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セシリアとフランセスカ Ⅱ

 セシリアの近衛隊入隊が決まったその翌日、フランセスカは部下のロードリック・ダウリン・ルベルテと共に王国騎士団本部の隊室にいた。

 実を言うと彼女が率いる第5小隊はとある王族の公務に付き従いおよそ10日ほどの出張から昨日戻って来たばかりだった。

 そのため、本来は今日・明日と休暇となっているところではあるものの、2人だけは報告書を作成するため出仕していたのだ。

 普段ならば副隊長が作成の補佐を務めるのだが、出張中に妻の出産という慶事があった彼に対しフランセスカは家族とゆっくり休むよう言い渡し、その代わりとして第3席のロードリックが出て来ることになったのである。

 ロードリックにとってはせっかくの休暇を1日潰される形になってしまったが、生まれたばかりの我が子と共に過ごす副隊長のことを考えれば愚痴を言う訳にもいかない。

 ただ、愛する妻と子と3人で仲睦まじく過ごす姿を想像した時、別の意味でつい溜息を漏らしてしまった。

「奥さんと子供か……良いですね、幸せそうで。」

 そんな呟きを聞いたフランセスカは報告書から目を離さないままでこう言い返す。

「他人を羨んでばかりでは何も始まりませんよ。

 先ずは自ら行動したらどうなんです?」

「まあ、それはそうなんですが……その前に相手を見つける必要がありますので。」

 正論とは言え少々心を抉るフランセスカの言葉にロードリックはそう言って苦笑いするしかない。

 すると、やっと机から顔を上げたフランセスカの口から更なる追い打ちがかかる。

「そう言えば、マリアレーナ義姉さまのことはもう諦めたのですか?」

 ロードリックは思わず椅子から転げ落ちそうになった。彼にとってその言葉はまるで究極魔法を撃ち込まれたにも等しいものなのである。

「ど、ど、ど、どうしてそのことを?」

「旦那様から聞きましたよ?」

(イルムハート……なんてことを話しちまうんだよ!)

 と心の中でイルムハートを呪うロードリック。

「そ、そうですか、イルムハートが……いえ失礼、イルムハート殿が話したのですか。

 確かにマリアレーナ嬢に想いを寄せたことはありましたが、しかしそれも昔の話。若気の至りというやつです。

 何せマリアレーナ嬢は次期辺境伯ですからね。私にとっては分不相応な夢ですよ。」

「そんなことは無いでしょう。

 平民出の私ですら旦那様の婚約者となることが出来たのですから、貴方にも可能性が全く無いということも無いわけでは無いかもしれませんよ。」

 そんな勇気づけているのか何なのか良く解らない台詞でロードリックを困惑させた後、フランセスカは穏やかな笑顔を浮かべこう言った。

「それと、貴方にとって旦那様は学院の後輩なのですから普段通りに名前で呼んでもらって構いません。

 そこは私に気を使う必要など無いのですよ。」

 その言葉を聞いたロードリックは何やら不思議なものでも見るような表情を浮かべた。

「どうかしましたか?」

「いえ、何でもありません。

 ただ、隊長も随分と丸くなったものだなと……。」

 以前のフランセスカは言動の全てが男勝りで、部下達はその一挙手一投足に神経を尖らせていたものである。

 勿論、決して横暴で我儘な上司と言うわけではなくむしろ気さくな一面をも持ってはいたが、それでも皆彼女の前では緊張せざるを得なかった。

 口調にしても”貴方”とか”必要ないのですよ”などという言い方などしたことは無く、以前なら”貴様”とか”必要無い”だったであろう。

 ロードリックはその頃に比べ大きく変わったフランセスカに対し改めて驚きを感じたのだ。

 ただ、確かにそれは紛れも無い事実ではあるものの上司に対する言葉としては少々礼儀に欠けた言葉だったと彼は気付く。

「し、失礼しました。

 無礼な発言をお許しください。」

 しかし、フランセスカがそれに腹を立てることは無かった。

「いえ、気にすることはありません。

 確かに、以前の私は自分を強く見せたいと気を張り過ぎていたところがありましたからね。それ故に敢えて男言葉を使っている部分もありました。

 ですが、そんな上っ面を取り繕うことがいかに無意味であるかを知ったのです。

 世の中には温和で穏やかでありながらも強い力を秘めた人間がいるのです。むしろ、そんな周囲の評価など気にしない者の中にこそ真の強者はいるのだと、そう気付かされました。」

