剣と魔法
イルムハートが前世の記憶を取り戻してから5カ月ほどが過ぎた。
その間、彼を取り巻く環境はいろいろと変化を見せている。
そのひとつは、2人の姉がイルムハートの自由時間を認めてくれたこと。
「剣や魔法を上達させるため、授業以外でも訓連する時間がほしい」と話してみたところ、これがアッサリと了解された。
彼女たちは多少残念そうな表情ではあったものの、夕飯後と休息日は今まで通り自分たちと過ごすことを条件とし、平日の午後はイルムハートの自由にしてよいと言ってくれたのだ。
正直、これには話を切り出したイルムハートの方が驚いた。
今までイルムハートの苦情に耳を貸すそぶりさえ見せなかった2人の姉が、こうも簡単に願いを聞き入れてくれるとは思っていなかったのだ。
かなり手こずるだろうと予想していたのだが、逆に「自主的に訓練しようなんて、イルムは偉いわね。」、「頑張ってね、イルムくん。」そう言いながら(そこはお約束で)抱きつかれた。
元々、彼女たちにしても、ただの我儘でイルムハートの時間を拘束してきたわけではない。
それは幼いイルムハートに対する庇護欲から来るもので、彼女たちの愛情表現なのだ。まあ、多少過剰な表現方法ではあったが。
そんな彼女たちがイルムハートの要求を無下に撥ね付けるようなまねをするはずがなかった。
むしろ、イルムハートの望みは何でも聞いてあげたいとすら考えている。
本来、父親同様イルムハートには甘々な2人なのだ。
ちなみに、今までイルムハートの数々の苦情をスルーしてきたのは、そもそもそれを ”苦情” だとは思ってもおらず、ただの照れ隠しと信じて疑わなかったためである。
(・・・あれほど苦労した日々は何だったのか?)
どこか遠い目をしながらそんなことを考えていたイルムハートだったが、何やら不穏な言葉に我に返った。
「その分、お休みの日にたっぷり相手をしてあげるわね。」
そう言いながらとても良い笑顔を向けてくる2人の姉に対し、少し引き攣った笑みを浮かべ 「あ、ありがとう。」とそう返すのが精一杯のイルムハートだった。
2つめの変化は「思考加速」がコント―ロル出来るようになったこと。
こちらは、姉たちの説得よりは多少手間取った。
集中力を高めることがトリガーとなる、そう予測したのだがこれが微妙に的を外していたのだ。
最初は何か1点へ神経を集中させる方法で試していたのだが全く効果が無かった。
そこで、改めてもう一度「思考加速」が発動した際の状況を度思い出してみると、決して1点集中ではなかったことに気が付いた。
あの時、イルムハートは騎士団で試合形式の訓練を見学していた。
その際、試合に臨む者のどちらか一方にのみ注意を払っていたわけではない。
対戦する両者それぞれの動きを同時に見ることで、攻めや受け、またその前動作やフェイントの掛け方などを参考にしようとしていた。
個々の細かい動きに注意を払いながらも同時に俯瞰で全体を観察するような、そんな見方をしようとしていたのだった。
実際に「思考加速」が発動した副団長マルコの試合においてもそれは変わらない。
もし違いがあるとすれば、他の団員を数段上回るマルコの気迫に反応したかのように、自然と感覚が研ぎ澄まされていった点だろう。
「・・・そうか、感覚だ。」
集中するのは対象物にではなく、それを観ている自分自身の感覚に対してなのではないか?とイルムハートは気づいた。
そこで、やり方を変えて何度か試してみると、ついに「思考加速」が発動する。
最初はほんの一瞬だったが、一度発動のコツを掴むとその後は早かった。
ひと月ほどするとごく自然に発動出来るようになり、発動している時間も自在にコントロール出来るようになっていた。
しかも何と、ゆるやかになった時間の中でもある程度自由に動くことも可能になっていたのだ。
もちろん、普通の速さで動けるわけではない。周りよりほんの僅かに、ではある。
だが、たとえ僅かであっても、それが驚くべき力であることに変わりはない。
