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3.この女神はポンコツ

「な、なんだ?」


 突然叫ぶなよ。

 びっくりするだろ。


「さっきの人を人間に転生させられなかったかもしれません。オプションとして人間を付けなかったのでランダム転生です」


「それは下手したらゴブリンに転生するってことか?」


「えっ! えっと、でもあの世界の神からの依頼は死なないで魔力のタンクになってくれる魂だったから問題ありませんね! 彼も人とは指定しなかかったので私のせいじゃないのです! 魔力の器は極限にしてあるので!!」


 女神の視線が彷徨い、変な汗をかいているのが見える。


 これは普通に間違えたんじゃないだろうか。

 認めたほうが楽になれるのに。


「確かに、死にたくなっても死ねない不死の肉体を与えたならその条件は満たしてるんだろうな」


 俺はどこかの世界に転生させられていった男に向かって両手を合わせておいた。


 せめて好みの異性に出会えるといいな。

 俺は絶対嫌だが。


「そうです! 死ねないので条件は満たしてます。問題ないのです!」


 女神は作戦通りというような表情を浮かべている。

 体のいい言い訳に食いつく様子が必死すぎる。


「……さっきの男がどんなステータスで飛んでったか見れないか?」


「そこにある転生の泉で見れますよ。そ、れ、よ、り! 私は女神なのですよ? そのタメ口をやめてください! 失礼ですよ!」


「あー、お前が尊敬できる女神になったら考えるわ」


 後ろで文句を言う女神を適当にあしらい、指し示された転生の泉を覗き込む。

 この泉は異世界に転生もしくは転移させた生命体のデータベースになっているようだ。


 NEWという文字が踊っているファイルをタッチすると、ひとりの男の顔が浮かび上がってくる。


 さっきの男の顔なんてしっかり見てないし、あまり記憶にも残ってないが恐らくこれだろう。


 美人の顔なら一瞬で覚えるが男はダメだ。

 頑張っても覚えられん。


「うわー、これは酷い」


 あまりに残酷な運命に思わず呟くと、女神も転生の鏡を覗き込んできた。


「なになに、転生先はスライムのオスなのですね。魔法の器は極限だけど魔法適性が微。異性への誘惑と不死身は極ですか。スライムって単一生殖じゃなかったですか?」


「この世界だと違うみたいだな。受精するとメスがオスを飲み込んで養分にするらしい」


「溶かされる……?」


 不死身極ってことは溶けても復活するのか?

 えぐいな。

 しかも異性への誘惑も極。

 ハードな人生……スライム生が遅れそうだな。


「お前、これ他にも色々ミスってるじゃないか。よくこれで今まで何とかなってるな」


 他の転生者や転移者の情報を見ても酷いものが多い。


 勇者になりたいやつには魔剣を与え、王侯貴族転生を望んだ者はオークロードに転生。

 異性にモテたいやつにはウィンクしたら星が散るエフェクトの出るスキルを与えるとかもはや罰ゲーム。

 かすってなくもない辺りが憎たらしい。


「だって、仕方がないんです! 私に対する信仰心が足りてないせいで大枠を決めたらランダムになっちゃうんです! 一個だけは決められますがそこは転生先の神の要望で埋まっちゃいますし」


