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”普通の”転生者と冬のとある日 Ⅲ

3連続更新ラストです


次回からはまた週一更新となります

「メローニ団長も相変わらずだな。」

 バリーとカサンドラがその場を辞して行った後、そう言って笑いながらフレッドがやって来た。

 フレッド・オースチン・ゼクタス子爵。

 王国騎士団長としてフランセスカの上司となる人物であり、彼女とイルムハートとを引っ付けるよう企んだ張本人でもあった。

「しかし、あのメローニ団長を手玉に取るとは、さすがギャレル老師と言ったところかな。」

 その隣ではフレッドの友人で王国情報院特別顧問のビンス・オトール・メルメット男爵が妙な感心の仕方をしている。

 ビンスとはイルムハートがまだアルテナ学院に入学する前、ある事件で知り合うことになった。

 その際、彼は情報院第3局の捜査官カイル・マクマーンと名乗り、つい最近までイルムハートには正体を隠し続けていた。

 しかし、お披露目会への招待を受けとうとう自分が単なる平民あがりの捜査官ではないことを白状せざるを得なくなったわけだ。

 何せ会には多くの貴族が出席する。中にはビンスの顔見知りもいるためそんな状況で身分を隠し続けることはまず不可能だろう。そう判断し観念したのだった。

 まあ、元々何か含むところがあって正体を隠していたわけではない。何となくそのほうが都合が良かっただけで、いずれは本当のことを話すつもりでいた。

 それに、イルムハートとしてもその立ち居振る舞いから単なる平民あがりでないことには薄々気付いていたようで、ビンスの告白と謝罪は何の問題も無く受け入れられたのだった。

「おめでとう。成人にそして婚約か、目出度い事続きだな、イルムハート。」

「おめでとう、イルムハート君。

 それとセシリア嬢にフランセスカ、婚約おめでとう。君達の幸せを祈っているよ。」

「ありがとうございます、オースチン団長、マクマーンさん……じゃなかった、メルメット男爵でしたね。すみません。」

 つい呼び慣れた名で返してしまい、イルムハートは慌てて謝罪する。

「別に謝る必要はないさ。私自身、今までそう名乗っていたのだからね。

 あと、これからはビンスと呼んでもらって構わないよ。」

 親しみを込めてビンスがそう言うと、それに対抗するかようにフレッドも身を乗り出す。

「では、私のこともフレッドと呼んでくれ。何ならフレッド”義兄さん”と呼んでくれても構わないよ。

 何せフランセスカは私の妹のようなものだからね。」

 フランセスカはオースチン家の使用人の子なのだが、そんな彼女に対しフレッドは小さな頃から目を掛け兄の様に接して来たのである。

 しかし、だからと言ってさすがに”義兄”と呼ぶのは無理があった。なのでイルムハートは笑ってお茶を濁そうとしたのだが、その隣ではフランセスカが露骨に嫌そうな顔をする。

