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5.女神の秘密兵器

 テレレレッテッテーという奇っ怪な音がしそうな動きでリーチェが取り出したものは靴だった。


 若干踵が高いか?

 いや、分かりにくいだけでかなり盛ってそうな厚底のシークレットブーツだ。


「それ、元より足を長く見せようとしてないか?」


「そんなことはありません。私の足は元から長いです。女神なので!」


「女神の足が長いとか聞いたことねーよ」


 うっかり前より足が短くなったと匂わせるようなことを言ってしまったが、リーチェは気づいていない。

 やっぱりアホだなと頷きながら午後の仕事ひるねに戻ることにした。


「ちょっ! 何寝ようとしてるんですか!? いくら転生予定の魂が到着してないからと言ってもやることはあるんですよ!」


「おー、がんば。お前ならできる。やれば出来る子だと俺は知っている。さすが女神だ」


「えへへー。そうなんですよ。やっとアルも私の素晴らしさが分かったのですね」


 女神は機嫌よく転生の泉を覗き込み何かをし始めた。

 さて、邪魔者はいなくなったしこれで気分良く寝れる。

 おやすみなさ……。


「ってちがーう!! アルもやるんです!! 何私にだけ仕事させようとしてるんですか!?」


「ちっ」


「え? 今の舌打ち? 私に舌打ちしました? 天使なのに!?」


 くー、起きろーと体を揺すってくるリーチェがうざい。

 こんないい天気なのに仕事なんてしてたまるか。

 俺は寝るんだよ。


 魔界にいる時に身につけた揺すられても寝るスキルを発動する時が来た。

 おやすみなさ……。


「えーっと、此処に転生を司る女神がいると聞いたのだが、お邪魔だったかな?」


 くそ、どいつもこいつも俺の昼寝の邪魔しやがって。

 厄日すぎるだろ!

 どこから出てきやがった!


 内心で悪態をつきながら俺は声の方向を向いた。


 聞いたことのない爽やかな声が気になった訳じゃない。

 俺だって負けてないんだからな。


「「誰?」」


「ちっ」


「えっ、声が揃っただけなのに舌打ちしました!? 私の扱いが雑じゃないですか!?」


「空耳だろ。きっと」


 そう、こんな天気のいい日には幻聴が聞こえたり幻覚が見えたりするものさ。

 じゃなきゃ俺よりイケメンが現れたりしない。

 声だけじゃなくて顔まで爽やかとかふざけるなよ。

 俺だって本気をだせばお前ぐらいぎゃふんと言わせられるんだよ。


「やっぱり問題なのは髪型か……」


「髪型がどうしたのか分からないけど、随分面白い顔の天使だね。この世界のデフォルトなのかな」


「「違います」」


「ちっ」


「舌打ちまでをワンセットにしないでください! 私よりあなたの方が偉いんですよ!」


「私より貴方が偉い? 俺がリーチェより偉い? まあ、そんなこともあるかもしれないな」


「あるわけないです!! 間違えたんですよ!! 揚げ足をとらないでください!」


 それは本当に間違いかな?

 実は正しいことかもしれないぞ。

 魔界に落ちれば女神より俺の方が上に……ならないな。


 神が堕天…………堕神か?したと聞いたことはないが天界で上位の者は魔界に落ちても上位のままだ。

 力が聖から邪に変化するだけで保有量は変わらないらしい。


 あー、でもこいつ力ほとんど持ってなさそうだから俺のほうが上かもしれないな。

 さっき信仰心が切れたとか言ってたし。


 どうやって堕神させてやろうか考え、ニヤニヤしている間にも神っぽい爽やかな男とリーチェの話は進んでいく。


「へー、顔のやつガスマスクって言うんだ。アレルギーって大変だね」


「私も詳しくないのですが、あなふぃらきしー?っていうのが起きると命に関わるらしいです。アルなら一回くらい起こしても良いと思うんですがね!」


「そんなこと言っちゃダメだよ。僕の世界の天使なんてみんな機械人形オートマタみたいでつまらないんだから。ちゃんと自我があるだけで感謝しなきゃ。かなり変わってる子みたいだけど」