「お前も一度オークロードとかウィンクしたら星が散るようになってみたら良いんじゃないか? 魔剣を与えられた勇者とか、もはや勇者か分からないし」


「嫌です! オークロードとか魔物じゃないですか! なりたい人の気がしれません! エフェクトで星の散るウィンクはいいかもしれませんが」


 全部嫌だろ。

 冷静に考えてみろ。

 ウィンクで星が散るんだぞ。

 どう考えてもただの変人だ。


 やっぱり女神の思考は分からない。

 分かりたくもないと思いながらため息をついた。


「実は目立ちたがり屋だったのか。まあ、後光が射してるし目立ちたがり屋なのかもしれないけど、そんなことで信仰心は稼げないぞ」


 神が地味を好むと信者が増えないのかもしれないが、ウィンクする度に星が散るとかいくら神でも話しにくそうだ。

 間違いなく目に優しくない。

 話しかける気も失せてくるだろう。


「でも! でも、これくらいした方が信者ができやすいと聞いたことがあります」


「じゃあやってみれば良いんじゃないか?」


 女神の目に星が入ってようが瞬きする度に発光しようが俺としては構わない。

 腕輪を外してさえくれれば他人だし、どうでもいい。


「やるだけの信仰心がないんです! こうなったら地上に降りて人を昇天させるしか……」


「それ、殺してるよな? 神様がやっていいことなのか?」


「ダメという決まりもありません!」


「俺に関係のないところでなら勝手にすれば良いんじゃないか。今はダメだけど」


 これじゃあアルとかいう従者の天使が逃げるのも分かる気がする。

 俺は悪魔だから人の不幸は蜜の味だが、天使は思いやりと慈愛と規律に溢れる存在じゃなかったか?

 聞けば聞くほど慈愛とはかけはなれてるんだが。


 神にまでなると博愛の精神が欠如する可能性もあるらしいが、普通に考えたら天使より優しさに満ち溢れているはずだろう。

 こいつだけ特異個体だとしか思えない。


 もしかして魔神とか邪神と言われる類か?

 そんな神がいるとは聞いたこともないが、こいつを見ていると居てもおかしくない感じがする。


「うぅ……。私だって頑張ってるのに」


「方向性が間違ってる。出来ることを先に言っておいたらまだましかもな」


 なんで俺はこんなところで女神にアドバイスなんかしてるんだ。

 アホらしい。


 適当に言いくるめて腕輪とってもらって手頃な天使を探そう。

 こんな女神がいるんだから魔界に憧れる天使もいるだろ。


「はわわ、もう次の転生者の魂が来ちゃいます。何か良い案ありませんか」


「なんで俺に聞くんだ? ガスマスクつけてる天使なんか、あてにするなよ」


「え? ガスマスクはアルのトレードマークでしょう? 貴方は聖気アレルギーじゃないですか」


 まじかよ。

 どんな天使だそれ。


 自分の瘴気アレルギーは棚に上げて思わず突っ込む。

 今回は口からは出てないはずだ。


「この腕輪外すなら考えてやってもいいな」


「ぐぬぬ、そういう交渉は卑怯です! 取った瞬間逃げるのが分かってるのに外せません」


「ひどいなー。女神さまなのに俺のこと信用してくれないんだ」


 若干棒読みだったが、少し俯いて表情を曇らせてみる。

 名役者と呼ばれた俺の力を受けてみよ。

 純真な女神には効果抜群のはず。 


 これでこんな女神とはおさらばだと思わず口元をにやつかせるが、女神(笑)には効かなかったようだ。


「そんなことしても騙されませんよ! ガスマスクで顔のほとんどが見えません! そのマスクは口だけじゃなくて目まで覆うタイプじゃないですか」


「ちっ、自分も小細工するような女神には通用しないか」


「ちょっと! 聞こえてますよ!?」


 もっと女神として敬えとか言ってくるが、今までのどこに敬う要素があったのか教えて欲しい。

 スライムに転生した男に謝ってから言え。


「いいですよーだ! アルが言ったできることを先に言うっていうの実践するので。アルは黙ってそこで見ててください。華麗なる私の女神っぷりを!」


 カレイなる女神っぷり?

 魚になるのかな。

 どうでもいいけど。


 不安しかないこの女神がしっかりと仕事を終えられるとは思えない。

 どうせまた失敗するのがオチだろう。


「まあ、好きにやれば良いんじゃないか? 俺は此処で座ってるからさ」


 立っていることすら面倒になってきたので原っぱに寝転がる。

 天界というだけあって太陽が心地良い。

 魔界の澱んだ空気とは大違いだ。

 このままだと浄化されそうな…………ぐぅ。


「それ寝てるじゃないですか! 見る気ないですね!! 起きてくださいよ!!」


「あー、起きてる起きてる。おーけーおー…………」


 女神ががくがくと俺を揺すっている時、ちょうど次の転生者が来たようだ。

 目を開けていられないほどの光が辺りを包み込む。

 先ほどの男とは格が違う登場だ。


 俺は少し興味を持って、光の終息を待った。


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