強襲部隊と謎の魔獣
翌朝、およそ30騎からなる集団がタロレスを出発した。
”再創教団”のアジトを強襲するための部隊である。
一見、その数は少な過ぎる様に見えるかもしれない。
何しろ敵のアジトは地脈地帯に存在するのだ。道中、数多くの魔獣と遭遇することになるだろう。
にも拘わらず少数での部隊を編成したのは、何よりも速さを重視したためであった。
兵の数を増やせば当然歩兵も含まれることになる。
そうなると進行速度も遅くなり、いちいち魔獣を倒しながら進んでいかなければならなくなるだろう。
その間に教団は痕跡を消し逃げ去ってしまうかもしれない。
今は何よりも素早い行動が必要なのだ。
そのため、精鋭を集めた騎馬兵のみで編成し、極力魔獣との闘いを避けながら進むことにしたのだった。
と言っても、歩兵の出番が無いわけではない。
騎馬部隊はあくまでも教団への強襲を目的としたスピード重視の少人数編成だ。
もし教団との闘いで倒れる兵が多く出れば、生き残った者達だけで戻って来るのは難しくなってしまうかもしれない。
その対処として後発で歩兵部隊が出撃することになっていた。
地脈の中で先発隊が身動き取れなくなってしまった場合を想定しての救出部隊である。
尚、先発する部隊にはイルムハートを含むリックのパーティー4人も同行していた。
結局、カイルもイルムハートの同行を認めざるを得なかったのだ。
正直、完全に納得したわけでもない。
イルムハートが決して足手まといになるような人間でないことは解ってはいる。
だが、カイルには王国に仕える身であるため庶民よりも階級制度がより深く染み付いていた。
その感覚が辺境伯の子息を危険な目に会わせることを良しとしないのだ。
(人の気も知らないで……。)
そんな彼の葛藤も知らずに気楽な会話を交わすイルムハート達の姿を見て、カイルは少しだけ恨めしく思うのだった。
「敵が人造魔人程度なら楽勝だろうだな。」
馬を走らせながらデイビッドがいつもの調子で軽口を叩くと、即座にシャルロットから突っ込みを入れられた。
「何言ってるの。アンタはそんな風に油断するのがいけないのよ。
第一、オムイでは全然役に立たなかったくせに。」
「あれはリックに譲ってやったんだって。……まあ、ちょっと本気出せなかったのは確かだけどよ。」
そう言うとデイビッドは少しだけ口を尖らせた。
確かにオムイでの人造魔人戦はリック任せになってしまった。
だがそれは、決してデイビッドの能力が低いからではない。
リックに比べれば劣るのは仕方ないにしても、デイビッドだって十分人造魔人を倒せるだけの力は持っていた。
但し、本気で相手を殺そうとすればである。
デイビッドは冒険者なのだ。
魔獣相手ならためらわず剣を振るえるのだが、人を殺すのが彼の仕事ではない。
例え相手が魔族であろうと知性を持ち意思疎通が出来る相手に対しては、どうしても剣が鈍ってしまうのだった。
冒険者には商隊警護の依頼が入る事もあり、その際に盗賊を相手にすることだってある。
だが、その場合においても目的は敵の無力化であって、殺すのは最終手段でしかないのだ。
勿論、甘っちょろいことを言って仲間を危険に晒すつもりはないので、必要となれば相手の命を奪うことも躊躇しない。
とは言え、最初から殺すことを目的として剣を振るえるほど、デイビッドは人の死に慣れてはいないのだった。
「でも、次は後れを取らねえさ。」
めずらしく神妙な顔付きで語るデイビッドに対しては、さすがにシャルロットも茶々を入れたりはしない。
「アンタの気持ちも解かるけど、それで死んじゃったら意味ないんだからね。」
「解ってるって。」
普段は喧嘩ばかりしているが、姉弟のようにして育った2人なのだ。
何だかんだ言いながらも互いに相手のことを心配しているのは周りも良く解っていた。
ただ素直でない……と言うより、デイビッドが能天気すぎるのがいけないのかもしれない。
