005 真実を告げる
「おや?ラルフとニコも先ほどの爆発に関わっているのかい?」
ラミア一行が部屋に着くと、ハラルトは不思議そうに尋ねた。
ダニエル、アントン、レイの他にラルフとニコもついてきていたのだ。
「いえ、我々も爆発があった際に近くにおりましたので、状況の確認をしたく参上いたしました。」
ハラルトの問いにラルフが答える。
「ということは当事者は残りの3人というわけだね。説明をお願いしても良いかな?」
「はい。……レイ、俺からありのままを伝えても良いか?」
「お願いします。」
「わかった。」
代表してダニエルが説明をし始めた。
「先ほどレイから攻撃系のスキルを使ってみたいと言われ、訓練場の誰もいない場所に向けてなら良いと私が許可を出しました。」
ダニエルがあまりにも露悪的な言い方をするので、玲は自分のわがままだと言いたかったが話にはまだ続きがあったためグッと口を閉ざした。
「その時レイが使用したスキルが……」
ダニエルは一度口を閉ざし何かを決心するように続きの言葉を綴った。
「火炎球です。」
ダニエルの言葉にアントンとレイ以外の全員が驚愕する。
「火炎球……だと?」
「上位スキルか……先天的なものかい?」
ラルフはレイがそんなスキルを持っていることが信じられないといったような反応を示し、ハラルトはスキルが先天的なものなのかをダニエルに尋ねた。
「それが、レイにも分からないようです。」
「分からない?じゃあなんで火炎球のスキルを持っていることを知ってたんだ?」
ニコがダニエルの答えに疑問を返した。
全員の視線がレイに向かう。
「……スキルって生まれた時から持っているものなんですか?」
「「…………」」
レイの頓珍漢な質問にレイの事情を知らないラルフとニコは言葉もなく呆然とした。
「ああ、ふたりとも、レイは少し特殊な育ちをしているようでね。我々にとっての常識がレイにとっての常識とは限らないんだよ。」
ハラルトから言外に常識外れと言われ玲は少し傷ついた。
「レイ、スキルっていうのは生まれつき持っているものと、なんらかの条件を満たすことで得られるものの2パターンあるんだ。そして、この国の子どもは5歳になるとステータスの鑑定をすることが義務付けられているから、先天的なスキルなら本人は絶対に知っているはずなんだよ。」
アントンが詳しい説明をしてくれたおかげで、レイは納得がいった。
「なるほど。それでみなさん、僕が先天的なスキルか分からないと言った時に不思議そうにされていたんですね。」
「ああ、さらに言えば火炎球のような上位スキルを先天的に得るのはかなり珍しいんだ。冒険者や俺たち辺境伯軍みたいに日々魔物と戦っている者たちは、なんらかの条件を満たして上位スキルを得ることもあるんだけどな。」
「でも、その条件のほとんどが解明できていないから珍しさでいうとどちらも変わらないんだけどね。」
アントンの言葉を引き継ぎ、ニコがやれやれと言った様子で話を締めた。
「話を戻すけど、レイはなぜ自分が火炎球のスキルを持っていると知っていたんだい?」
「それは……」
「すまない。言いたくないなら良いんだ。」
ハラルトは玲が言い淀む姿をみて、会話を切り上げた。
――しかし、ラルフとニコはそうはいかなかった。
「ハラルト様。差し出がましいのは重々承知しておりますがご意見をお許しください。」
ラルフがそうハラルトに前置くと、レイに向かって口を開いた。
「……レイ様、大変失礼ですがあなたはご自身の立場を正確に理解されておりますか?ご本人を前に口にするのは心苦しいですが……あなたは怪しすぎるのです。」
突きつけられる拒絶の原因は玲自身も感じているものだった。
「民間人が立ち入れないはずのガリア大森林での発見。上位スキルの所持。あまりにも欠如している常識。その上なぜスキルを持っているのか答えられないなど怪しんでくださいと言っているようなものですよ?」
ラルフは続けて玲に厳しい言葉を投げる。
「ラルフの言う通りだ。このままでは大佐の階級を戴いているものとして、レイくんをこのまま受け入れておく事はできない。」
ニコもラルフの言葉に同調した。
「……そうですよね。虫が良すぎますよね。」
レイはこの状況を受け入れていた。
自分が逆の立場でもラルフやニコと同じ事を考えるだろうと思ったからだ。
「ふたりともいい加減にしろ。」
ラルフとニコ、そしてレイも意外な人物の想像もできなかった怒りの声に身を震わせた。
そこにはいつもの温和な雰囲気はなく、厳しい、あるいは冷徹にも見える雰囲気を纏ったハラルトがいた。
「ラルフ、ニコ。私はレイの人柄を見極めた上で客人として迎え入れたんだ。……これ以上の説明が君たちに必要かい?」
ラルフとニコはそのハラルトの様子に恐怖を覚え、すぐに謝罪した。
「「申し訳ございませんでした。」」
「謝る相手が違うだろう。」
