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冒険者ギルドと冒険者登録 Ⅰ

 年が変わり月日が経ち、イルムハートは8歳になった。

 今年の誕生パーティーには2人の姉も王都から駆け付け、昨年不参加の鬱憤を晴らすかのようにイルムハートから離れようとしなかった。

 と言っても、王都の学院には新学期前に長期の休みがある上に秋と年末にもそれぞれ2週間ほどの休みがあり、その都度2人はラテスへと戻ってきているので、実は前回の帰省からまだ3か月も経っていないのだった。

「それとこれとは別よ。お誕生日を祝うのは特別な事なの。」

 マリアレーナ曰く、そう言う事らしい。

 授業を休んでの帰省であったため、1泊した後翌日の夕方には専用飛空船で王都へと戻って行ったのだが、イルムハートはその間入浴と睡眠以外ひとりでいる時間はほとんど無かった。以前の生活パターンに逆戻りである。

 さすがに姉達も大人になったのか前のように無理難題を吹っかけて来なくなってはいるが、それでも気疲れする事には変わりない。

(まあ、たまの帰省だからなんだろうけど・・・。)

 来年、王都で暮らすようになれば毎日顔を合わせるわけで、そうなればさすがにここまで拘束されることはないだろう。

 2人にはそれぞれ友人たちとの自分の時間というものもあるだろうし、そうそうイルムハートばかり構ってもいられないはずだ。

 半分は自分に言い聞かせるようにそう考えながら、イルムハートは姉達を見送ったのだった。


 7歳の1年間は実にいろいろな事があった。

 ドラン大山脈での訓練と天狼との出会い、トラバールでの騒動と特異種との遭遇。

 それに、城塞都市カサルと貿易都市セーリナスにも領内学習のためウイルバートと共に訪れた。

 カサルは正に城塞都市と呼ぶに相応しい、高さ30メートルはあると思われる堅牢な城壁に囲まれた街だった。

 元々は国境警備の要として造られた街ではあるが、現在は隣国との関係も良好であるため防衛よりは交易の拠点として重要な街になっている。

 とは言え、時流というものはどう転ぶか判らない。

 平和な時代ではあっても、相変わらず領内最大の軍駐屯地を持つのがカサルという街だった。

 一方、セーリナスは大きな港を持つ港湾都市で、フォルタナ最大の貿易拠点である。

 大陸の南端に位置し、南極にも近いことから寒冷な地をイメージしがちだが、実は温暖な内陸部よりも更に暖かい場所だった。魔力が気候に影響を与えているせいだ。

 一年の大半が海水浴の可能な気候であり、それを利用するための施設も多く作られている。

 また、海辺から少し山の方へ移動すると一気に気温が下がり、しかもそこに温泉が湧き出ているという、リゾート地としては他に望みようのないくらいに恵まれた環境にあった。

 そのためセーリナスは貿易都市であると共に国内、いやこの世界でも有数のリゾートとして栄えているのだった。

 街から少し離れた別荘地には国内外の貴族が建てた別荘が立ち並び、実はイルムハートの祖父母である前辺境伯夫妻もそこに居を構えていた。

 前辺境伯はウイルバートに家督を譲ると「年寄りがいてはやりづらかろう」と言って、さっさとセーリナスに移り住んでしまったのだ。

 ”年寄り” と言ってもその時はまだ50を少し過ぎた程度である。

 家督相続についてもまだ早いのではないか?という声も少なくなかったが、本人曰く

「儂は父親が早逝したせいで13で家督を継いだ。それからもう40年近くになる。そろそろ息子に家督を譲り、自由に生きたとしても罰はあたらんだろう。」

 とのことであった。

 ウイルバートの領主としての資質を認めての事なのだろうが、なかなか豪快な人であったらしい。

 祖父はウイルバートと違って子供に対しては放任主義だったそうだが、どうも子供と孫ではそれも異なるようだった。

 親馬鹿のウイルバート以上にイルムハートを猫可愛がりし、セーリナス滞在中は常にイルムハートと行動を共にした。

 それに嫉妬したウイルバートと口論にまでなる始末だったが、祖母の一喝でそれもすぐに収まった。

(女性が強いのはアードレー家の伝統なんだな・・・。)