「そうやって旦那様を取り込もうとするのは止めてください。

 フレッド様のいい加減な性格が感染りでもしたらどうするのですか?」

 中々に手厳しい。天下の王国騎士団長にここまで言える人間は親友であるビンスと、そしてフランセスカくらいかもしれない。

「随分と酷い言い様じゃないか、フランセスカ。」

「でも、本当の事です。」

「それが縁結びの恩人に対する言葉なのかね?」

「どういうことでしょう?」

 フレッドの発したその言葉にフランセスカは首を傾げる。

「それはだね……。」

 フランセスカの問いに対し何故かドヤ顔で話し出すフレッド。その隣では急に慌て出したビンスが軽率な友人の口を塞ごうとしたものの、残念ながら一歩遅かった。

「君とイルムハートとの出会いは、実は私が仕組んだことなのだよ。騎士団との繋がりを強めるのが目的でね。

 イルムハートの実力を知ればその腕前に必ず惚れ込むに違いない、そう考えて君をトパに派遣しギルドには指名依頼を出すよう仕向けたのさ。

 まあ、剣士としてだけでなく女としても彼に惚れ込んでしまうとは正直予想外だったが、上手いことくっついてくれたのは怪我の功名と言ったところかな。

 だから、本当なら君は私に感謝すべきなんだぞ。」

 フレッドによる暴露話が終わった後、その場には微妙は空気が流れ始めた。イルムハートもフランセスカもセシリアも、驚きを通り越し呆れたような視線を彼に向ける。

 ビンスに至っては「バカが、バラしちまいやがって!」とでも言いたげな顔でフレッドを睨み付けた。

 そんな皆の反応を見たフレッドはやっと自分がヤラかしてしまったことに気付いたものの既に遅かった。

 どうにかこの場を胡麻化そうと必死で考えを巡らせるフレッドだったが、そんな彼に天罰が下ることとなる。

「随分と興味深いお話をしておられるようですな。」

 不意に背後から聞こえた声にフレッドが振り向くと、いつの間にかそこには兄のアイバーンが立っていた。

「その件についてもう少し詳しくお聞かせ頂けませんか、オースチン団長?」

 そう語り掛けるアイバーンの顔は笑っていたもののそれはその場にいる誰もが背筋に寒気を覚えるような、そんな笑顔だった。

 フレッドの顔が一気に蒼ざめる。

「い、いや、残念ながらこの後は職務のためすぐ団へ戻らねばなりませんので、この話はまたいずれと言うことで……。」

 フレッドは慌てて言い繕いその場を逃れようとした。しかし、無情にもあっさりと部下に裏切られてしまう。

「おかしいですね、フレッド様は本日休暇を取っておられたはずではないのですか?」

「フランセスカ……。」

 絶望に満ちた顔でフランセスカを見るフレッド。そして、その彼の腕をがっちりと掴むアイバーン。

「ということであれば時間はたっぷりあるわけですな。

 ここでは何ですので、別室にてじっくりとお話をお聞かせ願いましょうか。」

「ちょっと待って、兄さん。これには色々と事情があって……。」

「いいから来い、この馬鹿者。誰がそんな余計な真似までしろと言った?」

「ちょ、そんなに腕を……痛いよ、兄さん!」

 単騎でドラゴンとも渡り合うと評される王国騎士団長も、実の兄には全く敵わないようである。

 半べそをかき引きずられるようにして広間を出てゆくフレッドの姿を見送ったイルムハート達は暫しの間呆然とし、そしてその後誰からともなく大きくため息をついた。

「すまないね、イルムハート君。どうにも見苦しいところを見せてしまったようで申し訳ない。」

「ビンスさんが謝ることではありませんよ。」

「いや、実を言うとその件には私も手を貸していたのだよ。アイツに色々と情報を提供していたのは私なんだ。

 だが、アイツの言った君と騎士団との繋がりを強めるためと言うのは本当だよ。そうすれば厄介な連中に目を付けられることも防げるだろうと思ってね。

 しかし、どう言い訳したところで君を騙したことに変わりはない。本当に申し訳なかった。」

 そう言ってビンスは頭を下げる。

「そんな、止めてください。別に気にしてはいませんから。

 それに元々フランセスカさんとのことに関しては、フレッドさんの言動にどこか胡散臭さを感じていたんですよ。妙に煽ったりからかったり、まるでわざと意識させとうとしているみたいで。

 まあでも、そのお陰でフランセスカさんと出会いこうして婚約まで出来たわけですから、僕としてはむしろ感謝したいくらいです。」

「有難う、そう言ってもらえると私の気も休まるよ。」

 イルムハートの言葉にビンスはほっとしたような笑顔を浮かべ、それからこう付け加えた。

「だが、そのことはフレッドには言わないでおいてくれるかな?

 アイツのことだ、君のその言葉を聞けば間違いなく図に乗るはずだからね。」

「それについては私も同感です。」

 すると、間髪を入れずフランセスカがそれに同意する。

「フレッド様は悪い方ではないのですが何分悪乗りが過ぎるきらいがありますので、決して甘やかしてはいけません。」

 散々な言われ様だった。

 尤も、これまでのフレッドとの付き合いから考えればイルムハートにも彼等の言うことは十分に理解出来た。

「まあ、確かにそうかもしれませんね。」

 そう言ってイルムハートも笑う。

 しかし、その流れについて行けない人間がひとりいた。セシリアだ。

「えーと、今の方って確か王国騎士団の団長さんですよね?

