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2.天界の三文芝居

 不思議なことに天界へは普通に入ることができた。

 魔界と違って空が眩しい。

 晴天や光の中とはこういう光景のことを言うのだろう。


 なんとなく居心地の悪さを感じながらシュコー、シュコーとガスマスク越しに息をしていると何故か2枚羽のキラキラした天使に腕を掴まれてしまった。

 しかも掴まれた瞬間、手首に何かが巻きついた感じがする。


 気になって見てみると、複雑な模様のついた銀細工の腕輪だった。


「やっと見つけました! 何してるんですか! リーチェ様がお待ちですよ」


「え、誰?」


「またまた、そんなことおっしゃっても逃げられませんよ。貴方様はリーチェ様の付き人なのですから」


 変な腕輪を付けられたので驚いたが、この天使は俺を悪魔だと気づいていないようだ。


 誰かと勘違いされている?

 俺みたいな天使がいるってことか?


 不思議に思いながらも抵抗せずについて行くと、薄緑色の髪に琥珀色の目をした()()()()な女神がいた。


 え、なんか後光さしてない?

 俺はあれに近づいて大丈夫なのか!?


 ぴかーっと光る様は一般的な悪魔など浄化してしまいそうなほどだ。

 女神には初めて会ったが、誰かが忘れられない見た目と言っていたのも頷ける容姿をしている。

 なぜか宙に浮いているところも女神っぽい。


 だ、だまされた!

 絶対こいつ俺が悪魔だって気づいてる!!


 腕を掴む天使から離れようともがいてもなぜか手が外れない。


「逃げようとしても無駄です。一緒に来てもらいますよ!」


「い、いやだー!!」


 空中で足を踏ん張らせても当然立ち止まれない。

 

 く、くそ!

 天使ってこんなに馬鹿力なのかよ!

 こ、こんなところで終わってたまるか!!


 必死に抵抗するが、天使は意に介さない。

 どうやらよほど逃げられたくないようだ。


 くっ、どんどんと浄化の光が近づいて昇華され……。

 昇華…………されてないな。

 なんだ、見掛け倒しか。

 心配させやがって。


 女神の目の前まで連れてこられたが、体に異常はない。

 光に当たっている部分が知らぬ間に消失しているということもなさそうだ。


「アル! 貴方どこに行っていたのですか! 仕事が入りましたよ!」


「えっ、なんで俺の名前……」


「自分の従者の名前を忘れる神なんていませんよ。貴方こそどうしたのですか? いつもよりガスマスクの色が悪いような」


 突っ込むとこそこ!?

 女神の従者ってガスマスク着用なの?

 どんな職場!?


 訳が分からず驚いている間も、俺を連れてきた天使と女神が何かを話している。

 

「では、お連れしましたので私はこれで。申し付けられていた通り腕輪も既に」


「ありがとうございます。これでアルも私から逃げられなくなりましたね。うふふふ」


「ど、どういう意味でしょう……」


 恐ろしい響きに戦慄が走る。

 

 こ、こいつまさかヤンデレとかいう……。

 女神なのに従者が好きすぎて病んじゃったの?

 え、この腕輪まさか……。


 抜こうとしても腕輪は抜けない。

 強欲の能力をつかって鑑定してみると、神器と出ていた。


「貴方がいつも仕事から逃げるから、逃げられないように力が半減する加護と私が魅力的に見える加護とどこにいるか分かる特性をつけた腕輪をプレゼントしたのです。如何ですか?」


「神器じゃなくて呪いの腕輪じゃねーか!! 今すぐ外せぇぇ!!」


「外すわけないじゃないですか! それ作るの大変だったんですよ!! そのせいで寝不足になって仕事にも支障が……。あ、いえ何でもないです。私は完璧なので!」


 普通に外そうとしても外れないなら強欲の能力で亜空間に収納すれば問題ないはずだ!

 って、できないだと!!


 名案だと思ったのに、神の加護(笑)のついた腕輪のため体から離せませんという文字が脳内を踊る。


 神ならもっとまともなところに力を使えよ!!

 というかそもそもアルとかいうやつ、天使ならちゃんと仕事しろ!

 堕天させるぞ!!


 自分のことは棚に上げて腕輪と奮闘している間に女神の仕事場に到着したようだ。


「え、ここってただの野原……」


「転生の原っぱですよ。もうすぐ転生予定者が来ます」


 転生って勝手にシステム的にやられてるんだと思ってたわ。

 一人一人挨拶するとか神様って暇なんだな。


「違いますよ。ここは異世界へ転生する魂の玄関口です」


「なんで考えてたことが分かるんだよ。腕輪の力か?」


「普通に口から漏れてましたよ。いつもどおり」


 そのアルって天使、大丈夫かよ。

 この女神も中々やばそうだけど、天界って思ったよりフリーダムなんだな。


 これなら天界も悪くないと考えていると転生予定者が現れた。


「こ、ここ何処……。ぼ、僕はトラックにひかれて……」


 そこまで言ってがたがた震え始める男を女神が優しく抱きしめる。

 どう見てもただのセクハラだが、慈愛に満ちた目と優しさにあふれた雰囲気に騙されたらしい男が次第に落ち着き始めた。


「そうです。貴方は勇敢にも幼い少女を助けるためにその命を犠牲にしました。その少女は後々、地球の紛争を止めることに貢献する運命を持った少女でしたが、手違いによってトラックが……。もうダメだと思った時に貴方が助けてくれて、感謝のしようもありません」


 そう言いながら涙を流す女神はどこから見ても立派な神だ。

 手に隠し持った刻みタマネギがなければ……。


 うさんくせー。

 これが天界の実態かよ。

 魔界とあんま変わんないじゃん。

 よく玉ねぎ臭さに気づかないな。

 風向きか?


 安物の芝居をシラケた目で眺めている俺に気づかず、男が感極まったように女神を見つめ返す。

 男からはさぞ慈愛に溢れた女神に見えていることだろう。

 時に真実とは残酷なもののようだ。


「いえ、僕は人として当然のことをしただけで」


「その志が尊いものです。思っていても中々実行できる人はいません。私は感動しました。話していても此処まで素晴らしいと感じた人は初めてです。どうですか。異世界で失った人生をやり直しませんか? 貴方のような人が記憶をまっさらにして輪廻転生に戻るのは世界の損失です」


「い、異世界! 本当に僕が異世界に行けるのですか?」


 男はしきりと感動し、女神の手を握る。


 なんか嬉しそうだなこいつ。

 先程までの震えはどこへ消えた。


 普通新しい人生とか嫌だろ。

 めんどくさいことこの上ない。

 目を覚ませ。


 そう考えつつも声にはださない。

 下手に喋って悪魔だとバレれば大変なことになる。


 俺は空気だ。

 そう、思考する空気である。


「はい、異世界に行けます。それに、ただでとも言いません。貴方の行いに応じたスキルもお付けします。異世界は何かと物騒ですので。なにかお望みのものはありますか?」


「チーレム! 世界最強の魔法は欠かせないとして、撫でただけで女の子が惚れる能力に……病気も怖いから絶対死なない体が欲しいです!」


「え、随分と強欲……。いえ、分かりました。私にできる限りの能力をお付けします」


「ありがとうございます!!」


「女神リーチェから不死身の肉体と魔法適性、異性への誘惑の加護を授けます。貴方に異世界でも神の加護がありますように」


 女神が祈るように胸の前で手を組むと眩い光が男を包み込む。

 そしてその光が消えたとき、男の姿はどこにもなくなっていた。

 女神のあああぁぁああ!!という悲鳴と共に。


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