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7

 テスト期間が終わり、通常の授業に戻る。

 トラブルが多少あったが、テストの手応えは十分にあったので、天音は結果が返って来るのを心待ちにしていた。


 そして、


「……平均より少し良いくらいか」


 何とも微妙な結果だった。


 いつもより、少しだけ良いくらいの点数で、自分の中での出来た! という手応えと合致しない点数である。

 もしかして採点ミスかなと心配になるが、どこも間違えていなかった。


「はあ……」


「どうしたんだよ辛気臭い顔して、テスト結果がそんなに悪かったのか?」


「悪くはなかったんだけど、もっと出来てたつもりだったから、期待ハズレだったなって思って」


「赤点じゃなかったんだろう? じゃあ良いじゃん、俺なんて二教科赤点だぜ」


「ぷっちょ、それは誇って言うことじゃない」


 お前はもう少し真面目に勉強しろ。

 そう言った所で通じる相手ではないが、友人として心配になってしまう。

 直接言ってもダメなら、別の方向から行くしかない。


「高倉くんはどうだった?」


「んー、いつも通りかな。勉強する時間も十分に取れたし、満足いく出来だったよ」


 そう言って見せてくれた点数はどれも八十点以上だった。


「す、凄い点数だね」


「そんな事はない。勉強の仕方が分かれば、誰でも取れるからさ」


「そ、そうなんだ……」


 それは君だからだよ。

 高倉くんの成績を見せて、ぷっちょを焦らせようかと思ったら、逆に天音が焦るはめになってしまった。


「まっ、出来る奴は違うって事だな」


「……なんだか納得いかないのはなんでだろう」


 ぷっちょに煽られて、イラッとするのは仕方ないのかも知れない。


「そう言えば、榊原さんは調子が悪かったみたいだぜ」


「……そう。因みに、どうしてぷっちょが知ってるの?」


「昨日、盗み聞きした」


「そっか、外での会話って気を付けないといけないんだね」


 ぷっちょのような輩がいると知れただけで、天音はまた一つ賢くなれた。


 榊原の成績はかなり良い。

 塾に通っていないのに、上位十名には必ず入っている。それは高倉くんも同じなのだが、その話は今はいいだろう。


「珍しいな、何かあったのかな?」


「ふっふっふ、そこら辺は既に調べてある。聞きたいか?」


「いや別に」「他人の不幸を笑っているようで嫌だから、俺はパス」


 素っ気なく返したのは天音で、ナチュラルに善人発言をしたのが高倉くんだ。


 高倉くん、なんだかカッコいいな。


 同い年だが、性格がイケメンな高倉くんに感心してしまう。どこぞのぷっちょとの違いに、涙を流しそうになる。


「そんな事言って知りたいんだろ? 仕方ねーな、話してやるよ」


 誰も聞いてねーよ。

 そう言う前に、ぷっちょは話し始めてしまった。


 というか、凄く浅い理由だった。


 なんでも、榊原の意中の人が他の女とくっ付いている映像を目撃したらしく、勉強に身が入らなかったそうだ。

 その映像も出回っており、ニュースでも取り上げられたという。


「ああ、そのニュースなら俺も見たな」


「…………」


「天音?」


「そのニュースって、どんな内容だった?」


「お、え、えっと、ダンジョンに出現したユニークモンスターを倒したとかだったと思う」


「そっか」


 先に言っておくと、ニュースで紹介された人物の名前は天音ではない。

 そのニュースには、天音に似た人物がインフルエンサーと急接近したり、多くの探索者が集まってきたりしているのだが、天音とは無関係だ。


 何せ紹介された名前は、神坂フクト(20)だったからだ。


 いやいや、誰だよお前とニュースを見たとき思いっきりツッコんでしまった。

 ただ、それで周知されてしまい、茂木や磯部の件もあり訂正出来なかったのである。


 因みに、どうして名前が変わったのかというと、酔っ払ったハクロが政治家の一人に「本当は、表彰されんの、舞姫の親族で弟子の福斗だったんすよ」と言ったのから始まり、政治家がマスコミにインタビューされた際に、「どうやら舞姫の子供のフクトという人物が活躍したらしい」に変わり、マスコミは「神坂時雨の子供が活躍っと、じゃあ名前は神坂フクトだな」となったのである。


 もちろん、本人確認は一度も無し。

 ギルドも本人が何も言わないので、訂正しない。

 だからユニークモンスターを討伐したのは、神坂フクト(20)大学生兼探索者なのだそうだ。


「でもそれって誤解なんだよね?」


「さあ、そこまでは知らん。良かったじゃねーか、榊原さん口説くチャンスだぜぇ」


「…………」


「あ、天音?」


 無言でじっと見つめられて、ぷっちょはたじろいでしまう。人からの無言の圧力とは、こうも怖いのかと知り、ぷっちょはまた一つ賢くなった。


 そんなやり取りをしていると、教室に榊原が入って来た。どうやら、友人の古城さんに用事があるようだ。


「何だ、普通じゃないか」


 高倉くんはいつも通りの榊原を見て、そう呟いた。

 だが天音は、少しだけ彼女が怖くて視線を逸らしてしまった。


 それはそうだろう。

 祝勝会があった次の日から、榊原からのメッセージが途絶えなかったのだ。


 あの人って三上ミクですよね?

