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魔道具の罠と襲撃者

 トループ・エイプの群れを撃退したイルムハート達一行は更に森の奥へと歩を進め、やがて開けた場所に出た。

 そこではいったん森が途切れ、少し苔むした大きな岩がいくつも転がっていた。

「ここみたいね。」

 どうやらここが目的の岩場らしい。

 シャルロットが岩の陰を探し始めると目的の薬草はすぐに見つかった。

「これよこれ、魔石苔。」

 薬草の採取という名目ではあったが、目的の品は苔だった。

 この苔は魔石になりかけの岩に生え、その魔力を吸収して育つ。

 ただ完全な魔石では駄目で、長い年月をかけてゆっくりと魔石化してゆく、その途中の岩でなければならない。

 なので、ホットスポットのように魔力が強すぎる場所や、逆にあまり魔力が溜まらないような場所では生育しない。

 この森の様にさほど強くもなく弱くもない、程々の魔力が溜まる場所でしか採取出来ないのだ。

「こんなものかしらね。」

 リックとデイビッドが辺りを警戒する中、シャルロットは魔石苔の採取を終えた。

 魔石苔はまだまだ豊富に生えていたが必要な分しか採取しない。資源保存のためである。

「よっしゃ、これで依頼達成だな。追加報酬はトループ・エイプ24匹か。まあ、この程度の依頼ならそんなもんか。」

 軽く背伸びをしながらデイビッドがそう言った。

 討伐したトループ・エイプは全部で24匹。素材確保のため収納魔法に取り込んである。

 ただ、魔獣が出る森の中で解体作業を行うわけにもいかず、死骸をそのまま収納することになり結構な容量になってしまった。

 そのため、シャルロットだけでなくイルムハートも10匹分ほど取り込んでいた。

「トループ・エイプからはどんな素材が取れるんですか?」

「まあ、一番はやっぱり毛皮だな。」

 イルムハートの問い掛けにデイビッドが答える。

「防寒用はもちろんだが、防具としても結構需要があるんだ。だから、そこそこの値段で売れる。

 だが、肉はダメだな。こういう筋肉の発達したヤツはあまり美味くねえから、たいした値は付かねえんだ。」

 一応、魔獣の肉も食用になる。

 だが魔力濃度が高く、そのまま食べれば中毒を起こしてしまうため、魔力抜きの処理が必要になるのだ。

 美味な肉であればそれだけの手間を掛かっても十分高値が付くのだが、そうでないものは二束三文で買い叩かれてしまうのだった。

「1匹くらいなら自分達で処理して干し肉にするってのもありだけど、24匹じゃなぁ。さすがに多すぎるわ。」

 本来なら解体時に捨ててしまうところではあるが、多少なりと金になるのなら持って帰るのも有りかという感じらしい。

「あとは、魔核だ。このサイズの魔獣じゃそれほど大きくはないけど、数があるからな。良い金になるぞ。」

 魔核。

 魔族や魔獣、所謂”魔物”が体内に持っている魔力結晶のことであり、これを持っていることが人や普通の獣との決定的な違いなのだった。

 魔石の様に魔力を蓄えることが可能で、魔道具にも使用される。

 ただ、魔石と違うのは再利用が出来ないという点だ。

 魔石は石自体が魔力を吸収する性質を持っているため、蓄えられた分を使い果たしても再び魔力に晒すことで再充填が可能だった。

 一方、魔核はあくまでも肉体の一部であり、体内の他の器官と連動して魔力を貯めている。

 なので、いったん元の肉体から切り離されてしまうと再び魔力を貯めることは出来なくなってしまうのだ。

 簡単に言えば使い捨ての魔石と言ったところだろうか。

 だが、例え使い捨てであろうと魔石と同じ使い方が出来るので需要はある。

 勿論、魔石に比べれば値は落ちるが、それでも十分利益を出せる代物なのだった。

「まだ、終わったわけじゃないぞ。帰り道もあるんだ。」

 そんな感じでさっそく依頼達成後の皮算用を始めたデイビッドだったが、リックに軽くたしなめられてしまった。

 尤も、本気で気を抜いているわけではないことはリックも分かっているので、それ程強い口調ではない。

 おそらく、シャルロットが小言を言い始める前に形だけ釘を刺したのではないかと、イルムハートはそう感じた。

(こんなところで、また口喧嘩が始まったら面倒だものね。)

