幕外
【天音福斗(16)に関するレポート】
身長175cm 体重70kg
筋肉質の体、無駄なつき方はしていない。
普段の容姿は冴えないが、探索者としてスイッチが入ると、同一人物とは思えないほどに変貌する。
戦闘能力は高く、魔力量は五指と呼ばれる探索者を凌ぐ。魔力操作能力は拙かったが、今回の訓練により改善された。
魔法の得意属性
風属性魔法が最も秀でており、火属性と身体強化が高い精度を有している。他の属性も高いレベルにあり死角はない。
金剛石、真壁タツミの多重身体強化を習得している。
故人、灰夜トウキの獄炎を習得している。
舞姫、神坂時雨のリセット魔法を習得している。
人形使い、百々目詩心のゴーレム製造を習得している。
《評価》 総合 A+
近接格闘 A 体力 A 魔法 S 魔力量 SS 状況判断 B
《私生活》
先日発生したユニークモンスターを倒した事により、神坂福斗(20)と勘違いされている。
学校の成績、中の上。
友人関係は良好。
ギルドの立場は良好。
恋人は不明。(もっとがっつけ、男だろうがヘタレ)
弟子(榊原レナ)を取っており、週二回の訓練を実施している。
非公認のファンクラブ有り。(神坂福斗として)
有志により、探索者姿の写真が多く投稿されている。クリスマスの私服姿が特に人気で、ツーショットになれるコラ画像が作られている。(本人はファンクラブに気付いていない)
《戦闘した所感》
十六歳とは思えないほどの高い身体能力。的確な状況判断。短期間で改善された魔力操作能力により、高い戦闘能力を有している。
現地で作ったゴーレムとはいえ、力作の一体が灰に変えられてしまった。獄炎ヤバい。
先輩のリセット魔法が使えるせいで、魔法による攻撃の効果が薄く、接近戦を挑まなければならなくなった。
久しぶりに汗をかいて気持ち悪かった。
ゴーレムによる強化と、剣聖の剣技を真似て攻め立てたが、倒し切れなかった。
というより、ダミーの私を何の躊躇もなく殺していたので、この子が恐ろしくなった。
殺す気はなかったんですが、最後の攻撃を見て先輩からの指示の意味が分かりました。
『危険に感じたら、躊躇なく殺せ』
言われた時は、先輩の気が狂ったのかと思いましたが、あの力は危険です。
ですが、殺すまでの物とは思えませんでした。
先輩は、一体何を知っているんですか?
あの力は何ですか?
灰夜トウキと何か関係があるんですか?
以上で報告を終わります。
◯
「余計な事には鋭いな、こいつは」
神坂時雨は届いたメールを読み、ノートパソコンを閉じた。
今は飛行機に乗り、モンスターに占拠されて滅びた国に向かっている。今回の年越しは、戦いの中で迎えそうだなと萎えていたが、このメールを読んだおかげで気分が更に最悪になった。
「いや、今は丁度良いな」
今回の海外遠征の目的は、滅びた国の奪還にある。
ダンジョンから溢れたモンスターに占拠された土地は、ユニークモンスターを中心に独自のコミュニティを作っており、下手に手を出せば多くのモンスターに襲われて殺されてしまう。
そんな場所に行き、時雨はモンスターを殺し続ける。
同格とされる探索者が他国からも派遣されているが、足手纏いになるのがほとんどで、一人で対処する事が多かった。
だが、今回はそれでも良かった。
この鬱屈とした思いを発散するには、これほど適した場所はないから。
「世界に見捨てられた土地。その昔、大国に抗おうとした小国。そんな国ばかりが、モンスターに滅ぼされているのはどうしてだろうな……」
廃墟となった場所に降り立ち、本当のモンスターはどっちなのだろうなぁと虚しくなる。
世界最高峰の探索者達が集えば、この土地の奪還も難しくはない。それなのに、数十年も放置されたままである。
ここに時雨が派遣された理由も、ただのパフォーマンスでしかない。
奪還作戦をやってますよ、というパフォーマンス。
救う気も無いのに、無駄な事をやらせてくれる。
「すまんな、今の私は気が立っているんだ。やるからには、徹底的にやるぞ」
だが今は、ストレスを発散出来る場所に感謝して、時雨はモンスターを狩り始めた。
およそ一ヶ月後、滅びた国は数十年ぶりに人の手に戻った。
◯
黒い獅子が疾走し、ダンジョンの奥深くへと潜って行く。モンスターはこの獅子を襲う事はなく、身を引いて大人しくしていた。
この黒い獅子はユニークモンスターとして、ダンジョンより生を受けた。
ダンジョンに造られた命ではあるが、意思があり感情も宿っている。
まだ生まれ一ヶ月という個体で、ユニークモンスターとしても弱い部類に入る。それでも、人の探索者程度に遅れを取るほど弱くはないのだが、初戦闘の相手が最悪だった。
「グルル」
走りながら唸るのは、戦った相手を思い出したからだ。
強かった。
己が最強だと思っていたのに、何も出来ずに敗走した。
自爆して、死を偽装しなければならなかった。
屈辱だ。
屈辱だ屈辱だ屈辱だ!
あの身に牙が爪が届けば、倒すのは容易いのに、それが余りにも遠過ぎた。
黒い獅子は、己より強い者を許さない。
己こそが最強なのだ!
己こそが王者なのだ!
その怒りを抱きながら、黒い獅子は更なる力を得る為に眠りにつく。
最強の己をイメージしながら眠り、己の形を作り替えていく。
イメージした形は、奇しくも己を圧倒した存在に似ていた。
今回の投稿はここまでです。