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新しい街と新しい生活 Ⅰ

「あれが王都か。さすがに大きいな。」

 飛空船の展望窓から遠くに姿を現し始めた王都アルテナを見て、イルムハートは思わずそう呟いた。

 少なく見積もっても故郷フォルタナ領都ラテスの5倍、いやそれ以上はありそうだった。

 しかも城壁で囲まれた王都の周りには城壁より低めの壁で囲まれている開けた土地がいくつか点在している。

 遠視の魔法を使ってみると、それが軍の駐屯地だったり飛空船の発着場だったりすることが判った。

 地方都市でしかないラテスと比べる事自体間違いなのだろうが、それにしても桁違いと言ってもいいほどの規模である。

 王都の中央には強烈な存在感を示しながら王城がそびえ立っていた。

 その姿はラテスのフォルテール城とは異なり、まさに誰もが思い描く通りの”城”という感じで3本の尖塔が特に目を引く。

 一番高い塔の高さは200メートルはあるだろうか。

(あれは、昇るのがタイヘンそうだ。)

 昇れと言われても絶対にお断りしたい高さである。

 それにしても、この世界の文明は不思議だとイルムハートは思う。

 転生する際、最高神からは地球の中世程度の文明を持つ世界だと聞かされた。

 なるほど、政治形態を初めとする文化的な面では確かにそうかもしれない。

 だがその一方で、この世界の人々は飛空船を飛ばし長距離通信も可能としている。

 また、中世の地球では数十年、数百年掛けて造られるような高層建築物も僅か数年で完成させてしまう。

 アルテナの王城も10年掛からずに完成したと本で読んだことがある。

 つまり”技術”はイルムハートがいた頃の地球と同等だったり、あるいはそれすら上回っている部分もあるのだ。

 なのに、何故文化的には中世のままなのか?

(……やっぱり、魔法なのかな?その理由は。)

 地球の場合、技術の進歩により文化も変わっていった。と言うより、変わらざるを得なかった。

 それは便利になったからと言うだけの理由ではなく、技術の進歩は科学の発展と共にあったからだ。

 新しい知識を得ることで人々の意識や考え方が変わり、旧い価値観が支えていた色々なものを排除していったのだ。

 だが、この世界ではそうではない。技術の進歩とは単に”新しい魔法の使い方”を見つけただけに過ぎない。

 全てが「魔法だから」で片付けられてしまうこの世界では、技術が進んでも新たな知識に目覚めるわけではなく、人々の意識を変える事も無い。

 それが文化的な発展の速度を緩やかなものにしてしまっているのではないか?とイルムハートはそう思った。

 尤も、その是非を判断するつもりなど毛頭無い。環境が違えば文明の発展する様相が変わるのも当然だろう。

 地球には地球の、この世界にはこの世界の時間の流れがあるのであって、どちらが正しいというわけではないのだ。

 と、そんな事を考えていたイルムハートは、ふと我に返り苦笑を浮かべながら頭を掻いた。

(どうも、柄にもない事を考えちゃったな。)

