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復讐の終りと明日への歩み Ⅱ

 マウリシオは語った。

 一年以上も前の事、彼の元にある日記が届けられたのだと。

 それは、かつてニーゼック伯爵家の侍医をしていた男性のもので、彼の死後家族からマウリシオ宛てに送られてきたのだった。

 彼が侍医を辞したのは今から7年ほど前。理由はとある女性の命を救えなかったためだ。

 その女性の名はロレナ・イバラ。フリオの母親である。

 ロレナが病に倒れた際、マウリシオはその元侍医に彼女を看るよう命じた。

 しかし、治療の甲斐無くロレナは息を引き取ってしまい、彼はその責任を感じて侍医の職を辞し城を去った。

 そうマウリシオは思っていた。

 だが、真実は違っていた。彼の日記を読みマウリシオはそれを知る。

 ロレナの死因は病ではない。毒を飲まされたせいだったのである。

 実はその元侍医がロレナの病気を見る様になる以前、彼女は別の町医者から治療を受けていた。フリオを生んだ後の肥立ちが思わしくなかったからだ。

 だが、その町医者にかかった後も体調は戻らず到頭寝込むようになってしまった。

 元侍医が担当するようになったのはその後の事である。

 その時、彼はロレナが今だ町医者からもらった薬を飲み続けていることに気付き、念のためその薬を調べてみることにした。

 すると大変なことが判る。それは毒だったのだ。

 即効性の致死毒ではないが徐々に体力を奪いやがて死に至らしめる毒。それこそがロレナの”病”の原因だったのである。

 彼は当然このことをマウリシオに報告しようとした。だが、出来なかった。

 その前にコゼリンがそれを察知し、彼に脅しを掛けて来たのだ。口外すれば家族の命も無いと。

 しかし、それでも彼は屈しなかった。マウリシオに話しさえすればコゼリンの悪巧みなど退けてくれるだろうと考えたのである。

 だが、その直後に姿を現した人物を見て彼は観念した。

 エブリーヌだ。

 そこで彼は真の黒幕がエブリーヌであることを知った。

 平民を蔑む彼女がニーゼック伯爵家の血筋を汚したロレナを憎むあまり毒殺と言う手段に出たのである。

 当時はまだ先代が領主を務めていた頃で、その夫人であるエブリーヌが持つ影響力は現在よりもっと強かった。マウリシオよりもだ。

 一瞬、領主へ直々に訴え出ることも考えたが、おそらく無駄だろう。侍医とエブリーヌ、どちらの肩を持つかなど火を見るよりも明らかである。

 最早、彼に選択の余地は無かった。毒であると知りながらロレナがそれを飲み続けるのをただ見ているしかなかった。

 やがてロレナは死んだ。

 そして、彼は罪の意識に苛まれ侍医を辞することになったのだった。


 彼の日記を読んだその日からマウリシオの復讐は始まる。

 天命ではなく謀略によって最愛の女性を奪われてしまったのだ、許せるはずもない。必ず仇を討つと心に決めた。例え相手が実の母であっても。

 しかし、それは言うほど楽なことでもなかった。

 もし、これがコゼリン子爵だけならまだ何とかなったかもしれない。彼の専横ぶりは目に余るものがあり、叩けばいくらでも埃は出て来るはずだからだ。

 しかし、エブリーヌとなるとそうもいかないのだ。

 今のところ彼女を糾弾する材料は元侍医の日記しかないが、その程度ではどうにもならない。城を追われた男の世迷い言と一笑されて終りだろう。

 彼女に己の罪を認めさせるためにはもっと決定的な証拠が必要だった。

 そこでマウリシオは一計を案じる。

 そのために先ずマウリシオは周囲の目を誤魔化すためロレナを殺したものと同じ毒を飲み、まるで病に罹ったかのように見せかけた。

 勿論、ちゃんと解毒薬も用意してあったが、それでも危険なことに変わりはなく正に身を削っての大芝居を打ったわけだ。

 すると案の定、後継者の件でコゼリンが慌て出しエブリーヌがそれに乗じる。フリオの”排除”を目的として。

 全てはマウリシオの思惑通りだった。

 彼の書いた筋書き通り、彼女達はイケル・ジャネスという御用商人を巻き込みフリオの暗殺と言う暴挙に出たのだ。

