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本日は終業式である。
高校一年の二学期が終わり、明日からは冬休みに入る。
「なんだか、いろいろあったな」
この二学期は、いろんな出来事が起こった気がする。
ダンジョンで同級生を助けた事から始まり、同級生を弟子にして、ユニークモンスターを討伐した。日本の危機を知らされて、マラソン大会では、またしても同級生を助けた。
文字にすればこれだけだが、体感した内容としては十分過ぎる物だった。
「明日から冬休みだな、正月はどっか行くのか?」
「別にいつも通りかな。ぷっちょはどこか行くの?」
「ふふ、婆ちゃん家に行く」
「普通だね」
「ばっか。俺の婆ちゃんは、東京に住んでんだよ。この冬は、真の都会を満喫して来てやるぜ!」
何故か得意げに言うぷっちょ。
都会を満喫とはどういうものなのだろうか? そこら辺が分からなくて尋ねてみる。
「真の都会に行って何するのさ?」
「ふふふっ、スカウト待ち」
「高倉くんは帰省するの?」
「おーい! 無視すんじゃねー! そこはせめてツッコめよ! 聞いて来たのに無責任だぞ!」
完全に滑ってんじゃねーかと怒鳴り散らかすぷっちょ。
それを見て、自虐ネタだったのかと理解する天音。日頃のぷっちょの言動から、本気で言っているものだと思ってしまったのだ。
「ごめんごめん、それで高倉くんは?」
「それで、で片付けるなよな。高倉は海外旅行に行くんだよな?」
「なんでぷっちょが知ってるんだよ。そうは言っても、父さんの出張先に行くだけだよ」
「お父さん海外にいるの?」
「ああ、アメリカに単身赴任してる。来年まで戻って来れないから、俺達が会いに行くんだよ」
「た、大変だね」
まったくだよと呟く高倉くんだが、どこか楽しみにしている雰囲気もあり、海外に行くのは満更ではない様子だ。
そんな会話をしていると、終業式の時間になり体育館に集まる。
校長先生の無駄に長い話を聞いて、学年の主任先生から注意事項を聞いて、自組に戻る。
長かったなぁと誰かが呟いており、確かにその通りだなとみんなが思った。
「……お婆ちゃん家か」
クラスに戻りながら、先程の話を思い出す。
天音にも祖母や祖父といった親戚はいるが、はっきり言って会いたくない。
両親と弟の葬儀で見た顔は、人の死を悲しんでいる物ではなく、金勘定している奴らの顔だったのだ。
今見たら、顔面を陥没させる自信がある。
それだけ嫌いになってしまった。
ただそれは、父方の祖父母だけで、母方の祖父母とは会った事がないのだ。
師匠に聞いても、
『あいつらの話はするな。悪い奴らじゃないが、いろいろとぶっ飛んでる』
と忠告を受けて、すっかり記憶から消してしまっていた。
厄介な人とは関わりたくないなと思い、疎遠にしている。
だから、実質的な身内は師匠の時雨だけである。
教室に戻り、担任の教師から通知表を受け取る。
成績は、まあ、可もなく不可もなくといった塩梅だ。
担任から再び注意事項を聞いて、高校一年の二学期は終了する。
「じゃあね」「また来年」「良いお年を」なんて別れの挨拶を交わしながら、クラスメイトは教室から出て行く。
天音も用事があるし帰るかと席を立つ。すると、目の前に人が駆け寄って来た。
「天音くん、今年は助けてくれてありがとうございました。また来年もお願いします」
急に現れて、頭を下げたのは古城だった。
「もう沢山言われたからいいよ。でも、来年は危険な目に合わないように気を付けてね」
そう伝えると、うんと笑顔で頷いていた。
事件がきっかけとはいえ、古城とはよく話をするようになっていた。おかげで、ぷっちょから嫉妬の視線を向けられているが、何か言って来るわけではないので大丈夫だろう。
またね、と去って行く古城を見送って、今度こそ天音も教室を出る。
百々目に呼び出されており、これから明後日に着て行く服を選ぶのである。
そう、明後日はクリスマスである。
榊原との約束の日でもあり、いろいろと予約を入れていたりする。プランは最後を除いて、受付のお姉さんから送られて来た内容を参考にしている。
因みに、却下したプランはホテルである。
学生の僕らが泊まれる訳ないだろうが、と若干ズレた理由で怒っていたりする。
そんな訳で、私服に着替えると百々目の待つギルド前に到着した。
しかし、待っていたのは目玉のゴーレムだった。
『じゃあ行こうか』
「まあ、そうだろうなとは思っていました」
目玉のゴーレムを胸に、指示された百貨店に入る。