 いろいろと苦労しているのだなと、少しだけリックを気の毒に思うイルムハートだった。


 岩場からの戻り道、例によってデイビッドを先頭とし警戒を怠らない一行ではあったが、トループ・エイプの再襲撃に関してはあまり心配していなかった。

 勿論、大きな森なので討伐した以外にも群れが存在するのは間違いない。

 しかし、それぞれに縄張りというものがある以上、一度その主が駆逐された場所に次の群れが移って来るにはそれなりの時間がかかるはずだ。

 とは言っても、ギルドの情報には無かった魔獣が新たに棲み付いていないとも限らないので、油断はせず進んでゆく。

 幸いにも予想外の魔獣に遭遇することも無く、やがて森の外周近くまで到達した。

 その辺りまで来ると、人間の魔力がちらほらと探知出来る。おそらく薬師ギルドの採取者を伴ったグループだろう。

 そろそろ安全圏だと皆が思ったその時、デイビッドが片腕を上げながら立ち止まった。「止まれ」の合図だ。

「どうしたの?」

「ちょっと待て。」

 シャルロットの問い掛けにそう答えたデイビッドは、姿勢を低くして辺りを調べ始めた。

「少し下がってくれ。」

 そして、しばらくするとそう言って皆にその場から離れるよう指示をする。

「何かあったのか?」

「トラップがあるぜ、リック。」

「トラップ?」

「あそこの枯葉の下に何か仕掛けてある、おそらく魔道具じゃねえかな。」

 デイビッドの言葉を聞いてイルムハートは示された辺りを魔法で探知してみると、なるほど僅かに魔石らしい反応があった。

「確かに、魔石の反応があるわ。おそらく魔道具を起動するための物ね。」

 シャルロットも探知したようだ。

「どんな魔道具か分かるか?」

「そこまではちょっと・・・。」

 リックの問い掛けに、シャルロットは困ったような顔をする。

 魔法士は魔法を使うからと言って魔道具にも精通しているとは限らない。魔道具を作成する技術は、魔法士のスキルとは全く別のものだからだ。

 しかも現物を見ることが出来ない以上、それが何の魔道具か言い当てるのは中々難しいだろう……普通ならば。

「多分、火魔法系ですね。」

 魔石と思われる反応の、さらにその周りの魔力を調べながらイルムハートが口を開く。

「分かるの?」

「はい、魔法陣に残る魔力を読めば多少は。」

 魔道具には魔法を発動させるための魔法陣が描かれている。それは技師が魔力を使って描き表したものなのだ。

 その際の魔力自体は時間と共に薄れてゆくが、それでも完全に消えてしまうわけではない。

 イルムハートはその僅かに残った魔力を読み取り解析したのだ。

「魔法陣も勉強したことがあるので少しくらいなら分かります。火魔法の”記号”が使われてますね。

 それ以外は複雑で魔力探知だけでは何とも言えないのですが……ただ、複雑だという事は上位の魔法である可能性が高いと思います。」

「爆裂魔法とか?」

「あるいは焼夷魔法とか、ですかね。」

「おいおい、誰だか知らねえが、森の中でそんな魔法使うなんて正気じゃねえだろ?火事になっちまうぞ?」

 イルムハートとシャルロットの会話にデイビッドが怒ったような声で割り込んで来た。

 まあ、言ってることは正しいが、ちょっとズレてもいる。

「怒るとこはそこじゃないでしょ。これに引っかかってたら私たちが危なかったのよ。」

「あ……。」

 今更ながらにその事に気が付いたという表情のデイビッドを見て、シャルロットは呆れた顔をする。

「しかし、誰がというのもあるが、何のためにこれを仕掛けたのかが気になるな。」

 魔道具が仕掛けられていると思しき方向を見つめながら、リックは考えを巡らせた。

「トラップはごく最近仕掛けられたと見るべきだろう。

 この辺りは他のグループも活動するような場所だ。前々からあったのなら誰かが気が付いてるはずだからね。

 だとすれば、今この森にいる誰かを狙ったものである可能性が高いということになる。」

「まさか、俺達じゃねえだろうな……。」

「そう考えておいたほうがいいかもしれないな。

 ここは森の奥へと向かう者が通るルートでもある。そして今回、森の奥まで行く予定になっているのは……。」

「俺達だけ、ってわけか。」

 リックの言葉に反応したデイビッドが警戒のため周囲を見渡したその時、イルムハートは魔道具の反応が強まり始めたのに気付く。

(遠隔操作!?)

