14 今更遅いとわかっていても(※パーシバル視点)
貴族裁判の傍聴席で、フィーナが……カルティエ伯爵がやったことの全てを聞いていた。
私はあまりに愚かだった。弱きものを助けたつもりが、全てはナターシャの立場を悪くするため。ナターシャを私から引き離すため。
そしてフィーナは私の婚約者に納まるはずだった。バカでさえなければ。
裁判の中で知る、貴族の派閥。私はそんな事すら知らずに、のうのうと王位継承権第一位に納まって胡座をかいていた。
学業ができたところで、周りの人をみる目、状況を判断する頭が無ければ、私はただの愚かな王になっていただろう。
今までどれだけナターシャに助けられてきたのだろうか。愚かな私には、それすら数えることができない。覚えていないし、たとえ覚えていたとしても、瑣末なこと、口煩い女、とおざなりにしてきたのだ。
いまさら遅いと分かっていても、私には王は勤まらない。せめて、ナターシャが私の妻になってくれていれば、愚王と呼ばれても国は傾かなかったろう。
そのナターシャをみずから切り捨てたのは私だ。
あまりに愚かだった。ナターシャが私に見切りをつけるしかない状況まで作って。本当に切り捨てられたのは私だった。
王家有責の婚約破棄など前代未聞。宰相をつとめるフォレスト侯爵と王家にはわだかまりなど無いと内外に示す晩餐のあと、私はナターシャに頭を下げた。どうか戻ってきて欲しいと。
バカも休み休み言ってくださいませ。
今思えばその通りだ。王家有責の婚約破棄をしておいて、数日後に再度婚約。そうなれば今度は私だけではない、王家も、宰相も侮られる。
御しやすいバカは私だけでいい。私はせいぜい、王家を侮るバカをあぶり出すバカでいよう。
そしてその日の夜、長年顔を合わせていなかった兄と会った。兄は密かに体を鍛え、知識と教養を学び、天性の聡さをもって影から全ての貴族の動向を知っていた。
私とナターシャが結婚したのちには、影から私を助ける役目をになっていたという。
しかし、私はナターシャを失った。そのうえ、学園で恋人として過ごした(ナターシャには口頭で注意されていたが、あれもまた周りから見れば愚かな行為だったことだろう)女性がナターシャを殺そうとした。そうすれば自分がその座につけるかもしれないからと。
私は王位継承権第一位という肩書だけでナターシャの命だけは守っていたらしい。
だが、これ以上私がその肩書を持っていても、誰のためにもならない。もう私はナターシャを肩書ですら守れないただの愚か者に落ちたのだから。
兄に譲る。王位継承権第一位も、ナターシャというすばらしい伴侶も。
兄は私に言った。お前のことも大事に思っている。私は兄の存在など殆ど覚えていなかったというのに。
傍聴席で、フィーナがナターシャを睨んだ。お門違いもいいところだ。命を狙っておきながら、いや、命を狙ったからこそ、生きていることすら忌々しいという目。
ナターシャは胸を張って、静かにその視線を受け止めていた。
私が失ったものは、これほどまでに大きかった。だが、悔やみはしない。
私はおのれの身を守れる程度には賢くならなくてはならない。私が生きていることで、兄のアルフォンスとナターシャの未来を傷つけることがあってはいけない。
もう遅いとわかっていても、私はバカだと自覚しても、二度と手に入れることはできない。
私がバカだと侮っている者たちよ、後悔させてやる。二度とナターシャと兄を狙うような真似をさせないよう、私はバカな王子として振る舞おう。
私を操ろうとするもの、それは私の大事な家族と、これまで私を守り続けてくれたナターシャの敵であることは間違い無いのだから。




