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009 隊員第一号

 訓練が始まって1ヶ月。レイは大森林にいた。


「レイ!頼んだ!」


「はい!火炎球!」


 レイの火炎球が蜂のような魔物、グバルトビーネの群れを悲鳴さえ上げさせずに焼き払う。


「もう大森林の周辺でレイの敵になるような魔物はいないな。」


「そんな!みなさんがサポートしてくださってるからこそですよ。」


「謙遜しやがって。だがこれはもうあの話を進めても良さそうだな。」


「あの話?」




 ――――――――――――――――




 場所は変わってレイ、ダニエル、アントンはハラルトの部屋に来ていた。


「レイ、君には君の部隊を作ってもらおうと思っている。」


「僕が部隊を……ですか?」


「ああそうだ。レイはこれからどんどん強くなる。だからこそ、その強さを活かして自由に動いてもらいたいんだ。」


 ここでダニエルがハラルトの言葉を次いだ。


「レイ。俺たちは一番近くでレイの成長を見てきた。お前はもう一部隊員としての器におさまってちゃいけねえと思う。」


「ダニエルさん……」


「そうだぜ。それにレイが頑張ってくれれば俺たちの負担が減るしな!」


「ちげえねえ!」


 ふたりはガハハと豪快に笑った。

 もちろん冗談で言っていることはわかっていたが、レイは心からこのふたりの助けになりたいと考えていた。


「どうだろう?やってみるかい?」


 レイは数瞬目をつむり、覚悟を決めて告げた。


「……わかりました!その話お受けさせていただきます!」






 ――――――――――――――――





 部隊をつくる話を受け、レイは辺境伯の屋敷から歩いて数分の街に来ていた。


「引き受けたはいいけど、隊員になる人を自分でスカウトっていうのはどうなんだろう……」


(雇うお金は気にしなくていいって言ってたけど……そういう問題じゃないような……)


 途方に暮れそうになるレイだったが、ハラルトの言葉を思い出す――



「レイの鑑定を使えばいい人材を発掘できると思うよ。文献によると、高レベルの鑑定はその人の適性なんかも見抜けたらしいからね。」



(盗み見ているようで気が引けるけど……しょうがないっ!)


 ハラルトの言葉を信じて、道ゆく人に鑑定をかけてみる。



 ――――――――――――――――


【名 前】 フレディ

【種 族】 ヒューマン

【レベル】 2


【体 力】 19

【魔 力】 11

【攻撃力】 7

【防御力】 6

【速 さ】 2

【知 力】 8


 ――――――――――――――――



(適性なんて表示されてないけど……)


 レイがそう考えていると、シュンっと表示が切り替わった。


(おっ?)


 ――――――――――――――――


【土魔法】D


 ――――――――――――――――


(おおっ!見えた!その人の適性がランクでわかるのか……)


 レイはまだ知らなかった鑑定スキルの効果に身を震わせた。


(……なるほど。こうしてみれば何を伸ばしていけばいいか一目瞭然だな。)


 スカウトの方向性も決まったことで、レイは街を散歩がてら道ゆく人たちを鑑定して回ることにした。


(ハラルト様の屋敷もそうだけど、街並みは中世ヨーロッパって感じだな。)