「シャルロットさん!」

 魔道具の異常にはシャルロットもすぐに気が付いたようだった。

 イルムハートの呼びかけと同時に2人で防御魔法を発動させる。

 そして次の瞬間、魔道具は起動し全てを焼き尽くさんばかりの猛火が辺りを包み込んだ。


 魔道具への対応はイルムハートとシャルロットとで行った。

 まず、イルムハートが土魔法をベースとした”回転弾”十数発を元凶である魔道具へと打ち込む。

 魔道具には自己保全用の防御魔法が組み込まれている場合もあるのだが、それだけの攻撃を喰らってはさすがに持ち堪えられずにあっさりと破壊される。

 次いでシャルロットが水の爆裂魔法を使い、炎を吹き飛ばすと同時に多量の水を散布した。

 5,6発、それを使ったところで何とか鎮火することに成功したのだった。

「無茶苦茶しやがるぜ、全く。」

 まだ所々燻っている地面に向けて水魔法を使いながら、デイビッドが毒づいた。

「ヘタすれば、この森にいる全員が巻き込まれるとこだったぞ。」

 近くにいたグループも異常に気づいたらしく、こちらへと向かってくる気配が感じられる。

 それは当然の反応のようにも思えるのだが……イルムハートはどこか違和感を感じた。

 あまりにも近づいてくるスピードが速いのだ。

 こちらを心配してのことなのかもしれないが、何が起きているのかも解らない状況で迂闊に近寄って来るのは少し不用意な気がした。

 リックもそれは同感で、近づいてくる者達に警戒の目を向ける。

 そして……。

「デイビッド!そこを離れろ!」

 リックの警告に反応したデイビッドが素早くその場を飛び退くと次の瞬間、今まで彼がいた場所で何かが破裂した。

 ”空気弾”だ。

「何しやがる!」

「何者だ!」

 デイビッドとリックが同時に叫ぶが、相手からの返答は無い。

 まあ、元々返事を期待していたわけでもない2人は、叫ぶと同時に剣を抜く。

 そんな2人に向かって襲撃者達が一斉に切りかかった。

 敵の数は8人。

 森の薄暗さと頬まで覆うヘッドギアのせいで気が付かなかったが、全員鼻まで隠れる覆面をしていた。

 ひと呼吸遅れてイルムハートとシャルロットも剣を抜く。

 敵はイルムハート達にも襲いかかって来たため、その場は乱戦状態となる……かのように見えたが、そうはならなかった。

 リックとデイビッドにはそれぞれに2人付き、残る4人がシャルロットに向かって行ったのだ。

 ひとりずつ確実に数を減らす作戦らしく、先ずは近接戦で劣るシャルロットに狙いを付けたようだ。

 ちなみに、イルムハートには誰も向かって来なかった。子供など相手にするまでもないということなのだろう。

 舐められた、などとイルムハートは思わない。むしろ常識的な判断だろうと考える。

 だが、そんな相手の思い込みに付き合ってやる義理もなかった。

「シャルロットさん、バックアップお願いします!」

 そう叫ぶと、イルムハートはシャルロットの前に出た。

 一瞬、驚くような顔を見せたシャルロットだったが、すぐに思考を切り替える。

 リックの見立てを信じる限り、剣を使っての闘いではイルムハートの方が自分よりも上だ。

 ならば前衛は彼に任せ、自分は魔法攻撃に対処するのが正しい形だとそう判断したのだ。

「気を付けてね、イルム君!」

 シャルロットの声を背中で受けながら、イルムハートは先頭の敵が繰り出してきた剣を薙ぎ払う。

 予想を遥かに超える力で剣を弾かれた敵の目には驚愕の色が浮かんだ。

