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総本部への招待と冒険者ギルドの秘密 Ⅱ

 イルムハートは転生者である。

 地球と言うこことは違う世界で生まれ、そして死んだ。

 その死後、神の手によって前世の知識を持ったままこの世界に生まれ変わったのが彼だった。

 なので、カールの言葉は正しい。

 だが、問題なのは何故彼がそれを知っているのかだ。

 このことを知っているのは同じ転生者であるセシリアと、そしもうひとりフランセスカだけのはずなのだ。

 彼女達が秘密を漏らすとは考えられない。となると、一体何処でそれを知ったのか?

 いや、もしかすると必ずしも知っているわけではなく、単にかまをかけているだけなのかもしれない。迂闊に反応するのは危険だろう。

「言っていることが良く解からないのですが?」

 そうとぼけて見せるイルムハートだったが、カールにとってそれは十分に想定内の返事だったようだ。

「確かに、いきなりそんなことを聞かれても「はい、そうです」と応える訳にはいきませんよね。

 ですが、これはブラフでも何でもありません。私はそれが事実であることを確信しているのですよ。

 何故なら、君には”神気”を操る能力があるからです。」

 それを聞いたイルムハートは、どうやら下手にとぼけるのは却って悪手だと悟り無言のまま次の言葉に耳を傾ける。

「神気は異なる世界の魂を持つ者にしか持つことの出来ない力です。例えば異世界から召喚された転移者と呼ばれる者がそれにあたります。

 しかし、君にはフォルタナ辺境伯の子息として生まれたと言う明確な事実がありますので転移者とは考えられません。

 となると残る可能性はひとつだけ。それは君が転移ではなく転生してこの世界に来たということです。

 どうです?違いますか?」

「……いえ、違いません。カールさんの言う通り僕は転生者です。」

 ここまで色々知っているとなれば最早隠し通すのは無理だろう。イルムハートは早々に白旗を掲げた。

「でも、どうしてカールさんは僕が神気持ちだと知っているのですか?」

「実を言うと私には神気を感じ取る能力があるのです。

 尤も、感じ取れるだけで使うことは出来ませんがね。」

 この世界には神気を感知出来る者がいる。天狼からそう聞いてはいたが、まさかこんなところで出会うとは思ってもみなかった。

「なるほど、ブリュンネの遺跡で僕が使った神気を感じ取ったんですね。

 それで転生者と判断したわけですか。」

 あの時は随分と派手に神気を使ったため、そのせいでバレてしまったのだとイルムハートは考えた。

 だが、それはカールと言う人間を少々甘く見過ぎた考えでもあった。

「いえ、本当はもっと前から君が神気を持っていることに気付いてはいたのです。」

「それはいつ頃からですか?」

「君がまだアルテナ学院の生徒だった頃からです。」

 これにはイルムハートも唖然とした。と言うことはイルムハート自身がまだ神気持ちとしての自覚すら無かった頃、既にカールはそれを知っていたわけだ。

「”再創教団”と直接闘った例の事件の報告書を見てもしかしたらと思いましてね。それで、確認するためアルテナのギルドへ足を運んだことがあるのですよ。

 その際、君が神気の持ち主であることを確信しました。

 ただ、あの時点ではまだ自覚するまでに至っていないようでしたので暫く様子を見ることにしたのです。」

 その後、イルムハートが神気に目覚めたのかどうかを確認するためカールは遺跡調査団の一員に扮しブリュンネへと赴いたのだそうだ。

 それを聞いてイルムハートにはひとつ思い出したことがあった。

「そう言えば初めてお会いした時、僕の顔を見て一瞬不思議そうな顔をしましたよね?

 あれはもしかして……。」

「あの時は君から全く神気を感じなかったので少し驚いたのですよ。

 覚醒はしているかもしれないと思ってはいましたが、まさかここまで完璧に制御出来ているとは正直予想もしていませんでしたからね。」

 天狼による訓練のお陰で今のイルムハートは完全に神気の気配を消すことが出来る。カールにしてみればそれは驚くべきことだったのかもしれない。

「それにしても、カールさんはどうしてそこまで詳しいのですか?

 神気を感知出来るところまでは解るとして、それを持つ者が異世界からやって来た人間だと何故知っているんでしょうか?」

 そんな疑問を持つのも当然だろう。当のイルムハートですら神龍や天狼に教えてもらう前までは転移者の存在すら知らなかったのだ。

 が、それに対する答えは極めて単純明快だった。

「これは私達一族の中で代々受け継がれてきた知識なのです。

 実は私達の先祖、一族の者は”始祖”と呼んでいますが、その始祖は異世界からの転移者だったのですよ。」

「そうですか、カールさんは転移者の子孫だったのですね。」

 これにはイルムハートも驚きこそしたが同時に腑に落ちもした。

 考えてみればこの世界へとやって来た転移者や転生者が結婚し子を残していたとしても全く不思議はないのだ。

「つまり、神気を感じ取る能力も先祖から引き継いだものというわけですか……。

 でも、神気を使うことは出来ないんですよね?

