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2.まずは村の一周から

 邪竜を倒して四日。邪竜との戦いでボロボロになっていた体は回復したのか、段々と動かせるようになってきた。今は掃除をしたり、お皿を洗ったりと子供のお手伝いレベルだが家の事をやり初めている。


「ルシェ。一緒にお出かけしませんか?」


 居間にあるソファーに座っているとヒャクに声をかけられた。一緒にお出かけ? 今日のご飯を採りに行くのかな? まだ完全じゃないけど。ゴブリンくらいならいけるだろう。ゴブリンは食べた事がないけど、ヒャクならきっと美味しく調理してくれる。よし! 問題なし!


「はい。何を採りにいきますか?」


 ソファーから立ち上がると、そのままヒャクに尋ねた。

 ヒャクは私の言葉に子供に笑いかけるようにくすくすと笑った。あれ? 違った。


「冒険はまだ早いですよ。まずは僕とお散歩です。体を動かした方が早く回復しますし、少しずつ体を動かしていきましょうね」


 少しずつ。そっか。リハビリか。確かにここ数日は全然体を動かせていないしな。動いて良いなら動いた方が良いな。


「はい」

「病み上がりですから、最初は村の一周から始めましょう。魔物を狩るのは一週間くらい後のが良いですね」

「了解です! 村の中なら私一人でだいじょ」

「ルシェ一人ですとその辺の魔物と戦って悪化させて帰ってきそうですので、僕もついていきますね」


 子供か! と言いつつも否定しづらいな。いや、だって魔物が来たら多分退治する自信ある。それに体もそこそこ動くようになった。少しくらいならいけそうだ。


「ゴブリンくらいなら」

「だめですよ。僕が許可を出すまで一人で外出は禁止ですよ」


 ダメだったか。これはどこまでって聞くと怒られるな。ヒャクの事だし、怒らせたら夕飯抜きと良いそうだ。ご飯は大事。仕方ない。諦めるか。


「わかりました」


 観念したように返事をすると、ヒャクが玄関へと向かったので、私もついて行った。

 そう言えば村の外に出るのは竜のエンカウントポイントに向かった以来だな。そう言えば邪竜襲撃後の村は大丈夫かな?


「そう言えば、村の被害ってどんな感じなのかな」

「邪竜が通った所はほぼ破壊されています」


 ヒャクはさらっと爽やかに言っているが、それってまずくない?


「えっ。直さないと」


 家の作り方はわからないけど、木を持ってきたりとかなら私にも出来る。


「ルシェは病み上がりですよ。無理してはいけませんよ。それに近々騎士団が直しに来ますので、問題ないですよ」


 そっかこの後騎士団が来るのか。ヒャクの情報なら間違いないな。ヒャクにはタイムリープ能力がある。しかも邪竜を倒すために色々な世界線を見てきたので、かなり詳しい。


「それでも」

「被害は予定の半分以下ですし、僕たちの仕事はそれで充分です。それに僕たちよりも家づくりに詳しい方に任せた方が綺麗な家が出来ますよ」


 素人は黙っとれ。って事かそう言われるとぐうのねも出ない。あーけど壊滅状態の村を歩き回るのか。久々の外出でワクワクしていたのにその言葉で一気に憂鬱となった。


 ***


 最初に言い訳をしよう。確かに私の趣味はダンジョン攻略(さんぽ)だ。だがソロプレイヤーで、今回が初パーティーだ。

 そして一緒にいるのは言質が大好きなヒャクだ。うっかり失言なんかしてみろ。結婚フラグが立ってしまう。そうなると自分から話題を振るなんてリスクが高いことは出来ない。


 そうなると自然と無言になる。ヒャクも何か考えているのか何も言う気配がない。

 その結果。とても気まずい。ヒャクはこの空気に気付いていないようで、家にいるときと同じようにニコニコしている。やっぱり一人のが良い。早く治して一人でさんぽ出来るようにしよう。そのためには早く


「ルシェは好きな食べ物や嫌いな食べ物はありますか?」

「ふぁっ」


 考えている途中で声をかけられるとびびる。ヒャクは先ほどと変わらずニコニコしているし、やっぱこの空気に気付いていなかったんだな。

 ってそうじゃなくて、なんだっけ……。そうだ。好きな物と嫌いな物。なんだろう? ヒャクの料理が美味しすぎて、特になくなったんだよな。ピーマンはあの青臭いような匂いが苦手だったが、ヒャクの作る料理のピーマンはすっかりと消えていて美味しかった。

 好きな食べ物は前はステーキだったが、ヒャクが作ってくれる卵焼きも美味しいし、難しいな。


「ステーキ、ですかね。嫌いなものでは……パクチーかな」

「味の強い食べ物は苦手ですか?」

「そうかもしれませんね。味が強すぎてヒャクの味付けが薄れるのがもったいない!」


 パクチーは全部パクチーの味にしちゃうからな。自分で作るなら気にならないけど、なんかヒャクの料理だともったいない気がする。

 話しているとヒャクが視線をそらした。もしかして今日のご飯。パクチーがあったとか?


「あっ、もしかして昼ご飯パクチーが入っていましたか? ごめん。苦手ですが、食べられないわけじゃないですので」

「いえ、今日の夕飯何にしようかと思いまして」


 ステーキを考えているのかな。ステーキは高いし、味が似てそうなミノタウロスもめったに見かけないし、今私は狩り禁止だ。

 別にステーキじゃなくても良い。ってかヒャクの作ってくれたものなら何でも嬉しい。ただ何でも良いっていうとヒャクは困るだろうな。冷蔵庫の中には……。最近、ヒャクに任せっぱなしだからわからん。


「ルシェ。どうされましたか?」

「冷蔵庫の中がわからなくて、最近家事をヒャクに任せっぱなしでしたね」

「任せっぱなしも何も、僕はルシェの婚約者ですし。もし気にされるならプロポーズを」

「それはムリ!」


 呼吸をするように結婚を迫るのをやめて欲しい。スキを見せたら婚姻届に判を押してしまいそうだ。手遅れになる前にはっきりと断らねば。


「そうですか」


 ヒャクは私の言葉など気にせずにふわりと笑う。だから断れるというか断るんだろうな。

 何がしたいんだろう。相変わらず、ヒャクは考えが読めない神様だ。


「でしたら、今日はステーキにしましょうか」

「はい! ラッキー!」


 ヒャクがふわりと笑ったまま言った。あ、胃袋を掴みに来た。これは罠だとわかっているのに、引っかかりに行く私はちょろいのかもしれない。

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