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001 プロローグ

 小学校のとある一室で、男子小学生と女性教師が話していた。


「――というわけで、少し早いですが僕は本日を以て学校を卒業しようと思います。お世話になりました。」


 男子生徒はペコリと頭を下げ、部屋を出ていこうとするが……


「何がというわけなの!?っていうか学校はそんなお手軽に卒業できるものじゃ無いよ!?」


 女性教師が食い下がるものの、男子生徒は落ち着いて返答する。


「分かっていますよ先生。僕もそこまで考えなしではありません。……卒業証書は諦めます。」


「違う!全然そこじゃ無い!もはや卒業証書なんてどうでもいいから!」


 女性教師のとんでもない発言に男子生徒は呆れた様子で返した。


「なんてことを言うんですか。確かに小学校の卒業証書が役に立つ場面なんて存在しませんが……」


「だから違うって!小学校卒業してこれからどうするつもりなの!?」


「先生、ご存知かとは思いますが、僕は既に社会的に自立しています。」


 男子生徒は一度言葉を区切って続けた。


「親の名義で設立したシステム制作会社は軌道に乗っており、その経営判断を行っているのは僕です。15歳になったら自分の会社を設立し海外へ販路を拡大する準備も既に始めています。……大変失礼かとは思いますが、僕には小学校で和気藹々と素因数分解をしている暇は無いんです。」


「……小学校で素因数分解はやらないよ。」


「そうでしたね……ともかく、卒業は決定事項であり覆ることはありません。先生、短い間でしたが本当にお世話になりました。」


 男子生徒は今度こそ部屋を出て行った。

 女性教師は取りつく島もなく、部屋を出る男子生徒の背中を見て呟いた。


「8歳で小学校を自主卒業って……聞いたことないよ。」




 ――――――――――――――――




「ふぅー。これで会社経営に専念できる。」


 部屋を出たところで玲は肩の荷が下りたかのように息を吐き出した。

 玲にとって小学校は自身の行動を縛る鎖でしかなかった。

 その鎖から玲はとうとう解放されたのだ。


「んーー!」


 玲は目を閉じながらぐっと伸びをした。


「さて!会社に行って需要予測の資料をまとめるか!」


 これからの行動を口にしながら開いた玲の目に飛び込んできたのは――


「……え?」



 ――真っ白な空間だった。



「……VRか?」


 玲の会社でも開発しているVRシステムのことが真っ先に頭に浮かんだ。


「いやVRゴーグル付けてないよな。」


 自身がVRゴーグルを付けていないことからこれがVRの世界でないことを認識する。

 他の可能性を模索しようとしたその時――



『特異点が発生しました。』


「うわっ!!」


 無機質な機械音が玲の耳に届いた。

 驚いた玲は辺りを見渡して声の発生源を探すものの、周りには誰もおらずスピーカーのようなものもない。


「……どうなっているんだ。」


『特異点の発生に伴う被害を確認します。――特異点の発生座標に人間の存在を確認。』


 自分のことかと察することはできても聞こえてくる機械音や特異点の意味もわかっていないため、玲は混乱した状態で耳を傾けることしかできなかった。


『前例がありません。措置を検討します。――検討終了。対象の元の世界への帰還は不可能。並列世界、ガルドへの転移を決定。』


 不穏な言葉が聞こえてきて、玲の額に汗が浮かぶ。


「これは……良い状況とは言えないな。」


『対象の脆弱性を確認。ガルドに適応した能力を付与します。付与する能力を検討中――』


 淡々と話が進んでいく状況に焦りを覚えた玲は機械音に向けて叫んだ。


「おーい!何が起きているのか説明お願いします!」


『スキル【鑑定】と固有スキル【言語変換】を付与しました。特別措置として、対象の願いをもとに生成したスキルを1つだけ付与することが可能です。対象は願いを30秒以内にどうぞ。』


 空中にカウントダウンタイマーが現れ、30、29と数字が減っていく。


「おお……無視した上に勝手にカウントダウンか……悩んでいる暇はなさそうだな。おい!せめて転移するという世界と地球の差異だけでも教えてくれ!」


『……対象の要請を受託しました。カウントダウンを一時停止します。』


「そこは律儀なんだな。」


 カウントダウンが止まったことに玲はほっとした。


『ガルドと地球の差異を確認。――確認終了。ガルドにはスキル、ステータス、レベルという概念、また、魔物やヒューマン以外の様々な種族が存在します。――回答終了。カウントダウンを再開します。』


 再び動き出すカウントダウン。


「か、簡潔すぎる。だがまあ、なるほど、完全にファンタジー世界というわけだな。となると……」


 この状況における最適解を導き出すため頭をフル回転させる。


「魔物がいるのであれば武力が個人の優劣を左右するのは想像に難くない。」


『13、12、11……』


「……あとは願いの伝え方か。どれほどの願いを叶えられるかわからない以上、厳密に指定しすぎず相手の裁量にある程度任せるべきか。……よし。」


『3、2……』



 自他共に認める稀代の天才が出した回答は――




「最強になれる力をくれ」




 ――とても幼稚なものだった。



『対象の要請を受諾。…………該当する能力が見つかりません。代替案を検討します。…………検討終了。固有スキル【早熟】を付与しました。対象の脆弱性の補完が完了したことを確認。転移を開始します。』


