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運命なんて知らない  作者: なかた
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今日は三佳巳さんと一緒に母さんのお見舞いに行く予定だ。

僕にしか出来ないという話もしてくれるらしい。だから、霜は留守番。

病院はそんなに遠くなくて電車ですぐだ。

三佳巳さんとはいつものコンビニで待ち合わせして駅に一緒に行く。

僕の方が先に着いたみたいで、コンビニの前で待っている。

時間より早く着きすぎてしまった。

このコンビニではいつも煙草を買っている。今日はポケットに入っているから買う必要はないな。

ライターを出したけど、今日はお見舞いに行くし辞めとくか。

つけかけた火を消してポケットにしまった。

「吸わないの?」

「今日はさすがにやめようと思って」

「これあげるよ。昔、買うだけ買って使わなかったやつだけど」

「ライター?かっこいいですね」

「キックスタート式のやつで、このレバーを下げると火がつくんだ。消火はこの蓋を下げないといけないんだけど」

「わあ。めっちゃ気に入りました。いいんですか?」

「僕はもう使わないからね。オイル入れるのとか面倒かもだけどそれでもよければ」

確か、一本で断念したんだっけ。

吸えるかも分からないのに高そうなライター買うなんて三佳巳さんは形から入るタイプなのかな。

三佳巳さんの家にすごい綺麗な卓上ライターとかあったし、やっぱりこだわってるんだな。

「大事に使いますね」

「うん。じゃあ、そろそろ行こうか」

「はい」

電車に乗って少し歩いたら、病院が見えた。大きな総合病院だ。

受付に行って、面会許可証を首にかけ病室に行く。

途中で買ったりんごが入った袋を持ってノックしてドアを開ける。

「失礼します」

「いらっしゃい」

前より少し痩せたように見える。やっぱり大変だったのかな。

「体調はどうですか?」

「ええ。もう大丈夫よ」

大丈夫なんだ。早く良くなるといいな。

「よかったです。これりんごです。よかったら食べてください」

「まあ、ありがとう。」

「じゃあ、僕はそろそろ」

「三佳巳様、ありがとうございます」

「気にしないでください」

三佳巳さんが外に出てしまった。

2人きりだと緊張するな。

「お見舞いに来てくれてありがとう。ごめんなさいね。話すのがおそくなってしまって」

「いえ、気にしないでください。そんなことより体の方が大事です」

「ありがとう。あのね、来てもらってこんなこと言うのも何だけどあなた達の関係が変わってしまうかもしれない。それでも聞きますか。」

関係が変わる?

どういうことだろう。でも大丈夫な気がする。

生まれる前のことより、霜と過ごしてきた時間の方が大事で生まれる前の話なんて関係ないと思うから。

何かが変わってしまってもいい。

大事なことは変わらないはずだから。

「はい。大丈夫です。全部、話してください」

「じゃあ、順を追って話します」


中学生の時に私がΩだと分かってから、家は大騒ぎだった。両親はβ同士で母の浮気が分かってしまった。

母は父を愛していたと言っていた。浮気は雰囲気に流されてしまったからとか言い訳をしていた。

母と一緒に家を追い出されて母は風俗で働き始め何とか生計を立ててるような状態だった。

母は私を働かせるようなことはしなかったけど、お店に来たαの社長とかお金持ちのαに紹介されることがあった。高校を卒業した後は働こうと思ったけど、Ωで働ける所は昔は少なかった。

仕事を一週間も休んでしまうし、問題が起こってしまったら損害が出てしまう。偏見もあったから働く場所がなかった。でも、お金は必要で私も母と同じように水商売を始めた。

Ωだったから、必要としてくれるお店はたくさんあった。私が働いていたのは会員制の所でものすごく酷い目に遭うことはなかったけど、辛かった。

会員の人たちは有名企業の社長だとか政治家だとか地位が高い人しかいなかった。

お店もその人達を接客するために、言葉遣いとか動作の教育をしっかりしていて、大変だったのを覚えてる。

ある日、新しい人が常連さんと来た。

このお店に若い人が来るのは珍しかった。

お店に来る人は大体40歳以上だったから。

その人が櫻田川家、現当主の弟。

その人は初めて来た時から、変わらず優しい。

優しかったけど怖かった。

お店が終わった後、彼の家に行った。その月に一番お金を使ってくれた人にはサービスをしないといけない。

そういう決まりだった。

彼の家の離れでお酒を飲んで話をしただけだった。

サービスはそういうことをしたがるお客様が多かったから意外だった。

彼は自分の部屋に戻って、私は離れに泊まることになった。

次の日の朝、いきなりお店から電話が来てクビになってしまった。

お金はあるけど、一生暮らせるほどのお金は持ってない。途方に暮れていたところ、彼は離れに来た。

私は慌てていて彼に全てを話した。

彼はここに住めばいいと私を抱きしめた。

今、思えば彼の策略に嵌ってしまったことが分かる。

でも、昔の私は優しい人で片付けてしまった。

彼はここに住むにあたって条件があると言った。


「俺を愛すること。そうしたら全部あげる」


愛し方なんて知らなかった。

だけど、私が彼のために何かするだけで喜んだ。

愛してると言えば、幸せそうに微笑んでくれた。

一年くらい経った頃、指輪をくれた。

彼は薬指にそれをはめた後、項を噛んだ。

彼と私は番になった。

でも、彼には奥さんがいた。私はそれを何年も知らずに彼と一緒にいた。

時が経って、子供が出来た。その時、彼は1年の海外出張で話すことができなかった。

病院の定期検診があった日、初めて奥さんがいることを知った。家から出る時はいつも彼が一緒だったけど、最近は1人で出ていた。その時に櫻田川家に使えてる方が愛人の分際で敷地内に入るなんてと言った。

私は妊娠したことがバレてはいけないと思い必死に隠した。元々離れに住んでいたからバレることはなかった。

離れで少しだけ赤ちゃんと暮らした。

名前は冬に生まれたのと、彼の名前からつけた。

幸せだった。あの時、何が何でも守るって決めた。

可愛いくて愛おしかった。

でも、ある日、奥さんに子供の存在がバレてしまった。

次の日はちみつの瓶がドアの前に置かれていた。

はちみつは赤ちゃんが食べると危険だったから、その時は怖かった。

孤児院に連れてこうと決めたのは窓に石を投げ込まれた時だった。近くには赤ちゃんのベッドがあってこのままではいけないと思った。

いつか殺されてしまう。危険から守るためにはどうしようもなかった。

孤児院に連れて行こうとした日は寒くて息が白かった。

その途中で赤ちゃんを抱いて泣いている女性にあった。

心配になってハンカチを貸したら、少し笑ってお礼を言った。

彼女は泣きながら話してくれた。

自分が一年も生きられないこと。頼れる人も親もいないこと。

彼女は赤ちゃんの手を何度も握っていた。

孤児院に近くたび彼女の歩幅は小さくなって速度も遅くなっていった。

彼女は孤児院に着く前に赤ちゃんの名前を教えてくれた。



           雪。



純粋に育って欲しいという意味でつけたと言っていた。

彼女は最後まで別れを惜しんで泣いていた。

最後に愛してると言って彼女は涙を拭って歩いていった。振り返らないように白い息を振り切るように早足で彼女は姿を消した。


少しでも、面白いと思っていただけたら、いいねやブックマークよろしくお願いします。

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