3 暇
「暇だわ……」
婚約の破棄は国王陛下も頭を痛めながら、王家の有責にて成立いたしました。書面上は。
あとは金銭的にも、ちょっとしたひと財産ほどの金額が入ってきましたね。わたしにかかっていたお金のすべてですから、まぁこのくらいはと思いました。次の嫁ぎ先への結納金にでもしましょう。
そんなわけで婚約解消から3日、わたしは今までが異常だっただけの過密スケジュールから解放され、なんとありえないことに昼間からベッドでのんびりとすごしています。
ストレス発散のお菓子も、いま食べたら確実にすべてのドレスがだいなしです。控えています。
フォレスト侯爵家と王家の関係が悪化したわけではありませんので、明日には一度王宮に出向いて王族との晩餐があります。内外にそれを示すのは王族と貴族の役目です。
わたしはいいんですが、パーシバル殿下は非常に気まずいでしょうねぇ。
第二王子であるパーシバル殿下が王位継承権第一位なのは、第一王子が病弱だからという理由があります。
それがはたして本当の事なのか、それともパーシバル殿下以上に外には出せないバカなのかはわかりかねますが、明日の晩餐でそのへんも観察できるかもしれません。
さすがに第一王子が病弱とはいえ、晩餐には出てくるでしょう。しかし、パーシバル殿下が王位継承権第一位のこの国で、あのままフィーナ嬢が王太子妃になったとして……いやぁ、国、傾きませんかね?
今回の騒動で王位継承権第一位が第一王子に移れば、と思うほどには浅慮、あさはか、バカ、そのうえ浮気者で自分の立場をわきまえない。
誰でも自分の住んでいる国が傾くのなんて嫌でしょう。国ですよ、国。
あのフィーナ嬢もかなりのバカなんですが(伯爵令嬢があろうことか侯爵令嬢を婚約者にもつ殿下に手を出し、さらにはうその罪をでっちあげて殿下に吹き込んだとか、普通に不敬罪です)、そのバカをよりにもよって王位継承権第一位の王子が信じちゃったのがなぁ……バカが力のあるバカに取りいるとは。
本当にこの国の未来は大丈夫なのでしょうか?
あ、さっきからバカバカと連発してますが口に出してはいないので、不敬罪にはあたりませんよ。どこで誰が聞いているかわかりませんからね。
だからわたしというフォロワーが王太子妃になるべく過密スケジュールをこなしてきたわけなんですが……、この死にそうな暇をどうすごしていいのか。わたしにはそれすらわかりません。悲しい、もっと普通に蝶よ花よと育てられたかった。
過去を悔やんでもしかたありませんし、自分で言ったように身につけたことは無駄にはなりません。どこに嫁に行っても恥ずかしくないですしね!
嫁入りするならそうだなぁ、頭がよくて、他の女にわき目もふらずに私だけ愛してくれて、仕事もできて、見た目だけはパーシバル殿下はイイ線いってましたが、もう少し影というか深みがあって……、わたしは意外と高望みですね。
あ、ちなみにフォレスト家には兄がいまして、兄は現在お父様の元で仕事を学んでいるわけなんですが、異常なシスコンです。
わたしが過密スケジュールだったせいであまり長く一緒にいた事はないのですが、今回の婚約破棄話を聞いた時の兄の形相たるや……低い声で、たかが王子と伯爵令嬢風情が、と呟いた時にはヒヤヒヤしましたね。
普段温厚なだけに、伯爵家に関してはお家取り潰しに動きかねません。
おや、そういえば明日の晩餐はどちらの家も家族そろいぶみですね。さすがにまだ婚約していないフィーナ嬢はいませんけど。いたら帰りますね。
憂えることが一つ増えてしまいました。何事もなく終わりますように。