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024 合同訓練3

「ふふふ。私が追い詰められているとでも思いましたか?」


 笑いながら告げるヨアンの周りには、2本の矢がフワフワと浮かんでいた。


「…………」


「なんで矢が浮かんでいるのか、不思議そうですねぇ?」



ビュンッ

ビュンッ



 飛んでくる矢を避けるベルだが――



グンッ



 避けたはずの矢が、軌道を変えてベルを襲ってくる。

 ベルはたまらず矢を剣で払った。


「っ!」


 その時、ベルはあることに気づく。


「……糸」


「おや?気づかれてしまいましたか。」


 そう言って2本の矢を浮かせてみせるヨアン。

 目を凝らすと、矢に細い糸が括られているのが見えた。


「操糸スキルで矢を操っているんです。便利でしょう?」


 タネを明かしたところで問題はないと考えているのか、ヨアンの表情には余裕が感じられた。


「痛い思いをする前に降参した方が身のためですよっ!」


 そう言いながら、ヨアンはベルに向かって番えた矢を放ってくる。

 その後ろを糸で操られている矢が追従してきて、ベルが避けた先に向かってくる。

 さらにその矢を避けても、次の矢がベルを襲ってくる。


 終わりのない攻撃に、回避に専念せざるをえない状況に陥るベル。


「……ちっ、すばしっこいですねぇ。ではっ!これならどうですかっ!!?」


 ベルの四方八方から矢が飛んでくる。


「っっ!!」


「はっはっは!私が操れる糸は全部で10本なんですよっ!!」


 ずっと2本の矢しか操っていなかったのは、ベルに自分のスキルの限界を誤認させるため。

 すべてはこの瞬間を演出するための伏線だった。



ビュンッ

ビュンッ

ビュンッ――――!!!



