改造魔人と神の祝福
同志になれ。
ユリウスのその言葉にイルムハートは唖然とする。
確かにどうにも捉えどころの無い相手で、言っていることも本気なのか冗談なのか分からない所があった。
しかし、これは極め付きである。
「まさか、本気で言ってるわけじゃないでしょうね?」
「勿論、本気ですよ。」
イルムハートの声には多分な皮肉とそしてそれ以上の呆れが込められていたものの、それを聞くユリウスに動じる様子は全く無い。
「私は前々から君に興味を持っていた、そう言いましたよね?
実は南西地脈帯での件に君が参加していたと言う話を聞いて以来、ずっと目を付けていたんですよ。
僅か10歳かそこらで王国軍やBランク冒険者と共に事件を解決する、そんな逸材を見逃す手はありませんからね。」
そんな昔から監視されていたのか。そう考えると余りぞっとしない。これではまるでストーカーではないか。
「あの時、僕はただ同行していただけですよ。言うほど活躍したわけではありません。
そもそも、事件の重大さも分かってはいませんでしたし。」
「またまた、そのようなご謙遜を。いかに否定したところで、その後の活躍を見れば君が稀有の才能を持っていると良く分かります。
全く素晴らしいですよ、君は。もし君のような人間が味方になってくれれば、どれほど心強いことか。
どうです?同志となって私に手を貸してくれはしませんか?」
「いいですよ。」
熱く語るユリウスに対し、意外にもイルムハートはあっさりそう答える。すると、今度はユリウスが固まる番だった。
「えっ?今、何と?」
「”いいですよ”と言ったんです。同志になって欲しいのでしょう?」
「え、ええ、まあそれはそうなんですが……。
その言葉、信じてよろしいのですか?」
今まで飄々とした態度を崩さなかったユリウスが初めて困惑の色を浮かべる。イルムハートとしてはしてやったりと言ったところだろうか。
勿論、イルムハートが本気でそれを受け入れるはずもない。
「まさか、そんなわけないじゃないですか。冗談ですよ。」
それを聞いたユリウスは言葉を失い呆然と立ち尽くした。
(さすがに怒るかな?)
そう思いながらユリウスを見つめるイルムハートだったが、彼の予想はあっさりと覆される。何とユリウスは怒るどころか笑い出したのだ。
「いや、君は本当に面白いですね。
今まで以上に好きになりましたよ。」
心の底から楽しんでいる、そんな口ぶりだった。大した性格だ。
だが、その後でユリウスはついに本性を現わすことになる。
「なのに命を奪わねばならないとは……実に残念ですよ。」
口調こそ相変わらずだったが、そんな台詞を吐くユリウスからは強い殺意がにじみ出し始めた。
(やっぱりそうなるよね。)
余計な茶番を挟みはしたものの、まあこれが既定路線なのだろう。ユリウスとて本気でイルムハートが仲間になるとは思っていなかったはずだ。
彼の両脇に立つ魔人が最初からそれを物語っていたのである。
ユリウスの殺気に呼応して、2人の魔人はゆっくりと前に出る。
彼等の体内には大きな魔力と比較的小さな魔力が2つ存在していた。それは彼等が”人造魔人”であることの証……であるはずなのだが、次の瞬間意外な事が起こる。
小さいほうの魔力が急激にその強さを増し始めたのだ。そしてそれは大きなほうの魔力すら超える強さにまで膨れ上がった。
「これは一体?」
あまりにも予想外な出来事にイルムハートは困惑を隠せなかった。
そんな彼を見てユリウスは楽しそうに笑う。
「どうです?驚いたでしょう?