「これは・・・もう反則どころの話じゃないよね。」
イルムハートとしては、もう笑うしかない。
正直に言えば、この「思考加速」が不要だとは思っていない。
この能力がもたらすであろう恩恵を思えば、何だかんだ言いながらも感謝していた。
しかし、ここまで来るとさすがに自分でもちょっと引いてしまう。
何かもう”人外” の世界に片足を突っ込んでしまったような、そんな気になってしまうのだった。
とは言え、この能力をここまで高めてしまったのは誰でもないイルムハート自身だ。
ほんのわずかの間「思考加速」が出来る程度では満足せず、好奇心に駆られるまま磨き上げた結果なのだから、誰かに文句を言うわけにもいかない。
「まさか自分がこれほど凝り性だとは思わなかった・・・。」
イルムハートは自分自身の意外な一面を見たような気がしていた。
尤も、もし事情を知る者がいれば「6歳児の身で、成人までの詳細なプランを考えるような人間が、何を今更?」と呆れた顔をしたに違いないだろうが。
「まあ今回はやり過ぎたけど、特殊なケースだからね。剣や魔法の訓練はこうはいかないだろうし、凝り性くらいのほうがちょうどいいのかもしれない。」
イルムハートは「思考加速」について、神の加護から来るものだと考えていた。そのため、ここまでの反則的な能力に育ってしまったのだとも。
他の能力まで同じように伸びていくはずはないと思う彼は、”意外な” 自分の性格もむしろプラスになると考えた。
それが正しい判断だったのか、それとも単なる油断だったのか。
そう遠くない先に、彼は答えを知ることになる。
そして3つ目。
以前は午前にしか授業を受けていなかったイルムハートも今は週2日、午後にも授業を受けるようになっていた。
剣と魔法の実技を1日ずつ。
どちらに関しても、イルムハートは全くの初心者である。
ゼロからスタートし、時間を掛けて腕を上げて行くしかないと覚悟して授業に臨んだ。
だが・・・結果から言うと、剣も魔法もチョロいものだった。
「甘かった・・・。加護というヤツを甘く見過ぎてた。」
と、思わずイルムハートが頭を抱えてしまったほどに。
始めこそ初心者である彼は、剣や魔法の使い方に苦労した。
だが、それも「思考加速」と同様、最初の壁を超えるとその後の成長は早かった。
いや、”早い” などというレベルではない。
普通の人間が数か月、場合によっては数年掛けて上達するようなレベルに、イルムハートはたった数日で達してしまうのだ。
「これは、さすがいにマズいかも。傍から見るとあきらかに異常だよね。」
”普通” ではないことは自覚しているし、受け入れてもいる。
異世界からの転生者というだけですでに普通ではないはずだし、神と呼ばれる存在と接し前世の記憶を持たされたまま生まれてきたのだから、自分が ”特殊” な存在であることは否定しようがない。
「とは言え、バケモノ扱いされるのはご免だしね。異世界転生というのも、結構タイヘンなんだなぁ。」
この先、自分の ”特殊性” (あくまでも ”異常性” とは認めない)を隠していかなければならいことに少々うんざりしながらも、それでもイルムハートはまだ自分が ”異世界転生者” としてはありふれた存在でしかないと信じて疑わずにいたのだった。
「今日はこのくらいにしておきましょう。」
騎士団副団長のマルコは、そう言うと訓練用の模擬剣を腰の鞘に収めた。
「はい、ありがとうございました。」
イルムハートもそれに倣い剣を収めると、マルコに頭を下げた。
臣下であっても今は剣の師範だ。授業の終わりには礼を執るのを忘れない。
今日は週の2日目、水の日で剣の稽古の日だ。
週の5日間は魔法の主要5属性の名を取って、火の日・水の日・風の日・地の日、そして光の日(または休息日)と呼ばれている。
今のイルムハートは水の日の午後に剣の授業、地の日の午後に魔法の授業を受けるようになっていた。