 自分は学者でもなければ評論家でもない。ましてやこの世界を改革しようなどと考えているわけでもない。

 王都の規模に圧倒され、つい柄にもなく文明批評めいたまねをしてしまった自分が気恥ずかしかった。

 そんなイルムハートを乗せた飛空船は、王都へと辿り着くべく徐々にその高度を下げ始めたのだった。


 イルムハート・アードレー・フォルタナ。バーハイム王国フォルタナ辺境伯ウイルバートの第3子にして異世界からの転生者。

 彼は前世において神々の事情による”事故”で命を失い、その代償としてこの世界へと転生し新たなる人生を送ることになった。

 しかも、元の世界・地球における知識を持ったままで。

 だが、前世の個人的な記憶は消失していた。文化の違いによるストレスを軽減するためらしい。

 確かに、この世界で日常生活を送るにあたってもそれ程違和感を感じずに済んでいた。

 知識ではその違いが判っていても肌感覚ではそれを意識することもなく、むしろ前世のことのほうがどこか別世界のように感じるのだ。

 そして今、イルムハートは故郷ラテスから王都へと移り住むために飛空船上の人となっていた。

 ラテスから王都アルテナまでは定期便なら丸1日かかるのだが、イルムハートが乗っているのはアードレー家のプライベート飛空船である。

 定期航路のように他の街々を周る必要が無いため、その半分もかからずに到着するのだ。

 早朝ラテスを出発すれば午後遅くには王都に到着する。

 明け方、使用人総出で見送られ城を出たイルムハートは、ラテス郊外にある飛空船発着場へと向かった。

 別にもう少しゆっくりでも良かったのだが、先に王都へ移り住んでいる2人の姉と夕食を共に出来るようにとその時間を選んだ。

 何しろ、彼女達はこの日を心待ちにしていたのだから。

 と言っても、2人の姉が通っているアルテナ高等学院はついこの間まで学年末の休みとなっており、その間はラテスに帰郷していた。

 なので、新学期のため王都へと戻ってからまだ半月も経ってはいない。

 実は彼女達が王都に戻る際にイルムハートも一緒に王都へと移動する予定だったが、父ウイルバートが寝込んでしまったため延期となったのだ。

 幸いにも軽い風邪ということで姉達は先に王都へと戻り、イルムハートは父親のため少し日を遅らせたというわけだ。

 尚、これについてはイルムハートを王都へ送り出すことに未だ納得していないウイルバートの仮病説や、息子を送り出す寂しさのあまり熱を出したのだという同情論等、裏では様々な説が飛び交ったがその真相は不明である。

 まあ、本人が気付いているかどうかはともかく、ウイルバートが”超”の付く程の親バカであることは既に周知の事実だったのでどの説にも信憑性はあったし、真相が何であろうと同情こそすれ彼を非難する者はいなかっただろう。

