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13 手が届かないと思っていた(※アルフォンス視点)

 初めて彼女を見たのは私が8歳、彼女が5歳の時だった。弟の婚約者となった少女は、プラチナブロンドの髪を春の日差しにきらめかせ、白い帽子にワンピース、赤いリボンを腰に巻いていた。


 私はそのころ、毒味役が続けて亡くなり、己の周辺に充満する死の気配や悪意に耐えられなくなっていた。食事は、王族にあるまじきことだが、みずから調理場におもむいて作って食べた。父はそれを許し、家事をしたことのない母も忙しい社交の合間をぬって一緒に作ってくれた。


 私はいつしか、自分か母の料理だけを食べるようになった。他人の手が……たとえ配膳だけでも、はいったものは口にしなかった。


 弟のパーシバルには何も起こらない。彼の周りには悪意など存在しないように……実際は、悪意によっていいように操られようとしていただけだが……優しい世界が広がっているように見えた。


 うらやましい、と思っていた。なにも知らない弟、いずれ傀儡にされてしまう彼を、私は裏から守らなければならない。すべては国のためだと思えば、王家に生まれた者として当然だと納得していた。


「パーシバル殿下。いけません。優しい顔をしているものがみな、あなたの味方ではないのですよ」


 そう言って彼女は弟から、いくらするのか分からないようなこまかい細工の騎士の人形をとりあげた。


「返しにいきますよ。誕生日でもないのに、家臣の誰かから特別なものを受け取ってはなりません。どなたからもらったかくらいは覚えておいででしょう?」


 たかが人形ひとつといえど、王族の子供に献上した。それで大きな法案は動かないかもしれないが、小さな不正くらいは見逃させることができる。


 人形といっても、遠目からでもわかるほど細工のこった良い品だとひと目でわかる。本物の銀をつかっているのだろう。子供のおもちゃには手にあまるものだ。


 たった5歳。自分より3つも下の少女は、それを理解していた。そして、それをおくさずパーシバルに告げる。


 後で知った。あれはパーシバルの婚約者であり、頭が悪いわけではないが思慮に欠ける弟をフォローするため、弟の分までこれから過酷な教育をほどこされる少女だと。


 ナターシャ・フォレスト侯爵令嬢。聡明さは元からのもの、婚約のさいに両親から、今後どれだけつらいことが待っているかわからないと言われても、国のため、家族のためならばやりとげます、と言い切ったという。


 彼女もまた、本当の悪意や死の気配は知らないひとだろう。それでも、私は彼女はそんなものに負けないと感じた。


 日の光の下できらめく彼女の姿。これから行われる壮絶な日々を思えば……それでも笑う少女に、私が惹かれない理由はなかった。


 パーシバルを助けることが彼女を助けることになるのなら、私は生きながらえよう。


 手に入れることができないとしても、国のためと思いながらも周りに死が転がっていた私は、死んでしまいたいと思っていた心が生き返るのを感じた。


 ナターシャの為にならば、生きながらえよう。文字通り、毒を喰らってでも。どこに出ても恥ずかしくない男になり、パーシバルを彼女と共に支えよう。


 愚かゆえに彼女というすばらしい女性を伴侶にする栄誉を得ながら、パーシバルはまんまと改革派の手に落ちた。


 あまりの愚かさに腹立たしさを覚えた。いくら助けようと思っていても、その土台を台無しにされては元も子もない。


 学園はあらゆる貴族の子息令嬢が通う場所。未来の国を担う者が集まる場所で、それまで何度も助けてくれた彼女との婚約を破棄するとのたまったと言う。


 父上に聞いた時には私も愚弟の愚かさに頭が痛くなったが、その後偶然にも彼女とまみえることができた。


 間近で見た、成長した彼女は美しかった。薄暗い見知らぬ部屋にいながら、怯えることなく立つ彼女。


 自然と跪いた。彼女を怯えさせる気はない、むしろ、ずっと会いたかったのだと。勝手に同盟者と思って心の支えにしていたこと。


 命を狙われることのない愚弟よ、パーシバルよ、これだけは感謝しよう。


 彼女を手離し、王位継承権第一位を私に譲るしかない状況を作ってくれたこと。


 お前は彼女に守られていた。今度は私が彼女を守ろう。だから、なくしたものの大きさを胸に刻み、せめてもう少し、賢くなってくれ。


 私は彼女が大事だが、お前のことも大事に思っている。だが、守られる権利をなくした今、お前は自衛しなければならない。


 私はもう影に隠れない。彼女は日の光の下が似合う。堂々ととなりに立つ。

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