「それにしてもイルムハート様の上達ぶりには目を瞠るものがありますね。私などすぐに追い越されてしまいそうです。」
今日の授業の総括を終えた後、マルコは微笑みながらそう言った。
それは全くのお世辞というわけでもなかった。
確かにイルムハートは驚くべき速さで上達しており、このままいけばいずれは自分をも超える強さを手に入れるだろうと思っていた。
但し、あくまでも ”いずれは” であって、今はまだ天と地ほどの開きがある。
授業もイルムハートが一方的に攻撃し、マルコはそれを軽々と受けながらその都度良い点や悪い点を指摘し覚えさせるといった形で行われており、両者の力が均衡するようになるのはまだまだ先のことであろう。
それが、今のイルムハートに対するマルコの評価だった。
だが、マルコは気付いていなかった。イルムハートが身体強化魔法を使っていないことに。
身体強化は魔法を使えるようになると真っ先に憶える魔法だった。何故ならイメージ制御が容易だからだ。
そもそも身体強化は危険から身体を守ったり、また危険を排除するために力を上げたりと、そのイメージは防衛本能の働きと非常に近いものがある。
そのため、この魔法は難しいイメージ制御も必要なく、無意識に近いレベルでも発動可能なのだ。
マルコも当然、身体強化を使っている。
ただ、この場合は身体を強化するというより、ミスをして相手に怪我などさせないよう手元のコントロールを強化するためではあるが。
イルムハートも魔法の実技授業の開始後、ほどなく身体強化魔法を使えるようになった。
こうやってマルコと剣を打ち合う形での授業が始まったのも、身体強化を使えるようになったからだ。
それまでは危険を避けるため主に体力造りを行っていたのだが、すでにその段階でイルムハートの ”普通でない” 成長は始まっていた。
授業とそれ以外の午後のフリー・タイムに体力造りを行った結果、もはや6歳児とは思えないほどに剣を自在に使えるようになっていたのだ。
今の状態でさらに身体強化を使えば、さすがにマルコは無理でも一般団員相手なら十分やり合えるだろう。
しかし、それを知られるわけにはいかない。かと言って、わざと手を抜けば間違いなくマルコに見破られる。
そこで考えたのが身体強化を使わないという方法だった。
魔力探知を誤魔化すため、全く使わないのではなく体の防御力だけは上げてある。
だが、パワーやスピードなどは一切上げず、素の力だけで授業を受けていたのだ。
それなら本気を出しても、せいぜい ”身体強化を使った6歳児” のレベルで済む。
(真の能力は隠しながら技術は学べる。なかなか名案だね。)
と自画自賛するイルムハートだったが、もちろんお約束であるかのようにここでも肝心ことを見落としていた。
身体強化を使わなかった分、魔法なしの素の能力がさらに鍛え上げられ向上していくのだということを。
そして2日後。地の日の魔法の授業。
こちらは剣の授業と異なり、イルムハートはすっかり行き詰っていた。
授業に付いて行けないのではなくその逆で、イルムハートの能力が授業のレベルを遥かに超えてしまっていたのだ。
今更のことだが、イルムハートにとって魔法は未知のものである。
座学で知識は得ていたが実際に魔法を発動するためのノウハウは実技の授業で初めて教わるため、最初はそれなりの苦労を覚悟した。
魔法は体内に取り込んだ魔力をイメージにより制御することで発動する。
そのためには、まず魔力と言うものの存在を感覚でとらえる必要があるのだが、これはそれ程難しいことではない。
この世界の生命は基本的に魔力を知覚する能力を持っていた。たとえ動物や植物でさえ。
もしかすると、魔力に反応する酵素のような物を持って生まれてくるのかもしれない。
その能力は10歳前後になれば自然と目覚めてくるものではあったのだが、魔法教育では教師の導きによって作為的に覚醒させる。
放っておいても覚醒するものに何故わざわざ手を掛けるのか?