 ヨアンは、周りに落ちていた矢を操り、一斉にベルへと向かわせる。


「終わりです。」


 これまでの身体能力を見る限り、ベルにこの矢の嵐を防ぐ術はない。

 ヨアンは勝利を確信してニヤリと笑った。


 対して、周りから矢が殺到しているというのに、ベルの顔は変わらず無表情だ。


 ――しかし、次の瞬間。ベルの口元がわずかに動いた。



「獣臨」



パラパラパラッ



 ベルに殺到していた矢の全てが、バラバラになって落下していく。


「…………はっ?」


 目の前の現実を受け入れられないヨアン。

 ベルが何かを呟いたのとほぼ同時に、矢がバラバラにされた。

 ならば、この目の前の光景はベルが引き起こしたと考えるのが妥当だが、瞬時にそれはないと断じる。


 ヨアンの目から見て、ベルは1歩たりとも動いていなかったのだ。

 何かをできたはずがない。


 考えがまとまらないまま、ベルを見つめていたヨアンだったが――



ドスッ



「ぐぼおぁっっ!!」


 ベルが目の前に突然現れたと認識した時には、剣の持ち手がヨアンの腹にめり込んでいた。

 腹をおさえ、膝から崩れ落ちるヨアンを見ながら、ベルはしゅんとした面持ちで呟く。


「……無念」


 その顔は勝者のものとは程遠かった。


「ぐはっ!」


 呻き声がした方を見ると、そこには今まさに倒れようとしているローガーがいた。

 ローガーの前には特に目立った傷のないリルが立っている。

 どうやらリルも相手に勝つことができたようだ。


 ヨアンとローガーの二人が倒れ伏してしまったため、フリッツはヤケになって決着の合図をだす。


「くそっ!勝負ありだっ!」




 勝負の決着がついたため、ふたごは揃ってレイたちのところに戻っていく。

 無表情なリルと違って、ベルの表情には悔しさが現れていた。


「ふたりとも良く頑張ったね。」


「お見事です。」


「騎士団の人たちもびっくりしてますよ!」


 レイ、アル、リリーが、口々に労いの言葉をかけてくれる。

 それでもベルの表情が晴れることはなかった。


「……スキル、使っちゃった。」


 ベルがポツリと呟く。

 ここでいうスキルとは、ふたごが持っている固有スキル【獣臨】のことだろう。


「そうだね。」


「……使わなくても、勝てた?」


 ベルは、言葉少なにレイに尋ねる。


「……戦い方次第では、勝てただろうね。ただ、それ以前にこれは訓練だ。命の危険はなかった。」


「レイ様っ!」


 レイの正直な言葉に、アルは少し慌てた様子でレイの名前を呼ぶ。

 精神的にまだ幼いベルには厳しすぎるのではないかと考えたのだ。


「ここで嘘をつくのはベルのためにならないよ。特にあのスキルの反動は、致命的な隙に繋がるからね。」


 再度ベルに向き直ったレイは、諭すように告げる。


「ベルはもう十分わかっているみたいだから、もう一度約束の確認だけしてもいいかな?」


 固有スキル【獣臨】は、発動すると全てのステータスが3倍になるという破格の効果を持っている。

 さらに、1度使えば丸1日使えなくなるというものでもないらしく、発動時間は自分で調整でき、短時間であれば1日に何度も使用することができるのだ。


 レイは訓練の中でこれらの検証を行っており、現在のふたごでは、1日の発動限界時間は1分程度だということが分かっていた。

 そのため、ふたごとある約束を交わしていたのだ。


「……命の危機以外では使っちゃだめ。」


「うん!しっかり覚えてるね!」


 えらいぞーと言いながらベルの頭を撫でるレイ。


「リルも上手に戦えていたね!でも、最初から相手の魔法を叩き切ったのは感心しないなー。ああいうのは相手の隙を誘うのに使えるからね。いざという時にズバッとやらないと。」


「むっ」


 褒められるとばかり思っていたリルは、レイの小言に少しむくれて見せる。


「はっはっは!むくれない、むくれない!ふたりともまだまだ強くなれるってことだよ!」


 レイはリルの頭も撫でながら大笑いするのであった。



くすくす



 むくれるリルの顔を見て、ベルが思わず笑顔をこぼす。

 ベルの笑顔につられてリルもくすくすと笑い出すのだった。


「「…………」」


 どんよりしていた空気を一気に明るくしたレイの手腕に、アルとリリーは敵わないとばかりに苦笑を浮かべた。



「これで2連勝だね!アル、プレッシャーかかってるんじゃない?」


「なんでレイ様がプレッシャーをかけてくるのですか……」


 レイは無駄にプレッシャーをかけてくるレイに呆れた目を向けたあと、精悍な笑顔を浮かべながら心意気を述べる。


「3人がこれほど素晴らしい戦いを見せてくれたのです。情けない姿は見せられませんよ。」


「それじゃあ3勝目、よろしくね!」


「はい、行ってまいります。」


「待てっ!」


 アルが歩き出そうとしたその時、フリッツの大声によってアルの足が止まる。


「おまえたち!辺境伯から武器を預かっているな!?」


「ええ、預かっていますけど……」


 レイが代表して肯定の意を告げると、フリッツは我が意を得たりとばかりに喚き出す。


「っ!!やはりな!精鋭である我が騎士団が負けるなどおかしいと思っていたのだ!」


「……はあ。」


 また何か始まったなとばかりに、レイは気のない返事を返した。


「訓練の場で強力な武器を持ち出すとは言語道断!よって、今までの試合の決着はなかったものとする!」


「まあ、別にいいですけど……」


 貴族の体裁か……と、すぐに察しがついた。

 士気が下がる以外こちら側にデメリットはないので、くだらない口論になるよりはマシだとばかりにレイは相手の暴論を受け入れた。


「それではまた最初から試合をやり直しますか?」


「いや、その必要はない。武器がない状態の強さなど、容易に想像がつくからな。」


 完全に思い込み発言をし始めたフリッツに、この合同訓練の意義を今一度思い出させてやろうかと思ったレイだったが、バカにつける薬はないか、と思いとどまった。


「また、次の試合からは、こちらが用意した訓練用の武器を使用してもらう。」


 騎士のひとりがアルに木剣を持ってきた。

 レイは念のため木剣の鑑定を行うが、特に何の変哲もない木剣だ。


「では、次の試合を始める!」


 アルが前に出るのと同時に、騎士団からもひとりの男が歩み出る。

 男もアルと同じような木剣を手にしていた。

 レイはこちらにも鑑定を行う。



――――――――――――――――


木剣:4級


攻撃力15%上昇


――――――――――――――――



 どうやら木剣に付与が施されているようだ。

 堂々とした不正である。

 しかし、ここで付与の件を指摘してしまっては鑑定スキルのことがバレてしまう。


「騎士団長殿!武器の性能はどちらも同じなのでしょうか!」


 レイは大きな声でフリッツに対して疑問の声を投げた。


「当たり前だろう!誇り高き我が騎士団を愚弄するか!」


(別にどちらの性能が優れてるとか、言ってないんですけどね。)


