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011 隊員第二号

 次の日、レイたちは冒険者ギルドに来ていた。

 昨日紹介をお願いした女性は、その日も同じ場所で受付をしていた。


「おはようございます。昨日冒険者の紹介を依頼したレイですが、本日紹介できる冒険者はいますか?」


 昨日の今日でさすがにいないだろうと、あまり期待せず聞いたレイだったが……


「おはようございます。レイ様とアル様ですね。お待ちしておりました。」


 挨拶もそこそこに女性は受付からレイたちのいる側へ出てくる。


「今回の条件に合致した冒険者様5名が別室でお待ちですので、ご案内させていただきます。」


 女性がレイたちを先導する。


「もう5人集まったんですか?もっとかかるかと思っていましたが……」


「大変申し上げにくいのですが、お客様の冒険者ランクでこれほど早く冒険者様を集めることができるのはかなり稀なケースでございます。」


「ではなぜ……」


「おそらくですが、レイ様が3人組の冒険者様を完封していたのを見た方々が、噂の足を早めたのではないかと……」


「あー……なるほど。」


 レイは、冒険者たちの情報網は中々に侮れないことを心に刻んだ。


「こちらの部屋で冒険者様方がお待ちです。中へどうぞ。」


 レイは扉を押し開け、部屋の中へ足を踏み入れた。

 部屋の中には長机に並べられている椅子に、少年、少女と言って差し支えない冒険者たちが座っており、一斉にレイたちに視線が集まった。

 視線からは期待や疑念などの様々な感情が見て取れる。


「皆様お待たせいたしました。こちらが今回冒険者ギルドの紹介制度をご利用いただいたレイ様とアル様です。……レイ様、この後は冒険者様方に自己紹介をしていただく流れでよろしいでしょうか?」


