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旅の準備と護衛の依頼

 成人のお披露目会も無事に終わり、イルムハート達のパーティーは本格的に旅の準備を始めた。

 冒険者の多くは各地を周り知識と経験を身につけるための所謂”修行の旅”へと出かける。ステップアップのためにだ。

 そして、イルムハート達もその道を歩もうとしているのである。

 最終的な目的地は冒険者ギルドの総本部が置かれているアンスガルド。それから、その隣国でイルムハートの冒険者の師であるリック・プレストンがギルド長を務めるルフェルディア公国を訪れることになっていた。

 だが、真っすぐそこへ向かうのもつまらない。どうせならもっと色々な場所を見て回ろう。

 ということで、遠回りして先ずは内海へと向かうことになった。

 この世界唯一の大陸である大グローデン大陸は実際には東と西、そして南と3つの大陸から構成され、その真ん中にあるのが巨大な内海である。

 その面積は各大陸の中で一番小さな南大陸よりも広く、見る者にとってはほぼ外洋と変わらないほどであった。

 そんな内海が最初の目的地となったのは「海が見て見たい」と言うジェイクの言葉からだった。

 ここバーハイム王国にも海はあるのだが一番近い場所でも王都からは数百キロ離れている。

 馬や徒歩が主な交通手段であるこの世界にしてみれば、それは気軽に行ける距離ではない。

 魔法で空を飛ぶ船、飛空船を使えば僅か1~2日で到達可能な距離ではあるのだが当然料金も桁違いに高く、普通に平民が利用出来るような代物ではなかった。

 そんな訳で、ジェイクとライラは未だ海を見たことが無いのである。

「昔から海ってやつをいっぺん見てみたかったんだよな。」

「アタシもだわ。一人前の冒険者になってあちこち回れるようになったら、必ず海のある場所へ行ってみたいと思ってたの。」

 写真や映像と言った媒体が無いこの世界では”海”の正確な姿を知るのは難しい。いや、仮にもしそんな物があったとしてもあの広大さを理解するのは決して容易なことではないだろう。

 なので、ジェイクもライラも海が”湖のもっともっと大きなヤツ”だと言うことは知っていても、やはり実際に自分の目で見てみたいという欲求を抑えられないのである。

「海の水って塩っ辛いらしいけど、ホントなのか?」

 子供の様に目を輝かせながらジェイクがそう言うと、何やら怪しげな笑みを浮かべケビンがそれに答えた。

「ええ、そうですよ。海の水には塩が溶け込んでいるんです。

 そのため海で獲れた魚の身体には塩がしみ込んでいて、そのまま焼くだけでもちゃんと塩味が付くんですよ。」

「そうなのか?それって無茶苦茶便利じゃねえか?

 海ってすげーな!」

「ちょっとケビン、あんまりヘンなこと教えないでよね。

 このバカが本気にするでしょ。」

 すると、さすがに呆れた顔でライラが口を挟ん来る。

「アンタもアンタよ。何でこうすぐにコロッと騙されちゃうわけ?」

「えっ?今のは嘘なのか?」

「当たり前でしょ。こんなの子供でも信じないわよ?

 アンタ、そんなんでよくアルテナ学院に入学出来たわね?」

 ジェイクも決して頭が悪いわけではない。むしろ、騎士科であっても相応の学力を必要とするアルテナ高等学院に見事合格出来るほどの能力は持っている。

 だが、どこか抜けたところがある上、何よりそのお調子者の性格から場の勢いで簡単に騙されてしまう時があるのだった。

「ケビン、てめえ!」

「まあ今の話は嘘ですけど、海の水に塩が溶け込んでいると言うのは本当ですよ。」

「だから何だよ。」

「塩水の場合、普通の水より人の身体が浮きやすくなるんです。それは知っていますか?」

「そういやそんな話を聞いたことがある気もするな。」

「そうでしょう?

