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若き冒険者たちと深夜の襲撃者

 最終的にライラ達はジャックと組み盗賊討伐の依頼を受けることを決めそう回答した。

 ライラとしてはあまり気乗りしない話ではあったのだが、結局は彼女もそれを受け入れることにしたのだ。

 理由としてはケビンの言う様に自分達がステップアップするためと言う部分もあったが、何より困っている人々を見捨てておけないというジェイクの意思を無下に出来なかったからである。

「あのサマーズさんって人、どうも苦手なのよね。」

 とは言え、結論として組むと決めはしたものの、それでもつい愚痴が口をついてしまうライラだった。

 が、そんな思いは他の2人には今ひとつ通じていないようである。

「そうですか?

 自分の欲望に忠実な分、むしろ解り易い人だと思いますけどね?」

「まあ、ちょっと変わったオッサンだけど悪人ってわけでもないと思うぞ。

 勿論、あれじゃ善人とも言えないけど。」

「ちょっとどころじゃないでしょ?

 人を殺すのが趣味だって堂々と口にするなんて、どう考えてもまともじゃないわよ。

 もし、イルムハートだったらどうしたかしら……。」

 別にライラとしても今更決まったことに異論を挟むつもりは無い。

 ただ、今回のことが自分達にとってプラスとなるのかマイナスとなるのか、そこに一抹の不安を抱いていた。

 尤も、それは彼女が臆病だからではなくリーダーとしての責任を強く意識し過ぎているためである。

 なので、思わずイルムハートならどうするか?そんなことを考えてしまうのだ。

 それはケビンもジェイクも良く解っている。

「あまり深刻に考え過ぎないほうが良いと思いますよ。

 仮にサマーズさんと組んだことが間違いだったとしても、それはそれで僕達の経験になるはずですからね。

 今の僕達はまだまだ未熟です。ですから失敗を恐れるより、むしろいろいろ経験を積んでいくべきだと思いますよ。」

「それに、イルムハートだって多分この話を受けたと思うぞ。

 アイツは嘘つきや胡散臭いヤツには厳しいが本音をぶっちゃけて来るような相手はどんなにイカレてたとしても嫌いにはなり切れないタイプだからな。

 サマーズのオッサンの言ってることだって納得するかどうかはともかく、少なくとも否定したりはしないと思うぜ。」

「そうですね、何しろ僕やジェイク君すら受け入れてくれるんですから。」

「なんだケビン、お前いちおう自分がイカレてるって自覚はあるんだな?

 てか、俺をお前と同じにすんな!」

「勿論、同じだなんて思っていませんよ。

 僕の場合はあくまでも謙遜して言ったに過ぎません。

 僕がジェイク君と同じだなんて本気で思ってるわけないじゃないですか。」

「おお。そうか……って、もしかしてそれ俺をバカにしないか?」

「おや、気付きましたか?

 ジェイク君も成長しましたね。」

「お前なぁ……。」

 どんな状況でも相変わらずマイペースな2人を見ているうちにライラの気持ちも徐々に軽くなってゆく。まあ正直、真面目に悩んでいるのが馬鹿らしくなってきたのだ。

 そして同時に、例えイルムハートが不在でもこの2人がいれば何とかなる、そんな安心感も感じていた。

 ただ、あくまでもライラはライラである。

「ほらほら、いつまでもじゃれ合ってるんじゃないわよ。

 何はともあれ、依頼を受けると決めたからにはちゃんと打ち合わせしとかなきゃいけないでしょ。

 いい加減にしないと晩ご飯抜きにするわよ。」

 彼女がパーティーの”保護者役”としての務めを忘れることは決して無かったのである。


 ジャックと出会ってから2日後、ライラ達混成チームは朝早く馬でバンデルの街を出発した。

 目的地はブラースラ公国との国境から少し離れたガガウという町で、そこに盗賊団が潜伏している可能性があるのだ。

「でも、どうして盗賊団はガガウを拠点にしてるのかしら?