これは私共の新作なのですよ。」
「新作?」
「そう、新作の”魔人化魔石”なのです。
従来の物は常に魔石が活性化しているため簡単に”人造魔人”と見破られてしまっていたのですが、これは違います。
普段は魔石を不活性化させ魔力を察知されないようにし、いざと言う時に発動させるよう改良したのですよ。
これなら正体に気付かれること無くどこへでも送り込むことが出来るというわけです。
まあ、今はまだ試作段階のため残念ながら完全に魔力を消すことが出来ていませんので、そこは改善の必要ありですかね。」
またとんでもないものを創り出してくれたものだ。
この新型魔石とやらが完成してしまえば、従来の方法で”人造魔人”を見破ることが出来なくなってしまう。それどころか、魔力による身体変化すら無くなるため普通の人間との見分けすらつかなくなってしまうのだ。
最悪の場合、隣にいる普通だと思っていた人間が突如魔人化してしまうなどと言うことも十分起こり得るわけだ。
と、そこまで考えてイルムハートはふと違和感を感じた。
ユリウスの話通りなら、目の前の”人造魔人”は今まで魔石を活性化させていなかったことになる。だが、見た目は完全に魔人化していた。何故か?
それが示す事実はただひとつ。
「もしかしてこの人たちは人族を魔人化させたわけではなく、元々魔族だったということですか?」
「そうですよ。」
ユリウスはこともなげに答える。
「そこもまた改良点のひとつでしてね。
魔族と言う連中は体内に魔核という魔石に似たものを持っているせいか、従来の魔石では互いに干渉しあって上手く効果が得られなかったのです。
ですがこの新作はその干渉を受けないようになっているので魔族にも効果があるのですよ。
おかげで今までの”人造魔人”よりも更に強力な手駒を手に入れることが可能となったわけです。
まあこの場合は”人造魔人”と言うより”改造魔人”と呼ぶべきなのかもしれませんがね。」
もう、やりたい放題じゃないか。イルムハートはいい加減うんざりしてきた。
ユリウスによればまだ試作段階とのことだが、それは何の気休めにもならない。そう遠くない未来には間違いなく完成しているだろうからだ。
「いいのですか、そんな魔石の秘密まで話して?
まあどの道、口封じをするのであれば関係ないのかもしれませんが。」
ユリウスとしてはこの”改造魔人”で完全に自分を追い詰めたつもりでいるのだろう。そのせいで更に口が軽くなっている。
と、イルムハートはそう思ったのだが、それに対するユリウスの答えは全く予想すらしていない最悪のものだった。
「別にこの件は秘密にするつもりなどありませんからね。
むしろ、完成したあかつきには大体的に情報を流すつもりでいるのですよ。世の中の不安を煽るためにね。
もしかすると目の前にいる相手は”人造魔人”なのかもしれない。いずれはそんな疑心暗鬼の中で人々は暮らしてゆくことになるわけです。」
全くもって冗談ではない。イルムハートはそう思う。
魔力流操作に新型の”魔人化魔石”。
そのどちらもが世界を大混乱に陥れるに足る力を持っており、教団はそれを手に入れようとしているのだ。
残念ながらその企みを阻止するのは難しいだろう。教団は今も着々と技術の開発を進めており、それは目の前のユリウス達を倒したところで止まるものではない。
だが、だからと言って諦める訳にはいかなかった。教団が技術開発を終える前に出来る限りの対抗策を考えておかねばならないのである。
そのためにもここで命を失うわけにはいかない。生きて情報を持ち帰る必要があった。
尤も、どの道イルムハートには大人しく殺されてやるつもりなど毛ほどもなかった。最初から生きて戻るつもりでここへ来ているのだから。
それには先ず目の前の”改造魔人”を倒す必要がある。
(正直、これはかなり面倒そうだな。)
己に前に立ちふさがる2体の”改造魔人”に目をやり、イルムハートは思わず眉をひそめた。
魔族の中にはその強い魔力により皮膚を岩の様に固くすることが可能な者もいる。それだけでも厄介なのに、目の前の”改造魔人”は更に魔石の魔力で強化されているはずなのだ。最悪、その皮膚は金属並みの硬度を持つことになるかもしれない。
その上魔族は魔法への耐性が高く、生半可な魔法ではダメージを与えることも出来ない。まるで特別製のプレート・アーマーを着込んだ騎士団員と闘うようなものである。
しかし、それはまだ良い。シンプルに相手が”強い”というだけであり、決して不条理なことではない。問題は”自爆”だった。
