夢の在り処
小さい頃は、誰もゐない虚空に向かって、おしゃべりをしていた。
暗い部屋の隅に向かって、明日のお弁当の中身について。
沼の鯉や、家の犬と真剣に話をしたり、聞き耳頭巾かお前は、という感じで。
大人になると、不思議と、妙な声は聞こえなくなって、また、あの懐かしい聲色を聞きたいと思う日々。
いじめられっ子を苛めると、学校の花子さんに、血まみれにされてしまうんだぞ。
画鋲を、七不思議のベートーベンの眼や鼻に刺して悪戯をする男子、机に落書きします。
空は青く、15点のテストを、紙飛行機にして、空に飛ばす遊び。
コックリさん、どうか、頭をよくしておくれと頼んだら、「む・り・だ」
夕べ、お父さんが還ってきたのよ。
ちょっと頭の可笑しくなってしまった母が云います。
時計は深夜の一二時。どこかで、通りゃんせの唄が聞こえてきて、玄関の戸を叩く音。
ええ、消して開けませんから。
夢に見る、あなたの横顔が、美しくて…つい、首元に、かじりついてしまいました。
夜なべの恋人。
あの家の人が亡くなった。
毎日人は多く亡くなるけれど、あの人は若かった。
暴力事件を起こして近所から迷惑がられていたけど、ふとした時に道ですれ違った、
面差しは、どこか、捨てられた子犬のようで、哀れで、可哀相な人だった。
複雑な家庭環境の人だったようで、彼が死んだあと、お地蔵様が立った。
古き道、古き過去。
最後の古い想い出とはなんだったか、祖母の背中に背負われて、
風吹く裏路地を、シャボン玉が吹かれていく記憶だったか。
古い昔を思い出すたびに感じるこの不思議な感覚はなんだろう。
しかも、なぜか何処か心地いいのだ。
母の羊水を思い出すような。
古い写真に、思い出の花を添えて。
幼き日、見知らぬ子と遊んだ記憶がある。
その子は、卒業アルバムには載っていない。
クラスメイトでも学年にも居ないのに、遊んだ記憶がある子。
もしかしたら、寂しい子供に寄り添う影法師の子だったのかも…
便所の花子さん?あの子は、誰?
鶴と亀が滑って転んで、不思議な子と遊んだ記憶。
あっぷっぷ。
家の古いボンボン時計は、午後一三時を指したまま、止まっている。
狂科学者であった祖父が、戯れに造った時計。
時計とは、己を時で縛って、あくせくさせる魔物の道具である。
だから、縄でしばって、動けないようにさせてしまおう。
それにしても、古い時計は、奇妙に光っていて、不思議と惹かれる。
本棚を整理していたら背表紙に、何も書いていない真っ黒な変な本を見つけた。
中には殺人についてのあれこれが書いてある。
あれ、此の、隅の方の血痕は、なんだろう…?
この、手の指紋の跡、指が六本あるぞ。
読み進めていくと、フランケンシュタインの作り方を読んでいる内に、気分が悪くなってきた。
夕焼け小焼け。ノスタルジア。
人魚の尾が、空から降る頃、私は母の子守唄。
秋の化野。崩れた墓石。みな、西日に照らされ。光の経文。
門前寺へは黒い喪服で。光の秘密。夜眠る。
阿弥陀堂の、人面魚。口裂け女に喰われてる。
赤い呪縛。もうすぐ、闇。冬の足音。ひたひたと。
木漏れ日ゆるり。軒下の、温泉街。草津の湯船。しゅらしゅしゅしゅ。
何時まで経っても帰らない父親。墓前の花も、夕焼け色。
下駄の鼻緒が、切れたので、通り魔に持っていって貰おうと、玄関先に置いてきぼり。
朱に呪われた世代の僕ら。
夢見の枕に立つ辻占の呪いのお守り。
線香の火が、ふっと消えました。
湧きいずる魍魎の墓のある、隣の神社。
鳥居のしめ縄が、朱く染まっていたのです…。
確かに、見たのです。その日から、放火魔が、この町に現れるようになりました。
金閣寺。野辺送り、口紅を塗ってみました。
秋深まれり。其処の竹藪の処に真っ赤な風船を持った女の子が、びしょ濡れで恨めしそうに此方を見ている。
硝子の金魚をあげたら、ふっと煙の用に消えた。
赤に呪われた世代の僕らは、おたふくのお面を被って、お墓の前で盆踊り。
潮騒の音が聞こえたら逃げるんだよ。
牛鬼が、浜辺で、仲間になりたそうにしてる。
夢待ち小径。
排水溝の中の月に、そろそろ出てきていいよと云う隠れんぼ。
誰か、僕を呼んでおくれ、この刻の止まった路地裏から。
理科室から盗んできた顕微鏡で、ミドリムシを剥製にする仕事。
日本家屋の二階から、赤い風船を持っている女の子を見つめ続ける。
僕らは紅い呪いに罹っている。
夢見る頃は過ぎても乙女。
稲穂に触れてフォレストガンプごっこ遊び。
目隠し遊びは真昼の月を拝んでから。
秋の道路の上の黄金色の輝きを閉じ込めておく壜。
魔法瓶の底に、目玉を置いておくと、鈴の音が鳴って、通りゃんせとしながら、狐の嫁入り。
線香の馨の、おたふくのお面を被って念仏を唱える祖母。
柳行李に、芒の穂。
秋の手紙を、あなたに。
履かなくなった靴をカーブミラーの処に並べて置いてくる遊び。
けんけんぱの丸の中は竜宮城に繋がっているから気を付けて。
悪戯好きの小鬼が、めそめそ泣きながら砂時計を逆さにして玩具を探している。
抽斗の中の白い歯を、かじったら、禁断の果実の味。
誰の足跡?
路地裏散策。電柱では禁断の果実が点滅を繰り返している。
泣いている?泣いていませんよ。
秋は静かに海に貝殻を流す。
野辺送りの時に、蜉蝣を掌に隠していたのは本当。
世の秘密凡て隠して、阿弥陀堂のお坊さんの抽斗の中の、罪と罰に触れよう。
路地裏では今日も知らない唄が流れている。
夢の在り処。あの日、道端で通せんぼしたのは、誰だったか。
緋色の襦袢姿のまま、朱い信号機の処でお多福のお面で盆踊り。
福笑いは見事に死人の顔みたいになってましたね。
笑い袋は、壊れるまで嗤わせるタチです。
お人形も、首や足を外しては、転がしっぱなしで片付けもせず。
子供の事は、よく遊んだ。