 どんな仲になったんですか?

 年上好きなんですか?

 私、十六歳ですよ。

 今度、遊びに行きませんか?

 美味しいお店知ってるんですけど。

 ミクさんも一緒で良いですよ。

 どうして返事してくれないんですか?

 ああ、ミュクと一緒にいるんですね?

 どうして私じゃダメなんですか?

 どうしてどうしてどうしてどうして……etc


 気付いた時にはメッセージは百件を越えており、返信に困るを通り越して連絡先を消したくなった。


 誤解を解く必要があり、勉強の時間が奪われてしまったのである。


 これがトラブルの一つだ。

 そして、もう一つのトラブルは、今も家にいたりする。


 学校が終わり、笑顔が怖い榊原の訓練を行い、何事もなく家路につく。


 いつもはコンビニに寄って帰るのだが、最近はスーパーに行き晩御飯の材料を購入して帰宅している。


「ただいま」


 返って来ないと分かっている言葉を口にして家に入る。

 そして、薄暗いリビングに入ると、カタカタとタイピングする音が聞こえて来た。


 パチンと灯りを付けると、そこには猫背の女性がヘッドホンをしてパソコンに向き合っていた。


 リビングに天音が入っても女性は反応せず、ずっとカタカタと文字を入力し続けている。


「あの、百々目さん? 今からご飯作りますね」


 そう告げると、女性である百々目詩心は片手を振り、好きにしろと告げて来る。


 天音は黙って食事の準備を始める。


 どうして百々目がここにいるのかというと、祝勝会の次の日に遡る。

 サクラが言っていた、トップクラスの探索者による指導。それを実行する為に、強制的に送られて来たのである。

 当然、最初は拒否したが、


「これで帰ったら、書籍化を取り止めるって言われてるから、扉を破壊してでも入るよ」


 殺気マシマシで言われて抵抗出来るはずもなく、仕方なく受け入れたのである。

 一応、ダメ元で助けを求めて師匠に連絡するのだが、


『好きなようにしろと伝えている。存分に鍛えてもらえ』


 やっぱりダメだった。

 それどころか、好きにしろってどういう事なのかと苦情を言いたかった。


 本当、この人達には良い思い出がないな。


 そう思いながら、出来上がった食事をテーブルに並べて行く。

 夕飯が出来たと伝えると、今度はスマホで動画を見ながらやって来た。

 もそもそと食べる姿は、まるで中年親父のようで女性らしさがカケラも無い。


 百々目はバツイチというのは聞いた事があるのだが、恐らくこれが原因だろうと予想している。


「食事終わったらやるから、余り食べ過ぎないようにね」


「……はい」


 食事も終わり、食器を片付けると百々目と向かい合う。


「じゃあ手を出して」


「はい」


 百々目の訓練内容は、ダンジョンではなく室内で行われる。

 やる事は一つだけ。


「っんっくっ⁉︎⁉︎」


 魔力の操作である。


 全身を針が突き刺すような感覚に襲われる。

 繋がっている手から魔力が流され、その流れに追いつくように魔力を操る。

 言うのは簡単だが、これが想像以上に難しい。


 天音の魔力操作能力は、決して拙い物ではない。

 マジカルプリンセス♡キングダムを見ての訓練と、ユニークモンスターとの戦いを経験により格段に向上している。

 それこそ、熟練の探索者を凌ぐ技量であり、複数の魔法を同時に使うことも出来る。


 その天音が、まったく追い付けない。

 それだけ、百々目の技術が異次元の領域にあるという証明である。


「うっ⁉︎」


 繋いだ手を離して、トイレに直行する。

 そこで、夕飯に食べた物を全て吐き出し、体の倦怠感が治るまで突っ伏してしまう。


「落ち着いたら戻って来てね、まだまだ課題は多いから」


「……はい」


 師匠に聞いた話を思い出す。


 百々目は才能だけで、五指に数えられるほどの探索者になったと。

 身体能力は決して高くはなく、武器を使った戦闘も苦手だが、こと魔力操作に関しては世界でもトップクラスなのだという。


 戦闘スタイルも己が出るのではなく、百々目が操る目玉型ゴーレムを使ったものだ。

 百体のゴーレムを同時に操り、敵を殲滅する。

 熟練の探索者が複数の魔法を同時に使うのに対して、百々目は百を越える魔法を同時に使う。


 はっきり言って、規格外の探索者である。


 それほどの探索者に鍛えてもらえるなど、滅多にない貴重な経験だ。


 だが、これを毎日続けてるのは流石に、


「心が折れそうだな……」


 命の危険はなくても、拷問に近い訓練に逃げ出したくなった。

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― 新着の感想 ―
うわ榊原がキモいキモいキモいキモいキモい!! こんなのがヒロイン枠だなんて嘘だろう?!
こんなに気持ちの悪いヒロインがいるか!
>メッセージは百件を越えており ヤンデレ?っていうか こいつやばい奴ですね。彼女でもないのに・・・
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