 フランセスカさんの上司の。」

「そうだよ。君も何度か見かけたことはあるだろ?」

「もう一度確認しますけど、その騎士団長である方が今オルバスさんに半泣きで引きずられていったわけですよね?」

「……ああ、そうだね。」

「その挙句、男爵やフランセスカさんにフォローされるどころかボロカスに言われてるんですよね?」

「まあ……そういうことになるかな。」

 イルムハートの答えにセシリアは眉をひそめながら暫し黙り込む。

 そんな彼女の様子を見てイルムハートとビンスは少しだけ後悔した。

 事情を知らないセシリアの前でフレッドをからかうような発言はさすがにマズかったかもしれない。彼女に対しフレッドだけでなく王国騎士団そのものへの不信感を植え付けてしまったかもしれないからだ。

 2人は不安気にセシリアの次の言葉を待つ。

 が、セシリアはやはりセシリアだった。

「王国騎士団って、すごく楽しそうなところなんですね!」

 その言葉にイルムハートとビンスは思わず本気でコケそうになる。

「そうですよ、とても楽しいところなのです。」

 すると、ひとり真顔のままのフランセスカがそれに応え、その後で少し肩をすくめてみせた。

「ただ、団長のフレッド様があんな感じですので、そこは困りものなのですけれど。」

「なるほど、フランセスカさんも苦労してるんですね。」

「分かりますか、セシリア?

 実にその通りなのです。」

 そんな会話をイルムハートとビンスはただ唖然としながら聞いていた。開いた口が塞がらないとは正にこのことである。

 やがてビンスがイルムハートに向けぼつりと呟く。

「これは……この先、君も苦労しそうだね。」

「ははは……。」

 それに対しただ乾いた笑いを浮かべるだけのイルムハート。そしてその後、深いため息をひとつつく。

 そんなイルムハートの姿を見たビンスは、彼が平穏で幸福な未来を迎えられるよう心の底から願わずにはいられないのだった。


 ひと通り来客たちへの対応が済んだ頃、最後にやって来たのは筋骨隆々の偉丈夫だった。

 太い首の上に乗る馬蹄形の髭をたくわえた厳つい顔と不敵な笑み。それは到底貴族らしいものではなく、まるで山賊のお頭のようでもある。

 尤も、事実もそれとあまり変わらないかもしれない。

 何せ彼、王都冒険者ギルド長ロッド・ボーンは並み居る荒くれたちをその迫力でまとめ上げている人間なのだから。

 そのロッドの後ろに続く若い男女3人がイルムハートの冒険者仲間だ。

 ヒーロー願望を持つ、いかにもやんちゃ小僧と言った感じのジェイク・ゴードン。

 ドワーフの血を引く褐色の肌の女性がパーティーの保護者ポジションにあるライラ・ハーシェル。

 そして、いかにも貴族の御曹司と言った穏やかで上品な雰囲気を漂わせているのがケビン・ケンドール・キースレイである。

 但し、ケビンの場合その見た目に騙されてはいけない。実は呪詛や状態異常といった穏やかでない魔法をこよなく愛する危険な人物でもあるのだった。

「おめでとう、イルムハート。

 お前も到頭年貢の納め時ってわけだ。」

「ありがとうございます、ギルド長。

 でも、それってとても祝っているようには聞こえないんですけど?」

「まあ人生の先輩としての半分は祝意、もう半分はお悔やみってとこだな。

 お前もいずれ分かるさ。」

 これにはイルムハートも苦笑するしかなかった。ロッドも家庭では苦労している口なのだろう。

 続いてライラがイルムハート達3人に声を掛けた。

「おめでとう、イルムハート。」

「ありがとう、ライラ。」

「フランセスカさんもセシリアも、本当におめでとう。

 やっと念願がかなったわね。」

「ありがとう、ライラ殿。」

「ありがとうございます、ライラさん。」

「それにしても、この鈍感男を射止めるとは2人ともたいしたものだわ。

 随分と苦労したでしょうね。」

「ホントですよ、私達がいくらアピールしても全く気付いてもくれないんですからね。

 ライラさんの言う通り精神的に欠陥があるんじゃないかってレベルでしたよ。」

「そうなのですか?旦那様の精神に欠陥があるようには思えませんが?

