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運命なんて知らない  作者: なかた
41/51

兄弟

よく考えた。寝ないで考えた。

最初から最後まで間違っていると思う。

やっぱり霜が1番で他の人なんてどうでもいい。

傲慢だし、自分勝手で本当にクズで最低な人間だ。

霜が幸せになれるなら、なんでもいい。

僕といるより、先生といた方がいい。

運命の番で霜を大事にしてくれる。

霜を守って幸せにできる力もある。


コンコン__。


「どうぞ」

「おはようございます。体調はどうですか?」

発情期(ヒート)じゃないのに、僕のフェロモン値は戻らないから、相変わらず九条先生が担当している。

「元気です。いつ退院出来ますか?」

「まずは、検温とフェロモン値の測定してからです。結果はまた後で言いに行きますね」

フェロモン値の測定は綿棒を口に入れて唾液で測る。

「口開けてください。あー」

口を開け、上顎を擦られる。

「ふっ...はぁっ...」

いつもくすぐったくて声が出てしまう。

「口もっと大きく開けて下さい」

「......くすぐったくて」

「しょうがないですね。失礼します」

「ちょっ、え、あ」

顎を掴まれ、半ば強引に開けられる。

「ちょっと!何してるんですか」

「しょお、きょうはやいね」

「雪、大丈夫?」

「雪さんが口を開けてられないので少し押さえてただけです」

「くすぐったくて閉じちゃうんだよね」

「もう、終わったので安心してください。それに患者に手を出すなんてことしません」

「結果はいつでますか?」

「3時間後くらいですかね。低くなってるといいですね」

「はい!ありがとうございます」

「それでは」

「...」

「先輩と話さなくていいの?」

先輩と話すから遅れるって言ってたのに。

「いい。後で話す」

「そう?僕待ってるから話してきていいよ?」

「大丈夫だよ」

そう言って僕の頭を撫でる。

これじゃあ、僕の方が弟みたいだ。

「霜、僕さやっぱり...」

「聞いてあげない。番のことでしょ?絶対に聞いてあげない」

「でも、大事な話だからちゃんと聞いて欲しい」

「そんな顔しても聞いてあげない」

「いじわる」

話さないといけないのに。

話せば、霜を自由に出来るのに。

「ごめん。でも、聞いたらダメな気がする。俺の我儘」

「霜の我儘久しぶりに聞いた。もっと言っていいんだよ」

「後々困るのは雪だよ」

「今ならなんでも聞いてあげるよ」

離れるまでなんでも聞いてあげたい。

僕に出来ることなんかそれくらいだから。

「じゃあ、ずっと一緒にいてよ」

「...そういうのは無し。どこ一緒に行くとか、欲しいもの買ってあげるとか...」

「なんでもって言った」

「...」

僕もずっと側にいたかった。

でも、一緒にはいれないんだよ。

「ごめん...困らせた。俺たち、ただの兄弟ってだけだしね」

「霜、ごめんね。僕、やっぱり退院したら番を探そうと思う」

「俺は認めない。俺のこと捨ててまで番が欲しいの」

「うん」

「本当に?」

「うん」

気づいたら手が痛くて、力いっぱい握ったせいで爪が食い込んでいた。

霜は僕の手を取り、手についた爪の跡を見ている。

「もう、いいよ」

「...?何がもういいの?」

「兄さんはそれでいいんだね。苦しくならない?」

「...うん。大丈夫だよ」

その時、初めて霜の顔をしっかり見た。

泣きそうな顔。

なんだか懐かしい。

小さい頃に見た気がするそんな表情。

あぁ、あれだ。

霜が風邪ひいて、僕だけ保育園に行くことになった時だ。

泣かないように目を細めて、首を傾げる。

辛い時に見せる表情。

「なんで、そんな顔するの」

「分からない」

頭を撫でてあげようとしたけど、点滴が引っかかって届かなかった。

行き場の失った手を霜の顔に寄せ、頭の代わりに頬を撫でる。

「おいで」

そう言ってベットの縁を叩く。

いつもは子供扱いしないでとか、何か言うのに今日は何も言わなかった。

「霜、僕の幸せは霜が幸せになることだよ」

僕より少し高い位置にある頭を撫で、背中に手を回す。

「俺の幸せは雪とずっと...」

「今はそうでも、いつか後悔する時が来るかもしれない」

「後悔なんて」

「これから先の方が長いんだから」

「雪」

「うん」

久しぶりに抱きしめた霜はいつもより頼りなくて、なんだか小さいような気がした。

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