 叱られてしゅんとする2人を見て、イルムハートは苦笑するしかなかった。

 余談ではあるが、セーリナスはフォルタナ領ではあるものの、実質的な統治は分家であるセーリナス子爵家が行っている。

 子爵家はセーリナスの街とその周辺だけという極めて限定的な所領しか持たないが、決して冷遇されているわけではない。

 貿易都市であり高級リゾート地でもあるセーリナスの街は、そこだけでフォルタナ領全体収益のおよそ1割を生み出す場所である。

 加えて、別荘を訪れる貴族達を相手にする外交官としての役割も担っており、むしろ信頼出来る分家だからこそ任せられた土地なのだった。


 そんな風にいろいろと経験を積みながら、イルムハートの王都行の準備は着々と進んでいた。

 学業の方も5年分を可能な限り3年で履修すると言う、一見かなりハードなスケジュールを自分に課していたが、それも予定以上に進んでおり最近では時間にも余裕が出て来ている。

 そんな時間を利用してイルムハートは冒険者ギルドを訪れるてみることにした。

 既に、イルムハートが冒険者を目指している事は周知の事実となっている。

 最初は周囲の人々も驚いた様子だったが、それに対し取り立てて意見されることは無かった。

 おそらく、かつては騎士に憧れた子供が今度は冒険者にその興味が移ったと、その程度に思われているのだろう。

 イルムハートとしても、いろいろ言われるよりはそう思ってもらえるほうが有難かった。

 同行者はニナ・フンベル。

 ラテスの街を馬車で移動する程度なので、護衛は1人で十分と判断されたのだ。

 トラバール以来、イルムハートの護衛には彼女が付くようになった。

 そこでの一件ではイルムハートの身代わりとして懲罰を受けることになりはしたが、それが逆に信頼関係を深める結果となったのだった。

 尚、エマは同行していない。

 メイドが同行するまでもないという事もあるが、粗野なイメージのある冒険者たちの中にエマを連れて行く事に抵抗があったのも確かで、万が一でも彼女に不快な思いをさせたくないと同行を断ったのだった。

 ニナならば良いのか?と言われれば、それは迷いなくイエスである。

 別にニナの扱いが悪いわけではなく、彼女ならちょっかいを出して来た相手に対し十分反撃が出来るからだ。

 不愉快な目に遭うのは彼女ではなく、相手の方であることは間違いないだろう。

 冒険者ギルド・ラテス支部はメインの大通り沿いに内堀を越え、新市街に入ってすぐの場所にあった。

 かつては旧市街にあったのだが、手狭になったため新市街の広い土地に移ったとの事だった。

 3階建ての大きな建物の割には窓はそれ程大きくなく、その上鉄格子で護られている。

 大きな扉は開かれたままになってはいるが、そこには冒険者が立って警備を行っていた。

 物々しいと言うほどではないが、治安が良いとされるラテスにおいてその様子は少々異質な感じがした。

 その理由は、商業ギルドや職人ギルドなど様々なギルドが存在する中で、冒険者ギルドがそれ等とは異なる特別な組織だからだ。

 他のギルドは国内、または領内における同業者組合として存在する。

 しかし、冒険者ギルドは国には属さない国際的な組織であった。

 東大陸中央部にある小国アンスガルドにある総本部が各国にある全ての冒険者ギルドを統括しているのだ。

 アンスガルド自体が冒険者ギルドによって運営される国なので、正確には ”国” に属している事にはなるのだろうが、ギルド以外にはこれといった産業を持たない国であるため他国と利害が対立することはなく、それ故に公平な組織として認められていた。