 それはイルムハートのことを言っているだとロードリックにもすぐ解かった。

 彼は初めて出会った時、イルムハートのことを生意気な後輩だと思っていた。

 ただそれは粋がって調子に乗っていると言う意味ではなく、妙に落ち着いた雰囲気が逆に威圧感すら感じさせるような存在だったからだ。それが少しだけしゃくに思えたのである。

 しかし、イルムハートとの試合で負けたことにより目が覚めた。当時、席次第1位だった彼は逆にその地位に縛られてしまっていた自分に気付いたのだ。

 なので、フランセスカの気持ちが良く解かった。

 が、残念ながらそれはフランセスカの性格を全て理解出来たと言うことではない。彼女の思考は常にロードリックの予測を超える。

「ですが、そのほうが良かったというのであれば仕方ありません。

 隊にいる時だけは以前の振る舞いに戻しても構いませんよ?」

 何故、そう言う結論になるのか?

 フランセスカの言葉にロードリックは慌てた。もしそんなことになれば隊の全員から彼が恨まれることになる。

「いえ、その必要はありません!

 隊の皆も現状に十分満足しておりますので、敢えて戻すこともないかと。

 と言うか、むしろ今のままでいて下さい。お願いします!」

 必死にそう懇願するロードリック。

 するとその時、事務員がフランセスカへ伝言を伝えに来た。団長が呼んでいるとのことらしい。

 お陰でこの話はうやむやとなり、ロードリックは命拾いすることになったのである。


 呼び出しを受けたフランセスカが団長室を訪れると、そこには団長のフレッド・オースチン・ゼクタスと副団長のネイサン・セルザムが顔を揃えていた。

「お呼びとのことですが何の御用でしょうか?

 報告書でしたらまだ出来ておりませんが?」

 そう問いかけて来るフランセスカを見てフレッドは思わず苦笑いを浮かべた。

「やれやれ、やはり出仕していたのかい。

 報告書なら休み明けで構わないといつも言っているだろう?」

「いえ、報告書作成のために貴重な任務の時間を割く訳にはいきませんので。

 これは隊をまとめる者としての義務ですから休日の返上も仕方ないと思います。」

「そう堅苦しく考えず、ゆっくり休んでくれて構わないんだけどねぇ。」

 フランセスカはオースチン家の使用人の子ではあるが幼い頃からフレッドに目を掛けられまるで妹の様に可愛がられて来た。

 それは貴族の家においては極めて珍しい、と言うかほぼ有り得ないようなことではある。

 しかし、事情により幼少期を平民として過ごしたフレッドにとっては別に特別なことでもなかったし、何より母や兄と引き離され育った寂しさもあったのかもしれない。

 そのせいか、現在に至っても彼女に対するフレッドの態度は妹を溺愛する兄に近いものがあった。

 だが当の”妹”の方はと言えば、これが結構”兄”に対して風当たりが強い。

「またそんな無責任なことを。

 団の長たるフレッド様がそのようにいい加減だから下の者がその分苦労しているのだと考えたことは無いのですか?」

 フランセスカの言葉に言い返せずフレッドは渋い顔になる。

 別に彼が不真面目な人間だというわけでもない。

 しかし悪戯心から時折突飛なことを言い出す癖があり、フランセスカから冷たい目で見られることも少なくないのだった。

「まあ、その話は置いておくとしてだ。」

 形勢が不利と悟ったフレッドは即座に話題を切り替える。

「これはついさっき御前会議の前に仕入れたばかりの最新情報なんだがね、どうやらセシリア君の近衛入隊が決まったらしいよ。」

 ドヤ顔でそう告げるフレッド。だがフランセスカはにべもない。

「はい、知っています。

 昨晩、セシリアが使いを寄こしてくれましたので。」

「え、そうなの?