 それは魚も一緒なんです。

 なので海の魚はみな海面にプカプカ浮いていて、漁師はそれを掬って獲っているんですよ。」

「おお、それなら俺にも簡単に出来そうだな!」

「アンタねぇ……。」

 相変わらずいじり続けるケビンとまたしてもあっさり騙されてしまうジェイク。そんな懲りない2人に思わず深くため息をつくライラ。

 実を言うと毎回こんな感じで中々話が進んでいないのが現在の状況である。

(うん、今日も平常運転だな。)

 もうすっかり馴れっこになってしまったイルムハートに出来る事と言えば、諦め半分の笑顔でそんな彼等を見守ることだけだった。


 そんなある日、冒険者ギルドからイルムハート達に呼び出しがかかった。ギルド長から話があるとのことらしい。

 いつもならイルムハートひとりが呼びつけられるのだが、今回はめずらしく全員まとめてだ。

 これには皆もどこか戸惑いを隠せないようだった。

「まさかこの間の事で怒られるとか、そんなことないわよね?」

 この間の事とは、イルムハートの成人お披露目会において酒に酔い悪乗りしたロッドを皆で強制退場させた件である。

 その仕打ちに怒っているのではないかとライラは心配しているのだ。

 しかし、その不安はケビンによって打ち消される。

「それは無いでしょう。悪いのはギルド長のほうですから。

 むしろ、ギルド長としてはあの時の話を蒸し返されたくはないはずですよ。あれはとんだ醜態でしたからね。」

 相変わらず歯に衣着せぬ言葉を並べながら、そこでケビンはニヤリと笑いジェイクを見た。

「もしかすると、今日呼び出されたのはジェイク君の恋の行方についてかもしれませんよ。」

「お願いだからその話には触れないでくれ。頼む。」

 いつもならケビンのおちょくりにはムキになり喰ってかかるはずのジェイクも、この件に関しては白旗を掲げるしかないようである。

 まあ、ひと目惚れし勝手に熱を上げていた相手が実は自分の母親よりずっと年上だと聞かされては歯向かう気力すら失せてしまうのも無理はないだろう。

 そんな各々好き勝手な事を言い出す彼等を見てイルムハートは思わず笑ってしまった。

「別におかしなことでもないさ。

 前までは僕ひとりがEランクだったから代表として呼び出されていただけであって、今は全員が同じDランクなんだ。一緒に話を聞く資格がある。

 ただそれだけのことだよ。」

 尤も、たかがDランク程度相手にギルド長が直々に会って話をするなどそうそう無いことなのだが、そこは敢えて触れないでおく。

「それもそうね。」

 すると、その言葉のおかげでライラはとりあえずほっとしたような表情を浮かべた。

 しかし、安心するのはまだ早かったようだ。

「但し、ギルド長が直接呼びつける時は九割がたロクな話じゃない。それは覚悟しておいた方がいいね。」

 別にライラ達を脅かしているわけではない。過去の経験からイルムハート自身、本気でそう思っているのだった。


「おう、よく来たな。まあ、座れ。」

 そう言ってギルド長のロッドはイルムハート達を迎えた。

 それはいつも聞くお決まりの言葉だったが、その日だけ妙にわざとらしく感じられたのはおそらく気のせいではあるまい。

 イルムハート達が言われた通り各々ソファに腰を下ろすとロッドも執務机から移動して来て座った。そして、どこか気まずい沈黙が流れる。

「……この間はすまなかった。少しばかり酒が過ぎたようだ、面目ない。」

 長いようでで短い無言の時が過ぎた後、そう言いながらロッドはイルムハートに頭を下げた。

 どうやら彼なりに自分の失態を気に病んでいたようだ。

「大丈夫ですよ、もう気にしてませんから。」

 イルムハートはそう言って笑って見せる。

「幸い事故・・には至りませんでしたし、逆に言えばそのくらい楽しんでもらえたということですからね。」

 そんなイルムハートの言葉にロッドは照れくさそうな顔で「すまんな」と応えた。

 が、その後で少しだけうらめしそうな顔をしてライラ達を見る。

「まあ、状況が状況だ。催眠の魔法で大人しくさせようってのは解かる。

 しかしなぁ、その後は別室にほったらかしってのもどうなんだ?

