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明日は7時と19時投稿

 クリスマスから二日後、百々目にダンジョン71階に来るようにと連絡があった。


 この訓練も、もう直ぐ仕上げだと言っていたので、そこで何かをするのだろう。


「というか百々目さん、いつの間に70階まで行ってたんだ?」


 ダンジョンが違えば、その環境も現れるモンスターも違って来る。一つのダンジョンで70階に行ったからといって、他のダンジョンで70階のポータルが使える訳ではない。だから、一から潜らなくてはいけないのだが、百々目が探索していた様子はなかったはずだ。


 考えても仕方ないかと思いながら、探索の準備を始める。


 最悪80階まで連れて行かれて、そこから戻って来いというのをやられかねないので、物資も多めに購入しておこう。


「今回は71階に行きます。その先は……不明です」


「不明? 珍しいね、計画を立てないで潜るなんて」


 ギルドの受付で探索予定を伝えると、驚かれてしまった。

 探索者の中には、計画を立てずに潜る者はいる。そういう探索者は、大抵の場合生き残れず、ダンジョンで遭難するかモンスターの餌になって終わる。

 だから計画を立てるのが普通で、天音もこれまではそうして来た。


「今回は呼び出されただけなので、もしかしたら、もっと奥まで連れて行かれるかもです」


「ああ……頑張って生き残りなよ。可愛い彼女が出来たんだからさ」


「僕、彼女いませんよ?」


 受付のお姉さんは、天音が師匠から受けている訓練内容を知っており、なんとなく察して同情してくれた。しかし、その後の言葉は理解出来なかった。


「え? レナちゃんと付き合ってるんでしょ?」


「付き合ってないですよ」


「でも、ホテルのレストランで……」


「あれは告白とかではなく、お互いの思いを伝えただけなので、そういうのではないです」


「そ、そうなんだ。……でもそれって、レナちゃんも分かってるよね?」


「分かってると言われても、そもそもそういう会話をしてないですし……」


 というより、天音には誰かと恋愛する余裕はないのだ。

 だから、サクラの予言が終わるまでは、そういうのとは無縁でいようと思っている。


「お姉さんこそ、ハクロさっ⁉︎」


「しーっ! 福斗くんいってらっしゃい! 無事に帰って来るんだよ!」


 あの後、どうしたのかと聞こうとすると、口を押さえられてしまった。

 なかなかに素早い動きで、驚いてしまった。


 焦ったお姉さんに見送られて、天音はダンジョンに向かった。





 見渡す限り砂漠の世界。

 振り返れば雪原の世界が広がっているが、今は砂漠の中に佇む百々目に集中した方が良いだろう。


「熱い」


「そうですね。それで、これから何をするんですか?」


 これから強制探索だろうか?