 それは何故なんでしょう?」

「先ほども言いましたが神気とは異なる世界の魂を持つ者にのみ与えられる能力なのですよ。

 ですので、いくら始祖の血を引いていたとしてもその子孫に神気を使うことは出来ません。何故なら私達はこちらの世界の魂を持って生まれて来ているのですからね。

 ただ、それでも神気を感じ取る能力だけは引き継ぐことが可能なようで、時折私の様な者が生まれて来るのです。」

 神気を感じ取る能力程度では世界を変える事など出来はしない。だからこそ引き継ぐことを神に許されたのだろう。カールはそう語った。


 カールの話である程度の事情は理解した。

 だが、同時にもっと大きな問題を突き付けられることにもなった。

 それは彼の祖先、”始祖”を召喚したのは何者か?ということだ。

 今のところイルムハートが知る限りにおいて転移者が召喚されたケースは2通りしかない。

 ひとつは召喚魔法による”勇者召喚”だが、これはさほど問題でもないだろう。

 危惧すべきはもうひとつのケース、神またはその使徒による召喚である。

 但しこの場合の神とは言うまでも無く”背信の神”であり、その力により呼び出されるということは即ち世界の敵となることを意味するのだ。

「……ところで、カールさんのご先祖はどのようにしてこの世界に来たのですか?

 カイラム教派により勇者として呼び出されたのでしょうか?」

 イルムハートとしてもまさか冒険者ギルドの内部に”敵”と繋がりのある者がいるとは思いたくなかったが、それでも言葉は慎重に選ばざるを得なかった。

 勇者召喚であってくれ。そう願うイルムハート。

 しかし、その思いはあっさりと打ち砕かれてしまう。

「何と、勇者召喚の話まで知っているとは驚きましたね。

 でも、違います。勇者として召喚されたわけではありません。

 始祖は”再創教団”の手によりこの世界へと召喚されたのです。」

 その言葉を聞きイルムハートは思わず身構えた。剣は受付で預けてしまっているものの収納魔法の中にも武器は有る。いつでもそれを取り出せるようにしながらイルムハートはカールの動きを見た。

 しかし、カールはそんなイルムハートを見ても苦笑いを浮かべるだけで、特に何かしようとする様子は見せなかった。

「警戒するのは当然でしょうね。

 何しろ私はこの世界を滅ぼすために異世界より呼び出された男の子孫になるわけですから。

 ですが安心してください。私も私の一族も”再創教団”の信徒などではありません。それどころか、むしろ敵対している立場なのです。」

「それを信じろと?」

「私としてはそうお願いするだけですが、最終的な判断は君に任せます。」

 カールが嘘を言っているようには見えなかった。

 そもそも、騙すつもりなら最初から本当のこと言わずに誤魔化せば良いだけなのだ。仮に勇者として召喚されたと嘘をついてもイルムハートにはその真偽を確かめる術などないのだから。

 しかし、だからと言って完全に警戒を解くわけにもいかない。

「……”敵対している”と言いましたが、それはどう言う意味なんです?」

「言葉通り、教団の企みを打ち砕くために闘っていると言うことですよ。」

「何故です?

 貴方の先祖は教団の一員だったのでしょう?

 それなのに、何故教団と敵対するのです?」

「それが始祖の”意志”だからです。」

 その言葉にイルムハートは困惑する。

 教団に属していながら同時に敵対もする。そんな矛盾した話があるだろうか?と。

 だが、これは”教団により召喚された”と言う事実がイルムハートの思考を硬直化させてしまっていたせいでもある。落ち着いて考えれば両者が矛盾しないことぐらいすぐに解っただろう。