 ……なんだ、もう知っていたのかい。」

 驚かせるつもりの相手が既に自分より早く情報を入手済みだったと知ってフレッドの顔には落胆の表情が浮かぶ。

 そんな上司を見てフランセスカは「全く、この人は時々子供みたいになる」と内心呆れながらもフォローを入れた。

「ですが、報せようとして下さったことには感謝致します。

 ありがとうございます。」

 その一言でフレッドの機嫌は直った。実にチョロいものである。そして、そのせいでまたしても余計な事を口走ってしまう。

「まあ、セシリア君の実力を考えれば当然のこととは言え、こうも早く動くとはね。近衛には完全にしてやられたよ。

 こうなってしまうと彼女を騎士団こちらに引き込むのは難しいだろうな。」

「こちらに引き込む?」

 フレッドの言葉にフランセスカは怪訝そうな表情を浮かべた。

「引き込むも何も、セシリアが希望しているのはあくまでも近衛への入隊であって騎士団ではありませんが?」

「それは解っているさ。

 でもね、通常なら少なくとも1・2年は衛士隊に所属して近衛から声が掛かるのを待つことになるわけだろ?

 だから、その間に手を回せば何とかなるんじゃないかと思っていたんだが……。」

「フレッド様!」

 調子に乗って喋り続けるフレッドの言葉をフランセスカは強い口調で遮った。

「まさかそのようなことを本気で考えておられたのですか?

 セシリアが近衛への入隊を目指すのは今は亡き父君の遺志を継ぐためでもあることはフレッド様もご存知のはずですよね?

 それを何ですか?邪魔しようとでも言うのですか?」

 そんな身を乗り出さんばかりのフランセスカの剣幕にフレッドはたじたじとなる。

「いや、そう言うことでは無くてだね、ただ彼女ほどの実力者はより第一線で活躍させたほうが人材の有効活用となるのではないかと……。」

「全く信じられません。フレッド様がこれほど無神経な方だとは思ってもいませんでした。

 もしこのことをオルバス殿がお知りになったら一体どう思うでしょうか。」

 フランセスカにフォルタナ騎士団団長アイバーン・オルバスの名を出されたフレッドは思い切りバツの悪そうな表情を浮かべた。

「……兄さんの名前を出すのは反則だろ。」

 異父兄であるアイバーンには未だに頭の上がらないフレッドなのである。


「それで、御用とは一体何なのですか?

 まさか、こんな話をするために呼び付けたわけではありませんよね?」

 怒り収まらずといった感じでフランセスカがフレッドにそう尋ねると、さすがに見かねたのかネイサンが口を開いた。

「そう怒るな、ヴィトリア。

 団長とて本気でセシリア嬢の邪魔をしようと考えているわけではないさ。今のはちょっとした悪ふざけのようなものだ。

 いつもの悪い癖だと思って大目に見てあげたらどうかね?」

「副団長がそうおっしゃるのなら……。」

 さすがのフランセスカもネイサンの言うことは素直に聞く。これではどちらが団長か分からない。

「今日来てもらったのは人事の件なのだよ。

 近衛もそうだが我が騎士団もこの秋に人事の異動を行うことになる。」

 昔は年始の行事であった人事の異動だが、今ではアルテナ高等学院の卒業に合わせて行われるようなっていた。

 まあ、この時期は学園から多くの卒業者が様々な官庁や組織へと入ってゆくことになるのだから当然のことではある。

「実は第2小隊のメスナー隊長が一線を退き育成担当へと移る事になった。

 本人がそう希望していたことは君も話くらい聞いていたと思うが、この度正式に承認されたのだ。」

 そこまで言ってからネイサンはフレッドの方をチラリと見る。ここから先は団長である彼が言うべき言葉だからだ。

「それでだね、メスナーが退くことで空席となってしまう第2小隊長の席に……。」

「お断りさせていただきます。」

「えっ?」

 用件を伝え終えてもいない状態での拒否にフレッドは唖然とする。

「まだ何も言っていないのにいきなりそれかい?」

「私をメスナー隊長の替わりに据えようと考えておられるのですよね?」

「まあ、そうなんだが……。」

「でしたらお受けするつもりはありません。」

「断る理由を教えてもらえるかい?