 準備はして来ているが、前情報無しの階層の探索は苦労するだろうなと半ば覚悟はしている。


 しかし、百々目から告げられた内容はそんな生優しいものではなかった。


「これから福斗を殺す。私が諦めるまで抗え」


「は?」


「達成出来れば私の訓練は終わり、褒美に80階までの地図を渡す」


「は?」


「はじめ」


「っ⁉︎」


 急激な魔力の高まりを感じ取り、その場から飛び退く。

 ドンッ! と激しく爆発が巻き起こり、大量の砂が巻き起こる。


 視界を殺され、ここにいては駄目だと移動を開始する。

 鉈を構え、視界が晴れた瞬間に、目の前にいた目玉のゴーレムを切り裂き破壊する。


「……マジですか」


 ジジッと音が鳴り、ボンッと音を立て動かなくなった目玉のゴーレム。

 それと同じ物が百では効かないほどの数が浮かんでおり、その中心にいる百々目は、砂漠の砂で作っただろう巨大なゴーレムに搭乗していた。


「抗わないと、死ぬよ」


「くっ⁉︎」


 大量の目玉のゴーレム。それらが一斉に動き出し、魔法による攻撃を仕掛けて来る。


 炎に氷、雷に風、土に地中からの襲撃。


 天音は即座にトップスピードで移動し、魔法を避けリセット魔法で迫る魔法を無効化する。


「数が多い!」


 しかし、その数と天音のスピードに着いて来る魔法に、避けるのも困難になってしまう。


 ならばと、一度仕切り直すように風属性魔法で砂を巻き起こして自身の姿を隠す。


「アクセル」


 身体強化の多重掛けによる飛躍的な身体能力の向上。それに風魔法を使った移動術は、音を置き去りにする。


 ドンッドンッと方向を変える度に振動が鳴り、風を纏った鉈が百々目を直接狙う。


「あまい」


 それに反応したゴーレムは、迎撃しようと巨大な拳を振るう。

 しかし、ブンッと大気を押すように振るわれた拳は遅く、とても天音を捉えられるような物ではなかった。


 ゴーレムの腕を切り落とし、百々目に刃を突き立てる。体の半分までめり込んだ鉈は、百々目の命を刈り取るには十分だった。

 コポリと百々目の口から砂が流れ出る。


「くっ⁉︎」


 やっぱり罠かと思い逃げようとするが、百々目の体が粘着性のある砂へと姿を変えて天音を捕えてしまう。

 そこに目玉のゴーレムより無数の魔法が放たれ、被弾する。


 巨大なゴーレムは、まるで天音の棺となり、大量の魔法を受けて崩れ落ちてしまった。


「これはきついな」


 地中に閉じ込められた天音は、回復魔法で治療しながら考える。

 相手は、師匠の時雨と同列にいる最高峰の探索者だ。

 それも才能だけでその領域におり、真の天才だと言える相手だ。

 そんな人物を相手に抗えとか、すでに無理ゲーである。


 逃げる?

 無理だ。百々目の索敵能力は群を抜いており、ダンジョンから脱出する前に捕まってしまう。


 倒す?

 それこそ無理だ。生き延びれるかも怪しいのに、立ち向かえば、今のように生き埋めである。


 じゃあどうする?


 そう考えていると、強い衝撃を受けて中断させられる。

 地中ごと殴り付けられて、強制的に地上に引き摺り出されたのである。


 空中でバランスを整え、相手の戦力を見てみる。


「これは、まずいかな」


 大量の目玉のゴーレムに加えて、六本腕の大きなゴーレムが一体。人と変わらない大きさの二本腕のゴーレムが一体。百々目が乗る、槍を構えた大きなゴーレムが一体の合計三体が待ち構えていた。