ふたりはすぐにその意図に気付きレイに向けて謝罪の言葉を口にした。
「「大変申し訳ございませんでした。」」
「すまないね、レイ。先ほどのふたりの無礼な態度をどうか許してほしい。私の身を案じての言葉だったんだ。」
ラルフとニコに加え、ハラルトまでレイに対して謝罪の言葉を口にした。
「そんな!顔をあげてください!僕が怪しいのは僕自身も自覚していますからっ!」
「ありがとう。そう言ってくれると助かるよ。とりあえずさっきの爆発の件に関してはこれで話は終わりにしよう。」
「…………」
「レイ?」
玲の返事がない事をハラルトは訝しんだ。
「おふたりの言う通りです。」
「…………」
「命を助けていただいたばかりか、ご飯も住むところも着る服も用意してもらってるのに都合が悪いから喋らないなんて……あまりにも失礼でした。謝るべきなのは僕の方です。みなさん本当にすみませんでした!」
「レイ……」
「僕が知っている僕自身の情報は全てお話しします。僕が自分のスキルを知ることができているのは鑑定スキルのおかげなんです。」
「鑑定スキル?鑑定スキルで自分や他人が持ってるスキルが見れるのって確か……スキルレベル7からだったような」
「僕の鑑定スキルのレベルは10です。」
「…………ん?なんだって?」
「僕の鑑定スキルのレベルは10なんです。」
――部屋は静寂に包まれた。
そして次の瞬間――
「「「「はああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!??」」」」
ラルフ、ニコ、ダニエル、アントンの4人が腹の底からの叫びが静寂を破った。
その時、ハラルトが声を発した。
「ゲルト」
「はっ」
ハラルトの声に応えて男が虚空から溶け出すように姿を現した。
「なっ!いたのかゲルト!?」
「ああ、最初からみていたぞ。」
「〜〜っっ!」
ニコは、自分たちがハラルトから叱られたところもみられていた事に思い至り、苦虫を潰したような顔になった。
ゲルトはラルフやニコと同じ大佐の階級であり、偵察において彼の右に出るものは軍にはいないほどの実力者だ。
「この部屋にいる全員に箝口令を敷く。ここで見聞きしたものは絶対に他言無用だ。話すべき相手には私が直接話をする。いいね?」
「「「「「はっ!!」」」」」
レイ以外の全員がハラルトの言葉に同意を示した。
「レイ、君がこんな状況で嘘をつくようには思えないからそれは本当のことなんだろう。その上で君に忠告しよう。」
ハラルトは一度言葉を区切り、忠告の内容を口にした。
「鑑定スキルのレベルは決して他人に話してはいけない。」
「……それは何故ですか?」
玲の疑問にハラルトが答える。
「一般的に、スキルのレベルは10が上限だと考えられているんだ。」
「レベル10が上限……ですか。」
「ああ。有史以来、人間のスキルレベルが上限に達した事例は数えるほどしかない。なぜならスキルレベルを上限まであげるには非常に厳しい条件があるからだ。」
「厳しい条件……ですか?」
「ああ、戦闘系スキルで現状分かっている条件は――」
ハラルトは戦闘系のスキルレベルを上げる条件を次のように語った。
スキルレベルに対応した魔物をスキルレベルの100倍の数倒すことが条件らしい。
Lv.1からLv.2に上げるにはFランク以上の魔物を100体、Lv.3に上げるにはEランク以上の魔物を200体、というようにスキルレベルが上がるごとに倒すべき魔物の強さと倒さなければいけない数も変わるそうだ。
また、スキルレベルに対応する魔物よりランクが高い魔物を倒すと、より早くスキルレベルをあげられるらしい。
「なるほど……」
「あまり驚いていないようだね?」
「はい……あまり実感が湧かなくて。以前あの森に突然移動した事はお話ししたかと思いますが、それ以前に僕が鑑定スキルを持っていなかった事は間違いありません。あの森に現れて色々と試行錯誤していた際に、偶然鑑定を使うことができたんです。」
「それは本当かいっ!?レベルが上限に達した状態のスキルを得る条件があるのか……レイ、ガリア大森林に現れる前は何をしていたんだい?」
「……これは信じてもらえるか分かりませんが……僕は――」
玲は一度考えるように目を瞑り、今まで隠していた事実を語った。
「僕がいた場所はこことは別の世界だと考えています。」
それを聞いた面々は、あまりにも突拍子な発言にすぐには言葉が出てこなかった。
最初に沈黙を破ったのはやはりハラルトだった。
「何かそれを証明できるものはあるかい?」
「……いえ、何もありません。しかし、僕が元いた場所には魔物などはおらず、スキルやレベルなども存在しておりませんでした。」
「……にわかには信じがたいが、状況的にはその話を信じると色々納得がいく。確か話を聞いた時には、瞬きをした次の瞬間にはガリア大森林にいた、ということであってるかな?」