 もっと国境に近い方がブラースラとも行き来し易いんじゃないかと思うけど。」

 途中、昼食のため休憩を取った際にライラはそんな疑問を口にした。

 すると、ジャックがそれに答えてくれる。

「おそらくはブラースラによる探索を避けるためだろうな。

 サウワズ国内での捜査権が無いブラースラとしては国境近くの町なら何とか情報を集めることが出来ても、国の奥まで潜られてしまうと手も足も出せなくなる。

 それを狙ってのことだろう。

 中々頭の回る連中だよ。」

「でもよ、それじゃ何でガガウにいるって判ったんだろうな?」

 それを聞いたジェイクは、干し肉を挟んだ硬いパンと格闘しながら何気なく言葉を漏らす。

 これには思わず他の3人も唖然としてしまった。

「盗まれた荷がガガウで売られてたって説明受けたでしょ?

 アンタ、何聞いてたのよ?」

 心底呆れた声でライラがそう突っ込みを入れる。

 正確にはとある商人が仕入れた商品の中に”隠し刻印”の入った荷が紛れ込んでいることに気付いたのが発端だった。

 これは稀に盗難対策として見えない場所に刻まれる刻印で正常に取引が行われた場合はその後に削り取られるはずなのだが、その荷にははっきりと残ったままだったのだ。

 それで、不審に思ったその商人がどこで仕入れたのかを確認したところ、それがガガウだったと言う訳である。

「あ、ああ、思い出した思い出した。

 そうだ、そうだったな。うん、ちゃんと覚えてるって。」

 慌てて頷くジェイクだったが、明らかにその目は泳いでいる。これは絶対覚えてないな、と誰もがそう感じた。

「大丈夫なのか、コイツ?」

 ライラとケビンにとっては毎度のことなので苦笑いで済まされても、生憎とジャックはそれに慣れていない。ついには本気で心配し出す始末だった。

「問題ありません、いつものことですから。」

「いつものこと?それ、”問題無い”って言うのか?」

「ええ、ジェイク君のことは最初から当てにしてませんので全く問題無いんです。」

「お前……結構酷いこと言うな。」

 そして、これもまたお約束であるケビンの毒舌に唖然とさせられてしまい、この2人を束ねねばならないライラにちょっとだけ同情したジャックだった。


 ガガウへはその日の夕方に無事到着した。

 とは言え、大変なのはこれからである。

 確かに盗賊団がガガウに潜伏している可能性は高い。とは言え、それはあくまでも状況証拠から推測した結果に過ぎず確定情報ではないのだ。

 盗賊団の存在をどうやって確認するか、それが最大の問題だった。

「ここの冒険者ギルドは頼れないし、地道に探していくしかないわね。」

 ちなみに、ガガウにもギルドの出張所はあるが今回の件について正式な通達はされていないし依頼も張り出されてはいなかった。

 万が一情報が洩れた場合、盗賊団が姿を消してしまうおそれもあるのでそれを防ぐためだ。

 一応、出張所の所長には状況の説明がなされてはいるものの、かと言って表立った協力を依頼するわけにもいかず、ここは町で地道に聞き込みを行い情報を集めねばならないのである。

 そう、盗賊団に気取られぬようあくまでも隠密にだ。

 だが、到着し宿を取った後ジャックに誘われ一行が向かったのは何と酒場だった。しかも、彼はそこで酒を片手に大声で盗賊団のことを聞いて回り始めた。

 これには他の面々も開いた口が塞がらない。

 確かに酒場での情報収集は定番だと言える。酔っぱらいの口が軽いのはどこの世界でも同じなのだ。

 しかし、その場合も相手に意図を見抜かれないよう上手く誘導しながら聞き込みを行うのが常道であるはずなのだが、ジャックにそんな気配りをする様子は微塵も見られ無かった。