 国の名であるアンスガルドとは、冒険者ギルドの基礎を築いた男の名から取られたものである。

 今から400年ほど前、既に魔獣を狩る冒険者という職業はあったが、それは組織された集団ではなかった。

 魔獣退治の仕事を求めて世界を渡り歩く流れ者でしかなかったのだ。

 人々は魔獣被害に悩まされており、冒険者という存在は必要不可欠なものではあったのだが、身元すら確かではない者達のためあまり好意的に扱われる事もないし、実際仕事にあぶれて狼藉を行う者も少なくはなかった。

 その現状を憂いたのがアンスガルドという、とある国の貿易商である。

 そう、冒険者ギルドの祖は冒険者ではなく商人なのだ。

 魔獣が彼の商売に与える被害は甚大で、国軍による討伐だけではとても通商ルートの保全は不可能だった。

 商隊や通商拠点を護るためにはどうしても冒険者の力が必要なのだが、流れ者である彼等を必要な時に必要な数だけ集めるのは容易ではなく、しかも中には犯罪者が混じっている事もある。

 そこで彼が考えたのは、彼の通商網を利用した連絡網を作成し効率よく冒険者が移動出来るようにすると共に、彼等の身元をチェックし保証する仕組みを作る事だった。

 同じ悩みを持つ者が徐々に彼の考えに賛同してゆくことで次第にシステムは大きくなり国外へも広がってゆき、それが冒険者ギルドの基礎となった。

 もちろん、一朝一夕で今の組織が出来上がったわけではない。

 冒険者ギルドが今の形になったのは、それから100年近く経ってからである。

 その頃の総本部はアンスガルドの生国に置かれていたのだが、やがて冒険者ギルドの有用性に目を付けた権力者がギルドの支配を目論んだ事で国と対立し、拠点を移さざるを得ない状況に迫られた。

 その時、手を差し伸べたのが現在アンスガルドのある場所にあった公国であった。

 それは小国家群の中にあったその公国がアンスガルドの考えに賛同していることもあったが、何よりも取り立てて目立った産業を持たない自国がやがて衰退し滅びていくだろうことを正しく予測してのことだった。