 そんな事情もあって、不承不承王都へと戻って行った姉達に気を使い出発の時間を早めたのだ。

 そして、目を赤くした父ウイルバートといつも通りの笑顔を浮かべる母セレスティア、それと近しい者達に見送られてイルムハートはラテスを後にしたのだった。


「イルムハート様、そろそろお席に着かれたほうがよろしいのではありませんか。」

 船内に流れた王都到着のアナウンスを聞いてエマがそう声を掛けてきた。

 エマ・クーデル。フォルタナ領有数の商家の娘で、今はイルムハート付きのメイドである。

 イルムハートが4歳の時、正式にお付きのメイドとなって既に4年。立場的には主従であっても、今では姉弟のような間柄であった。

 彼女はイルムハートより11歳年上で今年20歳を迎える。

 本来、行儀見習いが目的でアードレー家にやってきたエマは、20歳になったら実家である商会に戻り跡継ぎである兄の補佐役を務める予定になっていた。

 だが、お付きのメイドとなったことで、それはイルムハートが11歳になる年まで延長された。

 ”11歳まで”というのは、そこでお付きメイドの役割が終わるからだ。

 この世界では10歳までが子供で、11歳からは仮成人となる。成人は16歳でそれには達しないが、社会に出て働くことを認められる歳だ。

 それを機に、お付きメイドのシステムもいったん終了となるのだった。

 女子の場合、衣装や髪の手入れに加えて化粧なども必要となるため、人数を2~4人に増やして再度お付きのチームを編成し直すことになる。

 だが、男子の場合はそれほど手間もかからないこともあり、専属チームが出来るのは同じだが屋敷の仕事と掛け持ちにローテーションで世話をする体制に変わる。

 常に傍にいるお付きとは異なる形になるのだ。

 せめてその時までは傍らに付いていたいというエマの思いと、付いていてほしいというイルムハートの希望により年季が延長されたのである。

 例えラテスから王都アルテナに場所を移そうともそれは変わらない。

 イルムハートの行く処であれば何処へでも付き従って行く、それがエマの望みだった。

「そうだね。エマも座りなよ。」

「はい。それでは失礼します。」

 飛行船自体は発着時の揺れがほとんどないとは言え、不意の突風等で大きく傾くこともある。なので2人はソファに腰を下ろし万が一の場合に備えた。

 本来なら主人とメイドが同じ席に着くなどありえない事なのだが、イルムハートがそれを許していた。

 2人きりでいる時は言葉も態度も、あまり畏まらないでほしいとそう望んだのだ。

「いよいよ王都ですね。」

「うん。それにしても大きいな、王都は。エマは王都には?」

「今回が初めてです。父や兄などは何度か訪れておりますので、話だけは聞いていましたが。」

「そうか。王都はラテスなんかよりずっと大都会だからね、いろいろと楽しみだ。」

「そうですね。」

 2人が他愛のない話で時間を潰していると、やがて飛空船が地面に着地して軽い揺れが起きる。

 その後、着陸完了のアナウンスがされると、エマはすっと立ち上がりソファから離れた位置に控えた。

 随員が到着の報告に来ることを予測してのことだった。

 やがてその通りに、フォルタナ騎士団の制服を身に着けた一人の女性が部屋に入って来る。

「イルムハート様、無事王都へ到着いたしました。お迎えの馬車が来ておりますので、どうぞそちらへお乗り換えください。」

「ありがとう、ニナさん。」

 彼女の名はニナ・フンベル。フォルタナ騎士団の団員で、とあるきっかけからイルムハートが一人で行動する際にはほぼ専属で彼女が護衛に付くようになっていた。

 彼女とは気の許せる仲であり、しかもラテスでは剣の訓練をしてくれた教師のひとりでもあるため、イルムハートは”ニナさん”と呼ぶ。

 勿論、親しい者だけで話す場合に限るのだが。

 ニナも最初は、臣下の身でありながら”さん”付けで呼ばれることにかなり抵抗を示したのだが、今では慣れた様子だった。

「長旅、お疲れ様でした。と言いたいところですが、ここから王都のお屋敷まではまだ1時間以上かかります。もう少し我慢してください。」

「まあ、あれだけ広ければ仕方ないでしょうね。」

 ニナの言葉に苦笑しながら、イルムハートは先ほど見た王都の姿を思い出した。

 この発着場も市街からは少し離れた場所にあるし、通常街中の道には速度制限が掛けられていて馬車でもそれほど速くは走れない。

 その上であの広さである。時間が掛かるのも当然だろう。

 とは言え、それが嫌だという訳でもない。ゆっくり時間を掛けて王都の街並みを見物しながら行くのも悪くはないだろう。

 幸い、早めにラテスを発ってきたので時間にはまだ余裕があった。

「それじゃあ、行きましょうか。」

 そう言ってイルムハートはゆっくりと腰を上げた。


 イルムハートは飛空船を降りてみて、この発着場の広大さと共にトラバール王国の国力を改めて実感した。

 ラテスのフォルテール城より広い敷地には、数多くの飛空船が停泊していた。

 イルムハートが乗って来たのはアードレー家所有のプライベート船なのでやや小振りだが、他の船はそれよりも二回りも三回りも大きな定期航路船である。それが10機以上並んでいた。

 現在航行中の船も合わせればその数は一体どれほどになるのか?