 イケルは商人だけあって抜け目が無い。事に当たっては身を護るための保証を必ず要求した。つまり念書だ。

 それを手に入れ突きつけてやればエブリーヌもコゼリンも観念するしかないだろう。マウリシオはそこまで読んでいた。

 周りには重病を装いながら密かに解毒薬で回復を果たした彼は、”暗部”を使いこの寝室から全てを操っていたのだ。

 そして事を終えた今、ついに彼の復讐は完了したのである。


「君の言う通り、全ては私が描いた筋書きなのだよ。

 侍医の日記だけでは2人を断罪する証拠として足りなかったのでね、ぼろを出させるためひと芝居うったという訳だ。」

 そう語り終えたマウリシオだったが、その声に昂揚の響きは感じられなかった。おそらく今、彼の心にあるのは復讐を完遂した満足感ではなく、むしろ虚しさなのかもしれない。

 イルムハートとしてもマウリシオの気持ちが解からないわけではない。それほどロレナという女性を愛していたということなのだろう。

 当初イルムハートは、マウリシオがコゼリンを失脚させるためだけに今回の件を仕組んだ可能性を疑っていた。フリオの命をエサにしてだ。

 もしそうなら黙ってはいないつもりだった。それではあまりにもフリオが可哀想過ぎる。彼は道具などではないのだから。

 しかし、そうではなかった。全てはフリオの母親を愛していたが故のことなのだ。

 そのことを聞く限り、少なくともマウリシオが血の通わぬ冷たい人間でないことは分かる。

 だが、だからと言って今回のやり方を認めることは出来なかった。

「だとしても、他にやりようはあったのではありませんか?

 万一、フリオ殿の身に何かあればどうするつもりだったのですか?」

 そんなイルムハートの問い掛けにマウリシオは何処か遠い目をしながら答える。

「もうしそうなったとしても、母親の仇が討てるのならあの子としては本望だろう」

(これは……ダメだな。)

 マウリシオの言葉にイルムハートはこれ以上の追及を諦めた。

 今の彼は復讐に囚われて自分を見失ってしまっている。何を言ったところで、その心に言葉が届くことはないだろう。

 いずれ彼が我に返った時、どのようにフリオと向き合うのか?

 こればかりは見守るしかない。ロレナを愛したように、フリオにもその気持ちを向けてくれるよう願うだけである。

 だが、もしそれが叶わなかった時は……。

(いや、今はそんなことを考えるべきじゃないんだろうな。

 とにかく、フリオ君が幸せになることだけを願おう。)

 そんな思いを抱きながら、イルムハートはマウリシオの下を辞したのだった。


 寝室を出たイルムハートは来た時と同じメイドに連れられ玄関ホールへの廊下を歩く。

 その途中、彼はふと足を止めそのメイドに話し掛けた。

「ひとつ、教えてもらいたいことがあるんですがいいですか?」

 突然の言葉にメイドは不思議そうな顔をする。

「私にで御座いますか?

 何で御座いましょう?」

「ジルダさんのことです。」

 イルムハートはメイドの目を真っすぐに見ながら口を開いた。

「この後、彼女はどうなるのです?

 眠りから覚めた”眠り姫”は、もう今まで通りではいられないはずです。

 となると、別の任務を受けてフリオ殿の側から離れることになるのですか?」

 イルムハートは目の前のメイドが”暗部”の一員であると推測していた。

 何故なら、辺りには一切護衛の者がいなかったからだ。

 コゼリン子爵は失脚したが、その息のかかった者全てが粛清されたわけでもない。

 中には意に添わず従っていた者もいるだろうし、そもそもそんなことをすればニーゼック領政府は機能不全に陥ってしまうからである。

 そのため、主だった者こそ処罰されたもののそれ以外はまだ役職に残っており、処遇については今後の働き次第ということになっていた。

 それはつまり、まだ身近に敵が潜んでいるかもしれないということでもある。逆恨みでマウリシオの命を狙って来る可能性もゼロではない。

 なのに、マウリシオの周囲にはこれといって護衛が付いている様子が無いのだ。

 城の衛兵ですらまだ完全に信用出来る状態ではないのかもしれないが、しかしこれではあまりにも無防備すぎる。もし賊が入り込んでしまえば簡単に目的を果たせてしまうだろう。