 夕方、全員が帰っちまった後で使用人に起こされ赤っ恥かいちまっただろうが。」

 これにはイルムハートも驚き、思わずライラ達を見る。さすがにその仕打ちは酷いんじゃないか?と。

 すると、ライラは急に挙動不審になり視線を宙に泳がせた。

「ええと……ついうっかり忘れてたんですよね。家に帰ってから気が付いたんだけど、まさか夕方まで寝ていたとは思わなくて……。」

「……俺はそれどころじゃなかったし。」

「そう言えば僕もすっかり忘れてましたよ。いやー、うっかりですね。」

 そして、げっそりした表情を浮かべるジェイクと何故かニコニコ笑いながら答えるケビン。どうやら最後のひとりだけは故意犯のようである。

「お前らなぁ……。」

 しかし、それ以上は言葉が継げずにロッドは深々とため息をついた。

 いろいろと言いたい事はあるのだろうが、自業自得の面もあるため恨み言は飲み込むしかないのだった。


「ところで今日のお話とは一体何なのですか?

 まさか、その件でわざわざ呼びつけたわけではないのでしょう?」

 気まずい空気が部屋に流れ出したのを察し、イルムハートはそう言って話題を変えようとした。

 その言葉にロッドも何とか気持ちを切り替える。

「勿論、用件は別にある。

 で、先に聞いておきたいんだが、お前ら旅の計画は決まったのか?」

「細かいところまではまだですが、とりあえず内海の方へ足を運ぼうかと思っています。」

「そうか、西へ向かうのか。そいつは丁度良かった。」

 イルムハートの答えを聞いてロッドはニヤリと何やら企んでいるような笑みを浮かべた。どうやらいつもの彼に戻ったようである。

 その笑みに少々不安を感じるイルムハートだったが、とりあえず話を進めるしかない。

「と言いますと?」

「ニーゼックまでの護衛依頼を引き受けてほしいんだ。すこしばかり回り道になるがさほど問題でもあるまい。

 それに片道だけの護衛だからな。旅費稼ぎには丁度いいんじゃねえか?」

 ニーゼックとはニーゼック伯爵領のことで王都から西方に位置しており、内海までの直線ルートからは多少外れるもののそれほど遠回りになるわけでもない。

 それに、イルムハート達に限らず冒険者が旅をする場合は途中途中の街町で依頼をこなし旅費を稼ぎながら進むことになる。

 その点を考えるとロッドの言う通り片道だけの依頼であれば移動の時間も無駄にならない。なので、決して悪い話ではなかった。

「ニーゼックですか……。」

 しかし、イルムハートはあまり乗り気でない様子だった。

 確かに聞く限りでは悪い話でも無い。但し、あくまでも”聞く限りでは”だ。

 ロッドの持ってくる話には何か裏があるはずとイルムハートは疑っていたのだ。

「それで何の護衛なんです?人ですか?荷物ですか?」

「人だ。フリオ・アレナス・ニーゼック、ニーゼック伯爵家の第1子だよ。」

「伯爵家の第1子?それに冒険者が護衛として付くんですか?」

 ロッドの言葉にイルムハートは意外そうな声を上げる。

 まあ、それはそうだろう。

 勿論、貴族からの護衛依頼も全く無いというわけではなかった。

 だが、基本的に貴族は専属の騎士を召し抱えているので身辺警護はその者達が行い、冒険者にはあくまでも人手が足りない時のサポートを目的として依頼を出すのが普通である。

 なので、これが下級貴族からの依頼であれば、まあ解からないでもない。彼等が召し抱えることの出来る騎士はせいぜいが数人程度のため、家族がバラバラで行動する際には手が足りなくなるといったことも良くある話だった。

 しかし、今回の依頼者は伯爵家なのだ。

 確かにニーゼック伯爵領はそれほど大きくはないのだが、それでも領主として騎士団くらいは持っている。今更、冒険者の手助けが必要とは思えない。

 それに、領主であれば円滑な移動のために専用飛空船は必ず持っているはずだった。いちいち馬車で移動していたのでは王都に来るどころか領内を回る事すらままならなくなるからだ。

 となれば警護の数もそれほど必要ないはずで、尚更今回の依頼目的が解からなくなってしまう。

「騎士団がいて飛空船があるのに、今更僕達の力なんか必要なんですかね?」

 そう疑問を口にしたイルムハートだったが、それに対するロッドの答えは意外を通り越して驚きさえ感じさせるものだった。

「付き添う騎士はひとりだけ、そして飛空船は使わない。つまり、ニーゼックまで移動する馬車を騎士ひとりとお前達だけで護衛することになるわけだ。」

「はぁ?」

 イルムハートは思わず間抜けな声を上げてしまう。正直、意味が分からなかった。

「えーと、護衛対象は伯爵家の第1子、つまり次期ニーゼック伯爵となる人間なんですよね?