 それはプライマリーの隊長職を蹴る程の理由なのかな?」

 王国騎士団の第1から第3の小隊は通称”プライマリー”と呼ばれ、国王一家の警護を専任とする最精鋭の部隊である。

 ”プライマリー”に属することは団員達とっての憧れであり、ましてやその隊長になるなどこの上ない名誉であるはずなのだ。

 しかし、どうやらフランセスカが目指すものは少し違うようだった。

「もし私が第2小隊の隊長になったとして、今の部下たちはどうなりますか?

 私と共に第2小隊へ移るわけではないですよね?」

「確かに彼等の力も着実に上がってはいるものの、隊としてはさすがにまだプライマリーに加わるほどには至っていないからね。その資格があるとすればおそらく副隊長と第3席くらいまでかな。

 なので、誰か君の替わりの隊長を立てて隊自体は現状のままということになるだろう。」

「そうなると、やはりその話をお受けする訳にはいきません。」

 フレッドの言葉を聞いたフランセスカは強い意志を持った目で彼を見つめ返す。

「第5小隊の隊長になった時、私はどの隊にも負けないような隊にしようと決意しました。第1小隊にも決して劣らない、そんな隊にです。

 そして、いつかは全員でプライマリーの座を掴み取る。そう考えて部下達を鍛え上げてきました。

 その決意は今も変わらず、道半ばで断念するつもりはありません。」

 フランセスカの言葉にフレッドは「うーん」と唸ったまま黙り込んでしまう。

 彼はフランセスカが地位や名誉に拘る人間ではないことを知っていたし、またその一本気で強情な性格も嫌と言うほど良く解かっていた。

(これは、どうにも無理そうだな。)

 こうなってはテコでも動きそうも無いと諦める。

「解かった、この話は無かったことにするしかなそうだな。」

 その言葉に安堵の表情を浮かべるフランセスカ。

 とそこで、フレッドの脳裏にふと何かが引っ掛かり思わずそれを口にした。

「……まさかとは思うが、プライマリーになってしまうと今のように勝手な行動が出来なくなって困るところだった、などど考えてる訳ではないだろうね?」

 フレッドにはその言葉を聞いたフランセスカが一瞬びくりと反応したように見えた。しかし、その表情を変えることは無く真っすぐ見つめて来る視線もそのままだ。

 そして

「はて、何をおっしゃっているのか良く解かりませんが?」

 そうしれっと言ってのけた。

 だが、それに騙されるフレッドではなかった。何せ幼い頃から彼女を見続けてきたのだから。

 第5小隊に対するフランセスカの想いは本当であろう。フレッドもそれは疑っていなかった。

 しかし、プライマリーになることで受ける様々な制約を面倒がっているのもおそらく間違いない。彼女にはそう言った不自由さを嫌う気質がある。

 ただ、以前のフランセスカならば下手にとぼけたりせず堂々とそれを公言したはずなのだ。

(全く、何時の間にこういう小狡さを覚えたのやら……。)

 余計なことを言えば無駄に波風が立つ。それを避けようとするのはある意味大人になったということでもあるのだろう。

 だが、それはフレッドにとってフランセスカがどんどん手元を離れてゆくような、そんな寂しさをも感じさせた。

 どうやらシスコン気味の騎士団長はまだまだ妹離れが出来ないようである。


「はやり断られてしまいましたね。」

 フランセスカが部屋を去った後、ネイサンがフレッドにそう語り掛けた。

 実のところ2人共この結果についてはある程度予想していたのだ。

「全くあの強情さは何とかならないものかねえ。

 どうしてあんな風になってしまったのか……。」

 そう呟くフレッドに対し「それは貴方が甘やかし過ぎたせいではないですか?」という言葉を喉元まで出しかけたネイサンだったが何とかそれを飲み込んだ。

「昔は言うことを良く聞くとても素直な娘だったのに。」

「そうですか?