 だが、あの賢明なマウリシオがそのことに気付いていないはずはない。

 おそらく現在彼の警護は全て”暗部”が行っているのだと思われる。気配こそ消しているがマウリシオの周囲には彼を護るための”暗部が配置されているに違いなかった。

 そして、このメイドもそのひとりというわけだ。

 そんなイルムハートの問い掛けにメイドは不覚にも一瞬黙り込んでしまった。しかし、全く表情を変えなかったのはさすがである。

「”眠り姫”とは一体何のことなのか残念ながら私には解りかねますが、普通であれば眠りから覚めた以上は明るい場所へと出て行くことになるのではないでしょうか?

 何も暗いところに留まる必要も無いかと思います。

 それと、ジルダについてで御座いますが、あの娘は引き続きフリオ様のお付きとして勤めることになっております。

 いずれアルテナ高等学院にご入学されるフリオ様のお伴をして再び王都へも赴く事になるでしょう。」

 どうやら”暗部”としてのジルダ・クレニはこれでお役御免ということになるようだった。正体がバレた以上はそれも仕方無いことではあろう。

 だが、引き続きメイドとしてはフリオの側にいることが出来るらしく、そのことにイルムハートは安堵した。

 これはかなり思い切った決断のはずである。何せ”暗部”の存在を知る人間が解き放たれることになるのだ。

 ジルダが秘密を守ると信じているのか、或いは他に何か事情があるのか。もしかすると、フリオに対するマウリシオのせめてもの親心なのかもしれない。

 まあ、そこまではイルムハートにも判断が付かなかったし、そもそも深入りするつもりも無い。

 ただ単純にそのことを喜ぶだけだ。

「そうですか、それは良かったですね。

 フリオ殿にとっても、そしてジルダさんにとっても。」

 イルムハートはそう言って微笑むと再びホールへと向かって歩き出す。

 そんなイルムハートの後姿をメイドはじっと見つめた。そしてその背中に深々と一礼した後、彼の後を追ったのだった。


「やっと戻って来たわ。

 随分と話し込んで来たみたいね。」

 玄関には既に皆が集まりイルムハートの戻りを待っていた。

 フリオ、レンゾ、そしてジルダも見送りのため顔を揃えている。

「伯爵様のお加減はどうだった?」

「お元気そうだったよ。

 フリオ君が無事帰領出来た事を喜んでおられたし、多分に感謝の言葉も頂いた。」

「そう、良かったわね。」

 イルムハートの言葉にライラはほっとした表情を浮かべた。

 今回の件については彼女も彼女なりにいろいろと裏の事情を推測していたのだろう。マウリシオがフリオのことを気にかけていると聞いて安堵したようだった。

「イルムハート殿。」

 すると、フリオが一歩前に出てイルムハートに声を掛ける。

「この度は誠に有難うございました。

 私が無事ベラールまで辿り着けたのも、イルムハート殿のお陰です。改めてお礼申し上げます。

 それと、知らぬこととは言え道中における数々のご無礼、何卒ご容赦くださるようお願いいたします。」

 フリオは9歳の子供とは思えない口調でそう言った。

 手の付けられない癇癪持ちの子供。そんな風評が立てられているとは思えない程に。

 まあ、元々賢い子ではあるようだ。ただ己の境遇を悲観し、そのやり切れない気持ちを上手く処理出来なかっただけなのだろう。

「気にしないで下さい。

 生まれはどうあれ、任務中の私は一介の冒険者でしかないのですから。

 それと、そのような堅苦しい話し方も無しにしませんか?

