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1 ざまぁ?からの婚約破棄宣言

「怖かったです、ずっと怖かったんです、パーシバル様……!」


「もう大丈夫さ、フィーナ。私がこれから一生守ってあげるからね……。みなも聞いたことだろう! このナターシャ・フォレストが行った非道の数々! ここに、婚約破棄を宣言する!」


 いったい私はなんの茶番に巻き込まれているのでしょうか?


 なぜ、わたしが5歳の時から婚約していたこの国の第二王子パーシバル・スタンレイ様から婚約破棄を宣言されているのか。


 そもそも、まだ婚約もしていないフィーナ・カルティエ伯爵令嬢の肩を抱き、私を指差し怒りの表情を向けているのは紳士としてありえませんよ?


 その理由にあげられたのはわたしの非道の数々……らしいのですが、身に覚えがありませんね~。婚約の決まった幼少時からわたしの自由になる時間などありませんでしたし、わたしもこの国の、はては家族のためと思えばそれも我慢していました。


 証言を頼めばすべて嘘だと分かるくらいにはわたしにはつねに誰かがつきっきりでしたし。中々立派だと思うんですよ、パーシバル殿下を抜き去っての首席卒業。それが頭にきてとうとうおかしくなっちゃったのかしら。


 あ、わたしは冷静とかじゃないですよ? あまりの茶番に冷めきってしまったというか、そもそも政略結婚で王家と我が家で交わされた契約を、当人が勝手に破棄する。はたして可能なんでしょうかね。


 それを言ったらわたしはこれまた非道な女扱いされて終わりでしょう。バカに理解できるならわたしはこんなに苦労してこなかったのです。そして見切りをつけました。こんな茶番がまかり通ると思っている、そのバカさ加減はわたしの想像のはるか上をいっています。


 ここはこの茶番にのって、家に帰ってからこちらから婚約破棄を正式にお父様からお申し入れいただく、これがスマートで一番面倒でないやり方ですね。


 殿下が卒業されて帝王学の学びにはいり、わたしも王太子妃としての教育が始まれば今以上に自由なんてありません。だから、一応は、婚約者がいながらみっともない事である、と口頭で注意はしたんですが、まぁ学園生活の甘い思い出として好きな人とキャッキャウフフな時間を見逃してあげていました。


 卒業すればまともになるだろうと、目もさめるだろう、学園の外の世界では他者の目も気にするだろう、と。甘かった。


「かしこまりました。では、わたしは先に失礼させていただきます。——卒業パーティーという晴れの日にお騒がせしたこと、皆様に深く謝罪いたします。それでは、パーシバル殿下、末長くお幸せに」


 わたしは今日のためにあつらえたドレスをつまんで丁寧に礼をすると、胸を張ってパーティー会場を出ようとしました。非がないのでね、何も怯えたりする必要はございません。


「ま、待て! 貴様、フィーナに謝罪も無しか?!」


 わたしはピタリと足を止めます。


 謝罪? 何を? と、思いっきり目に嫌な気持ちを込めて振り返ります。


「やってもいない事を謝れと? さすがに横暴が過ぎますね。証拠はございますの? 証人は? これだけ生徒が居るのです、名乗り出てくださいませ。それから、もしその証言に関してわたしのスケジュールと照らし合わせ、こちら側の証言が出た場合、整合性をはかるために貴族裁判もいといません。……さて、証人はいらっしゃいますか?」


 貴族裁判とは、貴族間で問題が起こった時に王宮の司法機関によって証言の精査をされ、裁きをくだす裁判です。


 たとえば、実際にわたしが非道な事とやらをしていたら要求として求められた謝罪をし、逆に証言に嘘があった場合は司法機関を動かして騙した事になるので貴族の子息令嬢とはいえ家にまで厳罰が与えられる、という機関ですね。


 本来国王陛下が裁くべきことですが、それを法として起こし機関を作ることで、王はその法に則った事である限り全権を委任しています。


 まぁつまりは、今ここで嘘でもついてみろ、調べられればすぐにわかることだぞ、というわたしなりの牽制です。知識は己を助けますね。どうせ買収か色仕掛けくらいはしていたんでしょうけど、誰も出てこない事にフィーナ嬢は焦っています。残念でした。


「お声が上がりませんね。では、わたしは謝る必要を感じておりませんので、今度こそ失礼します」


 ……はぁ、頭が痛い。


 これでこの第二王子が……王位継承権第一位とは。


 とにかくわたしは、今は一刻も早く家に帰って卒業パーティーの分も甘いものをたっくさん食べたい気分です。

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