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17 闇の中で生きてきた(※アルフォンス視点)

 陽の当たる庭園を散歩することなど、永遠にないと思っていた。


 だが、どうだろう。ナターシャ・フォレスト侯爵令嬢。


 彼女をはじめて部屋の中から見つけた時、私の中で彼女は光の象徴だった。


 永遠に彼女と私は交わらない。


 彼女は将来、国王となる弟の婚約者で、弟を守る表の盾。


 私は弟を守る裏の盾。


 背中合わせであって、隣に立つことなどないと思っていた。


 それがどうだろう。彼女と一緒に今は、手を繋いで光の中を歩いている。


 私の周りに充満する悪意や死の気配。それらを霧散させる彼女の陽の気、とでもいうのか……、ただ明るいだけでなく、強いだけでなく、賢いだけでなく、悪意を知りながらも輝くナターシャ。


 手離したくないと強く思う。だからどんな時も手を繋いだ。触れていたかった。それだけで、救われる気がしたから。


 普通の令嬢というものは、殺されかけたら立ち直れないものだろう。毒殺未遂にあったとしても、彼女はめげなかった。


 すぐに両の足で地を踏みしめ、すべきことをした。ふふ……、強いだろうとは思っていたが、そこらの私兵などでは足元にも及ばない。


 多勢に無勢では分が悪いだろうが、それならそれで、彼女は自分で逃げるだろう。


 昔から一途に想っていたひとを餌にしようという私の提案にすぐさま乗ってくる。


 本当に強い女性だ。彼女はきっと気付いていない。普通の女性はそこまで考えられないということに。


 目の前のことで精一杯で、カルティエ伯爵令嬢のように一国の王子を落とせたら上出来。こんなに素晴らしい婚約者がいるのに他の女にうつつをぬかすバカさ加減はいかんともしがたいが、いまはその視野の狭さを学びで補おうとしているから、まぁ許してやろう。


 なにせ、愚弟がバカなことをしてくれたおかげで、隣の女性と私は手を繋いで歩けているのだから。


 ふと視線を感じてそちらを見る。真っ直ぐに見上げてくる緑の大きな瞳。


「何かついてるか? ナターシャ」


「いえ、きれいなお顔だけです、殿下」


 大真面目に答える彼女に、つい笑ってしまう。その綺麗な頭の中では他にたくさんのことを考えているだろうに。


 いつか、私になんでも話してくれるようになるだろうか。私も、彼女になんでも話せるようになるだろうか。


 本当は王宮などという、一枚皮をめくれば泥臭い場所に彼女を置いておきたくはない。


 しかし、私はここで生きるしかない。もう表舞台に立つことを決めたのだから、せめてナターシャのことは守る。


 きみの周りに死の気配は漂わせまい。きみの周りに悪意など近寄らせまい。それは叶わぬことだとわかっている。しかし、彼女ならそれを跳ね除けてくれる。


 だから、それに甘えることだけはしないようにしよう。絶対にひとりにはしない、誰が敵に回ろうと、彼女の味方でいる。彼女がずっと立っていられるように、彼女を飲み込むような闇は私が全て飲み込もう。


「婚約してくれ。きみのことは私が守る」


 私のそば以上に安全な場所などないように、私は闇の中で生きてきた者として、彼女が知らない闇はすべて引き受けよう。


 ナターシャ。きみは、私の光だ。

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