「まあ、それでも今回は楽勝だろう。何たって向こうの魔法はイルムが全部消してくれるんだからな。」
そう言って笑うデイビッドを見てシャルロットは頭を抱えた。
「アンタねぇ……。」
「違うのか?」
「魔法ってのはね、ひとつひとつ発動方法が違うのよ。と言う事は消し方もそれぞれ違ってくるってこと。
ひとつの魔法が消せるからと言って、他の魔法も全て同じやり方で消せるわけじゃないのよ。」
「マジか?」
「マジです。」
本気で驚くデイビッドに苦笑しながらイルムハートもその会話に加わった。
「今のところ消去出来るのは防御の魔法だけですね。」
「まあ、防御魔法を使えないように出来るんだから、それでも十分こっちが有利だろう。」
「んー、それもどうかは判りませんよ。
確かに出会った人造魔人はみんな同じ波長の魔力を持っていましたが、おそらくそれは魔石のせいだと思います。
魔石は採掘された場所によってそれぞれ違った魔力特性を持つんです。
多分、オムイの魔人と今回襲撃した魔人には、同じ場所で採れた魔石が使われているんじゃないでしょうか。
だから魔力の波長が同じなんだと思います。
今回、襲撃して来た魔人の防御魔法を消せたのも、そのおかげみたいなものですね。」
「ってことは、もし他の場所で採れた魔石を使った魔人がいるとしたら……。」
「その相手の防御魔法は消せないですね。出来ないわけではないですが、すぐには無理です。」
「そうなのか……。」
ガックリと肩を落とすデイビッド。そこへ更にシャルロットが追い打ちを掛ける。
「それに魔法の消去だって絶対ってわけじゃないのよ。消されないようにする方法はいくらでもあるの。
例えば、自分の魔力波長を少し変えて魔法を使うとか、あらかじめ魔法が消えるための条件を組み込んでおくとか。」
「そんな使い方があるのか?」
「勿論、ある程度魔法の技術は必要になるわ。まあ、アンタじゃ無理だわね。」
魔法に関してはシャルロットに遠く及ばず、こればかりは言い返す言葉が無いデイビッドだった。
「でも、あの魔人達はそれ程の技術を持ってるようには見えませんでしたけどね。」
「そうだな。それは魔法だけではなく戦闘に関しても同じだ。」
今まで黙って会話を聞いていたリックだったが、イルムハートの言葉に反応して口を開いた。
「魔人化のせいで魔力も身体能力も強化されてはいたが、技術の面では全くの素人同然だった。
魔法は威力こそあるものの使うのはせいぜい中級程度だし、戦闘においても武器は使わない。あれはおそらく使えないのだろう。
とてもじゃないが、世界を滅ぼそうとする組織の人間とは思えないほどにスキルが足りなかった。」
その言葉にイルムハート達はハッとする。リックの言わんとしているところを理解したのだ。
「おそらく彼等は、元々一般人で普通に暮らしていた人々なんだと思う。
それが教団によって魔人化され操られているんだろう。」
うっすらとその可能性は感じていた。だが認めたくはない、それがイルムハート達の本音だった。
それを認めてしまうと人造魔人を相手に闘えなくなりそうな、そんな不安があったのだ。
それは人として当たり前の感情なのかもしれないが、闘いの場には不要なものだった。自らの命を危険に晒しかねない。
リックはそんな彼等の気持ちを感じ取っていたからこそ、敢えてその言葉を口にしたのだった。
「彼等を救おうなどとは間違っても思うな。
こちらには彼等を元に戻す手段は無いし、そもそも捕らえられた時点で自爆してしまう。
同情は自分の身を危うくするだけで何の意味もない。
彼等を教団の呪縛から解放してやる、そう考えて闘うんだ。いいな。」
非情な言葉ではあったが、おそらくそれは正しい。
イルムハート達は少しだけ緩みかけていた気持ちを引き締めながら、リックの言葉に頷いたのだった。
「凄いですね、Bランク・パーティーとはあそこまで凄いものなのですか?」
地脈が近くなり魔獣の数も格段に増えた中を馬で駆け抜けながら、騎馬隊の隊長は感嘆の声を上げた。
