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第10話

 音城が、店員と客の関係じゃないんだから敬語は抜きで話してほしいと言うので、目的地に着いた頃にはすっかりいつもの俺で会話をしていた。


「それじゃあ、俺の役目はここまでだな」

「え〜、アルマくんは別行動なの?せっかく同じ目的地なんだから一緒に遊ぼうよ〜」

「悪いけど、俺は一人で静かに遊ぶのが好きなんだ。それに、君みたいな美少女といるのはなにかと目立つ」

「え、美少女!?どこどこ〜?」

「いや、音城のことなんだが……」

「もう!アルマくんが急に恥ずかしいこと言うから、わざと惚けたふりをしたのに!」

「お世辞のつもりではなかったんだが、何か気に障ったのなら悪かった」

「そ、そういうことを言いたいんじゃな〜い!」


 音城はそう言い残すと、そそくさと先にゲームセンターの中へ入っていってしまった。どうやら、俺はまた言葉選びを間違えてしまったらしい。あとで何かお詫びをしよう。


 とりあえず、音城のことは一旦置いておいて、まずは店長のところへ挨拶に行くとするか。


「こんにちは店長、お久しぶりです」

「おお、アルマくんか!久しぶりだね。ここ最近は来てくれなかったから、俺も寂しくしてたんだぞ」

「すみません、ここのところ色々と忙しかったもので」

「それで、アルマくんは神楽ちゃんと知り合いだったのか?」

「神楽……?ああ、音城のことですか。いえ、知り合ったのはつい先ほどのことです」

「なんだ、そうなのか。てっきり俺は彼女がアルマくんのナンパに引っかかったのかと……」

「そんなことするわけないでしょう。彼女がナンパされているところを俺が助けたんです」


 まあ助けたと胸を張って言えるほど、鮮やかな助け方をしたわけではないのだが。


「なるほど、そんなことが……。俺からも礼を言わせてほしい。彼女はうちの常連なんだ」

「へぇ、そうなんですね」

「……ところで、今日も()()、プレイしていってくれるか?」

「アレですか……。三ヶ月ぶりなので、自信はないですが、それでもいいのなら」

「全然大丈夫さ!それに、ちょうどイイコトを思いついたところだからさ」

「なんでしょう?」

「それは後でのお楽しみだ。少ししたら呼ぶから、それまでは好きに楽しんでいてくれ」


 店長のイイコトというのがあまりいい予感はしないが、まあ仕方ない。とりあえず、久しぶりのアーケードゲームを楽しむとしよう。




 それから俺は、色々なジャンルの筐体でゲームをプレイした。格闘ゲームやシューティングゲーム、パズルゲーム、レーシングゲームなど面白そうだと思ったら片っ端からプレイした。


 ゲームをしていると、以前このゲームセンターで知り合った人の何人かが俺に声をかけてくれた。彼らは俺に勝負を挑んでは、ことごとく敗北している。


 俺は元々ゲームの経験はないが飲み込みが早いようで、コツを教えてもらったら案外簡単に勝てるようになってしまった。だからこうして、俺のゲームの先輩たちの勝負に乗っているのだ。


「アルマ!久しぶりだな。今日こそ俺はお前に勝つ!」


 威勢よく俺に勝負を挑んてきたこの男は、ハヤテという。もちろんプレイヤーネームだ。俺にレーシングゲームの楽しさを教えてくれた人で、おそらく年齢は俺と同じくらい。


「ハヤテか、久しぶりだな。で、今日はどれで勝負するんだ?」

「こっちだ、ついてこい」


 ハヤテに案内され、俺たちは場所を移動した。


「こ、これは……」


 そこにあったのは俺がプレイしたことがない、いやこの店では見覚えのないゲームだった。


「コイツはお前が最近来ない間に追加された新しい筐体だ。お前が一度でもプレイしたことがあるゲームでは俺は勝てない!だが、流石のお前でも初見では勝てないだろう!」

「いや、それでいいのか……?」

「はっ、俺はお前に勝てればそれでいいんだよ。毎回毎回、勝ち誇ったような顔をされるわけにはいかないからな!」


 そうまでして勝ちたいかと思ってしまったが、まあまだ俺が負けるとは決まっていない。ちょうど今までの勝負では刺激が足りなくなってきたと思っていたところだ。


「いいだろう。その勝負、受けて立とう」


 アルマの格好に引っ張られて若干いつもの厨二病チックなセリフが飛び出したが、これも余興というやつだ。


 俺たちの白熱した戦いは、いつの間にか大勢のオーディエンスを集めていた。


 結果、互いにギリギリの勝負を制したのは俺だった。


「今日のゲームはなかなか難しくて楽しかった。また勝負しよう」

「バケモノめ……。俺はこのゲームをここまで走れるようになるのに一ヶ月もかかったってのに、なんで初見でそこまで走れるんだ……」

「まあ、一つ感想を言うとすれば敗北を知りたいといったところだな」

「ちっ、コイツ……相変わらず言いやがる」


 ハヤテは相当悔しそうな顔をしている。しかし、その目はまだ勝負に燃えていた。


「おい!また勝負してくれよ。今度は三ヶ月も待たせたら許さねぇからな!」

「ああ、もちろんだ」


 俺たちが握手を交わすと、勝負を見ていた周りの観客から拍手が起こった。


 俺は普段あまり目立つのは好きじゃないが、自分の得意分野で周りから称賛されるのは、悪い気分はしなかった。まあ気恥ずかしいことこの上なかったのも事実ではあるが。


「ご来店いただいた皆様、誠にありがとうございます。この後12時より、特別企画を実施致します。皆様、ぜひリズムゲームコーナーまで足をお運びくださいませ」


 突然流れたアナウンスに、周りにいた他の客たちもなんだなんだと興味を持ち始めた。さらにアナウンスは続く。


「また、本日ご来店のアルマ様。イベントのことでお伝えしたいことがありますので、至急、カウンターまでお越しください」


 おい、まさか店長が言ってたイイコトって、これのことじゃないだろうな?


「特別企画とやらの主役はアルマさんか!」

「面白いものが見れそうだな」

「これは見に行くしかないね!」


 周りの客たちが次々と騒ぎ出し、俺に期待の眼差しを向けてくる。いたたまれなくなった俺は、とりあえずその場を離れることにした。


「確かにアレをやってもいいと言ったが、そんな大々的にやるなんて聞いてねぇ」


 そう呟きながら、俺は店長の元へ向かったのだった。



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