若き冒険者と魔法生物
王都を出発したその日の夜、イルムハート達一行は西街道最初の宿場町であるリクルで宿を取る事となった。
まがりなりにも次期伯爵の一行だ。
本来ならその身分に相応しい宿を道中各所に予め確保しておくのが普通ではあるものの、今のフリオの境遇ではそれも望めない。その場その場で凌ぐしかないのである。
それでも何とか高級な宿を取ることが出来て先ずは一同ひと安心といったところだった。
だが、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、夕食の際さっそくフリオが仕出かしてくれた。
食事の中に嫌いな野菜が入っていたことで癇癪をおこしたのである。
フリオの嫌いな食材についてはメイドのジルダが予め料理人に伝えていたらしいのだが、どうも手違いがあったらしい。
お陰でテーブルの上の物を投げ付けるわ宿の者を呼びつけ怒鳴り散らすわ、それはもう手の付けられないことになった。
これには少し離れたところで待機していたイルムハート達も思わず唖然とする。
たかが野菜ひとつでそこまで激昂するものなのか?と思わずにはいられなかったが、まさかそれを口にするわけにもいかない。火に油を注ぐようなものだからだ。
レンゾやジルダが必死に宥めようとするものの、ヒステリーは一向に収まる様子が無い。
だが、そんな中ライラだけは平然としていた。
「フリオ様、もうそのへんにしておきませんか?
嫌いなものは別に無理して食べなくとも、残してしまえばいいのです。
それより、ちゃんと食事をしておかないと夜お腹がすいてぐっすり眠れなくなりますよ?」
その言葉にフリオの動きが止まる。そして、どこか戸惑ったような表情を浮かべライラを見た。
『食べておかないとお腹がすいて眠れなくなる』
そんな風に説き伏せられるのは初めてだった。
「お前は……変わった奴だな。」
自分に対し畏れもせず媚びもしない。かと言って呆れたり嫌悪したりするような態度でもない。
他人にこれほど真正面から向き合ってこられたのはいつ以来だろうか?
ライラの言葉でフリオの癇癪はなんとか収まった。相変わらず不愛想な顔のままではあるが、どことなく穏やかな雰囲気すら漂わせ始める。
「癇癪をおこした子供に正論を言ったところでムダよ。何せ理不尽が人の姿しているようなものなんだから。
そんな時はね、叱ったり甘やかしたりせず、むしろ何でもない顔で話しかけるの。
子供って案外敏感に相手の気持ちを感じ取るから、こっちが落ち着いていれば向こうも冷静になってくるものなのよ。」
何でも昔は近所のチビ達のお守りをしていたこともあるらしく、ライラは後でそう話してくれたのだった。
これ以降、フリオの相手は自然とライラがするようになった。そして、フリオもライラに対してだけは徐々に心を開いてゆくようになったのである。
そして、旅を始めてから4日目。
一行は王都より西へと延びる街道から途中で南へと進路を変え、アロイス伯爵領へと入った。このアロイス領の西隣にニーゼック伯爵領がある。
領境の検問所を通る際、警備の兵には案の定不思議な顔をされた。
まあ、次期ニーゼック伯爵ともあろう者がこんな貧相な護衛しか連れずに旅をしているのだ。それは戸惑いもするだろう。
その辺りはお忍びの旅とか何とか、遠回しにそんなことを言って適当に胡麻化したのだった。
尚、リクルでの一件以来フリオが癇癪をおこすことは無くなった。それどころか、驚くべきことにライラの言うことは素直に聞くようになったのである。
「さすがはライラさんですね。ジェイク君のお守り役を務められるだけのことはあります。」
昼の休憩中、感心しきりと言った様子でケビンがそう口にした。
しかし、これには納得いかないのがジェイクである。
「ちょっと待て、何時からアイツが俺のお守り役になったんだ?
と言うか、何でアイツなんかにお守りをしてもらわなきゃならないんだよ?」
「あれ、気付いていなかったんですか?皆そう思っているんですよ?
