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 耳鳴りがする。

 視界が霞んでよく見えない。

 上に乗った土をどかして立ち上がるが、足元がふらふらとおぼつかず倒れそうになってしまう。


 回復魔法を自分に使い、視界と音を取り戻していく。


「ああ……そんな……」


 辺りを見渡せば、爆発により大地が捲れ上がっており、中心地に至っては赤熱していた。

 探索者も無事ではなく、一番近くにいたであろう探索者は髪の毛一本として残っていなかった。


 空中に浮かぶ空クラゲは大量の魔力を放出しており、何度か鼓動すると元のクラゲの姿に戻ってしまった。

 それでも、多少は消耗しているのか、その動きは鈍くなっているように見える。


 勘違いしていた。

 ユニークモンスターは強力でも、その気になれば時間くらい稼げるのだと。

 これだけの探索者が揃えば、ユニークモンスターを翻弄出来るのだと勘違いをしていた。


 このユニークモンスターは、天音達を敵と認識していなかったのだ。

 精々、邪魔だから排除しようというつもりで攻撃していたのだろう。


 その気になれば今の爆発で、天音達をあっさりと蒸発させられたはずだ。


「……天音、無事か?」


「はい……」


 声を掛けられ振り向くと、頭から血を流したハクロが気を失った花見を担いでいた。

 周囲を見渡せば、まだ多くの探索者が生き残っているが、既に戦意は残されていなかった。


 気付いたのだろう、ユニークモンスターはいつでも自分達を殺せたのだと。


「……ハクロさん、皆さんの避難をお願いします」


「何を言っている?」


 天音の突然の発言に訝しむ。

 避難したところで、あのユニークモンスターが地上に出れば、何もかもが台無しになるのだ。


「ここからは、僕がやります」


「馬鹿を言うな、残った奴らで再び引き付けるんだ。応援も直に来るはずだ……」


「それこそ無茶です。もう、皆さんは碌に動けなくなっています。それに、応援が来るとは思えません。お願いします。僕にやらせて下さい」


 チャンスはここしかなかった。

 大爆発を巻き起こし、多少消耗しているユニークモンスターに仕掛けるにはここしかなかった。

 時間を稼ぐ手法がもう使えない以上、覚悟を決めるしかなかった。

 空クラゲを地上に出せば、その被害は計り知れない。あの爆発は、一発で街が壊滅するレベルだ。


 絶対に阻止しなくてはならない。


「……勝算はあるのか?」


「はい」


「逃げるという選択肢は?」


「ありません。ここでやらないと、何もかもが台無しになるんです」


「街を放棄する選択だってあるんだぞ、生き延びてから復興すれば……」


「それこそ出来ません」


「何故だ?」


「明日、文化祭なんですよ。僕、楽しみにしてたんです。だから、中止になるような事にはなってほしくないんです」


「……スゲー下らないな」


「むっ、僕にとっては大事なんですよ」


「そうか、まあ、探索者が命を掛ける理由なんてそんなもんだな」


 呆れた顔のハクロは頷いて了承を示す。


「分かった、避難させよう。ただな、お前も必ず生き延びろよ」


「ありがとうございます。死にませんよ、文化祭には行きたいですからね」


 天音はポーションを飲み干すと、鉈を手に取り準備を始める。

 ふよふよと浮かぶ空クラゲは、地上に向けて移動を再開していた。


 追いつくのは難しくない。

 空クラゲの攻撃手段も把握した。

 どの程度の攻撃が通用するのかも理解した。

 その上で、天音の使える手段でも十分に倒せると判断した。


 ハクロが皆を引き連れて離れていく。

 これだけ距離があれば、再び大爆発が巻き起こっても無事に生き延びられるだろう。


 天音は空クラゲの討伐に動き出した。





 天音の戦闘スタイルは、その素早さを活かした攻撃にある。

 集団で動くパーティでは上手く活用できず、やっても斥候で使うくらいだろう。それも、高い戦闘能力を備えた天音なら直接攻撃した方が早く、仮に攻撃されても一人なら避ければ良い。


 最大限に天音のポテンシャルを引き出すには、仲間という存在は不要だった。

 