南西地脈帯で闘った”人造魔人”は闘えない状態になると自ら魔力を暴走させ自爆してしまったのだ。
それが本人の意思なのか、それとも魔石に組み込まれた仕掛けなのかは分からないが、とにかく周りを巻き込んで爆発する。
まあ、辺り一帯を灰燼と化すほどの威力ではないにしても厄介なことに違いは無い。その点も気を付けなければいけなかった。
そのためには……。
(悪いけど、手加減はしない。)
自爆を防ぐためには弱体化する前に勝負を決めるしかない。つまり、ためらうことなく命を奪う必要があるのだ。
『こちらには彼等を元に戻す手段は無いし、そもそも捕らえた時点で自爆してしまう。
同情は自分の身を危うくするだけで何の意味もない。
彼等を教団の呪縛から解放してやる、そう考えて闘うんだ。いいな。』
かつて南西地脈帯において”人造魔人”と闘う際、リック・プレストンは皆に向けそう言った。
その言葉を思い出し、イルムハートは覚悟を決め剣を強く握り直す。
そると、それに呼応するかのように2体の”改造魔人”が動き出した。
(速い!)
優に10メートルはあったはずの間合いを”改造魔人”はまるで瞬間移動でもしたかのように一瞬で詰めてきた。本気を出した時のセシリアにも負けない程の速さである。
それでもイルムハートは慌てることなく一人目の攻撃を躱した。しかし、同時に攻撃して来た二人目に対してはそうもいかかず、振り下ろしてきた腕を剣で受けることになった。
ガキン!という鈍い金属音が辺りに響き、それを耳にしたイルムハートの表情が思わず曇る。
何せ”改造魔人”は武器を持っていなかったのだ。かと言ってガントレットのようなもので手を覆っているわけでもない。単純な素手での攻撃にも拘わらずこれである。
(本当に金属並みだ。この剣で持つかな?)
いくら全身金属のごとく硬質化させたとしても、関節まではそうもいかない。そこは動くために柔軟であることが必要な部位で硬化させるにも限界はある。
しかし、ほんの僅かしか露出していない上に、この動きの速さの前では中々ピンポイントでの攻撃は難しかった。
となれば必然的に硬化した部分を攻撃し倒す必要が出て来るわけだ。
イルムハートは剣に闘気を纏わせることで金属をも貫くことが出来る。但し、それは相応の負荷を剣に掛けてしまうことにもなるのだった。
現在、イルムハートの使う剣は決して安物ではないにしても、”名品”と呼ばれるレベルのものでもない。Eランク冒険者にしては多少分不相応な良品、といった程度の代物でしかなかった。
これでは一人ならともかく、二人を相手にして剣が耐えられるかどうか。
ちなみに、収納魔法で収められている物の中にはかつて父親から贈られた剣もあり、こちらは故郷フォルタナにある工業都市トラバールにおいて名匠の手により造られた紛うことなき”名品”だった。
この剣なら2体の”改造魔人”を相手に闘っても十分耐えられるだろう。
しかし、イルムハートにそのつもりはない。
子供の頃、剣術の訓練を始めるお祝いとして父ウイルバートがくれた大切な剣なのだ。万が一こんなところで疵物になっては困るし、何よりも人を殺すことに使いたくはなかったのである。
(まあ、闘う方法は他にもあるさ。)
敵の攻撃を受け流し続けながら、イルムハートは方策を考える。
しばらくすると、双方の攻撃はほぼ近接戦闘に限定され始めた。
最初こそ魔法の応酬もいくつかあったが互いの防護魔法は堅く簡単には突破出来ない。かと言って大規模魔法を使うにはあまりにも接近し過ぎているためこれも難しかった。
その結果としての白兵戦である。
だが、魔法が全く無効というわけでもない。直接的には無理でも間接的に攻撃する方法はある。
例えば、火の玉を作りそれを投げ付けても無効化されてしまうが、周りの空気を熱し蒸し焼きにすることは可能なのだ。
勿論、そんな単純な攻撃など敵の魔法で簡単に相殺されてしまうだろうが、要は使い方次第ということ。
その点において、イルムハートが持つ引き出しは豊富だった。
以前、リックと共にパーティーを組んだシャルロット・モーズはイルムハートを”魔法マニア”と称した。その呼び名は伊達ではないのだ。
イルムハートはじっくりとタイミングを計る。
とにかく、自爆させないためにも一撃で仕留めねばならない。それには首を落とすか魔石を破壊するかだ。
どちらも命を奪う行為に変わり無いのだが、それでもさすがにまだ前者には抵抗があった。なので、そこが自分の弱さだと自覚しつつもその手段は避ける。
(今だ!)