 私達はもう”友人”でしょう?」

 そんなイルムハートの言葉を聞き、フリオは笑顔を浮かべる。

「再来年にはアルテナ高等学院入学のため、再び王都へ戻ることになります。

 その際は、遊びに伺ってもいいですか?」

「ええ、勿論。」

「あと、僕にも剣術を教えて頂きたいんですが。」

「それは構いませんが……騎士科にでも入るつもりですか?」

「いえ、学院では国政科に入るつもりです。

 ですが、剣の腕も磨きたいのです。

 ジェイクに負けないように。」

 それを聞いてイルムハートは首を傾げた。何故ここでジェイクの名が出て来るのか?と。

 そう思い当の本人に目をやると、ジェイクはどこか微妙な表情を浮かべ顔をそむけただけだった。

「解りました。その時は共に腕を磨きましょう。」

 イルムハートの言葉にフリオは「はい」と笑顔で答える。

 それからイルムハートはレンゾに話しかけた。

「ファーゴさんにもいろいろとお世話になりました。」

「いえ、とんでもございません。むしろ、こちらこそイルムハート様のご尽力に対し何と言って感謝して良いものやら。」

 すると、レンゾは妙に緊張した面持ちでそれに応える。

 レンゾもベラールに着いてからイルムハートの素性を知った口だった。

 その時の慌てぶりと言ったら見ていて気の毒になるほどだったが、今ではそれも笑い話である。

「ファーゴさんもフリオ殿の護衛として王都へ行かれるんですか?」

「その予定となっております。」

「では、王都でまたお会いしましょう。」

 そして、最後にジルダ。

「ジルダさんもフリオ殿のお伴で王都に行くらしいですね?」

「はい、そう承っております。」

「それは何よりでした。貴女が側にいればフリオ殿も心強いでしょう。

 これからもフリオ殿のことを見守ってあげてくださいね。」

「はい、全身全霊をかけ務めさせて頂きます。」

 そう言ってジルダは微笑んだ。今までのどこか影を含んだ笑みではなく、心から嬉しそうに。

 こうして別れの挨拶を終えたイルムハート達は馬車に乗り込んだ。

「それでは、また王都で。」

 動き出す馬車の窓から皆にそう声を掛けると、突然フリオが駆け出して来て大きな声で叫ぶ。

「ライラ!約束、忘れないでよ!絶対だからね!」

 そんなフリオの声を背に、イルムハート達を乗せた馬車はゆっくりと城を後にしたのだった。


「最後にフリオ君が言っていた”約束”って一体何のことなんだい?」

 城からの帰り道、馬車に揺られながらイルムハートはライラにそう問い掛けた。

「ええと……何ていうか、その、アレよ。」

 しかし、彼女の言葉はどうにも歯切れが悪い。

 すると、そんなライラに代わりケビンが答えを教えてくれた。

「ライラさんはフリオ君にプロポーズされたんですよ。「将来ボクのお嫁さんになってほしい」とね。

 いやー、中々に熱烈な愛の告白でしたよ。」

 イルムハートは驚いてライラを見る。

 フリオがライラを気に入っていることは誰の目にも明らかだった。しかし、まさかプロポーズまでされるとは。

「それで?まさか受けたの?」

「そんなわけないでしょ。」

 イルムハートの言葉にライラは少しだけ頬を赤らめながら答える。

「フリオ君はまだ子供なのよ?