「いえ、その必要はありません。失礼ですが、皆さんはその場から動かないようにお願いします。」


 そう言ってレイは冒険者たちをひとりひとり鑑定していく。

 レイが鑑定を初めて20秒ほど経過した頃、冒険者の少年が我慢出来ないという風に声をあげた。


「おい!いつまでじっとしてれば良いんだよ!」


 その言葉がきっかけというわけではないが、レイはひとりの冒険者の顔を見ながら告げる。


「青髪のあなた。あなただけ残っていただいてもよろしいでしょうか。申し訳ありませんが他の方々は今回ご縁がなかったということでご理解ください。」


 レイは指名した少女以外には帰ってもらうようお願いした。

 少女はレイが言う通り青い髪で、黒とも紺とも言えるようなローブをまとっていた。

 レイの突然の指名に少女はオロオロと周りを見渡している。


「なっ!?」


 先ほどの少年が驚きの声を上げる。


「顔を見ただけで何が分かるっていうんだ!こういう場では役割や冒険者ランク、倒してきた魔物の実績で決めるのが相場だろう!」


 レイは少年の言葉に取り合わず受付の女性に声をかける。


「こういういざこざはよくあるんですか?」


「はい、ございます。ですが、契約者様の決定を理性ではなく感情や暴力で覆そうとする方には冒険者ギルドから罰則が下ることもございますので。」


 そう言って受付の女性は少年ににこっと微笑みかけた。


「っっ!!」


 さすがにこんなことで罰則を受けるわけにはいかないと、少年は静かになった。

 その様子を見て受付の女性が冒険者たちに声をかける。


「それでは指名された冒険者様以外の皆様はご退出をお願いいたします。本日は当ギルドの要請に応じていただきありがとうございました。」


 受付の女性の素晴らしい対応に、冒険者たちは溜飲を下げ部屋から出ていく。

 部屋にはレイとアル、受付の女性と指名された少女だけが残った。


「僕が今回ギルドに紹介を依頼したレイと申します。こちらは仲間のアルです。」


 レイは少女に向き直り挨拶をした。

 紹介されたアルがペコっとお辞儀をする。


「……わ、私はリリー・フラウエンと申します。よろしくお願いいたします。」


 少女の第一印象は大人しい子だった。


「リリーさんですね。こちらこそよろしくお願いいたします。いくつか質問させていただきたいのですが、よろしいですか?」


「……どうぞ。」


「ありがとうございます。ではまず、戦闘におけるリリーさんの役割をお聞かせください。」


「私は回復と守りのスキルを持っているので、パーティーの後方支援をしていました。」


「……現在どこかのパーティーに所属されていますか?」


「……いえ、先日までは所属していたのですが……追い出されました。」


 リリーは顔をうつむけた。


「もしよろしければ理由をお聞きしてもよろしいですか?」


 話しづらいことかもしれないが、パーティーを追放された原因については聞いておきたかった。


「私は攻撃系のスキルを持っていない上に剣を振るう力もないので、中々レベルを上げることも難しくて……パーティーメンバーとの間にレベル差ができてしまったんです。」


「なるほど。」


「スキルの効果もまだまだ弱くて、ポーションで代用が効くと言われてしまって……」


 話すごとに俯いてしまうリリーに対してレイが放った言葉は……


「それは好都合でした。」


「っっ!」


 レイの思いがけない言葉にリリーは悲壮感あふれる表情でレイの顔を見上げた。


「これは失礼いたしました。僕が申し上げたのは優秀な人材であるあなたをパーティーが手放してくれて良かった……ということです。」


「……?」


 リリーはレイの言っていることが理解できず、顔に疑問符を浮かべる。


「僕は是非あなたに仲間になっていただきたいと思っています。」


「今の話を聞いて……なんで……」


「僕は人の本質を見抜く目を持っていますから。」


 レイの目にはリリーの適性が見えていた。


 ――――――――――――――――


【回復魔法】S

【結界魔法】A


 ――――――――――――――――


(結界魔法の適性も十分すごいけど、回復魔法の適性に関しては天才クラスだ。)


「本質を見抜く目……魔眼持ちなんですか?」


「魔眼……?いえ、僕は魔眼持ちではありません。」


 レイは初めて聞く魔眼という単語についてもっと詳しく聞きたかったが、常識知らずがバレると面倒だと思い知識欲を胸の奥にしまった。


「……?」


「まあ勘のようなものですよ。」


「……はぁ。」


 リリーはおかしな人を見る目でレイを見つめた。


「そうだ。紹介で知り合った冒険者とはパーティーを組まなければいけない決まりはありますか?」


 レイは気になっていたことを受付の女性に尋ねた。


「いえ、飲食店の従業員や永続的な護衛の人材探しにも紹介制度は利用されておりまして、紹介後の契約等については冒険者ギルドは関与しておりません。」


「それだと、優秀な人材を引き抜かれてしまうんじゃないですか?」


「ここ辺境伯領の冒険者ギルドではAランク以上の冒険者様の引き抜きには介入する決まりとなっておりますが、Aランク未満の方々に関しましては関与しない方針となっております。」


「Aランク未満……ですか。」


「辺境伯領で有事の際、辺境伯軍のお手伝いができるのはAランク以上の冒険者様だけですので。」


「ははっ。それはそうかもしれませんね。」


 辺境伯軍の練度は尋常ではない。

 レイはそれを肌で実感していたため、受付の女性の言葉に納得できた。

 Bランク以下の冒険者だと足手まといになるだけなのだろう。


「ではリリーさん、続きは場所を変えてお話してもよろしいでしょうか?」


「……はい、わかりました。」


「では、僕たちはこれで失礼します。ご紹介いただきありがとうございました。」


「とんでもございません。またのご利用お待ちしております。」 


 そうしてレイたち一行はギルドを後にした。




 ――――――――――――――――




 レイたちはレイとアルが以前串焼きを食べたベンチに来ていた。


 リリーはベンチに座りながら、レイとアルは立ったままリリーと相対する。


「それでですね、リリーさん。」


「……歳も近いようなので、リリーで……大丈夫です。」


「ありがとう。じゃあリリー、僕のこともレイって呼んで。」


「それは……お話次第で決めさせていただきます。」


 その言葉にレイは一瞬ポカンとするも、吹き出すように笑い出した。


「はははっ!そりゃそうだ。じゃあ先に用件を伝えるね。……僕はリリーに僕の部隊に入ってもらいたいんだ。」


「……部隊……ですか?」


 リリーの事情を飲み込めない顔を見かねたアルがレイに声をかける。


「レイ様、辺境伯様にいただいた証書をお見せになった方が早いかと。」


「そうだったね。ありがとうアル。」


 レイは懐から丸められた紙を取り出し、リリーに渡した。


「これで事情の把握はできるとおもうから読んでもらえる?」


「……はぁ。」


 リリーはレイから丸められた紙を受け取り、目の前で開いて内容を読み進める。


「…………っっ!!?」


 リリーがある一文に目を留め、思わずといったように声に出して読む。


「……辺境伯、ハラルト・マルクグラーフ・フォン・ウィズモンドの名において、レイを辺境伯軍客将に迎えたことをここに証明する……」


 右下には辺境伯家を証明する押印がなされていた。


「でもこれって、偽物の文書を作るような人もいるんじゃないの?」


 リリーが驚いている間に、レイはアルに話しかけていた。


「それはあり得ません。貴族の印章には特別な魔力が含まれており、本物かどうかはギルドに持っていけばすぐにわかることです。それに、事が露見すれば問答無用で死罪となりますので。」