何せライラさんが目を光らせていないと何を仕出かすか分かりませんからね、ジェイク君の場合。」
「あのなぁ、お前は俺を何だと思ってるんだ?子供じゃないんだぞ?」
「勿論、分かってますよ。子供じゃないからこそライラさんのような人でないとちゃんと躾けられないんじゃないですか。」
「……俺は犬か何かか?」
そんな2人のやり取りが、少し離れた場所で見張りに立つイルムハートの耳にも聞こえて来る。
こんな時にも拘わらずいつも通りの彼等に思わず苦笑するイルムハート。すると、そこへレンゾが近寄って来た。
「見張り、ご苦労様。私が交替するから君も少し休み給え。」
「いえ、私は大丈夫ですので交替には及びません。
それに、替わる時はうちのメンバーにやらせますので、ファーゴさんはフリオ様のお側にいてあげてください。」
イルムハートのそんな言葉を聞きレンゾは「ふむ、やはり気のせいではないか」と何やら独り言ちた後、こう問い返して来た。
「君達は王都を出立してからというもの、ずっと周囲を警戒しているようだね?
まあ、護衛としては当然のこととも思うが少しばかり気を張り過ぎではないのかな?
それとも、何か理由でもあるのかね?」
どうやらレンゾはイルムハート達が敵の襲撃を想定しながら警護していることに気付いていたようである。
出来るだけ表には出さないようにしていたはずだが、さすがは騎士と言ったところだろうか。彼の目を誤魔化すことは出来なかったらしい。
「ご心配をお掛けしたのであれば申し訳ありません。
でも、これは冒険者の”性”のようなものなのです。」
魔獣はいつ何時であろうと突如として襲って来る。人と違い本能で動く分、その襲撃を予測することは難しい。
そんな魔獣達を相手にする冒険者は常に周囲への警戒を欠かすわけにはいかないのだ。特に、魔獣の生息地を移動する場合など一瞬の油断が命取りになってしまうこともある。
そのせいか、例え比較的安全と思われる場所であってもつい癖で辺りを警戒してしまうのだと、イルムハートはレンゾにそう説明した。
結果としては嘘をついた形になるが、まあ全くの出鱈目と言う訳もでもない。
「成る程、常に戦場にいるような心構えなのか。」
イルムハートの言葉にレンゾは感心したように頷く。
が、その後でジェイク達に目をやり
「しかし、その割には楽しんでもいるようだな。」
と、笑いながらそう言った。
尤も、その言葉に毒は無い。むしろ、好ましく思っているようでもあった。
人の心と言うのは常に張りつめていてばかりでは疲弊してしまう。例えどんな緊迫した状況であれ、その中で上手く緩急をつけることは決して悪い事ではないのだ。
「緩める時は思い切り緩め過ぎてしまうこともあるんですけれどね。
まあ、それもまた冒険者の”性”と言うヤツなんでしょうか。」
そう言って笑うイルムハートをレンゾは満足そうに見つめる。
最初、担当するのが少年少女ばかりのパーティーであると聞かされた時、レンゾは正直眉をひそめた。次期伯爵の警護に子供だけと言うのはどう言う了見なのだ?と。
しかし、実際に会ってみるとそれぞれ高い実力を持っていることがひと目で分かった。
考えてみればこの若さで既にDランクにまで上がっているのだ。当然と言えば当然なのかもしれない。
しかも、このリーダーを務める少年は明らかに只者ではなかった。
もしかすると自分と同等、或いはそれ以上の実力を持っているかもしれない。レンゾは密かにそう思っていた。
それと、あのライラという少女。あのフリオが今ではすっかり懐いてしまっている。
メイドのジルダには時折甘えるようなことを言ったりもしているようだが、ここまで他人に心を許している姿を見るのは初めてなのだ。
このパーティーに依頼を引き受けてもらえたのは幸運だった。
今ではレンゾ自身そう感じていた。
この先、ニーゼックへ戻った後のフリオにはおそらく辛い現実が突きつけられることになるだろう。耳にする情報から、レンゾもそれを予測していた。
