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夢見の力と予言の子 Ⅲ

 先々代の辺境伯、ウイルバートの祖父でイルムハートの曾祖父に当たる人物は特殊な能力を持っていた。

 それは夢見の力。未来が見える能力であった。

 夢見の力は時間魔法の一種と言われているが実は定かではない。それどころか魔法かどうかを疑問視する声もある。

 何故ならば魔法としての要件が当てはまらないからだ。

 魔法とは魔力を術者のイメージで具現化したものであるとされている。だが、夢見の力は術者の意志に関係なく発動するのだ。

 そう、未来を見る力と言えば神にも匹敵する能力のようにも思えるが、実際には何を見るかを自分で決めることの出来ない不便極まりない能力だった。

 ある日突然、どこの誰かも判らなかったり、どれだけ先の事なのかもはっきりしない様なビジョンが頭の中に湧いてくるのだ。

 しかも、その能力には代償として生命力を奪ってしまうと言う欠点があった。

 そのため、先々代辺境伯は30代後半と言う若さでこの世を去る事となる。

 彼は夢見の力で見た内容のほとんどを墓の中まで持って行ってしまった。

 どんな未来を見たのか判らないが、後世の者に伝えるべきではないと判断したのだろう。

 その中で僅かではあるがその内容を残しており、そのひとつが”予言の子”についてである。

 それは、『アードレーの家に神の遣わした子が産まれる』と言う内容であった。

 だが、予言と伝わっているのは『跡継ぎではないアードレー家直系の男児』とそれだけしかない。いつの時代かすらはっきりしていないのだ。

 先代は4人の子をもうけたが結局男児は第1子のウイルバートのみであり、”予言の子”の誕生は次の世代へと託された。

 そして、イルムハートが産まれる。

 しかし、果たしてイルムハートが”予言の子”かどうかは、誰にも判らなかった。

 跡継ぎではない男児と言う条件は満たしているものの、産まれる時代が明言されていない以上、イルムハートがそうであると言い切る事は出来ない。もっと後世に生まれてくる子の事かもしれないのだ。