 それなのに帰領に際し飛空船も出さず馬車で移動。しかも、護衛の騎士はたったひとりだけということですか?」

「まあ、そう言うことになるな。」

「それってまるで……。」

「ああ、要するに”イジメ”だよ。」

 そう言ってロッドはニーゼック伯爵家の内情を話し始めたのだった。


 現在、ニーゼック伯爵領においては分家であるコゼリン子爵が強い発言権を持っていた。それは時に本家である伯爵家をすら上回るほどである。

 と言うのも今から3代ほど前のニーゼック伯爵は経済観念の乏しい人間で、それにより一時ニーゼック領は財政破綻寸前まで追い込まれてしまという出来事があった。

 そしてその際、優れた経営手腕により何とか財政を立て直しニーゼック領を救ったのが当時のコゼリン子爵だったのだ。

 それ以来コゼリン子爵家は領地経営に対し口を出すようになる。

 一方、本家であるはずのニーゼック伯爵家と言えば過去の恩義もあるためあまり強く出ることもできず、今では政務のほとんどをコゼリン子爵家が掌握する状態になってしまっていた。

 そして、子爵の娘を妻に持つ現当主マウリシオ・アレナス・ニーゼックもまた、舅であるコゼリン子爵には逆らえない立場にあるのだった。

 そんなマウリシオだったが、過去に一度だけ妻に歯向かう行為に出たことがあった。町の娘に手を付けたのである。

 要するに浮気をしたわけなのだが、一方的に彼だけを非難するのは少々気の毒かもしれない。何しろ彼は妻や舅から単なる跡継ぎを作るための道具としか見られていなかったのだ。

 そんな彼にとって町娘と過ごす時間こそ唯一生きる喜びを感じられる瞬間だったのだろう。

 やがて、彼等の間には子が生まれる。

 そう、フリオ・アレナス・ニーゼックは平民との間に出来た子だった。

 勿論、これには妻も舅であるコゼリン子爵も烈火のごとく怒ったが、生憎というか幸いにというかマウリシオと妻の間には子がおらずフリオこそが唯一アレナス家の血を引く人間であったため、追い出すわけにもいかず彼の存在を容認するしかなかった。

 しかしそれから数年後、事態は急変する。マウリシオの妻が子を産んだのだ。

 そうなるとフリオを取り巻く環境も当然変わることになる。子爵たちはフリオを邪魔者扱いし、跡継ぎに対するものとは到底思えないような酷い扱いをするようになったのである。

 それを見たマウリシオは我が子を不憫に思ったが、かと言って妻や子爵に逆らうことも出来ない。

 そこで彼は息子を子爵たちから遠ざけるべく、僅か4歳の子をひとり王都の屋敷へと移り住まわせたのだった。


「で、それから5年。今回やっと故郷ニーゼックへ戻ることになったわけだ。」

 ロッドの話が終わってもすぐには誰も言葉を発しなかった。皆、あまりにも不幸なフリオの境遇に言葉を失っていたのだ。

「その子はひとりで王都に来たって言ってましたけど、お母さんはどうしたんですか?」

 最初に口を開いたのはライラだった。彼女の場合、特に感情移入しているように見えた。

「母親は……坊主が産まれた直ぐ後に亡くなった。流行り病だったそうだ。」

 ロッドは貴族の子をさらりと”坊主”呼ばわりしたがそのことを気に掛ける者はいなかった。それほどに話の内容が惨いものだったのである。

 ライラなどは「可哀想に」と言ってうっすら涙さえ浮かべていた。

「それにしても、5年もの間ほったらかしにしておいて、何故今頃帰領させようとするのでしょうかね?