ならば、せめてこの旅の間だけは子供らしく時間を過ごして欲しい。レンゾはそう願った。
5日目。
イルムハート達はさらに進路を変えた。
今まで通っていたのはアロイスの領都へと向かう道で、それだとニーゼックへは遠回りになってしまうからだ。
そのために一行は間道を通り再び西へと向かう。
途中までは順調に進んでいたのだが、その日の目的地であるエンラードの町まであと少しといったところで一行はトラブルに見舞われることになった。
落石が山道を塞いでしまっていたのだ。
イルムハート達がその場所に着いてみると、道を塞ぐ岩の山を前にして困り果てる隊商の姿があった。
「山崩れですか?」
「そうらしいんだ。すっかり道が塞がれてしまったみたいだな。」
イルムハートが問い掛けると隊商の代表らしき男がそれに答えた。
「他に迂回出来る道はないのですか?」
「それが、残念ながら無いんだよ。迂回するにはこの山をぐるりと回らなきゃならないんだ。」
そう言って男は大きくため息をついた。
それからイルムハートはもう一度道を塞ぐ岩に目をやる。
(まあ、この程度なら何とかなりそうだ。)
かなり大きなものもあるが魔法で破壊すれば通り道くらいは造れるだろう、そう判断した。
が、それと同時にふと不自然さも覚える。
(それにしても、随分と大きな岩が混ざっているな。)
イルムハートは落石が起こったと思われる山肌を見上げた。確かに、そこには崩落した跡があり所々むき出しになった岩も見える。
しかし、どれも目の前に転がる岩ほどの大きさは無いように思えるのだ。
何やら嫌な予感がした。
そして、それは的中する。
目の前の岩が急に魔力を発し始めたのである。
「皆さん!下がって下さい!」
イルムハートは声を上げた。
すると、その言葉に呼応するかの如く岩が動き出す。そして、いくつかの岩がくっつき合い、人型となって立ち上がった。
「ゴーレム!?」
目の前に立ち塞がった化け物、それはゴーレムと呼ばれる魔法生物だった。
魔法生物とは極度に濃縮された魔力がそれ自体まるで生あるもののごとく活動するようになった俗に言う”意思を持った魔力”、それが憑依した物体を指す。
岩や土などの物質に憑依したものがゴーレム、人間や獣の死骸に憑依すればグールやゾンビなどと呼ばれた。
また極めて稀ではあるが、魔力そのものが物質化したゴーストやダーク・ソウルと言った魔法生物も存在する。
”意思を持った魔力”が何故、どのようにして発生するのか。それは残念ながら解かっていない。
一説には強い怨念を抱いたまま死んだ者の魂が魔力と融合することで生まれるとも言われているが、それを検証する術もなく正確なところは未だ解明されないままなのだ。
「おいおいおい、何かとんでもないヤツが出て来やがったな。」
逃げまどう隊商の人々の中を縫ってジェイクが近付いて来る。そして、自分の身の丈の3倍はありそうな相手を見上げながら言った。
「ロック・ゴーレムってヤツか、これ?
それにしても、ゴーレムなんて初めて見たぞ。」
初見なのはイルムハートも同じだった。魔法生物とはそれほど希少な存在なのだ。
そして、面倒な相手でもある。
そもそもが濃縮された魔力の集合体をベースとしているので魔法耐性が半端なく高いのだ。モノによっては竜種よりも高いとされていた。
それに、”魔法生物”と呼ばれてはいるが正確には生き物ではない。
従って恐怖も痛みも感じることはなく、また傷ついてもその辺りに転がっている素材ですぐに欠損部を修復してしまうと言ったように極めて厄介な相手なのだった。
「アードレー君、大丈夫か?」
事態を察してレンゾが駆け寄って来ようとしたが、イルムハートはそれを制止する。
そして、矢継ぎ早に指示を出した。
「ファーゴさんは馬車を連れて避難してください!ライラ、君も一緒に行け!