 こちらの世界に来て1ヶ月ほど経ったが、まだ街に来たことはなかったので見るもの全てが新鮮だった。

 レイが建物などに気を取られて歩いていると――



ドンッ



 レイは歩いていた人にぶつかってしまい、反射的に謝りの言葉を述べた。


「あ、すみません!」


 ぶつかってしまった人を見てみるとスキンヘッドのいかにも悪そうな出で立ちだった。


「おい、このクソガキが!誰にぶつかったと思ってんだ!」


「さっさと地べたに頭こすりつけて謝罪しろ!頭の回転遅え奴だな!」


 スキンヘッドの両隣にいたいかにも小者ですというような、小太りとガリガリなふたり組がレイに暴言を吐く。


「落ち着けふたりとも。」


 スキンヘッドが取り巻きふたりを諌めるように言葉をかける。

 見た目とは違っていい人なのかな、と思ったが続く言葉でレイの期待は裏切られる。


「こんな頭の悪そうなガキには簡潔にわかりやすく伝えなきゃダメなんだよ。……おいガキ。死にたくなければ有り金置いてさっさと失せろ。」


 見た目通りのクズ人間だった。

 レイはクズ発言に面食らうも、よそ見をしていてぶつかったのは確かに自分のせいなので改めて謝ることにした。


「すみません。よそ見しながら歩いていてぶつかってしまいました。」


 レイの謝罪を聞いた3人組はというと……


「お前話聞いてたのかよ!?」


「有り金置いて失せろっつってんだよ!」


「……言っとくがこれは俺からの温情だ。今すぐ有り金を渡せ。そうしたら命は助けてやる。」


「いや、そう言われましても……」


 いつの間にか周りには人だかりができてきた。

 会話の流れがおかしな方向に行きそうだったので、レイは念のため3人を鑑定した。



 ――――――――――――――――


【名 前】 オラフ・ヴランゲ

【種 族】 ヒューマン

【レベル】 26


【体 力】 2,363 / 2,363

【魔 力】 735 / 735

【攻撃力】 1,723

【防御力】 1,295

【速 さ】 945

【知 力】 770

【スキル】

怪力:Lv.2


 ――――――――――――――――


【名 前】 ウリ・クニッゲ

【種 族】 ヒューマン

【レベル】 15


【体 力】 803 / 803

【魔 力】 250 / 250

【攻撃力】 559

【防御力】 440

【速 さ】 321

【知 力】 262

【スキル】

罠探知:Lv.1


 ――――――――――――――――


【名 前】 トーニ・ルンゲ

【種 族】 ヒューマン

【レベル】 14


【体 力】 702 / 702

【魔 力】 673 / 673

【攻撃力】 209

【防御力】 241

【速 さ】 281

【知 力】 489

【スキル】

風刃:Lv.1


 ――――――――――――――――



(よし。喧嘩になっても逃げるくらいなら余裕だな)


 ステータスは圧倒的に勝っていたためレイは心に余裕が持てた。


「何余裕こいてんだゴラァ!」


 ガリガリのトーニが胸ぐらを掴んできた。


(さて、どうやってやり過ごそうかな……)