それは、覚醒の仕方によって体内に取込むことが可能な魔力の量、魔力量に大きな違い出るからだった。
自然に覚醒した場合は、その時点のまだ少ない魔力量まま固定されてしまう。小さく纏まってしまうのだ。
だが、教師の導きにより ”正しい手順” で覚醒した場合、遥かに大きな魔力量を持って覚醒することが出来る。
それが魔法の実技授業で一番最初に行われることだった。
ところが・・・イルムハートは既にその能力に目覚めてしまっていた。
前世の記憶が戻る直前に感じた五感を超えた情報の知覚と世界が広がったような感覚。
実は、あれこそが魔力の覚醒だったのだと、イルムハートはこの時初めて理解した。
(なるほど、あれが魔力を感じ取るという事だったのか。その後、記憶が戻ったことですっかり忘れてたなぁ。)
などど呑気に考えるイルムハートとは対照的に、彼の早すぎる覚醒に担当の魔法教師は顔から血の気が引くのを感じた。
それはそうだろう。普通の6歳児の魔力量などたかが知れている。
それがそのまま固定されてしまえば、もはや魔法士としての将来性は無くなったに等しい。
あわてて魔力探知の魔法でイルムハートを調べた教師は、予想に反して充分すぎる程の魔力量があることを知り、驚きと同時に安堵した。
「イルムハート様は魔法の才にも恵まれておられる。」
”正しい手順” を経ずに覚醒していながら自分たち魔法士にも引けを取らないイルムハートの魔力量に、担当教師は天賦の才を感じた。
図らずも彼は正しい答えを出したことになる。
そうして魔力の覚醒が発覚した後は、魔法士団から数人の魔法士が交代でやってきて得意な分野の魔法を教える本格的な授業に移った。
魔法には内部循環系と外部放出系の大きく2つの系統がある。
内部循環系は身体強化の他に、解毒や治癒といった自分の身体を強化・回復させるための魔法が主である。
外部放出系は外部へ魔法を打ち出す、いわゆる攻撃魔法だ。
この内、習得が一番簡単な身体強化魔法を最初に憶えることになる。
簡単とは言え、頭で思うだけで身体が頑丈になったり腕力が上がったりするするほど単純でもない。
ちゃんと自分の中の魔力を身体中に行き渡らせるようにコントロールるする必要があった。
それが出来れば、後は効果を出すためにイメージを描くのが ”簡単” だということで、訓練が不要という意味ではないのだ。
だが、当然のようにイルムハートは早々にそれをマスターし、次は攻撃魔法を習うことになった。
「イルムハート様、お初にお目にかかります。水魔法を受け持たせていただく、魔法士団のルル・セルマンと申します。」
最初に受けた攻撃魔法の授業は水魔法だった。
本当は、発動させるだけなら火魔法の方が簡単らしい。”燃える” というイメージがしやすいせいだろう。
だが、同時に火魔法は初心者にとって危険な魔法でもある。制御を間違えると火傷することもあるからだ。
火魔法を使うには、魔法の強さや大きさ、そして攻撃する対象をしっかりイメージ出来る様になる必要があるのだ。
制御が完璧に出来る様になれば、全身に炎を纏っても自分は全く無傷で、相手だけを焼き尽くすことも可能らしい。
とりあえず、制御が未熟な段階では失敗しても被害の少ない水魔法から始めるのがセオリーとのことだった。
「外部発動の魔法は、発動方法により2つの型に分けられます。1つは操作の魔法、そしてもうひとつは生成の魔法です。」
そう説明するルルは16,7歳くらいにしか見えない女性だが、その服装は正魔法士のそれだった。
正魔法士は魔法士団の中でも上位の地位にあたり、もし見た目通りの年齢であればかなり優秀な魔法士ということになる。
「操作の魔法というのは対象物・・・水魔法の場合は水ですね。水に魔力を流して同化させることで、元々の水そのものを操る魔法です。」
ルルは目の前にある半分ほど水が入ったコップに手をかざすと短く呪文を詠唱した。
すると、コップの中の水がゆらゆらと揺れ出し、やがて一気に噴き出し始めた。
だが、辺りに飛び散ることはない。吹きだした水は宙で水の玉になり、全てが水の玉となると、今度はゆっくりとコップの中に戻っていく。
「すごいですね。セルマン先生。」
イルムハートが思わずそう声を上げると、ルルは少し照れたように笑みを返した。
「ありがとうございます。これが操作の魔法になります。次に生成の魔法ですが、こちらは魔力から水を作り出す魔法です。」