 とにかく辺り構わず大きな声で「ここら辺に盗賊どもが隠れてるらしいんだが、誰か知らねえか?」と尋ねて回る。

「ちょとサマーズさん、これじゃあ討伐に来たってことが盗賊団にバレてしまいますよ?」

 見かねたライラがそう忠告したものの、ジャックは気に留める様子も無い。

「いいんだよ、それが目的でやってんだ。」

「それが目的……と言うことは、もしかして盗賊団を誘き出そうとしてるんですか?」

「そう言うことだ。中々賢いな、嬢ちゃん。」

 成る程、こうして自分達を囮にして餌を播けば相手がそれに喰い付いてくれるかもしれない。上手くいけば手間が一気に省けるだろう。

 だが、それには懸念点もある。

「でも、もしそのせいで逆に盗賊団が姿を隠してしまったら?」

 自分達が狙われていると知った盗賊団が必ずしも反撃に出て来るとは限らない。追っ手を避けるためガガウを離れてしまう可能性だってあるのだ。

 しかし、ジャックは平然とそれに答えた。

「まあ、その可能性も無い訳じゃない。

 但し、討伐に来たのが手強い連中だと判断した場合はだ。

 もし見るからに屈強な冒険者が大勢で出張って来れば、そりゃ逃げるかもしれん。そんなん相手にするだけ馬鹿らしいからな。

 だが、相手が少人数だったらどうだ?

 しかも、俺みたいな優男がひとりと後は子供が3人となれば奴等も高を括って来るだろう。他愛ない相手だとな。」

「だから、俺たちは子供じゃねえって!」

 その言葉に思わずジェイクが反応したものの、微妙に突っ込みどころがズレている。

 が、誰もそれを指摘しようとすらせず、結果あっさりスルーされてしまった。

「とりあえずサマーズさんが優男かどうかは別として、つまり盗賊団はアタシ達程度なら簡単に返り討ちに出来る、そう考えるだろうってことですか?」

「あっさり流してくれたな……まあ、いいか。

 言ってることはその通り。ほぼ間違いなく連中は俺達を狙って来るはずだ。

 楽に始末出来るなら、わざわざ大所帯で逃げ隠れするよりそうしたほうが手っ取り早いからな。」

 確かに、ジャックの言葉は理にかなっていた。

 相手は盗賊行為を行うような連中だ。モラルを持たぬ好戦的な集団であることは間違い無いだろうから、勝てると判断すれば当然実力行使に出て来るはずである。

 ジャックも勢いだけで行動しているように見えて実は色々と考えながら動いているんだなと、ライラは感心した。まあ、結局は力業になってしまう点は置くとしてだ。

 が、それと同時に少しだけ不本意な気持ちにもなる。

「もしかして、アタシ達に声を掛けて来たのはそれが狙いだったんですか?

 アタシ達みたいなひよっこが相手なら盗賊団も油断すると考えてのことだったんですね?」

 もしそうなのだとすれば随分と舐められたものである。ライラが不快に思うのも当然だろう。

 そんな彼女の気持ちを察したらしく、ジャックは苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。

「まあ、そう怒るな。

 確かにそう言う狙いがあったのも確かだ。

 だがな、決してお前等のことを舐めてたわけじゃねえぞ。若いが同時に腕も立つ、そう思ったから声を掛けたんだ。」

「どうしてそう言い切れるんですか?」

「そんなもん見りゃ分かるだろ。

 お前等から感じる気配はどう考えても16かそこらのもんじゃねえ、ベテラン冒険者のそれだ。

 その歳で随分と修羅場くぐって来たんだろ、違うか?

