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7

 冬休みが終わり、新学期が始まった。

 この休み期間中に、多くの出来事が起こった。

 それ以前から、なんか良くないなぁという流れはあったが、今回の休みは、休みと本当に呼んでいいのだろうかと思うほどに、イベントが目白押しだった。


 そして、新学期である。


「おはよう天音ぇー! 元気してたかぁ!」


 何故か天音は、佐藤に懐かれていた。


 ぷっちょや高倉君と、「新学期始まっちまったよ、学校爆発しねーかなー」と、ぷっちょ一人が喋っている中で、突然隣のクラスからやって来たのである。


 まるで旧友に会ったかのように挨拶をした佐藤は、ズカズカとクラスに入って来ると、天音の前に座る。


「お、おはよう、佐藤君。えっと……どうして僕の所に?」


 数日前、霧隠との戦いで正体がバレてしまったので、口止めをしたのだ。



 お願いだから黙っていて。

 どうしても話したいなら、好きにしていいよ。

 その代わり、多くの人に迷惑が掛かるかも知れないけどね。

 あと、師匠の悪口を言ってた事、口が滑って話すかも知れないよ。



 もちろん、そんなつもりはない。

 特に時雨に告げ口したら、殺されるのは佐藤ではなく天音だ。

 自ら死にに行こうとは、欠片も思わない。


 半ば脅迫のようなお願いを聞き入れてもらったのだ。これが原因で、てっきり怖くて距離を置くのではないかと思っていたのだけれど、何故かその反対の反応だった。


「何言ってんだよ、俺達友達じゃん。友達の所に遊びに来るのは当然だろう?」


「友達?」


 いつから友達になったのだろう。

 嫌味を言われるか、お願いという名の脅ししかしていないというのに。

 首を傾げる天音に、ぷっちょが問い掛ける。


「なあ天音、誰こいつ?」


 お前は何を言っているんだ?


「忘れたの? 初詣の時に屋台奢らせてた人」


「ああ! あの良い人か⁉︎」


 どこが良い人なんだ?

 というより、僕をダシにしたのはぷっちょだよね?

