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8.難しい話はめんどくさい

 予想外にでかくて攻撃的なリリーちゃんとひと悶着あったあと、俺は案内された部屋でくつろいでいた。

 タフさには自信があったが、変な女神と遭遇したり異世界に拉致られたりで疲れていたようだ。


「はぁ、今日は厄日だ……」


 変な女神に出会ったのはまだ許せるけど、なんでこうなった……。

 いや、女神が……リーチェが全ての原因か。


 何度目かになるか分からない文句を心の中で言おうとした時、ふとリーチェのことを思い出した。


「そういえばリーチェって今どこにいるんだ?」


 吹っ飛ばしたあと放置していた気がする。

 腐っても女神だから死んでることはないと思うが、迷子になっていそうだ。

 俺自身もあまりこの世界のことは分かってないけどリーチェは満足に人と話すことすらできないんじゃ……。


 いくらなんでも放置しては可哀想かと立ち上がった時、脳内にどこかで聞いたことのある声が響いた。


『やあ、変な天使のアル君。突然放り出してすまなかったね。この世界のことは分かったかい?』


「あ"あ"!? 喧嘩売ってるだろ! 世界のことは分かったかじゃねーよ!」


 声だけでは自信がなかったが、この内容はきっとこの世界のエセ最高神に違いない。

 人を拉致った挙句、説明もなく放置したあの野郎だ。


『おお怖い。このまま姿を現すと殴られそうだから、念話で失礼するよ。その様子だとあまりこの世界の状況を理解していないようだね』


「理解するも何も説明しなかったのはお前だろうが!」


 あんな状態で放置されて分かる方がおかしい。

 むしろ俺は頑張った方だろ!

 リーチェとか絶対俺以上にわかってないぞ!


 イラッときたので最高神に当たると、最高神は意外にも同意した。


『まあ、そうだね。その件は悪かったと思っているよ。まさか君たちをこの世界に連れてきた瞬間にプレートの隆起が起きると思わなくてね。びっくりして手を離しちゃったんだ』


「プレートの隆起? もしかして星界で海の底が上がってきたとか? 天変地異のせいで?」


 最高神の言っていることが本当なら、それはヤバイ。

 急に海底が突きあがってくるなど異常事態だ。


 妖花は星界の異変が一番酷いと言っていたが、予想を超える異常が起きている。


『そう、よく分かったね。普通はゆっくり陸地になっていくのに、突然陸地になっちゃったんだ。でも天変地異については誰かから聞いてくれたんだ。助かるよ』


「お前が捨てていったところに現れた夢魔がいてな」


 一瞬魔族である妖花のことは隠そうかと思ったが、相手はこの世界の最高神だ。

 隠したところですぐにバレるだろう。

 ほっとかれたことは許せないが、天変地異の対応をしていたなら仕方がない。

 一応最高神なわけだし、そっちを優先しないといけなかったのかもしれない。


『ああ、夢魔が……。ちなみに夢魔は君たちの世界の色欲とは違ってリアルで相手をしてくれないから気をつけてね』


「…………そうなのか」


 くそ、なんということだ。

 エロを司る悪魔なら相手をしてくれてもいいじゃないか!

 ま、全く残念じゃないけどな!

 薄々そうだと思っていたし!


 何で最高神まで残念そうな声色になっているのかは分からないが、聞かない方がいいこともある。


『それなら良かった。僕も別に気にしてないけどね』


「そ、そうだよな!」


 互いに頷きあった後、微妙な空気が流れる。

 間違いなく残念に思っているであろう最高神だが、俺も同じような誤魔化しをしてしまったから突っ込みにくい。

 この状況に気まずくなったのか、最高神が咳払いをした。


『ゴホン、夢魔の子がどこまで説明したのか分からないけど、僕の方からも簡単に説明するよ。メモの準備はできているかな?』


「メモの準備はしてないから簡潔に教えてほしい」


 変な一体感があったとはとは言えこの最高神のことは信用できない。

 笑顔も嘘臭かったし、あまり長時間話していたい相手じゃない。


『えー、最高神自ら説明するVIP対応なのに酷いな。なんて悲しい扱いなんだ。しくしく。……まあ、君を呼んだのは僕だし許して上げるか。特別だからね!』


「そんな特別どうでも良いから早く話せ。この世界をどうにかして欲しいなら」


 最高神による謎のアピールがうざい。

 男に特別扱いされても何も嬉しくない。

 面倒事に巻き込まれている時点で論外だ。 


『全く。僕じゃなかったらもっと怒ってるところだよ。感謝してね! 前提として、この世界は出来立てだから聖と邪のバランスが崩れやすいんだ。だからもっと進んだ世界から少ない方の属性を持つ魂を貰い受けて成り立っている。今まではこれで何とかやってきてたんだけど……』