 無理もない。今、イルムハートは魔法で全身体能力を強化していた。防御だけ、などど悠長なことを言っている場合ではないのだ。

 とは言っても、制限無しのフル・パワーというわけでもなかった。

 さすがに全開にした場合、微妙な加減が出来るかどうか自信がないからだ。

 イルムハートは今まで剣で人を傷つけたことがないし、当然、殺したことなどあるわけもない。……少なくともこの世界では。

 なので、現状いくら敵がこちらの命を狙って来ているからと言っても、躊躇無くその命を奪えるかと問われれば、答えはノーである。

 不殺の信念があるわけでもないし、そのせいで味方を危険に晒すような愚かな真似をするつもりもない。

 だが、それでも可能な限り人は殺したくない、そう考えるのは別におかしなことではないだろう。

 それが、こんな状況でも強化魔法に制限を掛けてしまう理由だった。

 尤も、制限を掛けていても尚、イルムハートの力は目の前の敵を遥かに上回っているのだが……。

 襲撃者は、見くびっていたはずの相手が実は子兎ではなく狼であったことに今更ながらに気付いたが、既に遅かった。

「ぐわっ!」

 イルムハートに肩を貫かれた敵は、呻き声を上げながら剣を落とす。

 次いでイルムハートは横から切りかかって来た敵の攻撃を避けながら剣を相手の腿に突き立てた。

 足をやられた敵は立っていられずに思わず膝をつく。そこをすかさず剣の柄頭で殴り付け意識を削り取った。

「そんな馬鹿な……。」

 あっという間に2人を無力化された敵は驚きのあまり足を止める。

 2人がかりとは言えリックやデイビッドを足止めしているのを見るに、元々強者はそちらに廻してあったのだろう。

 シャルロットにはどちらかと言えば質より量で攻めて来たのだろうが、とは言えひとりひとりが決して弱いわけではなかった。

 それが、戦力とさえみなしていなかった子供に、こうも簡単に倒されてしまうとは思ってもみなかったに違いない。

 その動揺は敵全体に広がる。

 リックとデイビッドの相手をしていた敵も、打ち合いを止めていったん距離を取った。

 その動きに合わせるかのように、味方側も集結する。

 2つの集団が距離を取って対峙する形となり、その場は一時的な膠着状態に陥った。


 両軍が互いに相手を牽制し合う中、襲撃者達は負傷した者を魔法で治療し始めた。

 しかし、リック達は動かない。

 せっかく減らした敵の戦力が元に戻ってしまうことになるが、それよりもここで乱戦になる事の方を嫌ったのだ。

 陣形さえきちんと保てば、例え数が上でも勝てない相手ではないと判断してのことだった。

 そんな中イルムハートは、仲間に治癒魔法をかける敵魔法士をじっと見つめていた。その魔力に覚えがあったのだ。

 魔法士だけではない。更にもうひとり、より強く印象に残っている魔力を持つ者がいた。

「……ハスラムさん?」

 思わずイルムハートがそう呟くと、デイビッドがそれに反応する。

「ハスラム?てめぇ、ハスラムなのか!?」

 イルムハートが視線を送る先の男を睨みつけながら、そう叫んだ。

「間違いないわ。その男の魔力、ハスラムのものよ。」

 シャルロットも相手の魔力を調べたらしく、そう断言した。

 人それぞれ魔力には独自の波長というものがあり、それを見分けることで個人を特定することが可能だった。

 ただ、それには高い魔法の技量を必要とするのだが、当然シャルロットにはそれだけの力がある。

 そして、敵もそのことは十分に理解しているのだろう。悪足掻きをしても無駄だと覚ったようだった。