 そう非難したかったが、クラスの注目を集めてしまったので、下手な事は言えなかった。


「屋台、ごちそうさん! またよろしくな!」


「あの時はご馳走様でした」


「……ご馳走様でした」


 二人がお礼を言うので、それに続くしかなかった。

 正直、言いたくはなかった。

 あの誘いに乗らなければ、あのタイミングで襲われて、関係の無い人達を巻き込まずに済んだはずだった。


 あのパーティメンバーの首が落とされたのも、霧隠による幻覚だった。

 それは分かってはいたのだが、余りにもリアルで、臭いまで再現しており、もしかしたらという可能性があった。


 それに、天音は霧隠の性格を知っている。

 冷酷で残忍。

 認めた者以外は、霧隠にとって何の価値も無い存在でしかない。

 見た目はやり手のサラリーマン。だが、内に抱えているのは、破綻した人格だった。

 初めて出会った時も、百々目とのひと時の邪魔だからと、片足を切り飛ばされた。時雨がブチギレて、百々目と霧隠の家が無くなってしまったが、それはもうどうしようもない。


 霧隠は、有象無象と見做した者達を、虫けら程度にしか見ていない。

 もしも、天音を怒らせる為という目的だったのなら、あの場で全員が殺されていただろう。

 アレは、何も感じずにやってのける。


 因みに時雨と百々目の二人が言うには、「あれでも、昔よりはマシになっている」だそうだ。

 昔は、近くに制御出来る奴がいないと、直ぐにトラブルを起こしていたそうな。


 どうして粛清の対象にならなかったのか、不思議でならない。


 そんな霧隠との決着は、「今回はここまででいいだろう。次は更に苛烈に行く、準備しておけ」と、手加減していたと告げて去って行った。


 まあ、そうだろうなとは思っていた。

 装備も揃っていない天音を相手に、攻めきれないなど、霧隠の実力から考えればあり得なかった。


 恐らく、今回の襲撃は忠告。

 これから、唐突に襲撃するという忠告。

 気を抜けば、命を失うぞという最終通告だ。


 まったく、嫌な人が来たもんだと天音は頭を抱えてしまう。



「なあなあ、今度遊びに行かないか? 俺、バイト始めたから奢ってやれるぜ」


「マジで⁉︎」


「やめなよぷっちょ。佐藤君も、そういうのはいいから」


 他人の働いた金で遊ぶなんて、いくら何でも酷いのではないだろうか。


「そう? まっ、天音が言うならやめるか」


「なっ⁉︎ おい! 天音の言う事聞いてんじゃねぇ! 男だったら、気前よく奢ってくれよ!」


「ぷっちょ……」


 鼻息を荒くして、佐藤に詰め寄る姿はとても見ていられなくて、視線を逸らしてしまった。

 友達として恥ずかしいのではなく、こんな惨めな姿を晒しても平気な友人が悲しかった。


 そんなぷっちょを無視して、高倉君が佐藤に尋ねる。


「なあ、天音とはいつ友達になったんだ? 接点なんて何も無かっただろ?」


「何言ってんだよ、この前のダンジョンからに決まってるだろ。俺達は危険なダンジョンを駆け抜けた仲間なんだ、もうマブダチと言ってもいいくらいだろ!」


「嫌だよ、そんなマブダチ」


 テンションの高い佐藤に、すかさずツッコミを入れてしまう天音。

 たった一度ダンジョンに行くだけで、マブダチなんて言われたら、友達という存在が軽くなるようで嫌だった。


 天音が否定すると、佐藤はショックを受けたような顔をする。

 何でだよ。そう返したくなるのは、みんな共通だろう。だが、そうでないぷっちょは、佐藤の肩をポンと叩いて慰める。


「なあ、俺だったら、奢ってくれたらマブダチになってやってもいいぜぇー」


 クズだった。

 分かってた、ぷっちょがそういう奴だとは分かっていた。だから、期待はしていない。


「ぷっちょの事は置いておいて、そろそろホームルーム始まるけど、戻らなくていいの?」


「あっ⁉︎ もうこんな時間か、じゃあな天音! また来るよ」


 来なくていい。

 去って行く佐藤の背中を見ながら、ポツリと呟いた。


「天音、また変なのに捕まったな」


「……うん」


「またって何だよ、前にもそんな奴いたのか?」


「……」「…………」


 ぷっちょの疑問に、二人は答える事が出来なかった。



⭐︎



 巨大なモンスターの軍勢。

 それを率いるのは、獅子の頭部を持つ白い人型のモンスター。

 そのモンスターは、全てがユニークモンスターと呼ばれる災害のような存在だ。


 ダンジョンから這い出て来たユニークモンスター達は、人の世界である地上を蹂躙して行く。


 もちろん、人もやられてばかりではない。

 大量の兵器を使用して、人類は災害に立ち向かう。それだけでなく、凄腕の探索者達が立ち向かい、災害のようなユニークモンスターを倒して行った。


 だが、それでも足りない。


 圧倒的に数が足りない。


 探索者とほぼ同数のユニークモンスター。


 そんな脅威に勝てるはずもなく、栄華を極めた人の世界は滅ぼされて行く。


 逃げる力も無い人は絶望し、神に祈る事しか出来ない。

 力のある人も、逃げるかモンスターの餌食になる未来しか残されていなかった。


 天災たるユニークモンスターの軍勢。


 個で立ち向かえる者など存在せず、最後の時を待つしかなかった。


 そのはずだった。


 黒い閃光が走り、次々とユニークモンスターを蹴散らして行く。

 何度も何度も黒い閃光が走り、軍勢だったユニークモンスターも姿を消してしまい、残るは小型のユニークモンスターのみとなった。


 激しい戦闘が始まる。


 ただでさえ破壊された地上が、更地に変わり破れて崩壊して行く。



「……また未来が変わった」


 サクラはそう呟き、目を開く。


 最初に見た予知では、多くのユニークモンスターが暴れていても、統率などされていなかった。

 探索者が手分けをして、ユニークモンスターの注意を引き付けている間に、天音福斗が圧倒的な力を使い倒していたのだ。

 それが、次に見た時はユニークモンスターの数が増え、更に次が、ユニークモンスターの強さが増していた。


 そして今回は、ユニークモンスターの軍勢である。


「一体、どうなるというのです……」


 サクラは、変わる未来に恐怖する。

 予知を見る度に、良くなるどころか悪くなっている。

 どうして予知が変わるのか、何故状況が悪くなるのか、その原因が何も分からない。


 ただ一つ分かっているのは、天音福斗が参戦しなければ勝ち目は無いという事だけ。


「悩んでいるようだな、また未来が変わったのか?」


「はい、状況は悪化しております」


 そう声を掛けて来たのは、サクラの祖母である光海ヨルだ。

 サクラの言葉を聞いた光海は、目を閉じると少しの逡巡の後、目を開ける。

 その僅かな間に考えて導き出した答えは、一つだけだった。


「はぁ、未来の予知が悪くなっているのなら、いるな、裏切り者が内部に……まったく、何を考えているんだ」


 犯人を特定して、どこからの回し者なのか断定しなくてはならない。

 これが一般人ならば容易に特定出来るのだが、サクラの予知を覆す者ならば、十中八九探索者だ。それも、どこかの国に雇われている凄腕の。

 少しでも、探る素振りを見せたら、即座に逃亡するだろう。捕まえれば、最悪、周囲を巻き込んだ自滅を行う恐れすらある。


 光海は孫のサクラを見る。

 まず狙うとしたら、予知能力のあるサクラ、次にこの国を救う可能性のある天音福斗。

 この二人が、最も狙われる可能性が高い。

 しかし、天音福斗には自衛能力があり、近くにはこの国の最高峰の探索者がいる。仮に襲われたとしても、やられる姿がイメージ出来なかった。


 ならば、残りの心配は、孫のサクラだけ。

 配下の探索者を護衛に付けてはいるが、少々不安が残る。実力もそうだが、サクラを信奉し過ぎており、誤った決断をさせる恐れがあった。


「……いっそ、一緒に居させるか……」


 首を傾げるサクラを見ながら、光海は余計な事を思い付いた。



 こうして、権力を使ったサクラの転入が決定した。

とりあえずここまで。

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― 新着の感想 ―
隣のクラスの佐藤はマジ要らない。 福斗の学校生活が波乱になる?!
光海「ひらめいた」
余計な事を思い付いちゃったなあ…。
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