「他所の世界に依存してる時点でダメダメだろ。仕事しろ」


『まあ、そういう意見もあるかな。酔っ払った勢いで世界樹が知能指数の高い生命体を作り出しちゃったから管理が大変でね。今回は聖の力が少なくなっていたから聖属性の聖女を君たちの世界から呼び寄せたんだけど、その聖女が僕のところに来た時から寝ていて起きなかったんだ。寝てても聖の力さえあれば問題ないし、いつかは起きるかなと思ってそのまま星界に送ったんだけど、そうしたら召喚に立ち会った人も寝ちゃってさ。天使に起こしに行かせたんだけど、天使も寝ちゃったんだよ』


「は?」


 全く意味が分からない。

 世界樹が生命体を作り出すこともあるが、酔っ払った勢いで?

 世界樹って酔っ払うのか?

 しかも呼び出した聖女が最初から寝ているとかどういう事態だ?

 そういう能力を持った聖女を求めたのだろうか。


『世界樹の行動は仕方がないにしても、聖女は僕もどうしてこうなったのか分からないんだよね。僕が求めたのは聖の力の強い魂ってだけだったから。確かに聖の力に満ちた魂だったけど』


「他に条件は付けなかったのか?」


 条件は合っているけど問題も起こすというのはリーチェが転生時にやりがちなミスだと思う。

 そういう例も結構あったし。

 でも力の少ないリーチェが引き起こしたにしては影響力が強すぎる。


 ランダムで能力を授けた時に運悪く最大の能力が宿ったのか?

 人間を超えてる気がするが……。


『付けてないよ。聖の力が強ければ何でも良かったからね。生き物の種類すら指定してない』


「それは随分考えなしな要望だな。それじゃ何がこの世界に影響を与えたのか分からない。聖女と言っていたということは一応人間なのか?」


 リーチェのところに行ってからそう時間が経っていないから転生のことは余り分からないが、普通リスク回避くらいはするんじゃないか?

 相手の世界に悪い影響を与えないということは暗黙の了解なのかもしれないけど。


 俺は転生の泉で見た転生者の一覧を思い浮かべる。


 直近だとスライムにされた男に口のきけない最強魔道士、悪役令嬢の予定がなぜか悪役令嬢の結婚指輪になった女か。

 悪役令嬢の指輪に転生した女が怪しいが、指輪を聖女と呼ぶことはないはずだ。


 一体誰だ?

 見逃していただけで他にもいたのか?


 該当する候補が思い当たらない。

 もしかしたらもっと前に転生もしくは召喚された人物なのかもしれない。


『人間だね。有り得ないくらい強い力を持った女性だ。この世界では有り得ないくらい強そうだよ』


「有り得ないくらい強い力を持った女……。転生時に何か起きたのか、下位世界に来た影響か」


『うーん、いくらこの世界が下位とは言えあの聖の力は異常だと思うけどね』


「そんなに強いのか。ますます分からない。聖女はどこに居るんだ?」


 とりあえず実際に見てみないとなんとも言えない。

 そもそも俺が実際に見たことのある人物ではなさそうだ。

 リーチェに聞いた方が良いだろう。


『聖女は君たちを放置した場所から北に向かったところにある城にいるよ。イメージを送るね』


 最高神にそう言われて送られて来た映像はかなり北のほうな気がする。

 遠いけど飛べばそれほど時間がかからなさそうだ。


「助かる。ちょっと行ってみるわ」


『寝ないように気をつけてね。君は力が強そうだけど、力のある天使も眠ってしまったから』


「分かった。何か対策を考える」


 原因が分からない状態では対策のたてようもない。

 でもなんとかしなければ解決の糸口も見つからないだろう。

 少し無理をしてでも状況を確認したほうが良い。

 このままでは八方塞がりだ。


『それじゃ、とりあえず今日はこのくらいで失礼するね。また連絡するよ』


「ああ、こっちから話したい時は叫べば伝わるのか?」


『伝わらないかな! これをあげるから話したい時は宝石の部分を押してね』


「分かった。ありがとう」


 最高神が伝わらないと言ったとき、俺の元に指輪が送られて来た。

 どこかで見たような形をしているのは気のせいだ。

 けして悪役令嬢になろうとした女の指輪じゃないはずだ。


 分かってはいるが何となく指にはめるのが嫌で、俺は強欲の能力をつかって亜空間に指輪を収納した。


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