「しかも、あんな子供まで。」
「表向きこそそうだが、彼等は実質Aランクのパーティーだよ。
リーダーは十分Aランクで通用するし、他の2人もBランクの実力を持っている。」
そんな隊長に、カイルは若干の苦笑を交えて答えた。
「そして、あの子供は……まあ、見た目で判断するなという良い見本だろうね。」
隊長が驚くのも当然だろうとカイルは思う。
タロレスに駐留している以上、隊長とていろいろな冒険者を見てきてはいる。
だが、Bランクほどの高位冒険者とは中々出会うことはなかったのだ。
なので、これがその実力なのかと驚いたのだが、それは多少の間違いを含んだ評価だと言えよう。
彼が目にしているのは実際のランクよりも上の実力を持った連中なのだから。
実際、リック達の働きは凄まじいものだった。
この辺りまで来ると、さすがに全ての魔獣を避けて通るというわけにもいかなくなっていた。それだけ数が多いのだ。
だが、騎馬隊の前を塞ぐようにして立ちはだかる魔獣を先頭に立ったリック達は事も無げに打ち倒してゆく。
剣で、魔法で、騎馬隊の歩みをほとんど止めることなく道を切り開いていった。
中には相当危険な魔獣もいた。通常であれば小隊(軍の場合は30人程度)単位で闘うような相手だ。
そんな相手にも拘らず、まずは魔法で動きを抑え込んだ後に剣で易々と倒してしまう。
彼等の実力は当然として、その連携の見事さにもカイル達は圧倒させられた。
「しかし……これでは我々の立場がありませんな。」
そんな冒険者達の活躍を目の当たりにして、隊長は少しだけ困ったような顔をする。
何故なら、魔獣の排除はそのほとんどがリック達によって行われ、兵士はその後を付いて行くだけの道中になっていたからだ。
軍人としてのプライドが傷つかないと言えば嘘になる。
「まあ、彼等は魔獣退治の専門家だからな。張り合っても仕方あるまい。」
カイルにしても隊長の気持が解らないわけではない。
元々カイル自身は対人戦闘に特化しており魔獣を相手にすることはあまりないので、むしろ有難く思ってはいた。
しかし、魔獣討伐もその任務のひとつである王国軍人としては、完全にお客さん状態となっている現状をそのまま受け入れるのは難しいかもしれない。
まして、思わず見惚れてしまう程の働きをされてしまっては尚更である。力量の差を見せつけられる気分だろう。
「そもそも我々の役割は魔獣の討伐ではなく教団の連中を相手に闘う事だ。
力を温存しておくためにも、ここは彼等に任せておくのが得策だと私は思うよ。」
「それもそうですな。」
カイルの言葉により隊長はなんとか自分の中で折り合いをつけたようだった。
「対人戦闘となれば、さすがの彼等も魔獣相手と同等の闘いは出来んでしょう。かなり手こずることになるかもしれません。
となれば、今度は我々が彼等を助ける番になるわけですな。」
「そう言うことだ。」
隊長の言葉にそう頷いて見せたものの、実のところカイルにはそうはならないだろうという予感があった。
(おそらく彼等は、教団の奴等を相手にした闘いでも十分に力を発揮するだろう。)
冒険者は魔獣には強いが人と闘うのに慣れていない。大方の人間はそんな先入観を持っていた。
だが、強力な魔獣をいとも簡単に倒してしまう連中が人間を相手すると上手く戦えなくなるなど、そんなことがあるはずもない。
確かに人を殺すことには慣れていないかもしれないが、だからと言って非力なわけではないのだ。
何より、10人の傭兵を相手に圧倒的な戦いをして見せたという事実がある。
(それにしても……傭兵達もとんだ貧乏くじを引かされたものだ。)
王都で読んだ資料を思い出し、カイルは彼等を謀殺しようと試みた傭兵達に少しだけ同情した。
その行いから見れば傭兵達の末路に一片の哀れみも感じはしないが、こんなバケモノじみた連中を相手にせざるを得なかったというその事実についてだけは気の毒に思ったのだった。