 と言うかセシリア、アピールとは何ことでしょう?私が何をしたと言うのです?」

 女性同士で何やら盛り上がっている様子だったが、イルムハートは敢えて聞こえない振りをする。巻き込まれないように。

「ジェイクもケビンも、今日はよく来てくれたね。」

「まあ、正直こういったお上品な場ってのは苦手だけど、お前にとってめでたい日だからな。来てやったぜ。

 おめでとう、イルムハート。」

「おめでとうございます、イルムハート君。

 ジェイク君はこんなこと言ってますけど、本当は十分楽しんでいるんですよ。何せずっと貴族の令嬢方に見とれてばかりいたんですから。」

「ちょ、ケビン!何言い出すんだよ!」

「でも、本当のことじゃないですか?」

「俺はな、子供ガキなんかに興味は無いんだよ。」

「じゃあ御婦人方に見とれていたんですか?」

「まあ、そうだな……って、何でそっちに話を持ってこうとするんだ!?」

 こっちはこっちで賑やかだ。尤も、騒いでいるのは約1名だけだったが。

「本当はエリオとサラにも来て欲しかったんだけれどね。」

 イルムハートはアルテナ学院の同級生だったエリオ・カルビンとサラ・コレットにも一応声を掛けてみたのだが、畏れ多過ぎるとして辞退されてしまたのだ。

 まあ、平民の彼等からしてみれば周りが貴族だらけのパーティーに出席するなどむしろ罰ゲームにも等しいのかもしれない。

 ジェイクやライラも同じ平民ではあるのだが、冒険者として鍛えられている彼等はその神経の太さが他人とは違うのである。

「サラさんも出来れば出席したかったようなんですが、さすがにこれだけの貴族が集まる場ではあまりにも居心地が悪過ぎるでしょうからね。

 後日、友人だけで改めてお祝いをしたいと、そう言っていましたよ。」

「そうか、それは楽しみだな。」

 ケビンの言葉にイルムハートは嬉しそうに笑った。

 すると、ジェイクが少し拗ねたような声を上げる。

「ちぇ、いいよなお前らは。恋人とイチャイチャ出来てよ。」

 ケビンとサラは付き合っているのだ。どうもジェイクはそれが気に入らないらしい。と言うか、僻んでいるのである。

「だったらジェイク君もさっさと告白して良い仲になってしまえばいいじゃないですか?」

 ジェイクの言葉に対し、どこかからかうような口調でそう言うとケビンはチラリとライラに目を向けて見せる。

 実を言うとジェイクはライラに対して密かに想いを抱いていた。尤も、今のところ全く相手にすらされていないのだが。

「な、何言ってやがる!おれは大人の女性にしか興味無いって言ってるだろうが!」

 何とも分かり易く慌て出すジェイクだったが、ふと何かを思い出したような顔をした。

「そう言えば、さっきどっかの爺さんと一緒にすごい美人が挨拶に来てただろ?」

「どこかの爺さんって……あの方はフォルタナ魔法士団長で王国三大魔法士のひとりでもあるバリー・ギャレル老師なのですよ?

 失礼にもほどがあります。」

 ケビンが思わず呆れた顔をする。が、ジェイクは気に留める様子もない。

「そうなのか?

 まあ、それは良いとしてだ。あの美人は誰なんだ?

 ああいった大人の女性こそが俺の好みなんだよな。」

 すると、それを聞いたロッドが口を挟んで来た。

「ほう、お前はああいった女性が良いのか?