 第一、足手纏いを連れて歩くほど俺は物好きじゃねえよ。」

 その言葉はぶっきらぼうに言い捨てられたものだったが、むしろそれはライラに笑みを浮かべさせた。

 どう考えてもジャックは世辞など言う男ではない。そんな彼の口から自分達の実力を認める言葉が発せられたのだ。

 ライラにはそれが純粋に嬉しかったのである。


 酒場を数軒渡り歩いた頃には既に夜も更け、街はすっかり闇に包まれていた。

 表通りでは防犯用の街灯がいくつか灯りを点してはいるものの、一歩裏へ入れば既に民家の灯りも消え始め月明りだけが辺りを照らしている。

 なので、当然人影も無い。

 そもそもこんな時間に出歩くのは切り上げ時を見誤った酔っぱらいくらいなもので、まともな人間は家で眠りに就こうとする頃なのだ。

 そんな中、ライラ達4人は宿屋への帰路を辿っていた。

 するとその途中、不意にジャックが小さい声で皆に語り掛ける。

「どうやら、さっそく喰い付いて来たみたいだな。」

 何者かが自分達を尾行していることに気付いたのだ。

「随分早かったですね。

 もう少し時間が掛かると思ってましたけど。」

 何事も無かったかのように歩を進めながらケビンがそう反応する。

 彼も尾行者には気が付いていたのだ。そして、当然ライラとジェイクも。

「それにしても早過ぎない?

 まだそんなに時間は経ってないわよ?」

「まあ、そのほうが手っ取り早くていいんじゃないか?」

「何、お気楽なこと言ってるの。」

 相変わらず能天気なジェイクをライラが叱る。

「これだけ早くアタシ達のことを嗅ぎ付けたってことは、つまりこの町のあちこちに盗賊たちの目が光ってるってことなのよ?」

「それが何か問題なのか?」

「バカね、それだけのことが出来るのは敵が大人数だからってことでしょ?」

 すると、ライラの言葉を引き継ぐようにジャックが口を開いた。

「それと、連中の指揮系統がしっかりしてるってことでもある。

 敵の数は6人、それだけの人数がすぐ集まって来るからには予めこういった事態も想定してあるってことなんだろうな。

 このガガウを根城にしている事と言い、中々どうして盗賊の割に賢い連中じゃねえか。」

 そう言いながらも言葉とは裏腹にジャックは面白そうに笑って見せた。

 余程人を殺せるのが楽しみなんだろうなと、ライラは呆れながら思う。

「さて、それじゃあ奴等のお手並み拝見といくかね。」

 それから一行は敢えて灯りも無い暗い路地へと入った。勿論、敵に襲撃させやすい状況を作ってやるためである。

 尤も、こちらは全員が暗視の魔法を使えるし、おそらくは向こうもそうなのだろう。でなければ真夜中に路上で襲撃を掛けてくるはずはない。

 まあ、要するに人目に付かない場所を選んだだけのことだ。

 その後、路地に入るとすぐさま敵の気配が減った。魔力探知の結果、半分の3人になっていることが判る。

 おそらく挟み撃ちにするため人数を振り分けたのだろう。町を熟知している連中ならば先回りすることくらい簡単なことであるはずだ。

 そしてその予測通り、暫らく進むと前方に人影が現れた。その数は3。

 と同時に後方の尾行者たちも一気に距離を詰めて来た。やはり挟み撃ちを狙っていたようである。

 殺気を駄々洩れにする尾行者達。既に「何者だ?」とか「何のつもりだ?」などと問い掛ける必要すら無かった。

 ただ、その中にひとりだけ妙に静かな気配を放つ者がいた。このような状況でも全く心を乱さず、冷静にこちらを観察しているかのようだった。

 かなりの手練れだ。誰もがそう直感した。

「よし、俺は前の3人をる。

 お前等は後ろの連中な。」

 そして、当然の様にジャックは自分の相手としてその強者のいるグループを選択する。

 ライラ達もジャックがそう言うだろうことは予測していた。何故なら後方の連中には一切目もくれようとはしなかったからだ。

 どうやらただ人を殺したいだけではなく、強者の命を奪うことに喜びを感じているのかもしれない。

「それと、口を割らせるためひとりは生かしておけよ。」

 そして、捕虜の捕縛をライラ達に丸投げするジャック。それはつまり、自分が相手する連中については誰ひとり生かして捕らえるつもりは無いということなのだろう。

 まあ、それも想定内ではある。

 ライラ達にしても猛獣から餌を取り上げるような愚かな真似などするつもりは無かった。

「解りました。こっちは任せて下さい。」

 そう返すライラの言葉にジャックは満足げに頷き、そして剣を抜く。

「さて、それじゃあ始めるとするか!」

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