 ウイルバートはこの事をセレスティア以外にも、今ここにいる3人と病床にある領軍総司令官だけには伝えていた。

 家族同然とも言える彼等に、イルムハートが果たして”予言の子”なのかどうかを見極めてもらっていたのだ。

 また同時に、普通の貴族であれば我が子にはさせないようなことも敢えてさせてきた。

 魔獣討伐への同行や冒険者試験だけではない。日々の教育に関してもだ。

 通常、剣や魔法の訓練を騎士団や魔法士団が受け持つことはない。子供にはレベルが高すぎるし、あまりにも実戦的だからだ。

 普通は剣術道場の師範や魔法学者を教師とし、彼等から習うものなのだ。

 実際、2人の姉の場合はそうだった。

 しかしイルムハートの場合は、本人が剣や魔法にことのほか興味を持っていることを口実として実戦的な訓練をさせてきた。

 ”予言の子”であった場合のその将来を考えてのこともあるが、何より能力を見極めるのに適した環境にするためだ。

 そして、その結果は今皆から聞いた通りである。

 僅か8歳でありながら知力に魔法に剣術、その全てにおいて一流と呼ばれる者達を驚嘆させるだけの能力を有しているのだ。

 それはもう秀才とか天才とか呼ぶレベルではない。子供としてはあきらかに異常である。

 何か特別な資質を持って産まれてきたのだと、そう判断せざるを得なかった。

「目出度い事ではないですか、ウイルバート様。」

 皆がウイルバートの複雑な心境を知って沈黙する中、バリーは敢て祝いの言葉を発する。

「己が子が特別な存在であると言うのは嬉しい反面、遠い存在になるようで寂しくもなるのが親心でしょう。

 ですが、比喩でもなんでもない本当の神の祝福を受けてお産まれになった御子なのです。

 ここは素直に喜ばれてもよろしいのではないですかな?」

 バリーの言う事はウイルバートも解っている。我が子が神の祝福を受けて産まれた事を喜ばないはずがない。

 だが正直、神が遣わした子と言われてもその実感があるわけではない。彼にとってイルムハートは、あくまで”我が子”イルムハートなのだ。

 しかし、イルムハートが”予言の子”であるのならば、同時に神の子と言う事にもなる。自分だけの子ではないと言う事に。

 それがウイルバートの感情を複雑にしているのだった。

 そして、ウイルバートを不安にさせる要素がもうひとつ。

「しかし・・・”予言の子”は何をなす為にこの世に生を受けるのか、そこが判らないままでは素直に喜んでいいものかどうか。」

 マークがウイルバートの気持ちを代弁するかのように口を開く。

 そう、先々代は神が遣わす子の予言は残したが、その子がどんな使命を持って産まれてくるのかまでは明言していなかったのだ。

 その事がウイルバートを悩ませていた。

 人々に福音をもたらし穏やかな一生を過ごすのか、あるいはこの世の危機に立ち向かうべく過酷な生を送るのか。

 もし仮に後者であるとしたら、例えそれが神の意志であろうとも親としては受け入れ難いものであった。

「やはり先代様もご存じないのですか?」

「ああ、何度も確認したのだが、それについての言葉は残さなかったとの事だ。」

 アイバーンの問いかけに、ウイルバートは少し苛立った口調で答えた。

「・・・だが、あの父上の事だ、まだ何かを隠していないとも限らない。

 予言の話もイルムハートが産まれてしばらく経ってから、やっと聞かされたのだぞ。

 将来はどんな子に育つのかいろいろ考え楽しみにしている中で、いきなり『この子は神が遣わした子だ』などと言われてみろ。全く意地の悪い事だ。」

 予言の話を告げられた際の我が子を引き離されるような喪失感を思い出し、ウイルバートは段々と腹が立ってきた。

「その様に悪く言うものではありませんわ、あなた。」

 そんなウイルバートをセレスティアが宥める。

「お義父様にしてみれば、男児を産まねばならないという重圧を私たちに与たくないとお考えになったのでしょう。」

 それはウイルバートも解っていた。

 父はウイルバートの後に3人の子を授かっている。だが、それは全て女児だった。