 今の話を聞く限りでは奥方やコゼリン子爵がフリオ君を受け入れるとは到底思えないのですけれど。

 もしかして、みんな粛清されてしまったとか?」

「危ねえこと言うんじゃねえよ。

 別に粛清なんかされていないし、今だにニーゼックではでかい顔してるさ。

 それに、そもそも連中がいなくなってりゃわざわざ馬車なんかで帰る必要はないんだからな。」

 あまりにも過激過ぎるケビンの発言には、さすがのロッドも苦笑いするしかない。

「では、どんな理由があるのです?」

「それはな、家督継承問題に決着を付けなきゃいけなくなったからさ。」

「どういうことです?」

「実は昨年あたりから当主であるニーゼック伯爵が病で寝込むようになってな。それも原因不明の病でだ。

 それで嫁やコゼリン子爵が焦り出したわけさ。このまま伯爵が亡くなってしまうとフリオが跡を継ぐことになっちまうからな。

 で、その前に跡継ぎ問題にケリを付けちまおうって魂胆だろうさ。」

「跡継ぎ問題って……でも、家は第1子が継ぐってことに決まってるんじゃないんですか?」

 ライラの疑問も尤もではある。一般的に家督は第1子が継ぐものとされているのだ。が、勿論例外はある。

「まあ、普通はそうなんだがそれはあくまでも”慣例”ってやつで、実のところ必ずしも第1子が継ぐとは限らないんだよ。最終的には当主の判断が優先されるのさ。

 実際、能力や性格が跡継ぎに相応しくないと判断され廃嫡になるケースだって無いわけじゃないんだ。」

「あー、じゃあそのコゼリン子爵とやらはフリオ君を廃嫡しようとしているんですね?」

「そう言ったとこだろうな。」

「でもよ、それだってわざわざ呼び戻す必要あるのかな?伯爵と子爵とで勝手に決めちまえば済むことだろ?

 ……もしかして、あえて呼び戻しその道中で亡き者にしようとしているとか?」

 どうもジェイクは想像力が旺盛すぎるようである。行き過ぎた陰謀論にはイルムハートも苦笑いするしかない。

「それは考え過ぎだよ。

 ギルド長も言った通り伯爵がそう決めさえすれば簡単に廃嫡出来るんだ。何もわざわざ暗殺なんて面倒な真似をする必要は無いさ。」

「じゃあ、なんで呼び戻すんだよ?」

「おそらく体面上の問題じゃないかな。

 本人がいない場で勝手に決めたのでは他の貴族の手前、あまりよろしくはないからね。

 少なくとも弁明の機会を与えた上でその結果としての廃嫡、そう言う形を取りたいんだと思うよ。」

「なんか随分と面倒臭いことするもんなんだな。」

 確かにジェイクの言う通り、貴族とは”面倒臭い”ものなのである。

 まあ、これでおおよその経緯は解かった。しかし、イルムハートにはもうひとつ疑問に思うことがある。

「依頼については大体解りました。でも、何故僕らなんですか?

 この先どうなるかはともかく、今はまだ次期ニーゼック伯爵なわけですからもっと上位の冒険者を付けるべきなのではありませんか?」

「ああ、それなんだが……。」

 イルムハートの問い掛けにロッドは少しだけ言葉を濁し、それからこう言った。

「お前んとこには貴族の出が2人もいるだろ?

 だから、いろいろと”加減”が分かるだろうと思ってな。」

「”加減”?」

 ”礼儀”ではなく、ロッドは”加減”と言う言葉を口にした。

 貴族だから分かる”加減”とは……。

「ギルド長、それってもしかして上手く扱うための”さじ加減”ということですか?」

「まあ、そう言うことだ。

 このフリオってのが結構な我儘坊主らしくてな、気に入らない事あるとすぐ周りに当たり散らかすらしい。

 生い立ちを考えれば同情の余地はあるんだが、いかんせん平民上がりの連中には荷が重すぎる。

 その点、貴族のお前やケビンなら良い具合になだめすかしてくれるんじゃないかと思ってな。」

 要するに我儘息子の癇癪は同じ貴族のイルムハート達で何とかしろということらしい。

「ギルド長……。」

 予想はしていたが、やはりロッドの持って来た話は厄介なものだった。

 とは言え、フリオの身の上を聞いてしまった以上は無下に断る気にもなれない。

 結局、またロッドの思惑通りになってしまうのか。

 そんなことを考えながらイルムハートは深くため息をつくのだった。

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