 アタシにとっては弟みたいなものだし、フリオ君もアタシのことを姉のように感じてると思うの。

 多分、その気持ちを恋愛感情と勘違いしているだけなのよ。

 第一、アタシなんかが伯爵夫人になんてなれるわけがないじゃない。」

 まあ、そうは言いながらライラとしても満更では無いようである。

「じゃあ、断ったのかい?」

「そんなこと出来るはずないじゃない。フリオ君の気持ちを傷つけるわけにはいかないもの。

 だから、成人しても同じ気持ちだったらその時もう一度お話ししましょうって答えたの。」

「なるほど、それが”約束”ということか。」

 イルムハートは納得した。と同時に、もうひとつの疑問を思い出す。

「そう言えばフリオ君が「ジェイクに負けたくない」みたいなことを言っていたけど、アレは何だったのかな?」

 すると、それについてもケビンが教えてくれた。いかにも彼らしい笑顔を浮かべながら。

「どうやらフリオ君はジェイク君のことをライバルだと考えているようなんです。」

「ライバル?」

「はい、ライラさんを巡る恋のライバルです。」

 これにはイルムハートも唖然とする。

 プロポーズの話にも驚かされはしたが、今度はそれを更に上回る驚きだった。

「一体、何があったんだ?」

 勿論、イルムハートもジェイクがライラに想いを寄せていることは知っている。

 だが、その件に関しては全く進展していないはずだ。と言うか、ライラはジェイクの気持ちに気付く気配すらない。

 なのに、どうしてフリオがジェイクをライバル視することになったのか?

「それなんですが、どうやらフリオ君はラームたちとの闘いの様子を馬車の中から伺っていたみたいなんです。

 で、ライラさんがラームに突き飛ばされた時、そこへ割って入ったジェイク君がこう言ったらしいんですよ。「”俺の”ライラに何しやがる!」とね。」

「だから、俺はそんなこと言っちゃいないっての!」

 ケビンの話を遮り、真っ赤な顔をしたジェイクがそう声を上げた。そして、すがるような目でイルムハートを見る。

「あの時側にいたんだからお前も知ってるよな?

 俺はそんなこと言ってないってことをさ?」

「うーん、どうだったなか。あの時は闘いに集中してたからね。

 言ってたような、言ってなかったような……。」

「……おい。」

「と言うか、それならライラ本人に確かめてみればいい話だろ?

 一番近くにいたわけなんだし。」

「それが良く覚えていないのよね。」

 しかし、ライラの答えもまたハッキリしないものだった。

「馬車にぶつけられたせいで一瞬意識が飛びかけてたのよ。

 でも、そもそもの話としてコイツがそんなこと言う訳無いのよね。むしろ「ざまあみろ」とか言かねないもの、コイツなら。」

 そう言ってライラはジェイクを睨み付けた。勿論それは全くの言い掛かりではあるのだが、日頃の言動を見ればそう思われて仕方ない部分もある。

「そんな勘違いをしちゃったせいでフリオ君には「君達は恋人同士なのかい?」なんて聞かれちゃうし。

 まったく、冗談じゃないわよね。何でアタシがコイツの恋人なんかにならなきゃないわけ?

 がさつで口が悪くて、おまけに考え無しのお気楽人間なんて好きになるわけないでしょうが。

 こればっかりはいくらフリオ君の言葉でもちょっとムっとしたわね。」

 心底嫌そうな顔でしゃべり続けるライラ。

 可哀想なのはジェイクである。惚れた相手にここまでボロクソ言われては、いくら何でもメンタルが持たないだろう。

 ライラが言葉を発する度にジェイクの精気はガリガリと削られてゆく。それが傍目にも良く分かった。

「ま、まあ、その位にしておいたほうがいいんじゃないかな?

 誤解は解けたんだろ?

 だったらもうこの話は終わりということで……。」

 さすがに気の毒になり、イルムハートはそう言ってライラを宥めた。

 それにしても、ライラも大概だよな。と、イルムハートは思う。

 人の事は散々”鈍感男”呼ばわりしていたくせに、いざ自分のこととなるとサッパリのようである。

「そうね、不愉快なことはさっさと忘れるに限るわね。」

 まだ少し不満そうではあったが、とりあえずライラの集中砲撃は終わった。

 しかし時すでに遅く、ジェイクの魂は木っ端微塵にされてしまっていた。

「おーい、ジェイク君。息してますか?」

 そう言ってケビンが指で突っついてもジェイクは全く反応しない。まるで生ける屍のようだ。

(ジェイクの恋も前途は多難だな。)

 そんなジェイクを気の毒そうに見つめながら、今日だけは彼に優しくしてやろうと、そう思うイルムハートなのだった。


 こうして最後の最後に約1名の犠牲者を出しつつも、イルムハート達の今回の任務はひとまず終了したのである。

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