攻撃のため一体の”改造魔人”が大きく振りかぶったのを見てイルムハートは魔法を発動させた。
次の瞬間、がら空きになった”改造魔人”の胸が輝く光によって貫かれる。イルムハートは例の”似非ビーム・ソード”を使ったのだった。
これは魔法を使って作り出されてはいるものの、その実体は超高温のプラズマのような(実は本人も良く解っていない)ものなので防御の魔法では防ぐことが出来ないのである。
龍族との戦いにおいてその点は既に実証済みであった。
その”似非ビーム・ソード”に貫かれた魔人からは一気に魔力が消失し始める。魔石だけでなく魔核も同時に破壊されてしまったのだ。
「光の剣だと!?まさか、そんなものが使えるのか!?」
それを見たユリウスが我を忘れて叫ぶ。
その口調は先ほどまでのものとは明らかに違っていた。おそらくこちらが彼本来のもので、驚きのあまりつい漏れてしまったのだと思われる。
だが、イルムハートにはそれを気にしているヒマなどない。別の”改造魔人”が襲い掛かって来たからだ。
とは言え、1体1になったおかげで余裕も生まれた。目の前の相手にだけ集中すれば良いのだからずっと闘い易い。
結局、もう一体の”改造魔人”も程なくその胸に大穴を開け地面に倒れる事となったのである。
「これは完全に計算外でしたね。
まさかそんな技を隠し持っていたなんて、君には本当に驚かされますよ。」
倒れている2体の”改造魔人”に目をやりながら、ユリウスはそう言った。
口調こそ戻ってはいたが、そこに先ほどまでの楽しんでいるような響きは無い。
確かにこうもあっさり”改造魔人”が倒されるとは思ってもいなかったのだろう。その声には若干の不機嫌さがこもる。
しかし、それでもまだユリウスに焦った様子は無かった。
「仕方ありません、奥の手を使わせてもらいますよ。」
そう言うとユリウスはゆっくりと剣を抜いた。
それを見てイルムハートは思わず身構える。だが、それはユリウス本人を警戒してのことではない。
確かにユリウスもBランク冒険者であり、その腕前には侮れないものがあるだろう。
しかし、先ほど彼は”奥の手”と言った。そんな自信を持って繰り出す最後の駒が”Bランク冒険者ユリウス・ラング”だとは到底思えなかったのだ。
必ず他に何かある。イルムハートはそれを警戒した。
そしてその直後、イルムハートは自分の予感が間違っていなかったことを知る。ユリウスから発せられる”気”が一気に膨れ上がったのだ。
それは魔力とも闘気とも違う。穏やかでありながら力強さと、そしてどこか畏れにも似たものを感じさせる、そんな”気”だった。
「魔人どもは簡単に倒されてしまいましたが、この男はそうはいきませんよ。
何しろこの男には神から”祝福”が授けられているのですからね。」
「神からの”祝福”?」
ユリウスの言葉にイルムハートは困惑する。
まあ、それ自体はいかにも宗教の信者が口にしそうな台詞ではあった。しかしこの場合、単なるお決まりの言葉を口にしているだけとも思えなかった。何よりユリウスから発せられる不思議な”気”がそれを証明していた。
「そう、”祝福”です。
それによりこの男は神の力を借りて闘うことが出来るのですよ。」
(それって……もしかすると、”恩寵”のようなものなのか?)