「確かにアルは変ですよね。あまり天使っぽくないです。それがアルなんですが」


「俺はちゃんと天使だ! あとリーチェ、お前は覚えとけ。もっと足短くしてやるからな」


 危ない危ない。

 こんなところから悪魔だとバレたらたまったものじゃない。

 リーチェはともかくこの男は何か掴んでいそうだ。


 爽やかな顔の裏で何を考えているのか全く読めない男を睨みつけると、男が面白そうに笑った。


「いいなぁ。君、僕の世界の天使にならない? 僕のとこの天使喋り方までカクカクしてて僕もうつっちゃいそうなんだ」


「だめです! アルは私のものです!!」


「異世界に行くのは嫌だが俺はお前のものでもない! そもそもお前は誰だ!」


 異世界とか面倒な響きにしか聞こえん。

 そもそも俺は悪魔だ。

 リーチェはバカだから一生気づかなさそうだが、こいつは何かやばそうだから近寄りたくない。

 知らない奴だし。


「ん? 僕は異世界の最高神だよ。君たちが僕の世界に来ることは既に決定しているんだ。だから……ごめんね?」


 言うが早いか男がリーチェと俺の腕を掴もうとする。


「させるか!」


 こんなこともあろうかと眠そうにしながらも警戒していた甲斐があった。

 リーチェは簡単に捕まったが、俺はするりと男の手から逃れる。


 異世界の神だかなんだか知らないが舐めるなよ。

 俺だって魔王の息子なんだ。

 平和ボケしてるリーチェと一緒にすんな。


「へー、やるね。でもこの娘がどうなっても良いのかな?」


「え!?」


 男の発言にリーチェがギョッとして暴れだす。

 ようやく身の危険に気づいたらしい。


 神とは思えない発言だが、何故かこいつは脅し慣れしてそうな雰囲気を醸し出している。

 どう見てもやばいやつだ。


「わ、私に何するつもりですか!? これでも最高神の娘なんですよ!」


 ほー、権力で脅迫するとはやるな。

 まさか最高神の娘とは思わなかったが強力な切り札だろう。

 通用する相手なら。


 そう考えながら俺はじりじりと男から遠ざかる。

 この隙を逃したら逃げられなくなりそうだ。


「んー、最高神に喧嘩を売る気はないよ。でも悪いけどこの世界の世界樹から許可は頂いているんだ。君のせいで僕の世界が滅びそうだからね」


「やっぱりお前……」


 いつか世界を滅ぼすとは思っていたが既に重症を負わせていたとは知らなかった。

 さすが馬鹿リーチェ

 想像を裏切ってくれる。

 って、あ………。


 あまりの内容につい声が漏れてしまった。


「そうなんだよ。酷いよね。君も逃がさないから覚悟しといて」


「悪いが俺は無関係だー!!」


 目が虚ろな異世界神から全力で遠ざかる。

 爽やかそうだった雰囲気が一転し、病んでそうなオーラに変わっている。


 こんなのに捕まったら絶対に大変なことになるじゃないか!

 病んでるイケメンとかご褒美でもなんでもねーんだよ!!


 俺は過去最高を自負するスピードで魔界へと飛び立った。


「君早いね。さすが羽が2対4翼ある上位天使なだけある。でも、強敵から逃げる時は目を離しちゃいけませんって習わなかったのかな?」


「それは熊にあった時の対処法であって、神に対するものじゃねー!!」


 なぜかすぐ後ろから聞こえてくる声に恐怖しか感じない。

 いつでも捕まえられるのにわざと逃がして遊んでいるのではないだろうか。


 そんな嫌な予感が頭をよぎる。


「こんな上位神を相手になんてしたくねーよ! リーチェならともかく」


「ひど! アル酷いです! 許しませんからね! あと、異世界の最高神とはいえ私より格下です! 神格は」


 力はどう見てもあいつの方が上じゃねーか! 

 ふざけんなよ。

 もし本当に格上なら追っ払ってくれ!


「追いかけてくんな! リーチェに責任をとらせればいいだろ!」


 元を正せばリーチェの責任のはずだ。

 今日初めて天界に来た俺は無関係だ!


「でもこの子だけだと不安でね。連帯責任って言葉もあるだろう?」


 それは本物のアルに言ってくれ。

 俺はアルじゃねー!!

 確かに俺も愛称はアルだけど、天使じゃなく悪魔なんだよ!!


 そう叫びたかったが、叫んだ瞬間天使に総攻撃される可能性がある為、ただ逃げることしかできない。

 天界に邪属性が入ったと分かると総攻撃されると聞いたことがある。

 雑魚なら逃げられるかもしれないが、腕輪で力が半減している今、天界の風紀を取り締まっている主天使の集団が出てきたらオシマイだ。


 一目散に逃げてようやく魔界との境界が見えてきた。

 けれどあと少しというところで異世界神に肩を掴まれる。


「ふーん、やっぱり君、純粋な天使じゃないんだね。でも僕の世界を壊した責任を取ってもらうよ。元凶をなんとかしたら戻してあげるから」


 そう言う男の声が遠ざかっていき、体全体にかかる耐え難い圧で俺は気を失ってしまった。


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