プロローグ
暖かい日が増えてきた頃、僕たちは2人でそこにいた。
聞いた話によるとその日は春の初めなのに、珍しく霜が降り、夜には雪が舞っていたそうだ。その日の一番暖かい昼の時間にチャイムが鳴り、外に出ると赤ちゃんだった僕たちと名前が書いてある2枚の小さな紙切れが取り残されていた。雪と霜。
それから僕たちはずっと一緒にいた。起きて、ご飯を食べて、遊んで、寝る、全てを共有していた。小さな僕たはずっと一緒で一緒にいることが当たり前。だって僕たちは双子で唯一の家族だ。
月日がたち桜が咲き始めた頃、僕は初めて弟の霜と離れた。初めてクラスが離れてしまった。関わりがない子たちの中に1人残され、今までにない不安を感じた。新学期の時に行う検査が終わり、緊張が漂う雰囲気からやっと解放され、帰宅しようとしたところに霜がいた。
僕がその姿を見てどれだけ安心したのかきっと霜は知らない。僕は行ったばかりのバース性検査の事など頭から消えてしまうくらいには落ち着いていた。
「霜は2組だっけ?」
「うん、今のところは」
「今のところはってどういうこと?」
霜が言うにはバース性検査の時、バース性が考慮されたクラス分けになるそうだ。
「全然、話聞いてなかったみたいだね。緊張し過ぎ!」
「だって、霜と離れたことなんてないから」
「まあ、俺も緊張したけどそこまでではなかったよ。どっちかと言うとバース性検査の方が緊張したかも」
「バース性は確かに気になるけど、たぶんβだと思うから大丈夫かな。」
「雪がβなら、俺も同じかな。双子だし」
「たぶん、一緒だよ。まあ、本当に双子なのかは謎だけど」
顔立ちは似ているけど、そっくりそのままというわけではない。双子なのかそうじゃないのか微妙にわからないのだ。
「双子です。とか書いといてくれればいいのにね」
「どっちにしろ今と変わんないでしょ?」
「それはそうだけど、気になるじゃん。どっちが先に生まれたのか」
「またそんなこと気にして」
「雪が先ってことになってるけどさ、雪が降るより先に霜が降りるじゃん。だから、本当は俺が先に生まれてると思うんだよね」
「そうだけど、ちょっとしか変わらないんだから」
「どっちも冬の季語だけど、夏に生まれてる可能性もあるんだよねー」
「親が冬が好きってだけかもしれないしね」
「ねー。誕生日も書いて欲しかった。」
「確かに、それはちょっと気になるかも!」
「親のバース性が分かれば、俺たちも予想出来るのに」
僕らは親の名前も、顔も、何も知らない。
孤児院に預けた理由も知らない。
顔も見たこともない人を恨んでもどうしようもうないし、寂しいとかも分からなかった。
霜がいたのもあるけど、それが当たり前だった。
「ちょっと心配だけど、結果を見てから考えよう」
「結果通知は一週間以内に家に送られてくるんだよね」
学校によって違うが最近はバース性の差別やいじめ防止
のため、学校で結果が配布されることは少なくなっている。昔はΩへの差別が酷く、Ωということを隠す人が大半だった。今では差別などが問題となり、表立って差別をする人は少ないがそれでも偏見や差別はなくならない。
Ωを差別してるわけじゃないけど、Ωにはなりたくないと思ってしまう。
「ねぇ、雪は運命の番って信じる?」
αとΩにしか分からない運命。
「聞いたことはあるけど、迷信だと思う」
「そっかー」
「霜は?」
「信じてないよ」
「聞いてきたくせに信じてないって」
「だって雪そういうの好きでしょ?」
「は?そんなこと一言も言ったことないけど」
確かに、そういうドラマはよく見るけど、好きだなんて言ったことはないはず。
「恥ずかしがってるのバレバレ、耳が真っ赤だよ。わかりやすいね」
「好きじゃないって」
赤くなってしまった耳はどうすることもできない。
僕の耳は恥ずかしかったり照れるとと赤くなってしまうようだ。霜に言われて初めて知ったが、赤くなるのはどうしようもない。
「別に好きでもいいと思うけど俺に隠す必要ないじゃん?だってバレてるんだし」
「分かってるなら、何で聞いたの!?」
「話の流れで?」
「ふーん、嘘つき。なんか言いたい事あるんじゃないの?」
霜はいつも何か言いたいことがあると、目線が下にいく。
「何もないよ」
そう言いながら、少し伸びた前髪を指にかけて捻っている。
また嘘をついた。
嘘をつく時、霜は髪の毛を捻る。
霜は僕のことをすぐ見抜いて楽しんでるけど、僕だって霜の癖知ってるのに。物心つく前から一緒にいたんだ。
僕だってそれくらいは分かるよ。
霜が気にしていたバース性の結果は思ったより早く届いた。封筒が届いた時、施設内に緊張が走った。
正直なところバース性は今後の生活を大きく変える。
もし、β以外だったら、不安と期待に緊張するなか封筒を開ける。恐る恐る紙を引っ張り出す。
2次性別 Ω
頭の中が真っ白になる。
何も考えられないまま霜を見た。
いつもと変わらない表情のまま結果を見ていた。
見間違いだったら、そんな淡い期待をしてもう一度結果にを見る。
淡い期待も裏切られ、結果はさっきと変わらなかった。
Ωだということが理解出来てきた僕は不安で胸がいっぱいになった。
気づいたら霜を見つめていた。
霜はそれに気づき僕の手を握った。
「霜は何だった?」
そういう僕の声は酷く震えていた。
「Ωだよ」
霜はあっさりと言った。
それから僕の手を握り返し聞いた。
「兄さんは?」
初めて霜が僕を兄と呼んだ。
霜の表情を読み取ることはできなかったが、僕の答えを待っている。
ゆっくり、呼吸をし真っ白になった頭を霜の胸に埋めてて掠れた声で言った。
「Ωだった」
霜は僕の手を強く握って言った。
「一緒だね」
そういった霜の顔を今までも鮮明に覚えている。
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