 故郷フォルタナも裕福な領地ではあったが、さすがに規模が違う。”大陸の三柱”と呼ばれるのも伊達ではない。

 飛空船を降りたイルムハートをフォルタナ領王都駐在所の職員が出迎える。

 荷物は既に運び出しが終わって馬車の後部に乗せられていた。

 荷物と言っても大方は前もって搬送済であり、今持ってきているのは船内で使う身の回りの物程度であるため、その量は大したことはない。

 イルムハートはエマを伴って馬車に乗り込む。エマも今日はメイド服ではなく正装しているため、同じ馬車に乗っても不自然さは無い。

 ちなみに、ニナは馬車と共に連れられてきた馬に騎乗する。万一の場合、そのほうが動き易いからだ。

 彼女は帯剣しているが、アードレー家の紋章が入った馬車に付き添っている以上、誰もそれを咎めたりはしない。

 出迎えの職員が乗り込むと馬車はゆっくりと発進し、やがて発着場の門を出る。当然、検問はフリーパスだ。

 空から見ると発着場から市街まではそれ程離れていないように見えたが、どうも全体の大きさに距離感が麻痺していたようで、実際にはかなりの距離があった。

 周りよりも1段高く盛り上げて造られた石畳の広い道をしばらく走っていると王都の城壁が迫ってくる。

 発着場からもその威容は見て取れたが、間近で見るとさらに迫力があった。

(これは……凄いな。)

 城壁は高いところで50メートル程もあると、職員がそう教えてくれた。

 それがこの広大な王都をぐるりと取り囲んでいるのだ。いくらこの世界には魔法があるとは言え、その労力を考えると言葉も出ない。

 それはエマも同じようで、食い入るように城壁を見つめていた。

 そうこうしている内に馬車は王都の正門へと辿り着く。

 王都には3つの門があり、この正門が一番大きな門との事だった。

 正門は高さは20メートル、幅は30メートルもありそうな大きな門がひとつと、その両脇に10メートル四方程度の門がひとつずつ、計3つの門から成っていた。

 大門は国王が通る場合と軍の出陣式を行う場合のみに開かれるらしい。

 それ以外は右側が貴族や政府関係者、左側が一般庶民とそれぞれ分けて出入りがされていた。

 イルムハートを乗せた馬車は右側の門から城壁内へと入って行く。

 さすがにここではフリーパスという訳にはいかなかったが、アードレー家の馬車を検閲など出来るはずもない。

 門番に搭乗者の身分を告げるだけで問題なく通ることが出来た。

 城壁の中、壁の付近は一定の幅更地にされていた。おそらく城壁警備の兵士が移動するための通路を確保するためだろう。

 それを越えると一気に建物が増え始める。

 正門から真っすぐに続く大通りは幅30メートルほどもあり、なめらかな石畳で舗装されていた。

 その両側には4階、5階、高いものでは10階建ての建物がずらりと並んでいる。

 この世界にはエレベータは無いが、魔道具を利用したリフトのようなものは存在した。

 それなりに値の張るものなので全ての建物に付いているわけではないが、さすがに10階建ての建物にはあるのだろう。

 でなければ上層の居住者はかなりのドMに違いない、などどつい下らない事を考えてしまう。

 そんな景観が王城までずっと続くかのように見えるが、実はそうではない。

 王都には門から王城までのちょうど中間あたりに幅40メートル程の大きな堀があった。

 これは、ラテスのように旧市街と新市街の境界線というわけではない。王都建築の始めから造られていたものだ。

 その目的は水利だけではなく、防衛も兼ねていた。と言うより、むしろ防衛のほうが主であろう。

 万一、敵が城壁内に侵入してきた場合の二次防衛線とするためである。

 なので、大通りも堀の手前でいったん途切れる。そこから左右に分かれる大きな道があり、それは堀を渡る跳ね橋へと繋がっていた。

 そして跳ね橋を渡ると2つの道は再び合流し、また元の大通りに形を戻すのだ。

 王都の3つの門からは同じように道が通っており、計6つの跳ね橋がある。

 また、それ以外にも堀の内と外を繋ぐ木で造られた橋がいくつか掛けられている。これらが木製なのは、いざという時にすぐ橋を壊せるようにするためだ。

 隣国と国境を接しているフォルタナの領都よりもずっと非常時に対する対策が考えられており、さずがは一国の王が住まう都市といったところである。

 馬車が跳ね橋を渡り堀の内側の大通りへと合流すると、外側とは違う景観がそこにはあった。

 外側では高い建物が隙間なく建ち並んでいる印象だった。それは壮観ではあるのだが、裏を返せば土地が足りていないと言うことにもなる。横に広げられないから上に伸ばすしかないのだ。

