誰でもいいから
喉が渇いた。
頭が痛い。
ゆっくり目を覚ますと見慣れない天井。
真っ白なベット。
いつもと全てが違う。
ゆっくり体を起こし辺りを見回す。
病院?
なんで病院なんかにいるんだろう。
昨日は何してたっけ?
三佳巳さんと一緒に母さんのお見舞いに行って。
お母さんだと思ってた人は霜のお母さんで僕たちは双子じゃなくて。
その後、霜の運命の番に会ってそれから三佳巳さんと公園で煙草吸って家に帰って霜を待ってたとこだったはず。
トイレに行きたい。
ひとまず、起き上がって手に繋がれているチューブと一緒に廊下に出る。
トイレは思ったより近くにあり、さっさと済ませて手を洗う。
「霜くんのお兄さん?」
「え、あぁ。どうも」
「入院してたんですか?」
「起きたらこの状態で。とりあえずトイレに行こうと」
「何してるんですか!?起きたらナースコールで呼べば良いじゃないですか!早く部屋に戻りますよ。起きたばっかりで歩き回る患者なんて見たことない」
不味かったのか。確かにそうするべきだ。
「何号室ですか」
「すぐそこ」
ゆっくり手を引かれて病室に戻る。
ベットに入るように促され、大人しく入る。
「ね、水欲しい」
「担当医が来るまで待ってください」
「...」
喉がカラカラなのに。
「昨日は元気そうだったじゃないですか。何があったんです?」
「知らない。起きたら此処だったって言ってる」
「...もしかして、昨日の夜に突発性ヒートで運ばれたのはあなたですね。抑制剤を飲んでいたのに番なしのαはラットになっていたと同僚から聞きました」
「そうなのかも。でも大丈夫だよ。今はすっごい元気だから退院できるよ」
「出来ないです。突発性ヒートになったら最低でも1日は入院です。フェロモンが低くなるまで退院出来ません。Ωは繊細なんです。それをΩが理解しないと体を壊しますよ」
「自分のことは自分が一番分かってる」
「分かってないから、煙草なんて吸うんでしょう」
「それは関係ないでしょ」
「とにかく禁煙は絶対。飲酒も控えて」
霜に会いたい。
霜に会って話さないといけないのに。
「雪くん!起きましたか!よかった!」
いつも薬をくれる先生が来てくれた。
「先生。僕、昨日こと覚えてなくて」
「突発性ヒートで運ばれたんですよ。多分、原因はストレスだね」
「ストレス...」
「3日は入院ね。フェロモンがまだ不安定だから、安定剤を後で打ちにくるよ」
「先輩、雪さん煙草吸っているのですが」
「え!?どういうこと?」
「いや、」
「煙草吸ってるなら言わないと!抑制剤の調合変えないといけないから!」
「......ごめんなさい」
「フェロモンが安定するまで煙草は吸わないこと!」
「はい」
「九条くん。もうちょっと雪くんのこと見てもらっていい?検査の指示出してくる」
「分かりました」
二人きりは気まずい。
行かないで。
そう思って先生を見つめたが、伝わらず部屋から出て行ってしまった。
「水でしたっけ。どうぞこれ」
「...ありがとうございます」
「ストレスって言ってたけど何かあるんですか」
「ないです。強いて言えば煙草が吸えないこと」
「...そうですか。でも、煙草はダメです。それと無闇に歩き回らないでください。いつヒートになってもおかしくないですから」
「はいはい」
熱を測られ、血圧なども測られた。
「霜は大丈夫なんですか」
「知りません。そんなに親密な仲じゃないので。面会できる時間になったらきっと来てくれますよ」
「そうですか」
「安心した顔。聞いていた通り分かりやすい」
「霜がいないのとか想像出来なくて、弟離れできなくて困ってます」
「きっと霜くんも同じですよ」
「分かったように言わないで。先生に言われるとなんかやだ」
俺も霜のこと理解してますみたいな感じですごく嫌だ。
「ヤキモチですか。安心してください。取るつもりはないです。霜くんが来てくれたら別ですけど」
「僕にも運命の番がいればよかったのに」
「運命でも番えないことだってありますよ」
「それは自分たちの事?僕だったら何も考えずに側にいっちゃうのに」
「それは良くないです。悪い人に騙されないようにしてくださいね。霜くんが心配します」
「悪い人でも運命だったら、好きになれちゃうんでしょ?早く運命に会いたい」
「そんな事ないです。現に霜くんと僕は両思いではありませんし」
「分かんないじゃん。僕がいるせいで霜は先生を選ばないだけで、好きかもしれないよ」
「そうだったらよかったんですけど」
「早く番作って、霜を自由にしてあげないと」