「ふーん。」


 辺境伯の影響力があれば大抵のことは出来てしまうだろう。

 すぐに死罪の判決が下されるのも当然だとレイは考えた。


「……レイ様。」


 文書から顔をあげたリリーはレイの名を呼ぶ。

 そこには敬称がついていた。


「ん?」


 アルの話を切り上げたレイはリリーに向き直る。


「……ここには辺境伯軍の客将であるレイ様が、部隊員を集めていると書かれていますが……」


「そうだよ。リリーにはその一員になってもらいたいと考えてる。」


「……そうですか……ここには実務の内容が書かれていませんが……私が部隊員になった場合の業務は雑用とかですか?」


 リリーの的外れな予想にレイは吹き出した。


「はははっ、違うよ。」


 レイは笑いで崩れた姿勢を直し、しっかりとリリーを見つめた。


「部隊を作る目的はガリア大森林の魔物の調査と討伐。リリーにはそこで回復と守りの役割を担ってもらいたいんだ。」


「……私がガリア大森林の魔物を相手にできるとは思えません。……足手まといになってしまいます。」


 以前いたパーティーでの体験が脳裏で蘇っているのだろう。

 リリーは寂しそうに俯いた。


「……アル。」


「はい。」


 レイが唐突にアルの名前を呼ぶ。


「今のアルのレベルを教えてくれる?」


「私の今のレベルは15です。」


「…………」


 リリーはアルのレベルと自身のレベルの違いを知り、膝に置いた手をギュッと握った。


「そうだったね。……じゃあ、2日前のアルのレベルを教えてもらってもいいかい?」


「はい。2日前、私のレベルは…………5でした。」


「……えっ?」


 リリーはそっと顔を上げながらアルの顔を見た。


「リリーさん、これは事実です。私は2日前にレイ様の部隊に入隊し、その日にガリア大森林の魔物を討伐し始め、昨日でレベルが15になりました。」


「たった2日で……でもどうやってレベル5でガリア大森林の魔物を倒したんですか?あの森の魔物の最低ランクはCだったと思いますが……」


「確かにその通りですが、例外もあります。」


「例外……ですか?」


「はい。群れる魔物は群れ全体の脅威でランク付けされていますよね?ガリア大森林の魔物も同じく、群れはCランクでも、単体で見るとDやEランク相当の魔物も多くいます。」


「理屈ではわかりますが……」


「どうやって群れる魔物を相手にしているのか、という事ですよね……答えは簡単です。ここにいらっしゃるレイ様が、群れの魔物を1体だけ残し、他を全て殲滅してくださっているからなんです。」


「っ!?」


 自分と年齢の変わらなそうなこの少年がそれほどの力を持っていることに驚愕した。

 アルの話が事実であれば、少なくともこの少年はCランクの魔物を余裕で相手にできるということを示していた。


「それに加えて……」


「……」


 再度話し出したアルに、リリーはまだあるのかと少し驚いた顔でアルを見る。


「1体だけ残される魔物も動けない状態にしてくださるので、私はそこに魔法を打ち込むだけなんです。」


「……そんな事が可能なんですか?」


「可能です……しかしそれは決して楽な道ではありません。最初は良いんですよ?ガリア大森林の魔物を自分が倒せていることに喜びを感じてもいたんです。ですが、2匹3匹と倒していくうちに魔力が無くなってきてもうそろそろ休憩かな?と思っていると、魔力ポーションを持ってニッコリ笑うレイ様がいたんです。レイ様からは休憩という概念が失われているんです。魔物を倒して次の魔物に出会うまでが唯一心休まる時なんですが、何故かレイ様は魔物の居場所が分かるようで、すぐに次の魔物の場所へ移動するんです。ここで私にはついていかないという選択肢もありました。ですが、私一人では到底相手にできない魔物がウジャウジャしているんです。ただの自殺行為ですよ。それに――」


 アルのトラウマが呼び起こされ壊れてしまったので、仕方なくレイがリリーと話す。


「……ま、まあアルは始めての部隊員っていうことでちょっとだけペースを間違えちゃったかもしれないけど、リリーにはリリーに合ったペースにするつもりだよ。……で、どうかな?部隊に入る気になったかい?」


「……私は……」


 リリーは一度言葉を区切り、何かにすがるようにレイに尋ねる。


「強く……なれますか?」」



「それは君次第だよ。」



 レイは即答した。


「…………」


 レイの突き放したような態度に俯くリリーだったが、レイの言葉には続きがあった。



スッ



 レイがリリーに手を伸ばす。


「この手を取れば絶対に強くしてあげる。リリーなら世界一の回復魔法士になれるよ。」


「私が……世界一の回復魔法士に……」


 レイの言葉を、リリーは自身の口で反芻する。


「ふふっ……あはははっ!!」


 リリーがいきなり笑い出す。

 突然のことだったが、レイは優しくその姿を見守った。


「レイ様。どうか私をあなたの部隊に入れてください。」


 リリーはそう言ってレイの手を両手でギュッと握った。


「ああ、よろしくリリー」


 レイもその手を固く握り返すのだった。



 こうして、レイは2人目の部隊員の獲得に成功した。

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