 内心でフリッツに突っ込む。

 レイがわざわざ大声で確認したのにはもちろん理由があった。


「だってさアル!頑張って!」


「……ありがとうございます。」


 レイの鑑定スキルについて知っているアルは、レイがわざわざ武器の性能を聞いた理由を正確に把握し、感謝の言葉を述べた。


「王国騎士団副騎士団長のヨルグ・フォン・ボーゲルだ。」


「アルフレート・ベッカーです。」


 もはや騎士団側に侮りの空気はなく、それどころかピリピリとした雰囲気をまとっていた。


「両者構え!――――はじめっ!!」


 フリッツの合図で、両者ともに相手から距離を取る。


 副騎士団長というだけあって、レベルは今までの相手より高い。

 レイから見て、ヨルグは自分と同じ器用貧乏タイプだった。



 ――――――――――――――――


【名 前】 ヨルグ・フォン・ボーゲル

【種 族】 ヒューマン

【レベル】 38


【体 力】 4,255 / 4,255

【魔 力】 2,979 / 2,979

【攻撃力】 2,453

【防御力】 2,437

【速 さ】 1,702

【知 力】 2,442

【スキル】

風刃:Lv.2


 ――――――――――――――――



 特別秀でた部分はないが、全体的にバランスよくまとまっている。

 遠距離で使える魔法スキルも持っているので、完全にレイの下位互換といえた。


 とはいえ、戦うのはアルだ。

 魔力と知力以外のステータスは全て負けているアルが、どう戦うのか楽しみだった。


 お互いに距離をとったふたりは、同時に魔法を行使する。


「風刃!」


「雷槍!」



ドガアァァンッ!!



 ふたつの魔法がぶつかり合う。

 威力はわずかにアルに分があったようで、雷槍の残滓がヨルグの肌を少しかすめる。


「…………」


 傷ともいえないような被弾であったが、ヨルグはかすめた肌を確認して警戒を高め、的を散らせるために円を描くように走り出した。


 逆に、魔法は自分が勝っている事を確認できたアルは、魔法での攻撃を続ける。


「雷槍!」


「風刃!」


 魔法で対応せざるを得ないヨルグは、走りながらアルの魔法に対して自分の魔法をぶつけて、威力を軽減させる。


 魔法のぶつけ合いをしながらヨルグはアルの戦い方を考察していた。


(この魔法の威力と使い方……魔法士で間違いなさそうだな。)


 ヨルグはただ魔法を放っていたわけではなく、アルの戦い方を観察し、どう対応すべきか考えを巡らせていたのだ。


(このタイプであれば近接戦闘は苦手なはず……であれば!)



ダッ



 ヨルグは意を決して、被弾覚悟でアルとの距離を詰め始めた。


「雷槍!」


「風刃!………ぐぅっ!」


 距離が近くなる分当然ダメージも大きくなるが、来ると分かっていれば耐えられない痛みではない。

 代償は負ったが、おかげでアルとの距離を詰めることには成功した。

 手に持った木剣で、魔法を放った直後のアルに斬りかかる。


「はあぁぁっ!」



カンッ



 犠牲を払って得た一太刀は、アルにたやすく受け流されてしまった。


「っ!」


 驚きはしたものの、まだ距離が離れているわけではない。

 この距離ならば魔法を放つことはできないだろうと、ヨルグは果敢に攻め立てる。

 しかし――



カンッ

カンッ

カンッ



 そのことごとくが、アルによってあしらわれてしまう。


(なぜだっ!なぜ攻めきれぬ!?やつは魔法士のはずなのにっ!木剣の付与が効いていないのか!?)


 内心の焦りが表情にも出てきたヨルグ。


 それを見てとったアルは、敢えて弱めていた身体強化を全開にして木剣を振り抜き、ヨルグの手から木剣を弾く。


「うっ!」


 想定していなかった衝撃にうろたえるヨルグ。



スッ



 次の瞬間、ヨルグの首元には木剣が添えられていた。


「まだ続けますか?」


 アルに降参を促されるヨルグであったが、これだけはどうしても聞いておきたかった。


「お前は………魔法士ではなかったのか。」


「いえ、その認識で概ね合っていますよ。」


「っ!ではなぜ剣もそこまで扱える!」


「……師匠のおかげですかね?」


「意味のわからん事をっ!!」



 バッ



 そう言って、振り返りながら木剣を振り抜こうとしたヨルグだったが――



ゴッ



 首元にふるわれた木剣の一太刀に意識を刈り取られ、前のめりに倒れていった。

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