騎馬部隊が地脈の奥深くに踏み入った頃、何故か魔獣の姿が消えた。
本来ならより多くの魔獣が生息しているはずなのにもかかわらず、逆にその気配すら感じられなくなったのだ。
「どうなってんだ?」
有り得ない事態にデイビッドが訝し気な声を上げる。
「確かにおかしいいな。この辺りが一番厄介な場所のはずなんだが……。」
同じように感じているのはリックだけでない。カイルも兵士達も不思議な状況に当惑していた。
しかし、遠距離探査を行っていたイルムハートとシャルロットにだけはその理由が分かっていた。
「……あの森に何かとんでもないバケモノがいるわ。」
前方、かなり離れた所にある小さな森をシャルロットが指さした。
皆がハッとして森を見つめる中、イルムハートがその言葉を引き継ぐ。
「ここまでの間に出会った魔獣とは桁違いの魔力をもっています。
おそらくヤツのせいでこの辺りには他の魔獣がいなくなってしまったんじゃないでしょうか。」
「そうね、あんなのがいたら怖くて逃げ出しちゃうでしょうね。」
「そんなに凄えのか?……地脈の魔力のせいで、俺には良くわかんねえな。」
眉根に皺をよせながらデイビッドが唸る。
彼も魔法探知は出来るのだが、地脈に入ってからはそれも上手く使えない状態になっていた。
あまりにも強い魔力が充満しているため、細かい識別が困難になってしまっていたのだ。
それは騒音の中にあって会話を聴き取るようなもので、通常の魔力探知とはまた異なるテクニックが必要とされる。
正式に魔法教育を受けたイルムハートやシャルロットとは異なり、デイビッドの魔法は見よう見真似で覚えた自己流に近い。
それはそれで素晴らしい才能ではあるのだが、残念ながら細かい技術までは身に付いていないのだ。
尤も、何度かシャルロットが教えようとしたらしいのだが、面倒臭がって覚えようとしなかったらしい。
まあ、面倒だと言うのは半分口実なのだろう。
彼の目標はあくまでもリックであり、魔法士としての高みではない。
それが解かっているからシャルロットも無理に覚えさせようとしないのだった。
「どれくらいの相手なんだ?」
「それなんだけど……。」
敵の強さを確認しようとするリックの問い掛けに、シャルロットは少しだけ戸惑ったように答える。
「おそらく竜種レベルね。」
「竜種!?」
イルムハートを除く全員がその言葉に驚く。
確かに竜種、つまりは上位ドラゴン系がすぐ近くにいるとなれば誰でも驚くだろう。
しかし、彼等の驚きの理由はもうひとつあった。
「いくら地脈とは言え、竜種が森に棲むなど聞いたことがありませんぞ。」
地脈近辺には強い魔力に魅かれて様々な魔獣が集まって来る。それは事実だ。
だがそれでも、竜種や亜竜種と遭遇することはまず無い。
何故なら彼等の好む地形ではないからだ。
地脈と言うと何やら地面に割れ目があり、そこから魔力が噴出しているかのようなイメージを持ってしまうが、実際にはそうではない。
地形的には何の変哲もない平坦な土地やちょっとした小山程度の場所なのだ。
地中には魔力の”大河”が流れており、それが地表近くを通る際に魔力を放出する。その場所が地脈だとされていた。
一方、竜種や亜竜種は主に山岳地帯や切り立った崖のあるような土地を好む。
巨体ゆえに平地では目立ち過ぎるからである。
いかに魔獣の中では最上位に位置すると言っても敵はいるのだ。防衛本能がそういった土地を選択させるのであろう。
「まあ、竜種でもフォレスト・ドラゴンのように森に棲むものもいないわけじゃないが、アレは大人しい上にほとんど動かずじっとしてるだけだからな。
周りの魔獣が逃げ出したりはしないだろう。
となると、どこからか迷い込んで来たヤツがいるということか。」
「どうする?やっちまうか?」
考え込むリックに向かいデイビッドは事も無げに言う。
「いやいや、相手は竜種ですぞ。そう簡単に言わんでもらいたものですな。」
それを聞いた隊長が冗談ではないという顔をする。