それからケビン、君はこっちを手伝ってくれ!」
ゴーレムと闘うのは初めてだ。しかも、かなり手強い相手のはずである。
手間取れば馬車のフリオにも被害が出かねないため、イルムハートは避難を命じたのだ。
「分かったわ!ファーゴさん、さあ早く!」
「いや、しかし……。」
「大丈夫です、イルムハートならなんとかします。」
レンゾはまるでイルムハート達を見捨てるかのような行為に一瞬躊躇したが、すぐに本来の任務を思い出す。フリオの身の安全が最優先なのだと。
「分かった。ヘイス、馬車をこの場から下がらせろ!」
御者を務めるヘイス・パップにそう命じた後レンゾは一度だけイルムハート達の方を振り向き、それから一目散にその場を離れた。
その後ろを追うように隊商の馬車も続く。
イルムハートとジェイクは彼等とゴーレムとの間に立ち塞がる形で位置取りをし剣を構えた。そこへケビンも合流する。
「ゴーレムですか。魔法が効きにくいどうにも厄介な相手ですね。」
「攻撃は僕とジェイクでする。ケビンは足止めを頼む。」
「解りました。」
確かに、その耐性の高さのため魔法による直接攻撃はあまり効果が期待できない。しかし、全く役に立たないわけでもないのだ。
ケビンは魔法でゴーレムの足元の土を盛り上げ、そして固める。足を封じられたゴーレムは一瞬動きを止めた。
そこへイルムハートとジェイクが切り込んでゆく。が、その攻撃はあっさりと弾かれてしまった。
「だー、何て硬さだよ!」
思わずジェイクが愚痴る。
相手が岩の化け物であることは当然承知の上だ。だが、ゴーレムの身体はその予測を上回る程に硬かったのである。
魔力により強化されてるのだろうか?
まるで金属の塊の様だった。
「おっと、危ねえ。」
ゴーレムはケビンの造った土の枷を軽々と蹴散らしてジェイクに殴りかかって来た。しかし、ジェイクはそれを余裕で避ける。
成る程、見た目通りパワーはありそうだが素早さはそれほどでもなさそうだった。
まあ、そのくらいのハンデが無ければやってられない相手ではある。
「ジェイクは奴の注意を逸らしてくれ。後は僕がやる。」
イルムハートとは剣を握り直し闘気を練りながらそう言った。
ジェイクも岩程度なら断ち切ることが出来る。しかし、金属となるとまだ難しいのだ。ここはイルムハートが行くしかない。
「ほれ、こっちだデクの坊!」
イルムハートの言葉に、ジェイクはそう言ってゴーレムを挑発した。すると、狙い通りゴーレムはジェイクを追い回し始める。
尤も、ゴーレムを含む魔法生物に知性はない。なので、挑発に乗ったと言うより単純に動く物を標的としているだけなのだが、そこは結果オーライである。
その隙を突き、イルムハートはゴーレムの膝関節らしき部分へ向け剣を振るった。
金属同士の擦れる甲高い音と共に左脚が切り落とされ、ゴーレムは地面へと倒れ込む。
「やったぜ!」
「いや、まだだ!」
思わず歓声を上げるジェイクだったが、イルムハートがそれを制する。
見ると、切り落とされた左脚が辺りに転がる岩の欠片を巻き込みながらゴーレムへと近寄って行く。そして、淡い光と共に再びゴーレムの一部と化した。
「げっ、再生しやがった!?」
「これは、中々に面倒な相手だな。」
ジェイクもイルムハートも思わず顔をしかめた。これではキリがない。
今イルムハートが使っている剣は以前のものと比べ品質も数段上になってはいるが、さすがにこのままでは金属疲労により剣の方が先にまいってしまう。
「やはり”核”を狙わないとダメか。」
物体を操っている魔力の源である”核”を攻撃する。それが魔法生物と闘うにあたり最も有効な手段なのである。
と言っても魔法生物の”核”は魔獣が持つ”魔核”のように個体として存在しているわけではなく、あくまでも魔力の集合体でしかない。
なので、完全に破壊することは不可能だ。せいぜいが”核”のある部分を破壊し、”意思を持った魔力”を身体から追い出す程度だった。
憑依する身体を失った”意思を持った魔力”は運が良ければそのまま霧散してしまうし、そうでなくとも別の体を求めて何処へと去って行ってしまう。
まあ完全な解決方法ではないものの、少なくとも目の前の脅威は排除出来るわけだ。
(”核”は……あそこか!)