 しかし、堀の内側はそうではなかった。

 高さはせいぜい3階建て程度しかないのだが、建物と建物の間がかなり広く取られている。また、それぞれの建物は高い塀で周りが取り囲まれていた。

 つまりは貴族や大商人等、裕福な者たちが住む高級住宅街なのである。

 そして、王城が間近に見える辺りまで来るといったん建物が途絶え、緑道のようなものが現れた。検問こそされなかったが道の脇には警備の兵士も立っている。

(なるほど、ここからが本当の”貴族街”ってことかな。)

 イルムハートの予想通り、この緑道の内側には伯爵以上の上級貴族の屋敷が建ち並んでいた。建物の高さこそ変わらないものの、その敷地は格段に広くなる。

 尤も、イルムハートにさほど驚きはない。何しろ彼は”城”に住んでいたのだから、この程度で驚くはずもなかった。

 王城の門のほんの手前、僅か(と言ってもその広さは桁違いではあるが)一区画というところで馬車は左に進路を変える。

 この貴族街でもひときわ大きな屋敷が並ぶ中、しばらく馬車を走らせるとそこにフォルタナ辺境伯アードレー家の王都屋敷はあった。

 イルムハートの到着に備え開け放たれた門の前では、警備兵が数人並んで敬礼をしていた。

 その脇を通り抜けた馬車が木立の中を進んで行くと、やっと屋敷が見えてくる。

 アードレー家の王都屋敷はラテスのフォルテール城に似せて造られていた。

 但し、似ているのは配置のみでそれぞれの建物の機能は多少異なっている。

 先ず、正面にあるのが執務棟。王都駐在事務所が入る建物で、これはフォルテール城と変わらない。

 次に向かって右側にあるのがアードレー家の屋敷。これも変わらない様に見えるが、少し違いがあった。

 フォルテール城ではパーティー用のホールが別棟にあったのだが、ここでは屋敷の中に設けられていた。

 そして、最後に向かって左側の建物。フォルテール城では儀典棟としてこちらにホール等を設けていたのだが、ここ王都屋敷では居住用の建物となっている。王都駐在官の屋敷として。

 王都駐在官はウイルバートより子爵の位を与えられた貴族であるため、独自の屋敷を持っているのだ。

 貴族と言っても子爵でしかない以上、本来ならもっと王城から離れた場所にしか屋敷を建てることが出来ないのだが、それだと王都駐在官としては不便な事極まりない。なのでアードレー家の敷地内に屋敷を構えているのだった。

 これは別段珍しい事ではない。領地持ちの貴族は例外なく王都に駐在事務所を置いているが、そのほとんどは同じように屋敷の敷地内に駐在官を住まわせている。

 日頃留守にしている自分たちの屋敷を管理してもらうという意図もあるからだ。

 ちなみに、王都駐在官が子爵の地位を与えられていると言っても、それはウイルバートが叙爵したということではない。

 貴族に叙する行為は国王の専権事項であって、ウイルバートにその権限は無いのだ。

 なので、あくまでも幾つか持っている爵位のひとつを貸し与えているに過ぎない。

 貴族が持つ領地とは、実際にはさらに細かく分けられたいくつかの統治区域が集まって構成されている。

 広大な土地を中央集権的に管理するのが難しいため、分割しそれぞれに権限を与えて運営してゆく必要があったからだ。

 そして、その統治区域には国から子爵または男爵の爵位が用意されるのがしきたりであった。区域ごとに税が算定されるため、その根拠付けが主な理由だ。

 その際、爵位は用意してもそれを誰に授けるかまでは決められていないため、結果として領主がそれらを総取りすることになる。

 領主が複数の爵位を持つ理由がこれである。

 そしてその爵位は領地を治めるだけではなく、こうして対外的に活動するために貸し与えられているのだった。

 叙爵は国王が行い、領主は授かった爵位を配下の者に貸し与えるだけ。それならば国王の権限を侵すことにはならない。そういう理屈なのだ。

 建前は大事だが円滑な国家運営には柔軟な運用も必要だ。

 それはどこの世界のどんな体制の国家でも同じなのである。

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