「展開はやいな!」


 状況が動くスピードに突っ込むも、もはや応答はなく、代わりに玲の周りがまばゆく光りはじめる。


「今更だけど……まじ?」


 光はどんどん強くなり、とうとう玲は目を瞑ってしまう。


 ――その瞬間光がはじけた。


「っっ!」



 シュンッ



 光がおさまるとそこに玲の姿はなく、白い空間は元の静寂を取り戻すのだった。




 ――――――――――――――――





 どさっ



「いてっ!」


 玲は目を瞑っていたため、平衡感覚を失い尻もちをついてしまった。


「いったいなー。……嘘だろ。」


 目を開けた先に広がる光景は……森だった。

 鳥がさえずり、心地よい風が木々の枝を揺らしている。


「本当に別の世界にきちゃったのか?」


 空は木に覆われているものの、木漏れ日が差し込んでいることから夜ではないことが確認できた。


「日本……じゃないよな。」


 玲は尻もちをついた状態からあぐらをかき、ひざをパシッと叩いて今まで起こった出来事を整理することにした。


「混乱しててもしょうがない。現状の整理をしよう。」


(僕はいつの間にか真っ白な空間にいて、機械音が聞こえてきたと思ったら並列世界に転移させるとか言ってて、鑑定と言語変換、そして自身の願いから生まれた早熟のスキルが付与されたと思ったら転移を開始しますって言われて今この状況ですよと。)


 玲は冷静に自分の身に起こったことを整理した。


(リアルな夢の可能性も捨てきれないけど、おしりの痛みもある。……現実逃避してる場合じゃないよな。)


「本当に異世界に来たのかー。」


 玲の聡明な頭脳は自身が異世界に転移したことを素直に受け入れた。


「——あっ。スキルを付与したって言ってたけどどうやって確認すればいいんだろう……」


(……色々試してみるか。ここはとりあえず定番からいっとこう)


 考えるよりもとりあえず声に出すことにした。


「ステータス!ステータスウィンドウ!ステータスオープン!チェック!チェックチェック!スタータスチェック!開けっ!開けごまっ!……………………うぅ、虚しい。」


 知っている限りの言葉を口にしてみたが、どの言葉にも反応がない。


「うーん。手詰まりだな。…………あっ!そういえば鑑定スキルがあったな。自分を鑑定ってできないのか?」


 疑問に答えるように、玲の前に半透明のパネルが出現した。


「やった!出た!どれどれ……」


 パネルには次のように書かれていた。



 ――――――――――――――――


【名 前】 古谷 玲(フルヤ レイ)

【種 族】 ヒューマン

【レベル】 1


【体 力】 10

【魔 力】 10

【攻撃力】 10

【防御力】 10

【速 さ】 10

【知 力】 10

【固 有】

早熟:Lv.1 言語変換

【スキル】

鑑定:Lv.10


 ――――――――――――――――



「ステータスひっく……村人Aじゃん。まあこの世界の基準なんかわかんないんだけどね。」


 喜びも束の間、見るからに低い自身のステータスに絶望した。


「鑑定のレベルが10だけどなにができるんだ?詳細を見たいな……」


 なんとなく念じてみると……



 スッ



「おっ、見れる見れる!すごいなこれ。」


 表示が切り替わり、鑑定の詳細な説明をみることができた。



 ――――――――――――――――


 鑑定:Lv.10


 万物の情報を知ることができる。

 対象の隠蔽スキルのレベルが同じ場合は鑑定不可。


 ――――――――――――――――



「万物の情報って……なんて曖昧な定義だ。」


 ふと気になって近くの木を見つめて心の中で鑑定と念じてみた。


 目の前に半透明のパネルが表示される。


 ――――――――――――――――


 ガリアの木:1級


 ガリア大森林の木。

 魔素を多く含んでおり、武器や建材として使用できる。

 木材としては最高級品に分類される。


 ――――――――――――――――



「……すごい。こんな詳細に表示されるのか……。って、この木最高級品なんだ。武器にもなるみたいだから枝を持っていっとくか。」


 近場の枝に手を伸ばして折ろうと試みる。


「よっと……ん?あれ……がぎぎぎぎ………はあ、はあ。………………なんでこんな細い枝が折れないんだよ、頑丈すぎるだろ。」


 小指の爪ほどの幅しかない枝は曲がりはするものの折れる気配が一向にない。

 手を離しても曲げた部分は元の状態に戻ってしまった。


「さすが異世界。その辺の木からして普通じゃないな。」


 今いる場所が異世界であることを再認識することとなった。


「そうだ。他のスキルの内容も確認しておこう。」


 玲は言語変換と早熟についても調べることにした。



 ――――――――――――――――


 言語変換


 会話や記述において、自身の言語を任意の言語に変換できる。


 ――――――――――――――――


 早熟:Lv.1


 ・レベル促進


 スキルレベル × 3倍の経験値を取得する



 ・スキル取得促進


 スキルレベル × 5%の確率で、倒した魔物のスキルをランダムに獲得する



 ・スキルレベル促進


 スキルレベル × 3倍のスキル経験値を取得する


 ――――――――――――――――



「よし!言語変換は思った通りの内容だな。これで会話に困ることはないぞ。……早熟はとんでもないな。他の人の3倍の速さで成長できるのか。ここまですごい力をくれるなんて……。機械音さんありがとうございます。」


 固有スキルである早熟のとんでもない性能を目の当たりにして、思わず白い空間で響いていた機械音に感謝する玲だった。


「ていうか魔物いるんだよな……」


 ステータスの確認も終わったところで今後の方針を考えることにする。


「こんなすごいスキルがあっても魔物を倒せないんじゃ宝の持ち腐れだ。でも喧嘩だってしたことないのに……」


 平和な世界で過ごし喧嘩もしたことのない玲にとって、魔物を倒して経験値を取得するなど容易に取れる選択ではなかった。


「ウジウジしてても仕方ないな!とりあえずこの森を出て人のいる場所を目指そう。」


 玲は沈む気持ちを無理矢理持ち上げ、目標を定めて森の中を歩き出したのだった。

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