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スタンピードと人造魔人の襲撃 Ⅱ

 到着したイルムハート達が見たのは、いくつかある建物のその多くが半壊し数人の兵士が地面に倒れている、まさに戦場だった。

 途中、大きな爆発音を聞いたのである程度の被害は予想していたのだが、実情はそれを上回っていた。

 辺りには建物の破片が散らばり、大きな火事には至っていないものの、あちらこちらに炎が燻っている。

 かなり大規模な魔法を使ったようだ。

「こんなの……町中で使う魔法じゃないでしょ。」

 その光景を見たシャルロットが思わず呟く。

「そんなもん、はなから気にしちゃいねえんだろうさ。くそったれどもが。」

 全員がデイビッドと同じような怒りを感じたが、今は感情に流されている場合ではない。戦闘は継続中なのだ。

 敵の数は5人。それは到着前するに判明している。

 オムイの時と同じ魔力を持つ、人造魔人と思しき個体が2人。

 残りの3人はそれに比べればかなり魔力の低い、おそらく人族だと思われた。

 魔人を造り出したのが彼等である可能性は高い。そうでないとしても、その出処を知っているのは間違いないだろう。

 何としても捕らえて情報を引き出す。それが最優先だった。

 門をくぐり、駐留地へと駆け込んだイルムハート達は瓦礫の間を走り抜け、未だ戦闘中の兵士達の元へと駆け寄る。

 戦力のほとんどがスタンピードの対応へと向かい手薄だった上に、不意を突かれたせいで既に闘える者の数は数人に減っていた。

 その中にはカイルの姿もある。

 それに対し、敵の数は人造魔人が2人。人族と思しき3人の姿は無い。

 おそらく壊れかけた建物の中にいるものと思われた。

「中に敵が3人いる!そっちを頼む!」

 その予測を裏付けるかのように、イルムハート達を見つけたカイルが叫んだ。

 どうやら2人の魔人は足止め役のようで、襲撃の本当の狙いは建物の中にあるのだろう。

 即座にそれを理解したイルムハート達は、建物へと向かって走り出した。

 しかし、人造魔人のひとりがその前に立ちはだかる。やはり建物に近づかせないようにするのが彼等の役目のようだ。

「ここは僕が相手をします。」

 そう言って立ち止まったのはイルムハートだった。

 カイルと兵士達はそれに驚く。どう見ても無謀な行為に思えたからだ。

 だが、彼等をもっと驚かせたのは、それに対するリック達の反応だった。

「分かった。こっちは任せる。」

 そう言って、本当にイルムハートひとりを残し建物へと向かって行ったのだ。

 そんな馬鹿な!?と誰もが思った。

 敵は大の大人が数人がかりでやっとまともに闘えるような相手なのだ。

 それを子供ひとりに任せるなど正気とは思えなかった。

 そして、そんな彼等はさらに驚くべき光景を目の当たりにすることとなる。

 案の定、人造魔人はリック達を止めるべく行動を起こそうとした。

 だが……

「させないよ。」

 イルムハートは指向性を持たせた風の爆裂魔法を放つ。

 それをまともに喰らった人造魔人は凄まじい突風に吹き飛ばされて地面に転がった。

「!」

 カイル達はその光景を見て唖然とする。

 言うまでも無いことではあるが、イルムハートの魔法に驚いたわけではなかった。風の爆裂魔法などに今さら驚くような彼等ではない。

 カイル達が驚いたのは、その魔法が相手にダメージを与えたことにだった。

 人造魔人はその高い魔力により、攻撃だけでなく防御にも強力な魔法を発動していた。

 にも拘わらず、その防御を簡単に破ってしまったのだ。

 確かに、防御魔法と言えど敵の攻撃を完璧に防げるわけではない。

 より強い魔力で発動させた攻撃であれば防御を破る事も可能だ。

 だがそれには遥かに高い魔力を必要とした。

 強大な魔力を持つ人造魔人。そして、それをさらに上回る魔力を持つかのごとき少年。

 そんな光景を見せられれば誰でも驚かずにはいられなかっただろう。