 子供が無事に産まれて来た事への喜び。と同時に感じる、”予言の子”ではないという微かな失望。

 おそらく父は、そんな感情を抱く自分を嫌悪したに違いない。

 息子にはそんな気持ちを味わわせたくない、そんな思いがあったのだろうと。

 だが、それはそれだった。

「そうかもしれないが、意地が悪いのも確かなのだ。

 予言の話をしてくれた際の、あの父上の悪戯っ子のような目を君は見ていないからね。」

 拗ねたようにプイと横を向いたウイルバートを見て、セレスティアは駄々っ子をあやす様な静かな笑みを浮かべる。

「それに、イルムハートの事も心配し過ぎではありませんか。大丈夫ですよ、あの子はあなたの子なのですから。」

「・・・確かに、私達の子供だしね。」

 セレスティアの言葉にウイルバートは少し冷静さを取り戻し、照れたように笑って見せた。

「仲がよろしくて何よりですな。」

 バリーが遠慮無くそう言って笑う。

 よほど心臓が強いらしく、ウイルバートがジロリと睨んで見せても全く悪びれた様子がない。

「何、イルム坊ちゃんの事はご心配無用ですぞ。儂等が付いておりますでな。

 もし何かあれば、その時はいつでも駆け付けて坊ちゃんのお力になる所存ですぞ。」

 しれっとそう言ってのけるバリーに対しては、ウイルバートも苦笑するしかなかった。

「では、その時まで長生きしてもらわねばならんな。」

 嫌味を言われると思っていたバリーだったが、ウイルバートの思いがけない方向からの反撃に一瞬驚いた表情を浮かべ、それから照れた様にあご髭をさすった。

「お言葉、痛み入りますわい。」


 そんなやりとりに場が和んだところで、ウイルバートは話を本筋に戻した。

「それでだ、イルムハートが”予言の子”であるならば、それに合わせた今後の処遇を考えねばなるまい。

 私としては特別扱いしたくないのだが、かと言って普通の子と同じというわけにもいかんだろう。」

 ウイルバートはそこでちょっと寂しそうな表情を浮かべる。

「年が明ければあの子も王都へと移り住む事になる。そこでどのような暮らしを送るのがあの子にとって一番良いのか、それを一緒に考えてほしい。」

「まあ、今のところは坊ちゃんのやりたいようにして頂くしかないでしょうな。

 ”予言の子”の為すべき事が判らん以上、進む方向を儂等が決めるわけにもいきますまい。」

 ウイルバートの問いに対するバリーの言葉は正しいだろう。誰もそれを否定する事は出来なかった。

 しかし、全てを投げ出してしまうわけにもいかない。

「ギャレル団長のおっしゃる事は正しいと思いますが、しかし全くの放任というわけにもいかないでしょう。

 イルムハート様はその実力はともかく、社会的には僅か8歳の子供でしかないのです。まだ一人前と認められる年齢ではありません。

 そのせいで、いろいろと意に沿わぬ制約も受けるでしょう。

 ですので、出来るだけ制約されず動けるように環境を整えておくのが私たちの役目ではないかと思いますが。」

「なるほど、それも尤もな話。で、儂等は何をすれば良いのかな?」

 反撃を覚悟しながらそう反論したマークだったが、予想に反してバリーはあっさりとそれを受け入れた。ニヤリと笑いながら。

(まったく、食えない爺さんだ。)

 それを見て、マークは内心舌打ちをする。上手く丸投げされてしまったことに気が付いたからだ。

 とは言え、いかに明晰な頭脳を持っていようとバリーもアイバーンも実行部隊の長なのだ。

 となれば、どのみち立案は自分の役割になるであろうとマークは自身に言い聞かせた。

「明確に何をすべきかと言う点については、申し訳ありませんがすぐには思い付きません。

 とりあえず王都で過ごされるにあたり、今までとは違った新しい対応が必要な点を個々のケースで洗い出してみてはいかがでしょうか?」

 特に反論は無かったので、マークは話を続ける。

「先ず勉強に関しては、通常であれば家庭教師を付けるか貴族専用の初等学院に入って頂くかの何れかになるのでしょうが、イルムハート様の場合はどちらも必要とはされないでしょう。

