4.珍しく転生成功?
今度はどうやら女の子のようで、泣きそうになりながら辺りを見回している。
「おっと可憐なお嬢さん。何も心配ありません。ここにあなたを傷つけるものなど何もないのでご安心を」
シャキッっと立ち上がり女の子に駆け寄ろうと、すると女神が肩を掴んで邪魔する。
女神が何かするより前に女の子を助けないとこの子までポンコツの犠牲になってしまう。
俺しかこの子を女神の手から救えないんだ!
邪魔をするでない!
懸命にもがいてもポンコツ女神の手が外れない。
馬鹿力は天界の基本スペックなのだろうか。
仕方なく俺は女神に向き直った。
「なんだよ」
顔立ちは整っているものの、リーチェは別に見つめ合いたいタイプでもないのでさくっと要件を言ってもらいたい。
見ているだけでバカが伝染りそうだ。
「ひどいです! なんで私と彼女でそんなに扱いが違うんですか!」
「お前はポンコツだけどこの子は犠牲になりそうな哀れな子羊ってとこだろ? 助けるのは当然じゃないか」
「差別です! 女神差別です! アルはさっきと同じように引っ込んでてください」
「嫌だね」
後ろで見てるだけだったらまたとんでもない加護をつけるに決まってる。
それが分かってるのに黙ってられるか!
今まで何百人がお前の犠牲になってると思ってるんだ。
「こ、こうなっては仕方ありません。神罰です!」
なっ!
悪魔に神罰だと!?
正気かこいつ!!
「あばばばば!!」
全身を貫くような痛みに思わずうずくまる。
悪魔に神罰とかやっちゃいけないやつ!!
効果抜群なんだよ!!
思わず昇天したらどうしてくれる!
あまりの激痛に立ち上がることすらできないでいると、女神が驚いた顔をした。
「えっ、私の神罰ってこんなに効き目ありましたっけ? 確かに3ヶ月分の信仰心を使いましたけど、これはまるで10年以上の信仰心を使ったような効果が……」
神罰って信仰心使うのかよ。
くっそまじで痛え!
絶対に許さん!!
「100倍返しにしてやる……!」
想像以上の効き目に戸惑っている女神に向かって呪いを発射する準備をする。
「何が一番こいつににダメージを与えられるんだ」
異臭を発する呪いをかけても気づかなそうだし、歯にものが詰まる呪いをかけても女神が食事をするのか分からない。
とりあえず足が短くなる呪いと髪の毛がてっぺんの1本を残して死滅していく呪いをかけてみた。
直接死亡する原因にはならないが、精神的にダメージを与えられるはずだ。
たぶん。
未だかつてないほど対象を睨みつけながら嫉妬の能力を使用する。
ハゲろハゲろハゲろ。
短足短足短足。
物凄い念を込めてみたが、腐っても女神のせいか思った程の効果がでない。
うーん、若干足が短くなったか?
膝の関節ひとつ分くらい縮んだように見えるが、元から短足だった可能性もある。
あまり注視していなかったので、よく分からない。
髪の毛もてっぺんのひと房を除いて角刈りになっているが、なんだか思っていたのと違う。
「まあ、これはこれで面白いから良いか」
角刈りの女神とかこいつ以外に存在しないだろう。
ハゲよりセンスが良いかもしれない。
ひと房長いのが逆に腹筋を攻撃してくる。
「何が面白いのですか? さっきの女の子ならアルがブツブツ言ってる間に異世界に飛ばしておきましたので安心してください」
「安心できるか!! 一体どんなオプション付けやがった!」
辺りを見回しても女の子がいない。
この女神が送ったのなら碌な加護がついていないだろう。
少し目を離すとこれだから女神は嫌なんだ。
俺は一目散に転生の泉に走った。
「……あれ? この泉壊れた?」
「失礼な! 私だって忙しいのです! 転生や転移する全員に加護を授ける訳がないじゃないですか!」
「何もなしでこれって元のスペックが高くないか?」
「いえ、これは行った先の神がつけた加護ですよ。こういう依頼も多いのはアルも知ってるでしょう?」
「え、そうなの?」
全員にとんでも加護を渡しているものだと思っていたが、違ったらしい。
調べてみると何もしないで異世界へ渡している魂が結構ある。
さっきは加護を与えた魂だけをピックアップして検索してしまっていたようだ。
なるほど、何もしてないなら安心だ。
この女神でも依頼された異世界に送ることだけは間違いなくできている。
あの女の子は無事に求められている世界へ旅立ったのだろう。
女神の手が加わってないことほどホッとすることはない。
ちゃんと仕事しろ。
「むしろ私が何らかの加護を授けないといけない方が特例です。異世界転生や転移で最も多いのはふらふら彷徨ってこの世界に来ちゃった魂を戻す役目ですから」
「世界を股にかけた迷子かよ! スケールがでかいな!」
「意外とあるんですよ。この世界は魂と世界の結びつきが強いので一度この世界で生を受けるとこの世界に縛られることになりますが、できたばかりの世界だと魂と深く結び付けないので飛んで行きやすいのです」
「お前、ちゃんと女神だったんだな」
変な髪型にして悪かったよ。
後悔はしてないけど。
「今更ですか!? でも私を認めたのなら崇め称えるが良いのです! まずはそのお前という呼び方から変えて行きましょう!」
「それは無理」
「なぜですか!!」
いい流れだったのにと叫ぶ女神を無視して髪の毛の呪いだけ解除してやることにした。
十分笑ったし許してやろう。
俺の広い心に感謝するがいい。
よく考えれば一切防御もしてない平の悪魔でさえ殺せない神罰だ。
ちょっとやりすぎてしまったかもしれない。
まったくもって後悔はないが。
ただ、心の中でだけはリーチェと呼んでやろう。
そんないい感じに締めくくろうとした瞬間、リーチェがこけた。
狙ったかのように見事な顔面ダイブだ。
これは地面がリーチェを呼んだのか、リーチェが地面に魅了されたのか。
中々見ることのできない大胆な転け方だ。
骨折はしていないものの鼻とおでこが赤くなっている。
さすが女神。
持っているものが違う。
俺ではこんな転び方はできない。
「な、なんだか歩きにくいです……。スカートも引きずっているような……」
「元々だろ。短足」
ぷっと笑いながら言うとリーチェが睨みつけてきた。
自分の体の違和感に気づいたらしい。
「アル! 貴方何かしましたね!? 解除してください!!」
「あー、腕が重くて無理だなー。腕輪とってくれたら肩が上がって足の長さ治せちゃうかもシレナイナー」
「胡散臭いです! 早く治しなさい! 神罰を与えますよ!」
ちょ、待て!
神罰はやばい、神罰は。
若干焦ってリーチェの呪いを解くか悩んだ瞬間、静電気のような痛みが体を襲う。
「見掛け倒し?」
バチッっと音はしたものの痛みがほとんどない。
さっきと違って見た目重視の神罰だったようだ。
光は先ほどと同じように出ていたが威力が全く違う。
「う、信仰心が切れました……」
「え? 信仰心って切れるものなの? どういうこと?」
元々天界のことなんて噂程度しか知らない為、神罰の仕組みなどよく分からないがリーチェに神罰は過ぎたものだったらしい。
よく見たら後光も消えているし、足も地面についている。
「し、仕方がないのです……。腕輪は外せないので秘密兵器を出します……」
リーチェはしょんぼりしながら背後を向き、何かを取り出した。