 名君だったのだろう。

 国民のために自ら廃位を宣言し、冒険者ギルドを呼び込むことで国の立て直しを計ったのだ。

 他国家との関係調整に多少時間はかかったものの、特に大きな問題も無く冒険者ギルドの移設は完了した。

 ギルド側は国名を残すことを提案したが公王はそれを断り、新しくやり直す道を選び国名もアンスガルドと変える事となった。

 現在、総本部の前に建つ銅像がアンスガルド本人のものではなくその公王のものであることからも、ギルドにとって彼の行動がどれだけ重要なものだったかが解るだろう。

 ちなみに、アンスガルドの生国はその野心による他国との戦争で滅びることになる。

 そんな経緯もあって、冒険者ギルドは独立性を何よりも重んじていた。

 例え国王であれ貴族であれ、冒険者ギルドに対し命令することは出来ない。あくまでも ”依頼” 出来るだけなのだ。

 もしその独立性を侵そうとする者があれば全力で立ち向かうのが冒険者ギルドの基本方針であり、それが建物の一種独特な雰囲気を醸し出しているのだった。


「面会の約束を確認してまいりますので、少々お待ちください。」

 冒険者ギルドに到着すると、そう言ってニナが馬車から降りて建物へと向かった。

 今日の彼女はトラバールの時のような冒険者風の衣装ではなく略式ではあるが騎士団の制服を身に着けているため、決して軽んじられる事はない。

 警備の者と二言三言言葉を交わすと、すぐさま馬車へと戻ってくる。

「確認が取れました。ギルド長がお待ちしているとの事です。」

 イルムハートにそう告げると、次いで御者に対し馬車用の通用門へと向かう様に告げた。

 まあ確かに、こんなところに領主一家の馬車を止めたままにしては悪目立ちするだろう。

 ニナの言葉に従い馬車が建物をぐるりと回ると、大きな鉄の門が現れた。

 門は開いたままだが、やはりここにも警備の者が立っている。

 その門をくぐり入口へ向かうと、馬車付けのエントランスにはひとりの女性が待っていた。

 「ようこそおいで下さいました、イルムハート様。」

 馬車から降り立ったイルムハートにそう声を掛けた女性はギルド長の秘書で、部屋までの案内役を務めてくれるとの事だった。

 支部長の部屋は2階にあった。

 2階に昇ってみて、イルムハートは通りに面した小さな窓が部屋ではなく廊下に面したものであることに気が付く。

 それがおかしいと言うわけではないが、イルムハートの知る建物はだいたい部屋の窓が外に面するように建てられているため少しだけ違和感を感じたのだった。

 もしかすると、通りから直接要人の部屋が狙われるのを避けるためなのかもしれない。

 平時にあっても常に不測の事態に備える。それが独立性を守るための覚悟という事なのだろう。

 案内の女性は、とある部屋へとイルムハート達を連れて行った。

「こちらで少々お待ちください。」

 そこはそれほど大きくも無く、机の他に椅子が二脚あるだけの簡素な部屋だったが、奥へ続くドアがあることろを見ると来訪者を受け付ける待合室のようなものなのだろう。

 続いて女性は奥へと続くドアをノックすると、少しだけ開いて中へ声を掛けた。

「ギルド長、イルムハート様をお連れしました。」

 それに応えて「入って頂きなさい」と言う穏やかな声が返ってくると、女性はドアを大きく開けてイルムハートを部屋へと招き入れた。

 そこはかなり広めの執務室で、通り側とは異なる大きな窓が日の光を部屋いっぱいに取り込んでいた。

 窓を背にする形で大きな執務机が配置され、その前には華美ではないものの、質の良いソファ・セットが置かれている。

「冒険者ギルド・ラテス支部へようこそ。私が当ギルド長のハロルド・オーフェンです。」

 立ち上がって待っていたのは、30そこそこにしか見えない細身でもの優しそうな男性だった。

 立ち居振る舞いも洗練された感じで、もしかすると元は貴族の血筋なのかもしれない。

 荒くれ者を束ねるごつい感じの大男と言うイルムハートがイメージしていた姿とは真逆のタイプであった。

「忙しい中、お時間を頂き有難うございます、オーフェン・ギルド長。イルムハート・アードレー・フォルタナです。」

 そう言って2人は握手を交わした。

 例えイルムハートが領主の息子であっても、冒険者ギルドという独立組織に属するハロルドにとって主人ではない。

 互いに敬意を払いながらも、基本的に両者は対等な立場なのである。

 ハロルドに勧められイルムハートはソファに腰を降ろし、その後ろにニナが立つ。

 今、彼女は帯剣していない。入り口で預ける決まりになっているのだ。

 しかし、それでも短剣の所持だけは特別に許可してもらった。

 そこは要人の護衛として譲れない一線であり、ギルド側も理解してくれたのだった。

 続いてハロルドが腰を降ろすと、先程の女性がお茶を運んで来た。

「どうぞ、お召し上がりください。」

 ハロルドの言葉に礼を言い、イルムハートはお茶に口を付けた。

 淹れ方についてはエマに及ばないものの、茶葉はそれなりに良いものが使わているようである。

 その嗜好から、やはり貴族の血筋か、あるいは裕福な家の出なのだろうとイルムハートは推測した。

 やがて一息ついたところでハロルドが口を開く。

「本日はギルドの見学をご希望との事でしたね?まさか辺境伯の御子息に興味を持っていただけるとは思ってもみなかったので、正直驚いているところです。」

 それはそうだろう。

 下級貴族の子で家督を継げない者ならば、将来冒険者として身を立てる事もあるために早いうちから知識を入れておこうとするのも珍しいことではない。

 だが、イルムハートは例え跡継ぎでないにしても、辺境伯の息子である。

 王家とその一族である公爵家を除けば、800家以上あるバーハイム王国貴族のなかでも十指に入る最上級貴族の子なのだ。

 縁を結ぼうと望む者はいくらでもおり、下級貴族の跡継ぎなどよりもずっと恵まれた将来が約束されていると言っても良い。

 そういった人間にとって冒険者とは便利な ”道具” でしかなく、どうすれば有効に使えるかその方法に興味を持つことはあっても、ギルドそのものについて知ろうとする者はほとんどいないのが現状だった。