魔力探知をしてみると人間でいう鳩尾の辺りに特に強い魔力を感じた。おそらく、それが”核”なのだろう。
ただ、少々位置が高すぎてまともに切り掛かっても届くかどうか。しかし、斬撃を飛ばした程度では多分効き目はないだろう。となればアレを使うしかない。
イルムハートは持っている剣を鞘に納めると、代わりに収納魔法から取り出した刃の無い持ち手だけの剣を手にした。そして、魔法を発動させる。
すると、持ち手の先には光の刃が現れた。高温のプラズマもどきを収縮させた”似非ビーム・ソード”だ。
(うん、やっぱりこれじゃなきゃね。)
イルムハートはひとり満足げに頷く。
この光の刃は魔法により制御されている物なので、本来なら持ち手など必要ない。
だが、イルムハートにとっては持ち手が有ってこその”ビーム・ソード”なのだった。まあ正直言ってそれ自体に意味はないのだが、要するに”こだわり”と言うやつである。
イルムハートはその”似非ビーム・ソード”で横薙ぎに切り払う動きをした。すると、光の刃は離れたゴーレムの身体まで真っすぐに伸びて腹の辺りから両断した。
実体剣ではないため伸縮も自在なのである。
真っ二つになり崩れ落ちるゴーレム。どうやらもう再生する様子はなさそうだ。
既に動きを止めたゴーレムの残骸を見つめながらジェイクが感心したように口を開く。
「一撃かよ?
いつ見てもスゲー威力だな、それ。何て言ったっけ?びいむ何とかだったか?」
「あれはその場のノリで言っただけで意味は無いよ。ただの”魔法剣”でいい。」
自分では”似非ビーム・ソード”と呼んではいるのだが、その名の由来を説明するとややこしいことになるのでそこは適当に胡麻化した。
「それにしても、魔法耐性の高いゴーレムを魔法で倒してしまうなんて相変わらず出鱈目ですね、イルムハート君は。」
「魔法と言っても実際に相手に当たる部分は圧縮された超高温の空気だからね。魔法そのもの威力ではないんだ。」
こちらはこちらで呆れたような顔をするケビンにイルムハートは苦笑しながらそう説明した。正確にはただの空気ではなくプラズマ化させたものなのだが、その辺りの知識はこの世界に無いものなので当然のように説明は端折る。
まあ、”鉄をも溶かす程の高温に熱せられた空気”のほうが分かりやすいのは確かだろう。そんな異常なものを単なる”空気”などと呼んでいいのかどうかは置いておくとしてだ。
「まさに無敵の技なのですが魔獣相手には滅多に使えないのが難点ですね。」
ケビンは真っ二つにされたゴーレムを見ながらそう言って肩をすくめる。その切り口はまるで溶岩の様にどろどろに溶けていた。
そう、確かにこの技は強力なのだが、その高温のせいで相手を燃やし尽くてしまいかねないという難点があった。
そのため、魔獣相手に使うことが出来ない。大切な収入源である素材まで消し炭にしてしまうからだ。
「尤も、この技を使わなければ倒せないような魔獣などそうそういるものではないでしょうけどね。」
「当たり前だ。そんなのがごろごろいたんじゃ、こっちはたまったもんじゃないぞ。」
そんなケビンの言葉にジェイクは心底嫌そうに顔をしかめた。
そうこうしている内に、騒ぎが収まったことを察知したライラ達が戻って来た。
(何とか無事に収まったな。)
近付いて来る馬車を見ながら、そう安堵に胸を撫で下ろすイルムハートなのだった。