 レイがこの場をどうやり過ごすか考えていると――


「衛兵さんこっちです!」


 人だかりの中から声があがった。

 それを聞いたチンピラたちは慌て始める。


「ちっ!余計なことしやがって!おいお前ら行くぞ!」


「てめぇ、今度会ったときには覚えとけよ!」


「夜道にゃ気をつけるこったな!」


 チンピラたちは人だかりを押しのけ、捨て台詞を吐きながら去っていった。


「ああいうセリフ言う人ホントにいるんだ……」


 あまりにもそれっぽいセリフにレイは少し呆れてしまった。


「あれ?衛兵はどこだろう?」


 先ほどの声を聞くかぎり、衛兵が近くにいるような様子だったが全く衛兵が来る気配がない。

 すると、人だかりの中からスッとフードを被った小さな人影が抜けていくのが見えた。

 気になったレイはその後を追ってみることにした。


 小さな影は路地に入っていく。

 レイは見失ってはいけないと思い声をかけることにした。


「ねえっ!」


 声をかけた人物は立ち止まり、振り返る。


「な、なんでしょう……」


 レイにはその人物が自分と同じくらいの年齢の少年に見えた。

 少年は少し動揺して声が震えていた。


「さっき助けてくれたのは……君?」


「す、すみません。余計なことしちゃって……」


「違うんだ!助かったからお礼を言いたくて!」


「いえ、とんでもないです。」


「とにかく助かったよ。君のおかげで余計な争いをしなくてすんだ。ありがとう。」


「ど、どういたしまして。」


 少年はおどおどしながらも感謝の気持ちを受け取ってくれる。


「何かお礼がしたいんだけど……」


「本当に大丈夫です。そんなつもりでやったわけではないので。」


 本当に親切心からの行動だったのだろう。

 少年の優しさに胸を打たれたレイはどうにかして感謝の気持ちを形にしたいと思った。


「じゃあ食事でもどうかな?そんなに時間は取らせないからさ……とは言っても全然この街のお店のこと知らないんだけどね。」


 ははっと笑うレイ。

 少年はこれ以上断るのも失礼と感じたのか渋々といった形でうなずいた。


「じゃ、じゃあ少しだけ。」


「よかった。それじゃあ改めて、僕はレイって言うんだ。君の名前も教えてもらってもいいかな?」


「私はアルフレートです。みんなからはアルって呼ばれてます。」


「アルフレートっていうんだ。かっこいい名前だね。僕もアルって呼んでいいかな?」


「……はい、大丈夫ですけど……」


「よろしく!アル!」


 そう言ってレイはアルとかたく握手を交わした。




 ――――――――――――――――




 レイたちは、アルの案内で屋台のような場所で串に刺さった肉を大量に買ってベンチに座った。

 レイには客将としての給金が支給されていたので、お金は十分すぎるほど所持している。


「アルは普段何をしているの?」


 レイが紙袋から串を渡しながら、アルに質問する。


「普段は冒険者をやっています。」


 アルはレイから串を受け取りながら質問に答えた。


「アルって今何歳か聞いてもいい?」


「大丈夫ですよ。もうすぐ12歳になります。」


「12歳……この辺だとその年齢で働いてるのって普通なのかな?……僕ちょっとそういうのに疎くてさ。」


 アルは予想とは違いレイより少し年上だった。

 本当のことを言うわけにもいかないので、レイは自身の事情をぼかしながら質問を重ねる。


「いえ、私ぐらいの年齢だと学校に通っている子どもがほとんどです。……私は孤児なので学校に通えるだけのお金がないんです。」


「あ……ごめん。」


 レイは聞いてはいけないことを聞いてしまったのだと今更ながら後悔し、顔をうつむけた。


「気になさらないでください。孤児など珍しくもありませんので。」


「そう……なんだ。」


「はい。私は今孤児院で生活しているのですが、この国の法では12歳になると孤児院から出て独り立ちしなければならない決まりなんです。だから私はこれから冒険者として稼いでいくつもりです。」


 偉い、なんて言葉が陳腐に思えるほどアルの考えは大人びていた。


(アルは冒険者らしいけど……)


 レイはアルが冒険者としてどれくらいの強さなのか確かめるため、悪いとは思ったがアルに鑑定をかけてみた。



 ――――――――――――――――


【名 前】 アルフレート・ベッカー

【種 族】 ヒューマン

【レベル】 5


【体 力】 42 / 42

【魔 力】 91 / 91

【攻撃力】 34

【防御力】 31

【速 さ】 40

【知 力】 66

【スキル】

雷槍:Lv.1 瞬脚:Lv.1


 ――――――――――――――――



(まだレベルは低いんだな。スキルの雷槍と瞬脚はどういう効果なんだろう……)



 ――――――――――――――――


雷槍:Lv.1


雷の槍を生み出す。


 ――――――――――――――――


瞬脚:Lv.1


常時発動型スキル

魔力消費なし


スキルレベル × 5%の速さを上昇させる。


 ――――――――――――――――



(雷槍は魔法攻撃で瞬脚は速さが増すスキルか。確かに攻撃力と防御力に比べて少し速さの数値が高いな。……あれ?そう考えると知力高すぎないか?)


 他の能力値が30〜40台であるのに比べて、知力は60台と大幅に異なる数値だった。


(これは……適性を見てみよう。)



 ――――――――――――――――


【雷魔法】A

【隠 密】A

【算 術】A

【交 渉】A


 ――――――――――――――――



(えっ?)


 レイはアルの持つ可能性に驚愕した。


(雷魔法、隠密、算術、交渉。これ全部Aランクの適性があるのか……とんでもない才能だな。)


「あの、レイさん大丈夫ですか?」


「あ、ごめん。考え事してただけだから大丈夫だよ。」


(やっぱり鑑定してる時は注意散漫になっちゃうな。気をつけよう。)


「何かお困りなんですか?」


 レイは考える。


(これはチャンスだ。アルは人柄も良いし、とてつもない可能性も持ってる。もうすぐ孤児院から出なきゃいけないっていうのもお誂え向きだ…………よしっ!)


「ねえ、アル。アルは冒険者になることに執着はあるの?」


「そうですね……身分の証明と手っ取り早く稼ぐ手段として冒険者が最善、と考えてはいます。」


「じゃあ、身分が証明できて稼げれば、他の仕事でも良いの?」


「はい。ですが、孤児院出身者が就ける職業は限られていますので……」


 アルはレイの質問の意図が掴めず、歯切れの悪い答えを返す。


「実はね……」


 レイは自身が辺境伯軍に客将として迎えられていること、部隊を組織するために街でスカウトを行っていることをアルに話した。


「私が辺境伯軍にですかっ!?」


「うん。正確には僕の部隊の隊員になるから正規の辺境伯軍ではないんだけどね。待遇は正規の隊員と同じで良いんだって。」


「……レイさん、申し訳ありませんがそれは流石に信じられません。」


 レイはアルの様子に疑問を抱く。


「えっ?……理由を教えてもらってもいいかな?」


「それはそうですよ!辺境伯軍といえば魔物の侵攻から国を守る憧れの職業ですし、待遇も格別であることから、若者が就きたい職業不動のナンバー1なんです!」


「そ、そうなんだ。」


 アルのいきなりのハイテンションに若干引いてしまうレイ。

 このままでは埒が明かないと考え、大胆な策に切り替えた。


「たしかにそれだと怪しい勧誘みたいに聞こえるよね……じゃあ今から僕と辺境伯様の屋敷に行って、事実確認してから決めるっていうのはどうかな?」


「い、今から辺境伯様の屋敷にですか!?」


「大丈夫だよ!事情の説明は全部僕がやるから!ねっ!行こう!」


 レイがアルの手首を掴んで歩き出す。

 半ば強引にアルを屋敷に連れていくことにしたのだ。


「え?ええぇぇぇーー!?」


 アルは情けない声を上げながらも、レイの手を振り解くことなくついていくのであった。

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