 それに、キュクロプスのように天音の動きに適応できる存在はとことん苦手だが、この空クラゲとの相性は悪くはない。


 天音の接近に気付いた空クラゲは、水の魔法を使い攻撃を仕掛けて来る。また同じような雨の魔法だが、それはリセット魔法で対処可能だ。


 爆発が巻き起こり、余波の衝撃が襲って来るが気にする必要はない。


 空クラゲは雨では撃退出来ないと理解したのか、次は雷撃を放つ。しかしその魔法は正面から、しかもタイミングが分かる魔法など脅威ではない。

 更にスピードを上げて放たれると同時に、魔法を回避した。

 間断なく連続して放たれても、風を纏った天音は空中でも軌道を変えて避け疾走する。


 魔法が止むと、次は多くの触手が動き出す。

 前は束ねた触手による横薙ぎだったが、今回は一つ一つが独立して動き出し、数百万の触手が天音を飲み込まんと動き出していた。


 これは避けきれない。


 そう判断した天音は鉈を納め、腰から魔法剣(笑)を引き抜いた。

 今回の作戦で、天音がギルドに要求した物は魔法剣(笑)だった。もう製造はしていなかったが、それでも十本も周辺の店で集めて来てくれた。

 遠方から取り寄せればまだあるのだろうが、そんな時間はなかった。


「インフェルノ」


 黒炎の剣が魔法剣(笑)から伸びて、一振りで無数の触手を切り落とし燃やしてしまう。

 一振り二振りと続いて邪魔な触手を排除するが、五回目で魔法剣(笑)の機能は停止してしまった。


 あと十二本。


 天音が購入していた物も合わせた残りの本数である。

 多いように思えて、心許ない数。もっと魔法を調整出来れば良いのだが、その練度はまだ天音には備わっていなかった。


 七本目八本目と次々と消費して迫る触手を落としていくが、まるで数が減った気配がない。

 それも当然だろう、元の数が万を越えており今もなお増え続けているのだから。


 埒が開かない。


 纏まった触手ならば回避すればいい。分散した触手ならば薙ぎ払えばいい。そう思い攻勢に出たが、そう上手くはいかない。

 だから、全てを焼き払うしかなかった。

 使えなくなった魔法剣(笑)を捨て、魔法を発動する。


 調整は効かない。

 魔力を大幅に減らしてしまうが仕方ない。


「獄炎インフェルノ」


 黒い炎が吹き出す。

 全てを焼き尽くすその炎は、即座に燃え広がり全ての触手に広がっていく。


「GYAaaaーーー⁉︎⁉︎⁉︎」


 これには強烈な痛みを感じたのか、空クラゲから甲高い悲鳴が上がる。

 そして、天音も……。


「くっ⁉︎」


 服の一部が燃え、広がる前に上着を脱ぎ捨てる。

 魔法を解除しようにも制御が効かず逃げるしかない。

 しかも、空クラゲは燃えた触手を切り捨て、新たな触手を既に生やしていた。


 切り捨てられた触手が落下する。

 黒い炎に焼かれたそれは、天音の上にも降り注いで来ており、今の状態で避けきるのは至難の業だった。


 だからこそ、ぶっつけ本番の技を出す。


「ーーアクセル!!」


 素早さのギアを一段階引き上げる。

 マジカルプリンセス♡キングダムを穴が空くほど見直して、天音自身が自分に合った技を構築したのだ。

 しかし、未だ完成とは言えず。その反動がどれほどの物になるか、想像も付かなかった。


 全てがスローに見える中で、天音は動き出す。


 音を置き去りにした速度に、空クラゲは天音の姿を見失う。

 そして、天音の居場所が判明したとき、空クラゲの体には黒い炎の剣が突き刺さっていた。


「GYeeeーーー⁉︎⁉︎」


 本体にダメージを受け、今一度全てを吹き飛ばさんと触手を体の中に納めていく。

 だがその間にも、黒い炎が走り空クラゲの体を燃やしていた。


 天音は焦っていた。

 ぶっつけ本番の技は消耗が激しく、止まればその時点で動けなくなると気付いたからだ。

 肉体への負担が大きく、並行して回復魔法を使っているのに間に合っていない。


「ーーーーっかはっ⁉︎」


 血反吐が口から溢れ出し、呼吸もままならない。

 だが、それでも止まるわけにはいかない。

 空クラゲが爆発しようとしているのだ。その前に、何としても仕留めなければならない。


 黒炎に焼かれても燃え広がらないのは、それだけ本体の魔力耐性が高く頑丈な証しだ。


 魔法剣(笑)も残り二本。


 その内の一本を使い、許される最大限の火力で空クラゲの肉体を切り開く。

 一振りで駄目になった魔法剣(笑)を捨て、残りの一本でその傷口を広げる。


 そして姿を現したのは、空クラゲの目玉のような物。

 纏う魔力から、これがこのモンスターの核だと直感的に理解した。


 鉈を引き抜き、落下するように飛び込む。

 そして核に刃を突き立てると、全てを吹き飛ばすような爆発に巻き込まれ、天音は意識を失った。

明日6時と18時に投稿して終わりです。

本編は6時のもので最後となります。

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