 しかし、実のところこれにはからくりがあった。

 イルムハートは敵の防御魔法を消去していたのだ。

 オムイでの闘いでは人造魔人の魔力を分析し魔法の消去に成功していた。

 そして、今回の敵もオムイと同じ波長の魔力を持っている。

 となれば、その魔法を消去するよう偽の命令を出すなど極めて簡単なことだった。

 リックもそれを知っていたからこそイルムハートに任せたのだ。

 例えどれほど優れた身体能力を持っていたとしても、防御無しで魔法に対抗するのは難しい。圧倒的に不利である。

 もはや目の前の人造魔人は、イルムハートの魔法にはなすすべが無かった。防御魔法は発動させた途端に消去され無防備となってしまうのだ。

 かろうじて消去を免れた身体強化のおかげで致命傷には至らず、何とか立ち上がり反撃しようと試みたのだが

「大人しくしていてもらえるかな。」

 土魔法で創り出した礫の雨に撃たれて再び地面へ這いつくばるはめとなった。

 それを見たもうひとりがイルムハートへ襲いかかろうとするが、これも軽くあしらわれてしまう。

 顔に火の玉を受けて一瞬立ち止まったところへ雷魔法を打ち込まれ、全身が麻痺状態になってしまった。

 最早、手も足も出ずその場に跪く人造魔人達。

 傍目にはイルムハートの圧勝のように見えたが、彼自身はまだ気を抜くことが出来ずにいた。

(何とか自爆されずに捕らえることは出来ないだろうか?)

 そう、人造魔人達には自爆という厄介な奥の手があるのだ。

 自爆寸前まで弱らせてから一気に倒してしまうのが望ましい。しかし、その加減が難しかった。

(さて、どうしたものかな……。)

 圧倒的優位な状態でありながらも、イルムハートは次の一手をどうすべきか頭を悩ませていたのだった。

 そんな時、不意に前方の何もない処で魔力が湧き上がるのを感じた。

 それは徐々に大きくなり、やがて唐突に空間に穴が開く。

(転移魔法!?)

 そこから3人の人影が出てくるのを見て、イルムハートはその正体を悟った。

 3人は全員が覆面をしていて顔は分からないものの、その体型から男性が2人、女性が1人と判断出来た。

 敵の増援かと警戒するイルムハートだったが、どうも反応がおかしいことに気付く。

 この場の状況を見て驚いているようなのだ。

 増援であるならば戦闘が起きていることに驚くはずはないのだが……。

(そうか、建物の中の!)

 ”3人”という数で気付くべきだった。

 彼等はリック達が追いかけて行ったはずの連中なのだ。

 おそらく建物の中から短距離転移をしてきたのだろう。

 そして、圧倒的な強さを誇るはずの人造魔人が、まさかの敗北を喫しているこの状況に驚いているに違いない。

 そんな彼等のひとりが何やら声を上げた。

 それはイルムハートには聞き覚えのない言葉だったが、人造魔人達は即座に反応して彼等の元へと駆け寄ってゆく。

「しまった!」

 再び転移魔法が発動する気配を感じてイルムハートは思わず叫ぶ。

 敵がこの場から離脱しようとしていることに気付いたのだ。

 逃がしてたまるかと、イルムハートは咄嗟に火の爆裂魔法を打ち込んだ。

 だがそれは、相手が張った防御魔法に防がれてしまう。

 慌てて駆け寄ろうとするも今一歩遅く、敵は転移魔法のゲートを通り姿をくらましてしまった。

「くそっ!」

 自らの油断による失態に歯噛みしながらも、イルムハートは魔力探知の範囲を最大にした。

 転移魔法とて限界はある。

 転移できる距離やゲートを通すことが出来る容量は術者の魔力と魔法技術、つまりは魔法力に比例する。

 どこにでもいくらでも転移させられるわけではないのだ。

 上手くいけばゲートから出たところを探知出来るかもしれない。

 イルムハートが魔法探知を最大まで広げた場合、その範囲は半径数十キロに及ぶ。

 さすがにそこまで広げるとその全てにおいて細かい部分まで把握することは不可能だが、特定の魔力に絞って追跡することは可能だった。

(頼む、引っかかってくれよ。)

