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4

「さあさあ! 飲んでください、飲んでください! 娘の命の恩人が、何を遠慮しますか!」


 今現在、榊原のお家が貸し切っているホテルの一室で、宴会が行われている。

 総勢五十名を越えており、かなりの親戚の数である。

 料理もオードブル形式ではあるが、かなり豪勢な内容になっていた。

 大人達は昼間っからビールを飲んでおり、子供達は隅っこの方でゲームをしているか、走り回っている。


 そして、全くの無関係の天音は、榊原の父親にビールを注がれていた。


「いえ、僕は飲めないので、すみません」


 未成年に、何飲ませようとしたんだと言いたくなったけど、「お酒を飲まないのは、最近の子あるあるですなぁ」と勝手に解釈してくれたので、それ以上何も言わなかった。


 というより、それどころではなかった。


「ちょっと、良い男じゃない! テレビで見たけど、実物はもっとかっこいいわねぇ」

「おばちゃんと一緒に写真撮りましょうよ」

「あら、それならみんなで撮りましょうよ」

「はーい、写真撮りたい人集まってー!」


 おばちゃん達から、勝手に集合写真を撮られたり、


「兄ちゃん、あんたテレビで見たよ。うん、なんか、凄いことやったんだってな」

「あに言ってんだ! 俺達の命の恩人だぞぉ! 救われたのはレナちゃんだけじゃないんだよぉ!」

「これ食べな、酒は飲めなくても寿司は食えるだろう」

「今何歳だよ? え、十六歳? それはレナちゃんの年齢だろう、あんたみたいな迫力のある十六歳がいるわきゃねーだろう」

「おまっ! 知らねーのか⁉︎ 神坂さんは二十歳なんだよ、テレビでやってただろうが!」


 などと、酔っ払い達に絡まれていた。


「ごめんなさい……みんな、福斗さんに会いたいって言ってたけど、こんなに強引だとは思わなくて……」


 そう榊原は申し訳なさそうにしているが、表情はどこか嬉しそうだった。


 この集まりに参加しているのは、榊原に騙されてとか、無理を言われてとかではない。

 だからといって、天音が快く引き受けたわけでもない。

 ただ流れで、ここまで来てしまったのである。


 そもそも榊原と会ったのも、新年の挨拶を直接したかったという要望を聞いたからだ。

 それは、会って一時間も経たずに終わった。

 榊原も、昼から親戚の集まりに行かないといけないと言うので、そのまま別れようとした。


 だけどそこに、榊原の親戚のおばさんが通り掛かり、「あんたも来なさんな〜」と誘われたのである。

 いやいや、流石にそれは駄目でしょうと断ったのだが、「じゃあ、ご飯食べて行きなさいな」と執拗に言ってくるので、最後は折れて「そこまで言うなら……」と天音は頷いてしまったのである。


 そこから、これである。

 ホテルのロビーで少し待っててね、と言って姿をくらましたおばさん。

 それを榊原と雑談しながら待っていると、宴会が始まったのである。


 最初、何が起こったのか分からなかった。

 準備出来たからと会場に連れて来られたら、まあまあ座りなさいと着席させられて、乾杯が始まったのだ。


 これはもう仕方ないと諦めて、このワイワイとした空気を楽しんでいた。


 天音自身、こういう集まりは嫌いではない。

 自分の親戚に碌でもないのが多かったというのもあり、こういう騒がしくも和やかな集まりに憧れがあった。


「良い家族だね」


 榊原の家族は、その多少強引な気質は似ているけれど、皆同じように暖かかった。


「そうですか? うるさいだけのような気がしますけど……」


 これは、一度失わないと分からない感覚なのかも知れない。

 きっと、この思いを知らない榊原は幸せなのだろう。そんな幸せな空間に連れて来てくれて、天音は心から感謝した。


「榊原さん、ありがとう」


 どうして感謝されたのか分からないのか、榊原は首を傾げていた。


 それがおかしくて、少しだけ笑ってしまった。


 その笑い声に、会場が静まる。

 ほとんど無表情だった天音が、笑みを浮かべたのに驚いたのだ。


 それに気を良くしたのか、皆がまた騒ぎ出す。


 騒ぐ中で、中学生くらいの女の子が近付いて来た。

 その子は、榊原を柔らかくしたような雰囲気を持っており、姉妹だと一目で分かるくらいに似ていた。


「ねえねえ、お姉ちゃんとはどこまで行ったの?」


 思った通り、姉妹のようだ。


「ナオッ! 福斗さんに変な事聞くな!」


「お姉ちゃんには聞いてませーん。それで、どうなの?」


 ナオと呼ばれた榊原レナの妹は、悪戯っ子のように笑みを浮かべて、天音の腕を掴んだ。


 この子、距離が近いなぁと思いながら、素直に答える。


「自慢の弟子だよ、それに尊敬出来る女性だね」


 と素直に思っている事を答えたのだが、それが面白くなかったのか、「そうじゃなくて〜」と唇を尖らせていた。


 でも、ナオとの会話もそこまでで、榊原が妹の首根っこを引っ張って連れて行ってしまった。


 これが、この姉妹の日常なのだろう。


 榊原パパに飲めないビールを勧められながら、天音はこの場を楽しんでいた。



⭐︎



 ホテルを出ると、外は一段と寒くなっており雪がシンシンと降っていた。


「これは積もるかな」


 スマホを取り出して、時雨から連絡がないか確認する。

 だけど、そこには何もなくて、メッセージもいまだに既読が付いていない。

 何か、トラブルに巻き込まれているのだろうかと心配なる。だけど、時雨が解決出来ないというイメージが出来なかったので、この心配も無用だなと思い直す。


 明日は、磯部や茂木達とダンジョンに潜らないといけない。

 彼らは天音の正体に気付いてないし、ただ戦力になると思って勧誘しただけだ。若干一名、悪意があるにはあるが、それも天音からしたら簡単に踏み潰せる程度の物でしかない。


 だから、何事もなく終わらせるつもりだった。


 もっと、自身の状況を考えるべきだった。

 もっと、慎重になるべきだった。

 ただ、回避出来る物でもなかった。

 これは、それだけの話だった。

良いお年を!

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― 新着の感想 ―
家族親戚公認!
めっちゃ不穏!w 良いお年を!
ま、まってぇ!? 年越し前にかなり気になる不穏文を残していかないでぇ!? 良い年の瀬を!ライヨロ!
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