 既に知識だけで言えば家庭教師と同等かそれ以上のものを持っていらっしゃいますし、初等学院に至ってはただ退屈なだけでしょう。」

「学院には入る必要がないと?」

「初等学院には、です。」

 アルテナ高等学院への入学が決定事項である事はマークも知っているので、ウイルバートの問いの意味もすぐに分かった。

「高等学院では書物を読むだけの場合とは異なる新たな知識や経験を得る事が出来るでしょうから、イルムハート様にとっても有意義なものとなると考えます。」

「それまでの間、教育は不要という事か・・・。」

「貴族教育については引き続き行っていただきますが、純粋な学問に関してはそう言う事になるかと。」

 続いてマークはアイバーンとバリーを交互に見た。

「次に剣術と魔法の訓練に関してですが、こちらもお二方のお話を聞く限りではあまり意味が無いのではないかと考えます。

 勿論、日々の鍛錬が重要な事は理解していますが、その効果も訓練の相手によりけりでしょう。

 騎士団や魔法士団の上位の方々ならともかく、王都の屋敷に駐在している中にイルムハート様のお力を伸ばせるだけの者が果たしているのかどうか。」

「残念ながらおらんのう。」

 バリーは眉をしかめながらあご髭をさする。

「元々、あそこに詰めておる者達は屋敷の警備が目的で、現地採用の者がほとんどじゃ。その実力は我がフォルタナの魔法士団や騎士団には遠く及ばん。

 今はマリア嬢ちゃんとアンナ嬢ちゃんが移っておられるのでこちらからも人は送っておるが、正直上位の者ではない。

 そもそも、国王のお膝元に強者を戦力として配置するわけにもいかんからのぉ。

 王国の魔法士団や騎士団の者と訓練出来れば一番良いのだが、流石にそうもいくまいて。のう、アイバーン。」

 意味ありげな口調でバリーが話を振ると、アイバーンは苦笑しながらそれに答えた。

「でしょうな。いくら知己の者がいたとしても、8歳の子供を相手にしてくれとは言えませんな。

 イルムハート様の実力を知らない者からすれば、馬鹿にされていると思うかもしれません。

 それに・・・。」

 そこでアイバーンは不意に表情を引き締める。

「それに、今はまだイルムハート様の力を広く見せるべきではないと考えます。

 良からぬ考えで近づいてくる者が無いとは限りませんので、警戒するに越したことはないでしょう。

 例えそれが王国であっても。」

 微妙に危険な発言だったが、それを咎める者は誰もいない。

 貴族は王の臣下ではあるが、同時に自己防衛の権利も持つ。明文化はされていないものの、それがこの国の常識だった。

 国王が独裁者となり暴走することが無いよう、興国の祖達が取り決めた不文律である。

 現国王が名君の部類に入る事は誰しもが認めるところだろう。

 だが、名君と呼ばれた者が側近の甘言で愚行に走る例は歴史上皆無ではない。

 そして、イルムハートの能力は十分に魅力的で、同時に危険でもあった。取り込めば大きな力となり、敵対すれば脅威となる。

 イルムハートを巡って国がどう動くか、それが見定められない内は可能な限り情報は秘匿すべきだろう。

 少なくとも、イルムハートが自身の意志で身の振り方を決められるような年齢になるまでは。

「となると、王都では特にやるべき事が無くなってしまうな。無駄に時間を持て余すことになってしまう。

 やはり高等学院入学までは王都ではなく城で・・・。」

 イルムハートの王都行きを中止する口実が出来たという下心見え見えの表情でウイルバートがその事を口にしようとした時、不意にセレスティアがそれを遮った。

「冒険者をさせればよろしいではありませんか。本人もそれを望んでいる事ですし。」

 ウイルバートは一瞬呆けたような表情を浮かべ、次いで難しい顔になる。

 話を遮られた事が不快だったわけではない。ただ、セレスティアの言葉が意外すぎたのだ。

「セレスティア・・・話は聞いていただろう?イルムはまだ一人で自由に動ける年齢ではないのだよ?

 それに、アイバーンの言う通りあの子の能力はあまり表沙汰にはしないほうが良いと私も思うのだ。」

 セレスティアは聡明な女性だ。そんな彼女が、今までの話を理解してないはずはない。

 なのに、全く逆の言葉を発した事でウイルバートは戸惑ってしまったのだった。

 しかし、当のセレスティアはそんなウイルバートの反応など気にかけた様子もなく、いつもの様に微笑みを浮かべている。

「後見人を付ければよろしいのです。」

「後見人?」

「はい。高ランクの冒険者を雇い、イルムハートと行動を共にしてもらうのです。

 そうすれば、かなり自由に活動できるのではありませんか?」

「それはそうだが・・・。」

 確かに、冒険者が時折り見習いを伴って行動することはある。その場合、未成年者であっても後見人が付いているという事で行動の幅が広がるのだ。

 後継者育成のためギルドもそれを推奨していた。

 まあイルムハートの場合、見習いと言うより冒険者に憧れる少年のために親がお膳立てした貴族の道楽と世間は見るだろう。

 本人としては不本意だろうが、そう見られるのは何かと都合が良い。

「それに、冒険者の主な活動は人里を離れた所で行われるのでしょう?

 であれば、能力を使っても人目に付きにくいですし、冒険者には守秘義務があると聞きますので同行者がそれを漏らすことも無いでしょう。

 そもそも高ランクの冒険者と共に行動していれば、イルムハートのしたことも全てその冒険者の行いとして周りは見るはずですから、あの子に目を向ける者は少ないと思いますわ。