 そんなイルムハートの願いが届いたのか、人造魔人の魔力が探知に掛かった。

 距離は10キロ程。転移を終え移動しているようだった。

 ほっと安堵するイルムハート。

 内心で相手の魔法力がそれ程でもなかったことに感謝したが、実のところその認識は間違っていた。

 本来、5人もの人間を10キロ先まで転移させるほどのゲートを開くには、かなりの魔法力が必要とされるのだ。

 例え自分ひとりだけとは言え、200キロも300キロも軽々と転移出来るイルムハートのほうが異常なのである。


 敵の逃走後、さほど間を置かずしてリック達が建物から駆け出してきた。

「敵は!?」

「逃げられました。」

 問い掛けてきたリックに対し、イルムハートは悔しそうに答えた。

「まさか転移魔法が使えるとは思っていなかったので……すみません。」

「いや、君が謝ることではない。中で取り逃がした私の責任だ。」

「仕方ないわ。」

 同じように悔しがるリックを見て、シャルロットがフォローを入れる。

「滅多にお目に掛かれないような魔法だもの、不意を突かれたらどうしようもないわよ。」

「いえ、魔力が突然現れた時点で、その可能性を考えるべきだったんです。油断してました。」

「まあ、そう完璧にはいかないさ。お互いこの反省は次に生かすとしよう。」

 気落ちするイルムハートを慰めるように、と同時に自分自身を納得させるかのようにリックはそう言った。

 確かに後悔ばかりしていても仕方ない。

 考えるべきことはいろいろあるが、先ずは怪我人の手当が優先だ。

 そう意識を切り替え、イルムハートとシャルロットは倒れている兵士たちの治療を行う。

 その間、リックはカイルの元へと歩み寄り声を掛けた。

「お怪我は?」

「私は大丈夫です。兵士たちが護ってくれましたので。」

 口ではそう言っているものの、先頭に立ち人造魔人を相手にして十分互角に闘っていたようにも見えた。おそらく兵士以上に。

 だが、そこは敢えて深くは触れない。

 リック達は既にカイルが肩書を偽っていることに薄々気が付いていたが、今はそれを追及している場合ではないからだ。

「それは何よりです。

 それにしても、軍の施設に襲撃を掛けてくるなど、随分と大胆な行動ですね。

 一体奴等の目的は何だったんでしょう?何か心当たりはありませんか?」

「……おそらく、例の魔石が狙いだと思います。」

 リックの問い掛けに対し、カイルは少し考え込んだ後でそう答えた。

 敵の目的が何かは考えるまでも無く判っている。

 なのに答えるのに時間が掛かったのは、それを話すべきかどうかまだ少し迷っていたからだ。

 だが、事態がここまで切迫してきている以上、やはりリック達の手を借りるべきだろうと判断したのだった。

「貴方達も既にお気付きだろうと思いますが、あれは普通の魔人ではありません。人によって造り出された魔人なのです。」

 その言葉にもリックは驚く様子を見せなかった。

 やはり自分の賭けは正しかったのだと、カイルは少しだけ安堵する。

「どうすればそんなことが出来るのか、残念ながらそこまでは分かっていません。

 ただ、あの魔石に秘密があるだろうことは容易に予測がつきます。」

「それで奴等は秘密を暴かれる前に魔石を奪い返そうとしたわけですか。」

「おそらくそうでしょう。これは十分に予測できたことなのですが……失態でした。」

「奪う前に撤退したという可能性は?」

 気休めに過ぎないと自分でも思いながら、リックはそんな言葉を口にする。

「いや、それはないでしょう。

 いざとなれば自爆も辞さないような連中です。目的を果たさずに逃げ帰るとは思えません。」

 確かにカイルの言う通りだった。

 オムイの村で人造魔人が自爆したのは決して暴走が原因ではない。リック達はそう考えていた。

 おそらくこの魔石には、いざという時は本人の意思に関係なく魔法で自爆するよう魔法陣が仕込まれているのだろう。

 つまり人造魔人は使い捨ての道具でしかないと言う事だ。

 であれば、多少形勢が悪くなったくらいで簡単に撤退するとも思えない。

「となると、やはり取り逃がしたのはかなり痛手でしたね。」

「ええ、それでもせめて馬で逃げてくれればその方向から拠点の予測もつくのですが……転移魔法を使われてはどうしようもありません。」

 そう言って肩を落とすリックとカイル。

 とその時、一通り負傷者の治療を終えて戻って来たイルムハートがそんな2人の会話を耳にする。

「ああ、それなら分かります。」

 そう声を発したイルムハートをリックとカイルは驚きの表情で見つめた。

「今、何と?」

「魔法探知で転移した場所とその後に移動した方向はわかっています。

 奴等はここから南に10キロ程離れた場所へ転移した後、第4地脈の方向へ向かいました。

 おそらく、その辺りに拠点があるのではないでしょうか。」

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