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18 バカとして生きる(※パーシバル視点)

 兄であるアルフォンスが受けていた教育を、私はいまさらながらに受けている。


 これは帝王学に近いが、似て非なるものだ。基礎的な考え方から、現在の貴族の全てを頭の中に叩き込み、誰が味方で誰が敵になりうるか、どう動けば味方が離反し、敵がこちらに寝返るか。


 これを、10歳になる頃には兄は全て理解して応用し、毎年更新される貴族年鑑を暗記し、常に各地の情報を集めては動きを把握していた。


 私には向いていない。私はただ、目の前で涙を流して助けてと言われれば、それを盲目的に信じてしまう。


 バカだ、と何度ナターシャに言われただろう。彼女は小さい頃のことは覚えていないだろうが、バカを言うのもいい加減にしてくださいませ、と何度言われたかわからない。


 それに対して、不敬罪だぞ! と、泣いていた私は本当にバカだ。


 よく見捨てないでくれたものだ。私は彼女を、大勢の前で見捨ててしまった。それでようやく見切りをつけられたようだが、今思えばその判断は正しかった。そして、私はやり方を大いに間違えた。


 私のバカさと王位継承権第一位という肩書が、かろうじて彼女の命だけは守っていたというのに。


 その代わりに私は、小さな頃から彼女のおかげで策謀に巻き込まれずに済んでいた。ずっと守られていた。


 兄もそうだ。生まれながらに優秀な兄。幼い頃から決して父上の瑕疵になるような真似はしなかった。その優秀さゆえに何度も殺されかけたと聞く。……命を落とした者もいたという。兄の目の前で。


 兄が優秀であったおかげで、私が温かい部屋で豪華な食事を食べていた時も、何の疑いもなく菓子を頬張っていた時も、兄は調理場の隅で自分か母上が作ったものだけを口にしていた。


 ナターシャはお菓子が好きだから、これからきっと、兄は幸せなお茶の時間を過ごすことができるだろう。


 私はしばらくそんな暇はなさそうだ。泣き言はいっていられない。兄もナターシャも、幼い頃からこの道を通ってきたのだ。


 私は懐柔されやすいバカだというだけで見逃されてきた。命も、こういった教育も。それすら理解していなかった大バカ者だった。


 ナターシャがあらゆる事に対応できるよう身も心も鍛えていた間に、私は他の女性にうつつを抜かした。彼女は何度も口頭で注意してくれていたというのに。


 そしてそんなバカな私が国王になった時、影となって支えてくれるために兄は学び、鍛えてきた。毒も煽ったという。もう誰も、目の前で死なせないように。


 私はバカでいようと思う。正確には、他人からはバカに見られるようにいようと思う。


 兄とナターシャが治める国で、私という隙に付け込もうとする者に騙されたフリをしよう。彼らが私の未来まで考えて守ろうとしてくれたことに応えられる、使えるバカになろうと思う。


 守られてきた私がそのバカさ加減で台無しにしたこと。それで失ったものも得たものもあった。


 できるならこれからは、兄とナターシャを影から支えられる人間になりたい。


 なに、私はバカだからな。


 そうなりたい、と思ったら必ずそうなれると無条件に信じている。

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