 但し、全ては信頼できる高ランク冒険者を見つけられればの話ですけれど。」

 セレスティアの話に他の4人が異論を口にする事は無かった。その余地が見つからなかったからだ。

 尤も、ウイルバートだけは小声で「冒険者は・・・危険じゃないかな」と呟いたのだが、それは全員に無視された。

「冒険者には心当たりがあります。信頼出来る人間であることは私が保証します。」

「では、冒険者への打診はアイバーンさんにお任せしますわ。」

「冒険者を雇うに当たっては、ギルドの方にも話は通しておいたほうがよろしいでしょう。ラテスのギルド長と話してみます。」

「よろしくお願いしますね、マークさん。」

「ほっほっほ、これは面白い事になってきましたなぁ。魔法士団の事が無ければ儂が同行したいくらですわい。」

「それでは目立ち過ぎてしまいますわ。今回は我慢してくださいね、バリーさん。」

 割り切れない想いの当主を置き去りにしてどんどん話は進んでいく。

 そうなると、さずがにウイルバートも受け入れるしかなくなる。

「・・・まあ、それも良いかもしれないな。色々な経験を積む事は決して無駄にはならないだろう。

 いずれ為すべき事がはっきりするまで、あの子には好きな事をさせてやるか。」

 ウイルバートはそう言って話を纏めようとしたのだが、そこへセレスティアがまたも意外過ぎる言葉をぶつけて来た。

「それなのですけれど、あの子には”為すべき事”と言うものが本当にあるのでしょうか?

 あるかどうかも判らないものにこだわり過ぎているような気がしますわ。

 もしかしたら、そのようなものは最初から無いのかもしれませんわよ。」

「!!!!」

 セレスティアの爆弾発言に、皆は呆然とし言葉を失った。

 これが他の誰かの発言であれば即座に否定されたのだろうが、彼女が言うとどんな言葉も何故か妙に説得力を持ってしまうのだ。

 しかし、今回ばかりはそれを受け入れるわけにはいかなかった。

「イルムハートが”予言の子”であるならば、それは神が遣わした子ということになるのだよ。

 であれば、当然何らかの使命を与えられて産まれて来たと考えるべきだろう。」

 ウイルバートは極めて真っ当な事を言ったつもりだったが、それがセレスティアの心を動かすことはなかった。

「それは勝手な思い込みなのかもしれませんわよ。

 神のご意思など人間には推し量る事など出来ないのですから、私達の常識で判断すべきではないと思うのですけれど。

 そもそも、神の遣わした子が産まれる事は予言されているのに、その子が為すべき事柄については何も語られていないのは、語るべき”使命”など最初から無かったからではないでしょうか?」

 反論出来ずに、またしても黙り込む4人の男達。

 己の中の”常識”がセレスティアの言う事を全力で否定しているのも拘わらず、それでいて彼女の鉄壁の笑顔を崩せるだけの言葉が浮かんで来ないのだ。

「勿論、何らかの使命を持って産まれた可能性も否定はしませんわ。でも、どのように生きるかを決めるのはあの子です。

 あの子が進みたい道を選べば良いのです。それがどんな道であっても、人の道を外れてさえいなければそれで構いません。」

「仮に、仮にだよ、あの子が神の意に反した道を選ぶ事になればだね・・・。」

 つい恐る恐ると言った口調になってしまうウイルバートだった。果たして畏れているのは神か、それとも自分の妻か?

「そもそも、全知全能たる神であればあの子を遣わした時点でどういう道を歩むことになるかもご存知のはずではありませんか。

 あの子がどのような選択をしたとしても、それは全て神の思し召しの範疇でございましょう。

 ですが、もし万が一にでもその様な事になり・・・。」

 ウイルバートはゴクリと唾をのみ込みながらセレスティアの次の言葉を待つ。

「その様な事になり神のお怒りを買ったとしても、それでも私はイルムハートの判断を支持しますわ。」

 そう言い切るセレスティアを見て、ウイルバートは乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

「君は・・・強いね。」

「母親ですから。」

(・・・この人セレスティアには勝てないな。)

 満面の笑顔で答えるセレスティアを見て、4人の男達は心の底からそう思った。

 最早、彼女の言葉に反論する気力すら奪われてしまっていた。

 こうして、イルムハートの王都での生活については、セレスティアの独壇場のまま決定されたのだった。

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