 あの人はだな、王国魔法士団長のカサンドラ・メローニ・シルメラン男爵だぞ。」

「へえ、若くて美人で、しかも魔法士団長なんですか。いいですねー、バッチリ俺好みです!」

「しかしなあ、ちょっと年が離れ過ぎてるんじゃないか?」

 そう言ってロッドは含みのある笑みを浮かべる。ギルド長と言う立場上、ロッドもカサンドラの年齢は知っているのだ。

「何を言うんです、ギルド長。愛があれば歳の差なんて問題ないですよ。」

「あんたねえ、本気で言ってるわけ?」

 ジェイクとロッドの会話を耳にしたライラが呆れたような声を出す。

「そうですね、その通りだと思いますよ。頑張ってください、ジェイク君。」

 それとは逆にジェイクを煽るケビン。

 アルテナ学院魔法士科を出ている2人は勿論カサンドラの事を知っている。彼女が何故”西の郭の魔女”と呼ばれているのか、その理由もだ。

「さすがはジェイク先輩。ここまで身の程も常識もわきまえないとは、逆に大したものです。」

「メローニ団長はまだ独身らしいですからね。望みはあるかもしれませんよ、ジェイク殿。」

 セシリアとフランセスカの場合は、おちょくっているのか本気なのか。まあ、多分その場のノリで言ってるだけなのだろう。

「よし、分った。俺が紹介してやろう。」

「本当ですか、ギルド長!?」

 そう盛り上がるロッドとジェイクを見ては、さすがにイルムハートも口を出さずにはいられなかった。

「ギルド長、あまり悪乗りはしないほうが……って、もしかしてお酒飲んでるんですか?」

 イルムハートはロッドから酒の臭いがする事に気付く。

「待ってる間ヒマだったんで、ちょっとな。

 大丈夫だ、これしきのことで酔っ払ったりはしねえよ。だから、ジェイクのことは任せておけ。上手いこと引っ付けて見せるさ。」

 いや、ロッド基準での”ちょっと”がどれくらいなのかは知らないが、この悪乗り具合を見るに十分酔ってるだろうとイルムハート達は思う。

 このままカサンドラのところに行かれてはどんな失礼な真似をしでかすか分らない。

「……ケビン。」

「分かりました。」

 イルムハートが名を呼ぶと、ケビンはそう頷きロッドへ魔法を掛けた。

 すると、急にロッドの目つきがとろりとしてくる。催眠の魔法だ。

 本来ならこの程度の魔法くらい気力で抵抗レジスト出来るロッドではあるのだが、気を緩めていたのに加え酒による酔いのせいであっさりと掛かってしまったのだ。

「ライラ、後は頼むよ。」

「全く、しょうがないわね。」

 呆れた表情を浮かべながらライラはよろけそうになるロッドの身体を支える。

 筋肉オバケのようなロッドの身体はかなり重いはずだが、身体強化の魔法でパワーアップしたライラにとっては大した負担でもない。

「じゃあ、ギルド長は連れてくわね。」

「それじゃあまた後で、イルムハート君。」

 こうして王国騎士団長に続き冒険者ギルド長までもがこの場から退場することとなった。

「おい、俺の話はどうなるんだ?」

 そんな中、ひとり状況を呑み込めていないジェイクだったが

「いいから、アンタも来なさい。メローニ団長のことはじっくり教えてあげるから。」

 とライラに言われ不承不承ついて行く。

 ちなみに、この後ライラの言葉通り色々と聞かされたのだろう。それ以降、ジェイクがカサンドラの名を自分から口にすることはついぞなかったのである。


「2人とも、お疲れ様。」

 無事に全員からの挨拶を終え、イルムハートはフランセスカとセシリアにそう声を掛けた。色々と癖の強い面々もいたせいで気疲れしただろうと案じたのだ。

 だがフランセスカもセシリアも平然としている。どうやら疲れるどころか、むしろ楽しんでいたようだ。

「いえ、少しも疲れてなどいません。もっと続けたいくらいです。」

「面白い人たちばかりでしたからね。それにしても、師匠の周りには変わった人ばかり集まるんですね。」

「それは言い過ぎだけど、皆明るくて楽しい人達なのは確かだね。そして、優しい人達だ。」

 その”変わった人”には君達も含まれているんだよ?

 そう思いながらイルムハートは苦笑して見せる。

「そのように素晴らしい方々が集まるのも、ひとえに旦那様のお人柄の成せるわざですね。」

 すると、何故かドヤ顔になりフランセスカがそう言った。

 しかし、その言葉にイルムハートはゆっくりと首を振る。

「いえ、それは違います。むしろ、そんな人達のお陰で今の僕があるんですよ。

 皆に対して恥ずかしくない自分でいたい、そう思わせてくれる人達なんです。」

 そんなイルムハートの言葉にフランセスカもセシリアも穏やかで優しい笑みを浮かべて見せた。

「明日はラテスに戻り、今度は地元でのお披露目会です。

 2人とも、もう少しだけ頑張って下さいね。」

 イルムハートがそう言うと2人は「ハイ」と笑顔で頷く。

 冬、8月のとある日。

 それは3人にとって新たなる門出の日であり、生涯心に残る日となったのであった。

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