別に彼が臆病だと言うわけではない。
何しろ相手は竜種なのだ。
騎士団や軍の精鋭部隊ならともかく、通常軍の場合は小隊程度の戦力で闘える相手ではないのである。
そんな彼にとってデイビッドの言葉はあまりにも無責任に聞こえたのだった。
だが、デイビッドもノリだけで発言したわけではない。実際、竜種の討伐は何度も行っている。
同時に何体も相手にするとなればさすがのデイビッドも軽い口は叩けないが、シャルロットの口ぶりからするとどうやら1体だけのようだ。
であれば、簡単とまでは言わないものの決して倒せないわけでもない。
そう考えての言葉だったのだが、今回ばかりは少し様子が違うようだった。
「竜種レベルとは言ったけど、竜種だとは言ってないわよ。」
シャルロットがそんなことを言い出したのだ。
「魔力の強さは竜種に匹敵する程なんだけど……何か違うのよね。どう思う、イルム君?」
「そうですね、僕もそう思います。何かこう嫌な感じと言うか、魔力の性質に違和感がありますね。」
表現こそ曖昧であったが、実のところイルムハートはその正体をはっきりと理解していた。
何故なら、森の中の魔獣からは例の黒いモヤのようなものをまとった魔力が感じられたからだ。
「……例の魔人達と似たような、そんな魔力を感じます。」
その言葉に皆の表情が固まった。この場にいる全員がタロレスを襲った魔人の正体を知っているのだ。
「言われてみればそんな感じね。魔力そのものは別物だけど……あの嫌な感じは同じだわ。」
「つまり、魔人と同じように魔石を埋め込まれた”人造魔獣”と言うことか?」
人造魔人と同じと言われれば当然そう考えるだろう。
それは間違いではないのだが、正解でもなかった。
「魔力の感じからすれば、教団の連中が関係してるのは間違いないと思う。
でも、魔人とは少し違う気がするわ。森の中の魔獣はひとつの魔力しか持ってないの。」
リックの問い掛けにそう答えたシャルロットがイルムハートに目をやると、彼も同意するかのように頷いた。
「魔人達からは元々持っている魔力と魔石による魔力、その2つが感じられました。
ですが、森の中の魔獣からはひとつしか感じないんです。
魔石の魔力が強すぎるせいでもうひとつの方が上手く探知出来ないのかもしれませんが……。」
「実物を見て確かめりゃいいじゃねえか。それが一番手っ取り早いだろ。」
困惑するイルムハート達をよそに、デイビッドが森を見つめながらそう言った。
相変わらずの軽い口調にまたしても非難の視線が集まるが、デイビッドは全く気にしない。
彼にもそれなりの考えがあったからだ。
「いちいち相手にしてる時間は無いってのも解かるぜ。
でもよ、もし魔獣が教団のヤツらに造られたモノなら、こんなトコでただ昼寝してるってわけはないだろ?
アジトに近付こうとする連中を追っ払う番犬の役目をしてると考えたほうがいいんじゃねえか。
だとすれば、どの道ただでは通してくれねえと思うけどな。」
その言葉にカイルを初め騎馬隊の兵士たちは驚いたような表情を浮かべる。
単なるお調子者にしか見えないデイビッドがそんなまともなことを言うとは、正直意外だったのだ。
彼等の反応にはイルムハート達も苦笑するしかなかった。
「ごくたまーにですけど、そこそこ鋭いとこ突くんですよね、デイビッドさんは。」
「まあ普段が普段だから、ちょっとまともなこと言っただけで賢く見えるってのはあるけどね。」
「……お前らなぁ。」
散々な言われ様にデイビッドは凄みをきかせて見せたものの、イルムハートもシャルロットもどこ吹く風だった。
この状況でも毎度のやり取りを行う3人に呆れながらも、リックは気を取り直してカイルと隊長に語り掛ける。
「デイビッドのいう事も尤もです。
基本的には回避しながら進む方向で行きますが、おそらく戦闘は免れないでしょう。
そのつもりでお願いします。」
その言葉にカイル達は、少し強張った表情をしながらも何とか頷いで見せたのだった。