破門宣言
「今日は試験じゃな。魔術師としては誰もが通る道じゃ。グレディオール家の長男として必ず受かってこい」
ふん、俺の魔術の実力はよく知ってるくせに。落ちるとわかってるやつを受けさせないでくれよな。
「もちろんよ、あなた!きっと受かるに決まってますわ!だって何せグレディオール家の長男ですもの。次期当主としてきっちり受かってもらわないと困りますわ!ね、タクト?」
やれやれ、こいつはこいつで嬉しそうに言いやがって。でも母は何も知らないから無理もないか。でもさ、長男とか根拠のない期待向けないでくれる?俺、君たちの間の子じゃないんでしょ?
「あ、ああ。まあぼちぼちやってくるよ」
母は満面の笑み。父はどうでも良さそうな顔。このギャップ、相手にするの超疲れるんだが。
「いってらっしゃい〜」
俺は父、母、弟、妹2人に見送られて聖クリッド王立学院を目指した。
*ーーーー*
聖クリッド王立学院ーーーーここら辺の国中の中では光魔術の最高峰とされる学院。光魔術を学びたい奴らが集まるところだな。
そんなところだから試験内容は光魔術のテストが大半を占める。しかし残念なことに俺は光魔術を使えない。全く、なぜこんなところを受験することになってるんだか。
そんな俺でも光魔術の知識はあり、他のモノを造形する魔術、<クラフト>系や怪我を回復させる<ヒーリング>系は使える。ここら辺をしっかり取れば、受かる可能性も無きにしも非ず。
えっと、最初は……面接か。まあ、仕方ない。こうなったら全力でやってやろうじゃないか。
ーーーーコンコン、ガチャ
「失礼しまーす」
部屋に入ると魔術講師らしき人がいた。
しかし椅子や机のようなものは見当たらない。
講師らしき人は
「じゃ、そこに立ってくれたまえ」
と部屋の真ん中を指す。
「まあ、そんな緊張しなくて良いぞ。面接とはいってもちょっと光魔術の基本ができてるかテストするだけだからな」
「えっ……」
「んじゃまずは基本中の基本、豆光球を見せてくれ」
「あっ……えっと……」
しどろもどろになった俺を見て、講師らしき人は不思議そうにしている。
「どうした?」
「実は…………僕、光魔術が使えないんです」
「は……?君は一体何しにきたというんだね」
「でも他の魔術は使えて、身体能力的にもかなり高レベルだと自負していて、ここで点を稼げばなんとかこの学院受かる可能性も……」
「それで、君は光魔術を学びたいのかい?」
俺は黙り込む。
それを見た講師らしき人は、ハァ〜……とため息をつく。
「もう、帰って良いよ」
俺はその後の試験すら受けさせてもらえなかった。
*ーーーー*
俺はリビングで今日の出来事を報告した。
「なに!?学院の試験を受ける前の面接すら突破できなかっただと!?なんということだ……」
父は酷く落胆しているように見える。はん、白々しい。結果なんぞわかってただろうが。
「あなた、どうしましょう……まさかうちの子が落第なんて……ああ、みんなにはなんて言えば良いの!?」
母も所詮は俺も家の面子立てる道具にしか思ってなかったわけか。あ〜あ、アホくさ。
「こんな出来の悪い子を家に置いておくわけにはいかん。お前は破門じゃ。どこへでも好きなところへ行くが良い。お前が家にいられるのもあと3日だ。その間に準備して出て行くんじゃな」
俺がリビングを出ると弟、妹2人が盗み聞きしていた。
「ギャハハハ、兄貴ダッセー!試験落ちてやんのー!」
「ほんと一家の恥だよねー!一日でも早く出てって欲しいわー!」
やめてくれよ。わかってたとはいえ結構これでも落ち込んでるんだぜ?
ワンチャン受かるかもと思っていただけにより落ち込む。
そんな俺を一つ下の弟ダナン、二つ下の妹ジーラはキャッキャ馬鹿にして楽しんでいるようだ。
しかしそんな中でも四つ下の妹リリィは違った。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、気にしなくて良いよ。ほら、もう寝る時間だ。騒いじゃってごめんよ。おやすみ」
「うん、おやすみ……。あの、困ってることがあったら相談してくれて良いからね」
「ありがとう、でも大丈夫だから」
若干6才にしてこの対応………天使かな?
「相手にしなくていいよリリィ!そいつ光魔術の基本中の基本、豆光球ですら使えないんだからね!んじゃ、おやすみ〜」
「ヒャハハハ!」
君ら3人はしっかり両親の血を受け継いで光魔術を使いこなせるんだもんな。君たちからすれば豆光球なんて1+1のようなもんだろう。
俺は部屋に戻ってベッドに潜った。
くそ、俺にもあいつらのような力があれば……。
もう、何もかも忘れて眠りたい……。
俺はゆっくりと瞼を閉じ、眠りについた。