉︎」


 慌てた古城を見て、緊張が走る。

 直ぐに動けるように、最大限まで魔力を高める。

 三半規管がどうのとか言っていられない。

 霧隠は、邪魔者を容赦なく排除する。


 暗い道の奥に、霧隠の姿を見る。


「神坂さん? きゃ⁉︎」


 手を伸ばして来た古城の手を取り、強く抱き寄せ体の位置を入れ替える。


 容赦のない水の凶刃が飛ばされる。

 音は無く、気配も、魔力の残滓も残さない静かな水の刃。

 ただ、天音を殺す為に使われた暗殺の刃。

 これをリセット魔法で打ち消せるのなら問題ない。だが、天音の直感がそれは無理だと告げる。


 天音は鉈を手放して、右腕に魔力を纏わせる。

 そこに現れた黒い腕は、何者であろうと滅ぼす力を宿していた。


 黒い腕は、透明な水の刃を受け止める。

 ガガガッ‼︎‼︎ というまるで鑿岩機のような音が鳴り響き、街中を騒がせる。


 受け止めた黒い腕に力を込め、水の刃を握り潰す。


 ここから何か仕掛けがあるのかと警戒するが、何もなく、水が地面に落ちただけだった。


 霧隠に視線を向けると、周囲を見回して天音に告げる。


「今回はここまでだ」


 それだけ言い残すと、霧隠の存在が希薄になり、闇の中に姿を隠してしまった。


「……引いてくれたのか?」


 天音は安堵すると、右腕を元の姿に戻す。

 このまま、力を抜いて横になってしまいたいが、そうもいっていられない。

 最後の音を聞いて、周辺の住人が集まり始めていたのだ。


 僕も早く移動しないと。

 そう思い立ち上がろうとして、「ワン!」と犬の鳴き声で、腕の中の存在を思い出した。


 左腕には、驚いて目を回している古城。


「古城さん⁉︎」


「はっ⁉︎ なっなんですか今のは⁉︎」


「ごめん、説明は後でするから、今はここから離れるね」


「え?」


 天音は古城を抱き抱えると、飼い犬のコーギーを上に乗せて、買い物袋を回収してその場から急いで離脱した。





「ごめんなさい。僕が不甲斐ないばかりに、君を巻き込んでしまった」


 古城の自宅マンションまで送り届けると、事情を説明する。

 サイコパスストーカー野郎に狙われていて、それに巻き込んでしまった。


 その旨を親御さんにも話したかったのだけれど、「大丈夫です! 両親が出て来ると面倒なんで大丈夫です!」と何故か力強く拒否されてしまった。


「大変ですね……。でも、レナちゃんが元気が無い理由が分かりました」


「榊原さんが?」


 学校で見かけるが、元気が無いようには見えなかった。

 いつも通りに、一定の人としか付き合わず、まるで孤高の存在のような姿を演じていた。


「はい、いつもより口数が少ないですし。気が付けばスマホを見ていますから。たぶん、福斗さんの連絡を待っているんじゃないかと思います」


「……そうなんだ」


 気付かなかった。

 どんな些細な変化でも気付いてしまう、ぷっちょという友人がいるが、最近ポンコツになってしまい、上手く機能してくれないのだ。


 何だかんだで、役に立っているぷっちょ。

 古城の言葉は、改めてぷっちょのありがたみを実感するハメになってしまった。


「よかったら、連絡してあげて下さい」


「分かった。ありがとう、教えてくれて」


 お礼を告げると、「いえ、友達の為ですから」と何とも気持ち良い返答をもらった。

 僕の友達とはえらい違いだなぁ、と何故だか虚しくなってしまった。


 お礼を言ってこのまま去ろうとすると、奥の方から二人の男女が顔を覗かせた。


「真希、真希! 話は終わった?」

「その人って、神坂福斗だよな⁉︎」


 女性の方は古城に似ており、年上のように見える。

 少年の方も、目元は古城と似ており、弟なのだと分かる。


 その二人はリビングから出て来ると、天音に接近して来た。


「ちょっと、お姉ちゃん、大輝、出て来ないでよ⁉︎」


 恥ずかしそうに、天音から二人を引き離そうとする古城。


「ねえ、一緒の写真撮っていい⁉︎ 」

「あっ! 俺も俺も!」


「お姉ちゃんも大輝もやめてよ! 福斗さん困ってるでしょ!」


 いくら呼び掛けても、二人は動こうとはしない。

 その様子を見て天音は、「まあ、写真くらいなら」と了承した。

 これは、古城に対しての申し訳ない思いもある。


 結局、まだ帰っていない父親を除いた四人と一匹と写真を撮ることになり、夕飯をご馳走になってから、その日は帰宅した。

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― 新着の感想 ―
やっぱり真希ちゃん良いね。
古城さん良い子〜
真希ちゃん良いね
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