 私としては入団時からあまり変わっていないように思えますが?」

「まあ、5歳くらいの時の話だからね。

 あの頃は本当に可愛いかったんだよ。」

 それはそうだろう、とネイサンは苦笑する。

 可愛い盛りの頃と大人になってからを比べること自体おかしいのだが、フレッドにとっては同じ感覚のようである。と言うか、同じであって欲しいと言う願望なのかもしれない。

「そんなフランセスカだが実は6歳の誕生日を迎える直前くらいに階段から落ちて大怪我をする事故に遭ってね。

 あの時は本当に心配したよ。何せ三日三晩意識を取り戻さなかったんだ。もう、不安で何も手に付かないほどだった。

 で、4日目にやっと意識を取り戻したのだけれど、そしたらすっかり男勝りな性格に変わってしまっていたんだよ。

 それまでは父親が庭師ということもあって花が大好きな大人しい娘だったのに、いきなり剣術を始めたいなんて言い出す始末さ。」

 それにはフレッドも最初は戸惑ったそうだが、いざ剣の訓練を始めてみると類まれな資質を持っていることに気付きついつい熱が入ってしまったとのこと。

「今考えればもう少し女の子らしいこともさせておけば良かったのかもしれないけどね。」

 そう言って肩を落とすフレッドにネイサンはつい失笑してしまった。

「しかし、今となっては騎士団にとって貴重な人材となっているわけですから結果的に良かったのではないですか?

 特にここ数年の成長ぶりには目を見張るほどで、いずれはこの騎士団を担ってゆく存在になるだろうと私は考えています。」

「確かに成長はしたね。腕だけでなく精神的にも。

 これもイルムハートのおかげかな。」

 なんだかんだ言ってもフランセスカのことを褒められるとつい笑顔になってしまうフレッドだった。

 それから、不意に真顔になりこう続ける。

「それに、考えてみれば彼女ほどの戦力を自由に動かせる隠し玉として持っておくのも悪い事ではないのかもしれない。」

 その表情にネイサンは茶飲み話の時間は終わったのだと悟る。

「メラレイゼの件、そこまでの事になっているのですか?」

 隣国メラレイゼ王国は2年ほど前に起きた旧王家派のクーデターにより現在国が二分された状態にあった。

 その旧王家派もここしばらくは大人しくしていたのだが、最近になって急に動きが活発になってきておりバーハイム王国としても警戒を強めていたのだ。

 旧王家派の動き次第ではバーハイムが軍を派遣する可能性もあり、そうなれば当然カウンターとして仕掛けて来るであろう妨害工作を警戒する必要が出て来る。

 フレッドが出席した御前会議も、そんなメラレイゼに関する対応策を検討するためのものだったのである。

「国境を接するオルドーラ辺境伯領では既に厳戒態勢を取っているらしいし、王国軍が動けば直接王都が狙われる可能性だってある。

 今、内務省や情報院が監視を強化しているところだが、我々も独自に動けるよう準備をしておいて損はないさ。」

 何せ旧王家派の後ろにはカイラス皇国がいる。

 その上、この混乱に乗じて再び”再創教団”が暗躍を始めないとも限らないのだ。打てる手は全て打っておくべきだろう。

 そんなことを考える中、フレッドはふとある少年の顔を思い浮かべる。

 部外者ではあるがその実力には最も信頼を置いている少年の顔を。

(こんな時、もしイルムハートがいてくれれば随分と助かっただろうにな。)

 部屋の窓から見える何気ない日常の景色を見つめながら、ついついそんなことを考えてしまうフレッドなのだった。

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