 イルムハートとしてもハロルドの反応は尤もだと思うが、冷やかしでない事は解ってもらう必要がある。

「正直、将来の事は分りませんが、僕は出来る事なら自分の力で身を立てたいと思っています。

 ただ、僕は城の外の事をあまり良く知りません。なので、自分に出来る事は何なのか、まずはそれを知る必要があります。

 そのために冒険者について学びたいのです。将来の選択肢を増やすために。」

 実際には冒険者一択なのだが、それをここで言う必要はない。

 言った自分が恥ずかしくなるような優等生的回答ではあったが、今は本音を隠しておいたほうが良いし、どうやらハロルドにも好意的な印象を与えたようだった。

「失礼ですが、イルムハート様は本当に8歳なのですか?とてもそうは思えない程、しっかりしたお考えを持ってらっしゃいますね。」

 ハロルドは儀礼的ではない笑顔を浮かながらそう言った。

 その言葉を聞いて何故かニナがドヤ顔をしていたのだが、背を向けていたイルムハートはそれに気付かなかった。

「解りました。そういう事であればこちらとしても大歓迎です。時間の許す限り、お好きなだけギルド内を見学していってください。」

 冒険者ギルドが部外者に内部を公開することなどそう多くはないので、これはかなりの好待遇だった。

 もちろんハロルドとしても、イルムハートが将来冒険者になるなどとは思っていない。その可能性は限りなく低いと見ていた。

 だが、支配階級(になるはず)の人間に理解者を作っておくのは、ギルドにとって悪い事ではない。

 破格の待遇の裏にはそういった計算もあったが、まあ結局はイルムハートを気に入ったというのがその理由だろう。

 その後、ハロルドから見学にあたってのいくつかの注意点を聞いていると、ドアをノックする音がして先程の女性が入って来た。

「ギルド長、モローさんがいらっしゃいました。」

「通せ。」

 ハロルドの言葉を受けて入って来たのは、30歳くらいの男性だった。

 短めに揃えた茶色い髪に丸いメガネを掛けたその男性もまた、ハロルドとは違う意味で冒険者らしくなかった。

 本人には申し訳ないが、魔獣を相手にするにはひ弱すぎるように見えたのだ。

「彼は当ギルド所属の冒険者で、名前はラジー・モロー。彼がイルムハート様を案内することになります。」

「ラジー・モローです。」

 ハロルドの紹介を受けて、ラジーはペコリと頭を下げた。

 ラジーは、ハロルドに比べると洗練さに欠けているようではあったが、イルムハートば別に気にならなかった。

 むしろ、この後一緒にギルド内を回る相手としては、その位の方が気が楽と言うものである。

「イルムハート・アードレー・フォルタナです。よろしくお願いします。」

 そう言って立ち上がったイルムハートがラジーに向けて右手を差し出すと、彼は驚いたような表情を浮かべた。

 いくら冒険者ギルドが王国とは対等な存在であるとは言え、ギルド長クラスならまだしも一般職員相手に貴族が握手を求めるなどという話は今まで聞いたことがなかったのだ。

 救いを求めるかのような彼の視線を受けてハロルドが笑いながら頷くと、意を決したようにラジーも右手を差し出した。

「こちらこそよろしくお願いします。」

 ラジーはそう言って微笑もうとしたのだが、その笑顔はやはりまだ少しだけぎこちなかった。

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