プロローグ
「ふああああ」
彼、リッチー・ウォーターズにとってこの朝はいつもの目覚めの朝だった。いつも通りの時間に起き、いつもの朝食をとり、いつもの工場へと出勤する。でもどうしてだろう、今日の朝はいつもと何かが違っていた。
西暦2414年。大規模な環境汚染の果てに、地球は死の惑星と化していた。水は現在生きている人類が飲むだけでも精いっぱい。石炭も石油も尽き果て、燃料はほぼ消えた。自然も破壊され、風もほとんど吹かない。電気を生み出す手段は、わずかに残った燃料とわずかな風、それから火山による地熱発電程度。その程度の電気では富裕層も暮らせやしないので、低所得者たちは人力発電所で毎日自転車を漕いだり、あるいは生命電気をとられたりしている。それでも満足な電気量ではないが。
誰がどう見ても地球の未来は絶望的だった。国家は公表していないものの、地球の寿命はあと長くても2年。それまでに、少なくとも電力だけは何が何でも集める必要があった。電力さえあれば、現在の人類の技術を以てもう一度地球を蘇らせることができるのに…
いつも通りのまずいドロドロの小麦を口に含み、金がないので歯も磨かず彼は出勤した。
彼の働いているバクシー発電所は、世界でも有数の大規模な人力発電所であった。レンガ造りの巨大なフォルム。従業員は700人程度で、ほぼ全員が自転車を漕いでいる。一日約12000キロワット発電している。労働状況は最悪。一日10時間ひたすら肉体労働。お昼休憩は20分のみ。毎朝8時に出勤し、夜8時まで働かされる。これでも相当ブラックだが、ひどいところではもっと働かされるというのだからこれでもまだ良心的らしい。
そんなところで彼は自転車を漕ぎ始めた。いつも通り、変わったところはなく、未来に希望も絶望もない。ひたすら無心に漕ぎ続けていると、発電所に誰かが入ってきたようだ。
「全員、仕事止め‼」
現場監督のドスのきいた声で、自転車に乗っていた人々は一斉に自転車から降りた。
(一体誰がやってきたのだろう?)
そう思っていると、入ってきた人の姿を目を通してみることができた。
いかにもがっちり系で、アメフトをやってそうなフォルムをした人だった。身長は190㎝ゆうに超えており、筋肉はもはや芸術の域に達していた。
圧倒されながらもその姿に見惚れていた彼は、やってきた人が自分のそばにやってきているというのに気付いた。
彼の目の前に立ったその人は、彼にこう声をかけた。
「私は国連の科学部門のトップ、デイヴィッド・ペイスだ。地球の電力問題を解決すべく、君をスカウトしにやってきた。」