「ちっ、こうも簡単にバレるとはな。」

 そう言って敵……チャッド・ハスラムは覆面を外す。正体がバレてしまった以上、邪魔でしかないからだ。

「どういうつもりだ、ハスラム!」

 リックが語気を強めて問い詰める。

「今さら聞くまでもないだろう、プレストン?お前達を始末しに来たんだよ。」

 どこか揶揄するような口調ではあったが、チャッドの顔は苦々しさを隠しきれていなかった。

「目障りなんだよ、お前達は。だから消えてもらうことにしたのさ。」

「こんなことをして、ただで済むと思っているのか?」

「ただで済むも何も、バレなきゃいいだけのことさ。

 別に、冒険者が魔獣に襲われて命を落とすなんてことはめずらしくもないだろう?

 お前達を殺し、魔獣に喰われたことにしてしまえばそれで終わりのはずだったんだがな。

 まさかその小僧がここまでやるとは思わなかったよ。全くの計算外だった。」

「あの時は、やはりイルムを調べるのが目的だったのか。」

 キトレの町でリック達の泊る宿に押しかけてきた理由がはっきりした。

 目的を果たすに当たり、イルムハートが障害になり得るかどうかを調べに来たのだ。

 だが、残念ながら間違った答えを導き出してしまったということなのだろう。

「人を見る目が無いってことよ、あなたには。それでよくリーダーが務まるわよね。」

 相変わらずシャルロットの突っ込みは鋭く、的確に心を抉る。

 チャッドは表情を引きつらせながら、それでも何とか平静を装った。

「おい、小僧。俺の部下にならないか?

 そうすれば命を助けてやる。それどころか、今よりずっと良い目を見させてやるぞ。」

 よほど神経が図太いのか、チャッドはイルムハートを自分の側へと引き込もうとする。

 だが、イルムハートはその本当の狙いを見抜いていた。

「こんな状況にもかかわらず本気でそう言っているのだとすれば、それはそれで評価出来ると思います。

 ですが単に時間稼ぎが目的なら、もう少し会話の回し方を考えたほうがいいのではないでしょうか?

 これだと”ノー”の一言で終わってしまいますよ?」

 イルムハートの答えに、デイビッドが思わず「言うねぇ、お前も」と言って笑い出した。

「クソっ、生意気なガキめ!」

 チャッドは憎々し気にそう吐き捨てた。

 まあ、それでも何とか時間は稼いだようで、負傷した仲間の治療も完了した。

「さて、どうやら振られてしまったようだが……次はどうするつもりかな?」

 リックもチャッドが時間稼ぎをしていることに気付いてはいたが、逆にそれを利用して情報を引き出そうと考えていた。

 しかし、負傷者の治療が終わった以上、向こうも長々と話をするつもりはないだろうと判断する。

「随分と余裕じゃないか。相変わらずすかした野郎だ。」

 リックの台詞はカンに触ったが、チャッドは既にこの不意打ちが失敗したことを認めていた。

 相手の戦力を見間違えた以上、この人数で再び闘いを挑むのは愚策である。

 なので、退却の合図を仲間に送る。

「喰らえ!」

 チャッドからの合図を受けて、敵魔法士が魔法を放つ。火の爆裂魔法だ。

 だが、これはイルムハートもシャルロットも十分に予想していた。

 即座に防御魔法を展開すると、少し遅れて敵の魔法が炸裂した。

 轟音と激しい炎が辺りを包む。

 やがてそれが収まった時、チャッド達が森の出口に向かって遥か遠方を駆けてゆくのが見えたのだった。

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