「つまり、始祖は教団を裏切ったのですよ。」

 そう、それが答えだった。

「確かに、最初は教団の手先として非道な真似も行っていました。

 ですが、ある時目が覚めたのです。そして、己の行為がいかに愚かで卑劣なものであるかに気付きました。

 始祖の言葉を借りれば『人の心を取り戻した』のだそうです。

 それ以降、始祖は教団を抜け彼等と闘う道を選ぶことになったのです。」


 今から800年ほど前、教団は長い時間の間に欠員が生じていた幹部クラスの人員を補充するため4人の異世界人を召喚した。

 その中のひとりがカールの祖先、”始祖”だ。

 そして4人は教団において実動部隊を指揮する立場となる。

 だが、ここでひとつの疑問が湧く。

 教団の目的は世界に破滅をもたらす事であり、そのために多くの人々を犠牲にすることすら躊躇わない。

 そんな非道な命令に何故彼等は従ったのかと言う疑問だ。

 大勢の命を奪うような真似など普通の人間なら良心の呵責に耐えきれず拒否したとしてもおかしくはないだろう。

 だが、彼等はそれを受け入れた。何故なら、彼等は”普通”ではなかったからだ。

 ある者は筆舌に尽くしがたい程の凄惨な人生を送って来たせいで最早その心には絶望と憎悪しか残っていなかったり、またある者は狂気に侵され人の心を失っていたり、つまりは全員が人として”壊れた”者達ばかりだったのである。

 教団はそう言った人間のみを選別し呼び出していたようで、始祖達より前に召喚されていた他の幹部達もやはり同様の連中だったのだ。

 こうして始祖達も幹部の一員となり世界を破滅へ導くため暗躍するすることになるわけだが、正直彼等は教団の目的などに興味は無かった。ただ己の中の闇を解放出来るのならそれで良かったのだ。

 だが、そんなことを長年続けていたある日、始祖に転機が訪れる。己のして来たことに疑問を抱かざるを得ないような、そんな経験をしたのだ。

 それがどんな出来事だったのかは不明である。始祖がそれを語ることは決して無かったからだ。ただ後年、『人の心を取り戻すきっかけを与えてくれる出来事だった』とだけ話してくれたらしい。

 それ以来、始祖の心には教団への疑念と己の行いに対する自責の念が徐々に積み重なってゆき、ついには組織を抜ける決意をする。

 しかし、それは口でいうほど簡単なことではなかった。辞めたいと言われて「はい、そうですか」と答えるような相手ではないのだ。

 裏切り者となった始祖は当然のように命を狙われた。しかし、己の死を偽装することでなんとか追っ手をやり過ごすのに成功した彼は次に教団に反抗すべく行動を開始する。

 教団内には彼と同じような疑念を抱く者も僅かながらおり、それらの者達を自分同様”死者”に変え取り込みながら少しずつその勢力を大きくして行った。

 とは言え、所詮は単なる脱走者の集まりでしかない。巨大な組織である教団と対抗するにはあまりにも非力過ぎた。

 教団の企みを妨害しようにも人手も足りなければ情報集めにも苦労してしまい、中々成果を上げられないのが実情だった。

 そして、ついには自分達の活動に限界すら感じ始めていた頃、始祖はひとりの男と出会う。

 彼の名はハンス・アンスガルド。後に冒険者ギルドの生みの親と呼ばれる男である。


「ちょっと待ってください!」

 カールの話を聞いていたイルムハートは思わず声を上げた。

「アンスガルドって、あのアンスガルドですか?」

「ええ、そうです。冒険者ギルドの創始者ハンス・アンスガルドです。」

 カールは何でもないことのようにそう答えたが、イルムハートにしてみれば無茶苦茶な話にしか聞こえない。

「そうですって……アンスガルドがギルドを立ち上げたのは今から400年前ですよ?

 でも、始祖が召喚されたのは800年前なんですよね?

 どう考えても計算が合いません。

 それだと始祖は400年以上生きたことになるじゃないですか?」

 そんな馬鹿な話があるか。と言った感じで語気を強めるイルムハートだったが、カールは相変わらず落ち着いたままだ。

「おっしゃる通り、始祖は400年以上も生き続けていたのです。」

 その答えに唖然とするイルムハートだったが、そこでひとつのことに思い当たった。

 それは、必ずしも始祖が自分と同じ世界から来た人間とは限らないということ。

 確かに地球人なら400年も生きるなど有り得ないことだが、それとは別の世界から呼び出された存在なのであれば可能性が無いわけでも無い。

「と言うことは、始祖は僕が元いた世界……地球と言うところですが、そこから来たわけではないんですね?」

 しかし、これもあっさりと否定されてしまう。

「いえ、始祖だけでなく教団に召喚された者達は全て”地球”と言う世界から呼び出されたのだそうです。」

 意味が解からずイルムハートはお手上げ状態になった。

「降参です。どう言うことなのか僕にも解るように説明してもらえますか?」

 すると、カールは少し申し訳なさそうに笑いながら驚くべきことを教えてくれた。

「すみません、これについては初めの方に説明しておくべきでしたね。

 実を言うと始祖は歳を取ることが無いのです。召喚された時そのままの姿で永遠に生きることも可能なのですよ。」

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