そう言うと今度はおにぎりを握るように掌で空気の玉を作って見せた。
「目には見えませんが、この手の中には魔力が存在しています。生成の魔法というのは、この魔力を水という物質に変換する魔法なのです。」
今度は詠唱は行わず(もしかすると小声で詠唱していたのかもしれないが)、ゆっくり掌を開くと、そこには小さな水の玉が浮かんでいた。
「これが生成の魔法です。」
「宙に浮いているということは、生成と同時に操作もしているということですか?」
「その通りです。イルムハート様。」
イルムハートの問いに微笑みながら答えたルルがスッと手をかざすと、水の玉は霧となって消えてゆく。
「先程、私は2つの型に分かれていると申し上げましたが、実はこの2つを同時に使うことで初めて攻撃魔法として成り立つのです。」
言われてみればもっともな話だ。
操作だけでは水の無い場所では役に立たないし、生成だけではそもそも攻撃にならないだろう・・・相手を溺れさせるくらいしか。
「違う ”イメージ” を同時に制御しなくてはいけないのですね。」
「はい。攻撃魔法の使用が難しいと言われるのは、まさにその点が原因なのです。もちろん、操作も生成も決して簡単ではないのですがそれを身に着けた後、さらに同時に制御しなければならないのですから、それは・・・もう・・・何というか・・・。」
そう言ったルルの目がどこか遠いところを見ていたように感じられたのは、おそらく気のせいではあるまい。
が、それも一瞬で、すぐ我に返る。
「まずは、ひとつひとつじっくりと学んでいきましょう。それぞれの魔法が自然に使えるようになれば、同時に制御することもそれほど難しくはなくなりますから。
最初は操作の魔法から始めるのがいいかと思います。操作する物が目の前にあるのでイメージしやすいですからね。
とりあえず・・・一度、やってみましょうか。」
ルルはそう言って、コップをイルムハートの前に移動させた。
イルムハートは言われるままにコップに右手を添えると、水を動かすためのイメージを頭の中に浮かべる。
(水を持ち上げるには・・・魔力で回りを包んで持ち上げる感じかな?いや、それだと ”同化” とは言わないか。)
ルルは「魔力を同化させる」と言った。魔力で作った入れ物に入れて持ち上げるとは言っていない。
(難しく考えず、体の一部を動かす感覚でいいのかもしれない。肝心なのは、そのイメージをちゃんと魔力に乗せることなんじゃないかな。)
そう考えながら指先に魔力を集中しようとして・・・イルムハートは、ふと思い止まった。
(これ・・・いきなり出来ちゃったりしないよね?)
嫌な予感に襲われたイルムハートは、水を噴き上げるのではなく水面を軽くゆらめかせる程度にイメージを修正し、改めて魔力を集中してみた。
すると・・・水の表面に微かな揺らぎが生じた。
「すごいですよ、イルムハート様!一度目でもう成功させてしまわれるなんて!」
それを見たルルは、興奮し目を輝かせる。
「普通はイメージを上手く魔力に乗せられず苦労するのですが・・・すごいです!本当にすごいです!」
どうやらヤラかしてしまったらしい。
いきなり大技は出さないようにかなり加減したのだが、まさか成功する事自体に驚かれるとは思ってもいなかった。
結局、その日はもう少し水面を大きく揺らすところまでやって、授業は終了した。
そしてその夜、入浴中のイルムハートは浴槽のお湯を魔法で自由自在に操りながら、深くため息をつくのだった。
その後、”魔力を物質に変換する” イメージには多少手間取ったが、それでも他人の数倍以上の速さで初級の水魔法と風魔法を習得し、今は火魔法の授業を受けている・・・のだが、実は既に火魔法も使えるようになっていた。
火魔法だけではない。自主的な訓練のおかげで、初級レベルではあるが地魔法も光魔法も使えるようになっている。実技の授業開始からわずか2カ月ほどで。
今のところ授業で教えるのは初級レベルの魔法までである。
高度の魔法は初心者が使うには危険すぎるからだ。本人にとっても、周りにとっても。
そうなると、授業の時間は本来出来ることを出来ないふりをしながら受けることになる。
これは結構キツかった。
この時間を何とかしたいとは思うのだが、こればかりはどうしようもない。
そう言う意味でイルムハートは行き詰っていたのであった。