 槍を除いた二体のゴーレムの手には剣が握られており、天音を殺そうという殺意が伝わって来る。


 動き出したのは天音からだった。

 この絶望的な状況で、受けに回って好転するとは思えなかったのだ。


 一番厄介そうな、人型の二本腕のゴーレムに仕掛ける。

 アクセルを使い、圧倒的な力で破壊するつもりで振るった鉈は、ゴーレムの剣に受け止められてしまう。


 ギギギッ! と激しく火花が散り、連続した剣戟も受け止められてしまう。


「くそっ!」


 一度大きく距離を開けると、六本の大きな剣が天音を襲う。

 凶刃をギリギリの所で避け、六本腕のゴーレムに接近する。


「獄炎」


 黒い炎は六本腕のゴーレムをあっという間に飲み込んでしまい、焼き尽くそうと激しく燃え上がる。

 崩れる大きなゴーレムを背に、人型のゴーレムとの剣戟が再開される。


 アクセルを使い全力で仕掛けているのだが、このゴーレムはそれ以上の性能で争って来る。


 獄炎を使おうにも、このゴーレムを相手にしていてはその余裕も無い。


 これが最高峰の探索者の実力。

 天音も強くなったつもりだったが、作り出されたゴーレム一体に手を焼いている。

 それも、即席で生み出されたゴーレムにだ。


「ふっ!」


 一気に押し切ろうと猛攻を仕掛ける。

 天音が優っている点は、スピードと魔法だ。

 アクセルを使った状態で力は拮抗しており、武器を操る技術はゴーレムが上。

 ここで押し切らなければ、待ち構えている槍のゴーレムに邪魔をされてしまう。


 鉈を高速で振る。

 使い慣れた風の刃も同時に使い、攻撃の嵐に巻き込んで行く。

 最初こそ凌いでいたゴーレムだが、嵐の猛攻の前にその身は削れていき、あと少しで破壊する所まで来た。


 しかし、敵は目の前のゴーレムだけではない。


 周囲には、目玉のゴーレムも待機しているのだ。


 援護するように、天音に向かって魔法が放たれる。


 避ける避ける。ひたすらに避けながら、魔法の準備を完了して神速剣が目の前に迫って来ていた。


「くっ⁉︎」


 鉈で受け止めるが、その力が凄まじく上空へと跳ね上がられてしまった。


「しまった!」


 そこに、槍を構えた大きなゴーレムが迫って来ていた。

 風を操って逃れるのは不可能で、右手に持つ鉈で受け止めるしかなかった。

 これまでにない、貫くような衝撃。

 鉈が激しく軋み、砕けると同時に激しく弾き飛ばされて、砂漠へと突き刺さってしまう。


 またしても地中へと潜ってしまった天音。

 視界が明滅しながらも、しっかりと意識は残っているからまだ大丈夫だ。だが、大事な武器を失ってしまい、かなりのピンチである。

 一応、予備の鉈は用意しているが、さっきまで使っていた武器と比べて品質は下がる。


「一千万円もしたのにな」


 壊れてしまった武器を思って、愚痴が出る。

 あの鉈は、オーダーメイドで作られた天音専用の武器だった。値段もそれなりにしており、完成に一ヶ月も掛かった代物だ。


 くそーと悪態をつきながら、天音は地属性魔法を使い地中を行く。

 どんなに正面から挑んでも、勝ち目は万が一もない。

 ならば、どんな手を使ってでも生き延びなければならない。それこそ、百々目が飽きるまで。


 魔力量は十分。

 アクセルを使って逃げれば、まだなんとかなるはずだ。


 そう思い、離れた場所まで移動して地上に出たのだが、


「……どうしようか」


 先程よりも、圧倒的に多いゴーレムの軍団が天音を待ち構えていた。





 目玉のゴーレムを破壊して逃げる。

 追って来た人型のゴーレムの攻撃を掻い潜り、上空へと逃れる。

 そこには、百々目が搭乗する槍のゴーレムが飛翔して待機しており、槍の一撃で叩き落とされる。


 逃走の為に、天音もプロペラの付いた目玉のゴーレムを作り出し特攻させる。

 自爆の機能も付与しているので、接触すれば爆発が巻き起こり目玉のゴーレムの数も減らせるだろう。

 しかし、手元から離れたゴーレムは、即座に百々目に制御を乗っ取られてしまい、逆にピンチになってしまった。


「何でもありか⁉︎」


 そう叫んでも、事態が好転することもなく、体力と魔力だけが消耗していった。



 一体何時間逃げ続けているのだろう。

 砂漠の熱で汗が流れ、ジュッと音を立てて蒸発する。

 周囲の温度を調整する魔道具は全部使っており、自身に魔法を使って冷やしたくても、その余裕もない。


「はあ、はあ、はあ……」


 息が切れて、残りの魔力も少なくなって来た。

 あれだけ増えたと思っていた魔力量も、全力で何時間も使い続ければ底をついてしまう。


「モンスターよりも化け物じみてるな」


 未だに数が増え続けているゴーレムを見て、自分がやった事が無駄だったと理解する。


 今の言葉が聞こえたのか、不機嫌そうな百々目の声が目玉のゴーレムから流れて来る。


『この程度で死ぬなら、来年に現れるっていうユニークモンスターにも勝てない。ここで終わるのも、手だと思うよ』


「……お断りです。この程度で終わるなら、僕はもっと前に終わってますよ」


 ここで終わるのなら、時雨の訓練で終わっていた。

 それだけの過酷な訓練を体験して来ているのだ。この程度で終わってたまるか。そして何より、


「ここで諦めたら、弟子に顔向け出来ないからね」


 榊原に信じろと言ったのだ。

 勝てなくても、諦めたくはなかった。 


 これは、百々目との戦いだけでなく、己の意志を通すための戦いでもあるのだ。


 生き残る事を絶対に諦めない。

 その覚悟を持って、ここに立っている。


 だが、だからといって、この戦力差をどうにか出来る訳ではない。


 目玉のゴーレムの魔法を受け、斬撃を受け、凶悪な槍による刺突を受けてその身はボロボロにされて行く。

 激しく吹き飛ばされた天音の体は、ボロ雑巾のようになりながら川を渡り、雪原のエリアまで来てしまった。


 早く立たないと、と頭では分かっていても体が動いてくれない。

 回復魔法を使おうとしても、魔力の動きがおかしくて上手く使えない。


「う、あ……」


 終わる。

 ここで終わってしまう。


 それは嫌だと必死に動こうとして、ある事に気付く。


 魔力の動きが、ここ最近見る夢の動きをしていたのだ。

 あれは夢だから、現実には存在しない力だ。

 そう思い込んで否定していた。

 あの黒く悍ましい姿が嫌で、否定していた。


 だが、ここで終わるくらいなら、いっそ使ってやろうじゃないか。


 天音は魔力を練り上げ、視界を黒に染めた。

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