「……すみません。その部分も信じてもらえないと思ったのでぼかしてお伝えしていました。厳密にいうと、瞬きをした次の瞬間僕は真っ白な空間にいたのです。」
「真っ白な空間?」
「はい、本当に真っ白で何もない空間でした。そこにいきなり無機質な声が流れてきたんです。その声は一方的に特異点がどうこうという話をしていて、その話の延長でなぜか取得できたのが鑑定スキルです。」
「……特異点?その声の主がレイにレベル10の鑑定スキルを与えたというのかい?」
「実際のところは分かりませんが、おそらくは……」
「……なんということだ。そんなことができるとするならば、その声の主は神としか言いようがないな。」
「な、なあレイ。レベル10の鑑定って何ができるんだ?」
たまらずといった様子でダニエルがレイに尋ねた。
「今、僕が鑑定したのはガリア大森林の木と魔物、そして自分のステータスです。木を鑑定したときは名前や等級、それに木の説明が見えました。」
「ガリア大森林の木を……か。あの木のランクは1級だから鑑定のレベルは6以上が必要なはずだ。」
ハラルトがガリアの木のランクを思い出すように言った。
「魔物はどんな情報が見えるんだ?」
続けてアントンが質問してきた。
「魔物は種族名とレベル、魔物の等級やステータス、他にもスキルとスキルのレベルもみることができました。ちなみに自分を鑑定したときもほとんど同じです。」
「やはり全て見ることができるのか。」
「すみません。実はまだ説明できていないことがあるんです。」
「……その様子だと、これまでよりすごい情報がありそうだね。」
「もしかすると、そうかもしれません。」
「ああ、良いよ。もはや今更だ。」
ハラルトは諦めたように玲に続きを促した。
「僕は先ほど説明した真っ白な空間であとふたつスキルを取得しました。固有スキルの言語変換と早熟というものです。」
「固有スキル言語変換と早熟か。聞いたことのない固有スキルだね。誰か知っている者はいるかい?」
ハラルトは周りにスキルの詳細をしているものがいないか確認した。
「「「「「………………」」」」」
答えは沈黙だった。
「誰も知らない……か。ただ、固有スキルの2つ持ちは確かに希少だけど今までの情報と比べるとそこまでのインパクトはないね。……とするとスキルの効果が説明したいことなのかな?」
「はい。」
「そうか。……レイ、今更だけど流石に固有スキルの詳細までこの場で言う必要はないんだよ?」
ハラルトはレイのことを心配して、話さなくとも良い選択肢を用意してくれた。しかし――
「いえ、もう皆さんに隠し事はしたくないんです。」
玲はハラルトの目を見て力強く告げた。
「……分かった。決して悪いようにはしないと誓うよ。」
「ありがとうございます。それでは言語変換と早熟の効果についてお伝えします。」
玲は早熟の効果をその場に全員に伝えた。
……
……
……
「……なるほど。レイが隠そうとしていた理由はよく分かったよ。異世界からきたはずのレイと私たちの間で会話が成立しているのは言語変換スキルのおかげということか。古代の魔術文書でも言語変換できるとしたらそのスキルの価値はとんでもないことになる。」
「早熟のレベルは1……現時点で常人の3倍の速さで成長していくということか……しかもレベルが上がるとさらに成長速度が上がっていく……。」
「5%の確率で倒した相手のスキルをランダムに取得できるって……そんなの滅茶苦茶だ……」
ハラルト、ラルフ、ニコがそれぞれの反応を示す。
「レイ、火炎球はスキルの効果で取得したってことか?」
ダニエルがレイに尋ねる。
「はい、火炎球はダークアドゥルフを倒した際に取得しました。」
「という事は、ダークアドゥルフを倒した時に経験値も3倍取得できたって事だよな」
「それに関しては、実際得られるはずだった経験値がわからないので確証はありませんが、レベルは1から11になりました。」
玲の何気ない発言に再び衝撃が走った。
「……!?レベルが一気に11に!?」
「死にかけのダークアドゥルフを倒してそこまでレベルが上がるなんて……」
「確認できていないのはスキル経験値だが……まあ、そちらも本当だろうな。」
全員が玲の早熟の効果について考察を進めていた。
「僕の話したかった事は以上です。」
「レイ、我々を信用して話してくれてありがとう。みんな、先ほども言ったが念を押しておこう。ここで聞いた事は絶対に他言無用だ。」
「「「「「………………はい。」」」」」
最初とは異なり、全員が神妙な面持ちで返事をした。
事の重大さを知ったことにより、箝口令の重要性を深く認識したのだった。
「さて、レイ。私から一つ提案があるのだが、聞いてくれるかい?」
「……はい」
「強くなりたくはないかい?」
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