きみのにおい
煙草を吸いたい。
我慢するつもりだったのに。
いつのまにか匂いを隠すために吸っていた煙草は何の意味もなく吸うようになってしまった。
しかも、煙草はフェロモンを隠せてないらしい。煙草なんて吸うもんじゃなかった。
「いつものコンビニの近くの公園に行くつもりなんですけど、時間大丈夫ですか」
「うん。今日は一日中何もないから。でも、雨降ってるのに公園?」
「いつも、そこで吸うんです」
「雨の日に吸うと不味いって聞くけど」
「僕は嫌いじゃないですけど。いつもとそんなに変わりませんよ」
「そうなんだ」
公園に着き、東屋に入って傘を閉じた。
「そういえば、三佳巳さん。霜に煙草のこと言ったんですか」
「あー、うん。でも、霜くん知ってたみたいだったから」
「言わないでって言ったのに。霜と喧嘩した時に煙草の話されて、三佳巳さんには言うのに俺には言わないんだって言われて」
「それはごめん」
「まあ、良いんですけど。霜にバレちゃったから禁煙しようと思ってたのに」
「吸いたいんだ?そういえば、雪くんは何吸ってるの?」
煙草を咥え、火をつける。
「ピースライトです」
「確か、甘い感じのやつだよね」
「はい。メンソールもいいですけど、こっちの方が好きです」
「へー。一本くれない?」
「煙草は嫌いなんじゃないですか」
「たまには吸ってみようと思って。雪くんおすすめでしょ」
「いいですよ。ライターもどうぞ」
「ありがとう」
煙草一本とライターを渡し、煙を吐き出した。
火をつけようとしてるだけで様になる。
「似合いますね。羨ましい」
「本当?火つけるのってこんな難しかったっけ。全然つかないや」
「ライター終わっちゃってるかもしれないです」
「本当だ。ちょっとしかない」
「三佳巳さん。こっちに寄ってください」
「え?うん」
「すみません。動かないでくださいね」
三佳巳さんって背が高いんだな。
これじゃ、背伸びをしなきゃ届かない。
爪先立ちで煙草を近づける。
「三佳巳さん。吸って」
「あ、うん」
三佳巳さんが咥えてる煙草に先端くっつけて、三佳巳さんが吸うのと同時に一緒に吸う。灰が赤くなって、煙草から煙が上がる。
「つきました」
「ゲホッ!」
「やっぱり、最初は咽せちゃいますよね」
「色んな意味で咽せたよ。でも、僕が吸った煙草よりずっといいね」
「それは良かった。あれ、三佳巳さん。寒かったですか」
「え?別に寒くはないけど。どうして?」
「顔が赤くなってるから」
「やっぱり、寒いかもしれない。ほら、雨がみぞれになってるし」
「本当だ。降ってるの見ると余計寒くなりますよね」
「ね。明日の朝、道混むだろうな。早く出ないと」
「三佳巳さん。本当に似合いますね。煙草」
「吸い始めようかな」
「ダメですよ。体に悪い」
「それは雪くんも同じだけど」
「ダメです。三佳巳さんは理由もなく始めるほどいいものじゃないですよ」
「雪くんは理由あるの?」
「強いて言えば、フェロモン隠しですかね。でも、最近は意味もなく吸ってますけど」
「そっか。でも、程々にしてね。霜くんが心配するよ」
「そうですね。やっぱりやめないと」
「まあ、辞めなくてもいいけど吸う本数減らして吸えばいいんじゃない。悪くない匂いだし」
「気に入ってくれたみたいで嬉しいです。また吸いたかったら言ってください。1日1本限定であげます」
「ありがとう。雪くん、なんか悩んでる?」
「分かっちゃいますか?」
「うん。ずっと泣きそうな顔してる。話さなくてもいいけけどさ、そんな顔しないでよ」
「三佳巳さん。また、付き合ってくれる?」
「喜んで。その代わり煙草はその時だけにして」
「うん。三佳巳さん、ありがとうね」
帰ったら、霜に話そう。
霜のお母さんから聞いた事も煙草のことも、全部話そう。
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