その中でも、普段は絶対に近付かない高級そうなハイブランドなお店に入店した。
すると、どうして子供が? といった視線を向けられる。
それはそうだろう、ここは一着十万円以上もする高級店である。とてもではないが、普通の子供が買える品物ではない。
だが、ここにいるのは普通の子供ではない。
中年サラリーマンの年収を、二日で稼げるだけの能力を持った子供なのである。
店員は最初こそ訝しんだが、近くにダンジョンがあるというのもあり、稀にそういう子供がいるのを知っていた。
一着購入するのがせいぜいだが、購入するのならば大事なお客様には違いない。
「お客様、何をお求めでしょうか?」
「あっいえ、ああ、あっちですね」
しかし、独り言を言って移動する天音を見て、これは違うかも知れないなと不安になった。
だが、その心配も杞憂に終わる。
『そっちのダークブラウンのとグレーの、パンツはネイビーと白、シャツはそっちの四種類、靴はそっちの三足、ジャケットはそっちにあるやつ全部……』
「全部は勘弁して下さい。絶対に着ないですから」
買えない訳ではない。
こんなに大量に購入しても、使わないと分かっているのだ。
そしてお会計になると、三百万円を軽く越えてしまった。
「またのお越しをお待ちしております」
店員一同に見送られて、天音は店を出る。
サイズの調整も爆速でやってくれて、ほとんど時間が掛からなかった。
『これで明日はバッチリ』
「……そうですか」
そういえば、探索関係以外で、これだけの金額を使ったのは初めてだった。
正直、これだけでも十分な買い物なのだが、百々目はもっと金を使うぞと告げる。
『じゃあ、次はプレゼント買いに行くよ』
「え?」
『こっち』
そう言って誘導する百々目。
そこは、先程のお店と変わらないのハイブランドのジュエリーショップだった。
◯
今日はかなりお金を使ったなと思いながら、鉈を振りぬく。
そこから凶悪な風の刃が生み出され、大嵐大鷲の翼を切り落とした。
前までは、これほど簡単には倒せなかった相手。
天音の得意とする風属性魔法だが、大嵐大鷲はそれ以上の技術を持っていた。
それが今では、天音の方が上になっている。
この短期間での成長速度が異常だと、自分でも理解しているが、それでも目に見えて得られる成果は嬉しい物である。
今は70階から60階を目指して進んでおり、いろいろと調整をしている所だ。
買い物をして直ぐに来たのかというと、その通りだ。
最初は荷物を置きに帰ろうとしたが、百々目が『そろそろ仕上げに入るから、調整しといて』と言って来たのである。
なんだか怖いなぁと思いつつ、魔法を使い続けている。
モンスターの魔法を無効化し、モンスターの肉体を拳で破壊する。モンスターに最速で接近して、黒い炎で焼き尽くす。
土をひと握り持つと、ゴーレムの生成を試みる。
形を作るのは簡単だ。
そこから動くように魔術式を組み込み、風魔法による移動と視覚の共有が可能なように組み立てる。
すると、目玉にプロペラが付いたような物が出来上がり、プロペラを回して上空に上げてみる。
視界は良好。
安定して飛行出来ており、これなら複数でもいけそうだなと思い、視界が途切れた。
「あっ」
上を見ると、大嵐大鷲が天音のゴーレムを破壊していた。
その姿は、まるで仲間をやられた腹いせをしているようだった。
大嵐大鷲は天音を見下ろすが、何もせずに去って行った。
もう、この階では大嵐大鷲とは戦わないだろうなと、何となく察した。
探索は順調だった。
既に通った道なので当然ではあるのだが、モンスターから逃げずに進むのは初めてだった。
それだけ天音が強くなったという証明でもある。
今ならキュクロプス相手でも、余裕で勝てる気がする。
そんな事を考えたからだろうか、
「ガルルゥ」
初めて見る獅子型のモンスターと接敵してしまった。
大きさは、動物園で見たライオンと大差はない。
しかし、その引き締まった体躯と迸る魔力が普通でないと知らせてくれる。
体色は黒く、鉛色の目をしており、尻尾が二本生えている。尻尾の先には毛の代わりに刃が付いており、背後に回るにしても注意が必要だろう。
「……ユニークモンスター? じゃないよな。でも、この魔力の質は……」
鉈を構えて、魔力を操作する。
このモンスターは普通ではない。
獅子のモンスターの魔力が、ユニークモンスターの物と類似しているのだ。
だが、だからといってユニークモンスターという訳でもない。空クラゲのような、圧倒的な迫力が無いのだ。
「だからって、油断は禁物だよね」
黒い獅子のモンスターとの戦闘が開始された。