言われてみるとこの”気”にはどこか覚えがあった。集中力の高まったセシリアが時折発する”気”と心なしか似ているようにも感じられる。
しかし、もしそうだとすると”再創教団”は実在するかどうかも分からない神を勝手に信じる狂信者の集まりではなく、実際に神の意思を受けて行動している集団だということになるのではないか?
何故ならそれは神以外には与えることが出来ないはずのものだからだ。
「それでは行きますよ。これでさよならです、イルムハート君。」
そんなイルムハートの心の葛藤を知ってか知らずか、酷薄な笑みを浮かべユリウスは剣を振ってみせる。
すると、その剣圧のせいだろうか?
地面を割るほどの衝撃波が発生しイルムハートへと襲い掛かった。
今は戸惑っている場合ではない。そう意識を切り替え、イルムハートはそれを避けた。
次いで2度、3度と衝撃波が襲って来たが、イルムハートはどうにかそれを回避する。
「ほう、ではこれならどうですか?」
一瞬、ユリウスの姿を見失うイルムハート。気付くと彼はすぐ真横にいた。そしてイルムハートめがけて剣を振り下ろす。
イルムハートはそれを剣で受け止めようとしたが咄嗟に判断を変え、敢えて勢いに逆らわず跳ね飛ばされるようにして後ろへと下がった。
直後、凄まじい衝撃波が起こりイルムハートが元いた場所に大きく穴を穿つ。
(確かに、これは神から力を与えられているのかもしれない。)
こう言っては何だが、それはとてもBランク冒険者程度が出せる技ではなかった。
もしユリウスがAランクに匹敵する実力の持ち主なら話は別だが、おそらくそれはないだろう。実力があるにもかかわらず下のランクに留まっているような物好きなど、そう多くはないのだ。
その後は2人の間に一進一退の攻防が続く。いや、正直なところイルムハートのほうが押され気味だった。
いくらユリウスが神の”祝福”とやらでドーピングしているとは言え、剣の腕前でならイルムハートも決して負けてはいないはずだ。と言うか、むしろユリウスより勝っているかもしれない。
だが、形勢は不利。逆転の見通しもつかなかった。
何故なら……イルムハートにはユリウスを殺すことが出来ないからだ。
”人造魔人”や”改造魔人”とは違ってユリウスは呪詛魔法で操られているだけであり、魔法さえ解除すれば元に戻すことが出来る。
どうしてもその考えが頭をよぎり、イルムハートの切っ先を鈍らせてしまうのだった。
(くそっ!これじゃダメなんだ!)
自分でもそれは解かっていたが、そう簡単に割り切れるものでもない。そんな焦りが更にイルムハートの動きを重くする。
そしてついにイルムハートは追い詰められてしまう。
ユリウスの剣を避けた拍子に体を崩してしまい、そこへあの攻撃が襲い掛かって来た。
「しまった!」
魔法と闘気との防御で何とか身体だけは衝撃波から護ったが、剣は折られ自身も大きく吹き飛ばされてしまう。
「さあ、これで終わりにしましょうか。」
そう言ってユリウスが一歩前に出ようとした時、不意に2人の間へと割り込んで来た大きなひとつの影があった。
「間に合ったか!
大丈夫かね、イルムハート君?」
その影は背中を向けたままでイルムハートにそう語りかける。
向こうを向いているので当然顔は見えなかったが、それはイルムハートにとって聞き覚えのある声だった。
「セルザム副団長!?」
イルムハートの危機に駆け付け彼を救った男。
それは王国騎士団の副団長、ネイサン・セルザムであった。