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3

 隣のクラスの男子から、今度の土曜日にダンジョンに行かないかと誘われた。


 それに対して天音は、「無理です、他を当たって下さい」と答えてきっぱりと断ったのだけれど、何が面白いのか、或いは嫌がらせか、ぷっちょが「おいおい、うちの天音を使うってんなら、出す物出せや」と屋台を奢らせたのである。


 ぷっちょの対応もどうかと思うが、奢る方もどうかと思ってしまう。


 まあ、それを食べてしまった天音が言えた義理ではないが。


 因みに、その奢ってくれた男子の名前は、佐藤というらしい。


「ご馳走さん、んじゃ天音、ダンジョンよろしく」


「よろしくじゃないよ……。食べちゃったし、行くのは行くけどさぁ……」


 購入されて、渡されたら食べるしかなかった。

 ぷっちょも高倉君も美味しく頂いているので、可能ならこの二人も連れて行きたかったのだけれど、佐藤から、


「お前だけでいい」


 と、一人だけ指名されたのである。


 どうして僕だけ? そう疑問に思いながらも、天音の参加は決定してしまった。



⭐︎



 お正月期間は、ギルドもお休みである。

 今年は日の並びも良くて、かなりの連休が予定されていた。ダンジョン探索を約束した日もギルドはお休みで、併設されている探索者用のお店もお休みである。

 おかげで、初心者用の装備が用意出来ない。


 今使っている装備だと、間違いなくバレる。

 誰かに融通してもらおうにも、探索者の知り合いがハクロ達しかいない。そのハクロ達も、どこかに旅行に行っているのか連絡が付かない。そもそも、初心者の装備を持っているとも思えなかった。

 

 だからダンジョンに向かう。


 ギルドやお店は休みでも、ダンジョンはただそこにあり、いつ何時も挑戦者を求めていた。


「今回は武器の調達と、力の確認。30階にいるホブゴブリンが持ってたらいいけどなぁ」


 そんな事を呟きつつ、ダンジョンを探索する。


 正体を隠すような真似はしたくないのだが、バレた時の厄介事を考えると、流石に面倒だなぁと思ったのだ。


 天音福斗と神坂福斗は、世間一般では別人として扱われている。

 それは、ハクロが面白がっている事もあるが、同一人物と結びつけるには、余りにも見た目と迫力が違っていた。


 本人としては、どうして髪型を変えただけなのに気付かないんだ? という認識だが、周りからすれば、言われても気付かないレベルである。


 武器を持ったホブゴブリンを強襲する。

 集団でいる所を蹴散らして、武器を奪う。

 今回は討伐が目的ではないので、ホブゴブリンは殺さずに、ただ良さそうな武器を貰って離脱する。

 側から見れば、強盗のような行いだが、相手はモンスターだからセーフだ。


「この剣があれば良いかな? バランスも良いし、握りも人が使える大きさだし、魔力の通りも悪くない」


 ホブゴブリンから奪った剣は、恐らく魔剣の一種だ。

 その能力はギルドで鑑定してもらわないと分からないが、見た目に変化が無いので、切れ味が上がるか頑丈になる能力だと思われる。


 武器も決まったので、次は新たに得た力の実験である。


 右腕に魔力を収束させる。

 すると、黒いモヤが腕に集まり、歪な腕を形作って行く。

 獣のような爪、腕には四箇所の突起があり、そこから微弱な魔力が噴出している。肘には棘のような物があり、意識すると出し入れ可能だった。


 まるで僕が考えた最強の鎧。の一部のようだった。

 これが見た目だけなら、うわっ恥ずかしい、で終わるのだが、この腕の力を認識して、天音は焦っていた。


「……これは、使い所に困るな」


 はっきり言って、オーバースペックである。

 これを使える相手は、それこそユニークモンスターしかいないだろう。

 それだけの力を、この腕は秘めていた。


 しかも、これだけではない。


 天音は左腕にも魔力を収束させて行く。

 すると、右腕と同じ物が出来上がり、辺りに膨大な魔力を垂れ流す。


 更に、足にも同じような物を作って行く。

 これは腕だけの物ではなくて、全身を覆う鎧のような物だ。


「くっ⁉︎」


 しかし、足の部分を作ろうとして、途端に魔力が乱れてしまった。

 魔力が足りないわけではない、魔力操作が出来なかったわけではない。

 体が拒絶するように、この魔力を跳ね除けたのだ。


「はあ、はあ、はあ……これって、危険って認識でいいのかな?」


 汗を流しながらそう呟く。

 体が拒絶したのだとしたら、この魔力による装甲は、天音の肉体に多大な影響を及ぼす恐れがあると考えるべきだろう。


「これを使い続けたら……僕はどうなるんだろう?」


 不安になりながらも、天音はこの力を使わないといけない時が来るのだろうと、理解もしていた。


 今年、日本が終わると予言されたそうだ。

 大量のユニークモンスターが地上に現れて、この国を滅ぼしてしまうそうな。

 それを回避するのに、天音が必要だという。

 己にそんな力があるとは思えなくて、半信半疑だったが、この力を理解すると、あながち間違いではないのではないかと思えて来る。


「一体、何が起こるんだ?」


 そう不安を吐露しながら、天音はダンジョンをあとにした。





 己の力を理解して、不安になった天音は、頼りになる師匠に連絡を取ろうとする。

 しかし、何度電話をしても圏外になってしまい、連絡が付かなかった。


 もしかしたら、ダンジョンに行っているのかも知れない。

 そうだとしたら、連絡は諦めるしかなかった。だけど、代わりにはならないけど、それなりに気を許している人物から連絡が入った。


 福斗さん、明日暇ですか?


 と榊原から、短い文言で届いていた。


 内容は明日会えないかというもので、新年の挨拶を直接したいようだった。

 天音としては、そういう物にこだわりはないのだが、気にする人がいるのも理解していた。

 だから、快く了承して「明日、暇だから大丈夫だよ」と送ると『じゃあ、明日八時からよろしくお願いします!』と返って来た。


「……え? 八時って早くない?」


 まさかの早朝からの約束に、何をするのだろうと不安になる。


 それでも、まあ良いかなと思い、「明日の八時ね」と返しておいた。


 この時、まさか他所様の親戚の集まりに参加するとは思わなかった。

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― 新着の感想 ―
ぷっちょ嫌いすぎる…出てくる度に不愉快になるしなんでこんなのと友達なんだ…
いやあいいですねぇ実にいいですねぇ
親戚…外堀… ところで防具は?
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